振興銀破綻 ペイオフ発動は当然だ

朝日新聞 2010年09月11日

初のペイオフ 円滑な処理と責任追及を

銀行預金に初の「ペイオフ」が発動された。銀行が破綻(はたん)した時、1人当たり元本1千万円とその利息までは預金保険で保護されるが、超過分は債権債務の整理しだいで削減もありうるという事態が現実になった。

中小企業専門の金融機関として発足し、乱脈経営へと暴走した揚げ句にきのう破綻した日本振興銀行に対して金融庁が発動に踏み切った。大幅な債務超過に加え、預金者や金融システムへの影響が極めて限られるとの判断が背景にあった。

振興銀は一般の銀行同士が資金をやりとりするネットワークに入っていない。金融市場からお金も借りていない。いわば金融システムから孤立した銀行である。銀行の破綻処理で一番気をつけなければならないのは、他の銀行が連鎖破綻することだが、振興銀にはこの連鎖ルートがない。

このため、破綻処理をしても金融システムは揺るがない、という見通しを立てることができた。

預金の構成もユニークだ。普通預金も当座預金もない。扱うのは他の銀行より高い金利をうたった定期預金だけ。しかも売り文句が「1千万円までは預金保険で保護されます」。1千万円以下の預金が残高の97%を占め、高額預金者には自己責任を問いやすい状況にあった。

こうした特徴を考えれば、今回のケースをペイオフの標準的な事例とみなすことはできない。したがって、今後普通の銀行の破綻処理に際してペイオフを発動するかどうかを判断するに当たっては、より慎重な判断が必要とされるに違いない。

今回は何よりも、初めてのペイオフを混乱なく円滑にやり遂げることが大切だ。金融整理管財人として処理に当たる預金保険機構は、預金者の不安を招かないよう払い戻しなどの業務を迅速に進めることが欠かせない。同時に、健全な借り手企業が強引な債権回収などで経営を圧迫されないよう、注意してもらいたい。

いうまでもなく、破綻を招いた振興銀の不可解な経営についての全容解明と責任追及も徹底されなければならない。前会長で「金融行政のご意見番」として鳴らした木村剛被告は金融庁の検査を忌避した銀行法違反の罪で起訴された。だがこれは、氷山の一角に過ぎないだろう。

事件摘発後に振興銀が委嘱した特別調査委員会は、「中小企業振興ネットワーク」と呼ばれる親密企業群との間で不良債権飛ばしなどの不正が横行していたとする調査結果を公表した。商工ローン大手SFCGからの債権買い取りでは二重譲渡も判明しており、損失が膨らみそうだ。

破綻処理を通じ、ずさんな経営の闇を白日の下にさらしてほしい。

毎日新聞 2010年09月11日

振興銀破綻 ペイオフ発動は当然だ

日本振興銀行が金融庁に経営破綻(はたん)を申し出た。これを受けて金融庁は3日間の業務停止を命じるとともに、預金保険機構を金融整理管財人に選任した。振興銀の預金者へは「ペイオフ」が発動され、預金の払戻保証額は元本1000万円とその利子までに限定される。ペイオフ発動は1971年に預金保険制度が創設されて以来、初めてのことだ。

バブル崩壊の過程で政府はペイオフを凍結し、銀行が経営破綻しても預金は全額保証する措置をとってきた。しかし、銀行の不良債権問題が収束に向かい、政府は05年4月にペイオフの凍結を本格解除した。

ペイオフの凍結は、取り付け騒ぎの拡大による金融機関の連鎖的な破綻を防ぐための非常措置だった。金融危機が去った後は、銀行経営が放漫になるのを防ぐ意味からも、ペイオフが発動できるようにしておくことは当然のことだ。

特に振興銀の場合、1000万円を超す預金の口座数と額も限定的で、また、預金は定期だけで、当座や普通といった資金決済用の預金は扱っていない。他の銀行からの資金の借り入れに際しても国債を担保として差し入れていたというから、金融市場への影響は限られている。

さらに、振興銀が破綻に追い込まれた経過も考える必要がある。当初描いていた小口の中小企業向け金融がうまくいかず、ノンバンクからの債権買い取りや、グループ企業への融資に傾斜した結果だった。ずさんな融資や債権の買い取りによって傷口が広がり、債務超過に陥った。

