菅代表再選 今度こそ性根を据えよ

朝日新聞 2010年09月15日

菅代表再選 政権交代の初心にかえれ

民意をおおむね反映した選択が示された。まっとうな結果といえる。

民主党代表選で、菅直人首相が再選を決めた。小沢一郎前幹事長は党員・サポーター票で水をあけられ、頼みの国会議員票も菅首相を下回った。

仮に小沢氏が勝ち首相になったら、民主党政権は衆参のねじれに加えて、民意との大きなずれに苦しむことになったに違いない。

就任わずか3カ月の現職の首相を、総選挙も経ずに党の事情だけで交代させることには、やはり大義はなかったというほかない。

歴史的な政権交代から、あすでちょうど1年。鳩山政権の挫折、参院選での手痛い敗北を経て、民主党政権は実質ここからが再スタートとなる。

「政権を交代させたのは間違いではなかった」と国民が実感できるよう、菅首相をはじめ全国会議員が、1年の反省を踏まえ、政権交代の初心にかえり、もう一度やり直すくらいの気構えで政権運営に臨まなければならない。

今回の代表選に向けられた海外の視線には、極めて厳しいものがあった。ここ数年の異様なまでの短命政権の連続には、日本の政党政治の機能不全、民主主義の未成熟を指摘されてもやむをえない面がある。

20年来の政治改革の営みがやっと実を結び、政権交代は実現したものの、民主党政権のやっていることは自民党政権とたいして違わないではないか。

そんな政治への幻滅や冷笑が国民の間に広がり、取り返しのつかないところまで深刻化しかねない。代表選前の日本を覆う空気だったといっていい。

菅氏の再選を、国民の政治離れに歯止めをかけ、民主主義のさらなる深化に向けた一歩としなければならない。菅氏の責任は重大である。

敗れたとはいえ、小沢氏は国会議員の半数近い支持を集めた。「剛腕」とも評される小沢氏の実行力への期待もあろう。今後も一定の影響力を維持することになるかもしれない。

しかし、一般国民の意識に近いとみられる、党員・サポーターの間では支持が広がらなかった。小沢氏には、この事実をかみしめてもらいたい。

その要因は、政治とカネの問題だけではない。

数の論理を追い求め、説明責任には後ろ向きで、ばらまき的手法をいとわない選挙至上主義といった小沢氏の「古い政治文化」への拒否感が、根底にあるに違いない。

これからは「一兵卒として頑張る」と小沢氏は明言した。ここは、その言葉通りに身を処すべきだろう。検察審査会による2度目の判断を待つ身でもある。

今後の人事では、小沢氏が舞台裏から党や政権に大きな影響力を及ぼし、実権を振るう「二重権力」構造は、くれぐれも避けなければならない。

むろん菅氏が小沢氏を支持した議員を排除していいということではない。党を二分した熾烈(しれつ)な選挙戦のしこりを最小限に抑え、文字通りノーサイドで、党が一丸となれる体制を菅首相はつくらなければいけない。

「壊し屋」の異名をとる小沢氏には、選挙で負ければ仲間を引き連れ、いずれ党を割るのではないかという見方がつきまとう。

小沢氏は自民党離党以来、一貫して政権交代可能な二大政党制の確立を掲げてきた。政権交代を実現させた今、党を分裂させ政界再編をしかけることが、その目標に沿うとは思えない。

小沢氏自身、選挙結果がどうあれ、党を割ることはしないと繰り返し言明してきた。もはや永田町的な「政局」に血道をあげる時代ではない。

今回の代表選には、徹底した政策論争を通じて、党内の異なる政策路線に黒白をつける意味合いがあった。

総選挙マニフェストは国民との約束だが、財源との兼ね合いで実現が難しければ、柔軟に修正し、国民には丁寧に説明して理解を求める。

消費増税を含む税制抜本改革の議論からも逃げるわけにはいかない。

そうした菅首相の主張は、極めて妥当な内容だろう。

代表選で軍配があがった以上、民主党は菅首相が掲げた方針と政策路線のもとに一致結束しなければならない。

菅首相に注文がある。

新成長戦略の策定など、日本経済と国民生活を立て直すメニューは、それなりに示されたが、問われるのは今後の実行いかんである。安心できる社会保障の将来像や、経済成長と財政再建を両立させる具体的道筋についても、できるだけ早く示してほしい。

