中国の軍備増強と海空軍の活動には、多くの周辺国が「懸念」を共有している。日本は、中国との建設的な対話を重ね、懸念を解消するよう粘り強く求めることが肝要である。
2010年版防衛白書は、中国の「国防政策の不透明性や軍事力の動向」が「わが国を含む地域・国際社会にとっての懸念事項」と明記し、「慎重に分析していく必要がある」と指摘した。
中国の軍事力は近年の白書の重要テーマだったが、今年は、より明確に「懸念」を打ち出した。その急速な近代化や活動範囲の拡大を踏まえれば、当然だろう。
南シナ海では、東南アジア各国との摩擦が増えている。今春には中国海軍の駆逐艦など10隻が沖ノ鳥島西方まで進出し、艦載ヘリが海上自衛隊の護衛艦に異常接近する示威的行動を繰り返した。
中国海軍の一連の活動は、中台有事など紛争への米軍の関与を阻む「接近拒否戦略」の一環と見られ、米国も警戒を強めている。
中国は最近、台湾問題などに使ってきた「核心的利益」という表現を南シナ海に使い始めた。将来は、東シナ海の海洋権益確保についても、同様の表現を使う日が来ることも否定できない。
日本はどう対応すべきか。
まず日米同盟がきちんと機能する体制を再構築することだ。民主党政権の未熟な外交で傷ついた信頼関係の回復が欠かせない。
自衛隊は、平時の警戒監視活動を強める必要がある。単なる部隊と装備の保有による「静的抑止力」でなく、部隊運用を通じた「動的抑止力」を強化するものだ。
その観点で、中国の国防費は過去10年で約4倍、米国や韓国も2倍以上になったのに、日本だけが5%減っている現状は問題だ。
中国との防衛交流や安保対話を通じて、国防費や軍の活動の透明性の向上や、国際ルールの順守を働きかけることも重要となる。
近年は、防衛相や制服組幹部、艦船の相互訪問など交流は進んでいるが、事故防止のための海上連絡メカニズムの構築や、捜索・救難の共同訓練の実施といった具体的成果にはつながっていない。
防衛白書は本来、7月末に発表される予定だったが、韓国哨戒艦沈没事件に関する国連の動きを追加するとの名目で延期された。
だが、その追加部分は本文1段落とコラムにすぎない。真の延期理由が日韓併合100年を控えた韓国への過剰な配慮だったのは明らかだ。こうした稚拙な事なかれ主義の対応は厳に慎むべきだ。
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