その過程で、木村剛前会長ら前経営陣が、金融検査を意図的に妨害する行為にかかわっていた容疑が浮上し、銀行法違反(検査忌避)で逮捕、起訴されている。

こうしたいきさつをたどってきた振興銀を救済するために、税金での負担につながる公的資金を投入するという選択肢は、政府としても取りえなかったということだろう。

振興銀の債務超過は、金融庁の検査の結果、判明したわけだが、ここまで経営状態が悪化していた実態が、なぜもっと早い時期にチェックできなかったのかという疑問は残る。

木村前会長は、日銀出身で、竹中平蔵氏が金融担当相として銀行の不良債権問題に取り組んだ時期に、竹中氏のブレーンとして金融庁の顧問に就いていた人物だ。

振興銀の設立過程も含めて、検査や監督が適正になされてきたのか、規制当局の対応も検証が必要ではないだろうか。

振興銀の役職員の責任を追及するとともに、振興銀に対する金融行政に問題がなかったのかについても解明してもらいたい。

読売新聞 2010年09月11日

振興銀ペイオフ 乱脈許した金融庁の重い責任

乱脈融資や経営陣の逮捕など不祥事続きだった日本振興銀行が、ついに破綻(はたん)した。

金融庁は、従来の銀行破綻のように公的資金による救済策を取らず、預金の払い戻しを元本1000万円とその利息に限るペイオフと呼ばれる仕組みを初めて発動した。

ほとんどの預金は、全額保護される。預金者には落ち着いた行動を求めたい。金融当局はペイオフが円滑に進むよう監視するとともに、借り手企業の資金繰りにも万全を期すべきである。

振興銀は、竹中平蔵元金融相のブレーンだった日銀出身の木村剛前会長が中心となり、2004年に設立された。

高金利を武器に資金を集め、成長性が高い中小企業への融資で収益を確保するとしていたが、この経営モデルが行き詰まるのは時間の問題だった。

頼みの中小企業金融にはメガバンクなどが本格参入し、集客目当ての高金利は経営を圧迫した。苦し紛れにノンバンクからの債権買い取りや無理な大口融資など拡大路線に走り、理念とかけ離れたずさんな経営が蔓延(まんえん)していった。

この結果、木村前会長らが検査忌避容疑で逮捕・起訴されたのも当然だろう。

忘れてならないのは、将来展望のない振興銀の設立を認めた竹中氏と、ずさんな経営体制を長期間放置していた金融当局の重い責任だ。竹中氏は、問題の経緯を説明すべきである。

政府・日銀は、ペイオフ発動に踏み切っても、日本の金融システムに影響を与えることはないと強調している。

確かに、振興銀は一般の銀行と違い、預金は資金運用目的の定期預金のみで、国民生活に密接な銀行振り込みなどの決済業務を行っていない。他の金融機関との資金のやりとりも少なく、連鎖破綻の可能性は極めて低い。

ペイオフを実施しても、預金の一部がカットされる預金者は全体の3%にとどまる。

03年に破綻した足利銀行に公的資金を注入したのは、地域経済に配慮したためだ。放漫経営で倒れた振興銀を公的資金で救済すれば国民の理解は得られまい。そうした事情を考え合わせると、ペイオフ発動は妥当だろう。

1971年の制度創設から封印されてきたペイオフの実施が現実となり、今後は預金者の自己責任がこれまで以上に問われる。金融機関の経営を厳しく見分ける目を持つことが求められよう。

産経新聞 2010年09月11日

ペイオフ初発動 自己責任原則の再認識を

銀行法違反の疑いで経営トップが逮捕された日本振興銀行が経営破綻(はたん)し、昭和46年に預金保険制度が創設されて以来、初めてペイオフが発動された。

政府はこれを契機として本格的に金融機関の競争を促し、再編・淘汰(とうた)を通じて金融の活性化を図るべきだ。

預金を全額保護しないペイオフは銀行経営者と預金者、金融監督機関3者のモラルハザード(倫理の欠如)を防ぎ、規律ある緊張関係を保つために必要な措置だ。公的資金で救済せずに発動したのは当然である。老後に備え、退職金を預けていた高齢者などもいるが、自らの判断で金融機関や商品のリスクを見極める自己責任原則を再認識する必要がある。

振興銀では、預金者が銀行の健全度にかかわらず高利の預金を選択し、銀行はリスクを考えずに大口融資を拡大した。金融庁もペイオフを前提とした事前の監督を怠ったとの指摘もある。

ペイオフ解禁は、平成8年に始まった日本の金融制度改革(ビッグバン)の主要政策の一つであり、金融機関をすべて保護する「護送船団方式」からの脱却が目的とされた。

しかし、不良債権問題の表面化で金融機関の破綻が相次ぎ、政府はモラルハザードの問題を棚上げし、平成17年4月にペイオフが本格解禁されるまで預金を全額保護してきた。金融機関の連鎖倒産防止や地域経済に与える影響が配慮されたためだが、現在は金融システムは安定している。

また、同行は顧客の決済口座がなく、他の金融機関との資金のやりとりも少ない特異なビジネスモデルで、ペイオフに踏み切っても金融システム全体に与える影響はほとんどないと判断された。

振興銀は中小零細企業向け融資の専業銀行として期待されてスタートした。だが、ノンバンクとの大口取引などで法令違反を指摘され、破綻した。健全な借り手に対しては、混乱回避に万全な対応が求められる。

民間金融機関に競争を促す以上、与党の郵政見直しは官業化をめざす正反対の政策である。「暗黙の政府保証がある」との考えを国民に抱かせ、郵貯への預金の移し替えによって民業を圧迫する懸念が強い。自由で健全な金融の構築に向けて郵政法案を撤回しないと筋が通らない。

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