国民世論の菅首相に対する評価は、消極的な支持というべきものである。

国のトップリーダーが短期間で代わるのは好ましくないという思いや、「小沢首相」に対する拒否感が強く作用していることは否めない。

それを積極的支持に変え、政権の推進力とするには結果を出すしかない。

代表選で訴えた「オープンでクリーンな政治」「新しい政治文化」を早く目に見える形にすることも必須だ。

頻繁な首相交代による「政治の不在」はもう許されない。今度こそ、内外の政策課題に腰を据えて取り組む。民主党全体が、国民に対する重い責任を自覚しなければいけない。

毎日新聞 2010年09月15日

菅代表再選 今度こそ性根を据えよ

1年で3人も首相が交代する異常な事態は回避された。経過はともかく、国民世論と乖離(かいり)しない妥当な結果だったと評価したい。

民主党代表選が14日行われ、菅直人首相が小沢一郎前幹事長を破って再選された。わずか6票差ではあったが、菅首相は国会議員票でも上回り、党員・サポーター票などを含め、事前の予想を上回る大差となった。菅首相の今後の政権運営にとってプラスに働く投票結果だろう。

だが、党分裂の危機を乗り越え、菅政権が、そして日本の政治が安定に向かうかどうかは、ひとえに首相のリーダーシップにかかっている。

財政再建、円高への対応、普天間問題……。課題は山積し、ねじれ国会への対応も、まだ手探りのままである。参院選の大敗後、この日の代表選に至るまで事実上の政治空白を招いた責任も大きい。菅首相は今度こそ性根を据えて政策課題に取り組み、昨年の総選挙で多くの有権者が期待した政権交代の「実」を上げるよう強く求めたい。

まず指摘しておきたい点がある。

そもそも今回の代表選に、6月初旬、鳩山由紀夫前首相とともに引責辞任したばかりの小沢氏が出馬するのは「大義を欠く」と私たちは主張してきた。

小沢氏の資金管理団体をめぐる事件では、東京第5検察審査会が2回目の審査で仮に起訴議決すれば小沢氏は強制起訴される。そんな状況に置かれている小沢氏が首相を目指すことに、多くの国民が疑問を抱いていたのは毎日新聞などの世論調査や、代表選での党員・サポーター票の結果からも明らかだ。

代表選の内実は党の資金配分や選挙の公認権を握る幹事長ポストなどをめぐる党内権力闘争だった。

小沢氏擁立に突き進んだ議員たちは「経済状況がこれだけ厳しい時期に権力争いをしている場合か」という多くの国民の声を改めて謙虚に受け止めるべきだ。政権政党としての責任感の欠如、未熟さを見せつけた代表選でもあった。

参院選の敗北後、党内を掌握できなかった菅首相の責任も大きい。首相に投票した議員の中にも、その政治理念などに賛同したというより、「次々と首相を交代させるべきではない」といった理由だった人も少なくなかったろう。本来、圧倒的に優位なはずの現職首相が、ここまで国会議員票で拮抗(きっこう)したのは首相の党内求心力の乏しさを物語っている。

代表選の論戦でも菅首相は「まだ就任して3カ月。これからを見てほしい」という発言が目立った。予算編成などについて、小沢氏が「自民党時代の官僚主導そのもの」と批判したのも当然である。「政治主導」の大看板が色あせているのは確かだからだ。

首相は「国民の負担増となっても安心できる社会保障制度が必要」と語ったが、この国をどうしていきたいのか、ビジョンは明確でなく、それを実現する迫力も欠いた。これではこの難局は乗り切れない。

独断専行と批判される小沢氏を意識したのだろう。菅首相は14日、国会議員投票直前の演説でも、今後、政権内に多数の特命チームを作るなど「全員参加による党内の開かれた議論」の必要性を強調した。手法は間違ってはいないと考える。

ねじれ国会の対応では連立の組み替えを示唆した小沢氏に対し、首相は政策ごとに野党と徹底的に協議して成案を図っていく方針を示した。そうした「熟議の国会」は、かねて私たちも求めてきたところだ。消費税引き上げや社会保障制度改革に関しては、野党の自民党なども協議に応じる姿勢を示している。国会が前に進む可能性はある。

しかし、首相自ら確固たる方針を提示しなければ、党内協議も与野党協議も始まらない。例えば消費税について首相は引き上げが不可避だと考えるのであれば、堂々と提示すべきだ。菅首相に欠けているのはそこである。

当面は幹事長など党人事や内閣改造が焦点になる。党内融和を優先するか、脱「小沢」路線を貫くのか。大切なのは、有能な人材であれば、小沢氏に投票した議員でも積極的に登用することだろう。政権の再出発に際し、岡田克也外相や前原誠司国土交通相ら代表経験者をはじめ、菅首相、鳩山氏、小沢氏による「トロイカ」体制後を担う人たちの奮起もうながしたい。

敗れた小沢氏は「一兵卒として民主党政権を成功させるため頑張っていく」と語った。周辺には、なお待望論もあるようだが、「政治生命をかける」と語って臨んだ代表選で予想以上の大敗を喫した以上、もはや一線から退くべきではないか。いったんは政界引退を表明したはずの鳩山氏も同様であろう。

1989年、自民党の幹事長に就任して以来20年余。小沢氏は絶えず政治の権力闘争の中心にいて、その手法などをめぐって「小沢対反小沢」の対決劇が繰り返されてきた。それも終幕させる時である。自民党旧田中派以来の「数は力」という小沢氏型政治から、新しい政治に踏み出す機会としたい。

読売新聞 2010年09月15日

菅代表再選 円高と景気対策に挙党態勢を

党内を二分する激戦となった民主党代表選は、菅首相が小沢一郎前幹事長を大差で破った。

7月の参院選敗北に続く民主党内の混乱は、事実上の政治空白を生み、国政全体に停滞と閉塞(へいそく)感をもたらしてきたことは間違いない。

この間、円高・経済対策では政府の対応が後手に回り、反応の鈍さも目立った。

菅首相は、すみやかに内閣・党役員人事を断行して態勢を整え、景気対策や来年度予算編成に全力をあげねばならない。

資金疑惑響いた小沢氏

菅首相の勝利は、対立候補の小沢氏が抱えていた多くの「弱点」に救われた面が大きい。

自らの資金管理団体の政治資金規正法違反事件で元秘書らが逮捕・起訴された小沢氏は、参院選前に幹事長を辞職したばかりだ。

今回の代表選は、同じく「政治とカネ」の問題を抱えて辞任した鳩山前首相の支援を受けての「小鳩」による不可解な再挑戦だった。多くの党員・サポーターが受け入れなかったのは当然だろう。

小沢氏の「政治とカネ」の問題では、10月にも検察審査会が再度の議決を行う予定だ。そこで「起訴すべき」との議決が出され、強制起訴になった場合、小沢氏は「離党も辞職もしない」と明言し、司法の場で争う考えを示した。

しかし、「政治とカネ」の問題で説明責任を果たそうとしてこなかった小沢氏のこの発言には、多くの党員が、反発や疑問を抱いたに相違ない。

結局、「刑事被告人の首相」になる可能性があったことも、小沢氏敗北の一因といえる。

首相への支持は消極的

代表選での首相への支持は消極的なものに過ぎない。党内抗争によって、政権を担当して3か月余で首相が交代したり、1年間に3人目の首相が生まれたりするのは避けたい、という理由だ。

国会議員の獲得票では、首相と小沢氏がほぼ互角だったことは、党内に首相の政権運営に根強い不満があることを示している。

菅首相は一体、衆参ねじれ国会をどう乗り切り、代表選で亀裂の入った党をどう修復して「挙党態勢」を築くのか。

代表選で首相は、ねじれ国会でも、「丁寧に謙虚に議論していけば合意形成は可能だ」などと述べるだけで、確たる戦略を示すことが出来なかった。

首相は再選が決まった後の挨拶(あいさつ)で「ノーサイドで全員が力をフルに発揮できる挙党態勢のために協力をお願いする」と表明した。

仮に小沢氏や鳩山前首相を要職で起用する「トロイカ体制」を組むとすれば、鳩山前内閣同様の二重権力体制を生むことになりかねない。失敗を繰り返すことなく、適材適所で政策を果断に遂行できる布陣で臨むべきだ。

今後、人事だけでなく、予算編成など政策面でも、小沢支持派による揺さぶりが強まり、離反の動きが出ることも予想される。

首相が、前面に自民党などの野党と、後方に小沢支持派の「党内野党」とそれぞれ対峙(たいじ)する局面も大いにありえよう。

菅首相が取り組むべき政策課題は数多い。

消費税率引き上げ問題について首相は、代表選で「社会保障のあり方を財源と一体で議論する。その中で消費税の議論をすることが重要」などと述べ、参院選時より発言をトーンダウンさせた。

(あつもの)に懲りて(なます)を吹く」という姿勢では、自らの看板政策である財政再建は果たせまい。

首相は、自民党などに超党派協議を呼びかけ、近い将来の消費税率引き上げに向けた環境整備を急ぐべきである。

公約を大胆に見直せ

衆院選政権公約(マニフェスト)への原点回帰を唱える小沢氏の主張は、結果として否定されることになった。

日本の財政は、今年度予算で税収を上回る国債を発行せざるを得ないなど、主要国で最悪の状況にある。経済効果も期待できない政権公約によるバラマキ政策を続ける余裕はないはずだ。

来年度予算編成では、子ども手当、高速道路無料化などの政策は大胆に見直す必要がある。

首相は代表選のさなか、国際的に高い法人税の実効税率引き下げの検討を指示した。企業活力を引き出し、国際競争力を高めるためにも必要な施策だ。来年度の税制改正でぜひ実現させるべきだ。

米軍普天間飛行場の移設問題では、小沢氏が5月の日米合意の見直しに含みを持たせ、民主党政権内に安全保障政策で大きな違いがあることを露呈させた。

首相は、小沢氏の発言がもたらした米側の懸念を早期に払拭(ふっしょく)するとともに、日米合意に基づいて沖縄や米国との調整を本格化させる必要があろう。

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