介護で雇用 創出へ規制緩和の工夫を

朝日新聞 2010年09月07日

介護で雇用 創出へ規制緩和の工夫を

菅直人首相が民主党代表選で、しきりに雇用創出を説いている。介護などの分野で、新たに雇用をつくり出す展望をどう描くのか。代表選の行方とともに注目したい。

代表選で首相は経済政策の柱に雇用を据え、「介護や医療、保育といった分野の雇用は社会保障の充実にもつながる」と強調している。小沢一郎前幹事長も「社会福祉関係は、大きな成長産業」としている。

首相はもともと新成長戦略で「医療・介護」に重点を置き、参院選でも「介護は人手不足。ある程度の給料を払えるようお金を投じたら、失業者も職につき、経済も成長する」と、介護分野での雇用創出を唱えていた。

深刻化している若者の雇用悪化への対策としても期待が集まる政策だ。それだけに、どうやって実現できるかが問われるところだ。

介護を産業としてみると、現在7兆9千億円の市場規模が2025年には約20兆円になると厚生労働省は見込んでいる。介護従事者は現在140万人を数え、年6万3千人のペースで増えている。

それでも今は約42万人が特別養護老人ホームの入居待ちをしているように、供給が需要に追いついていない。ホームの運営は社会福祉法人と地方自治体に限られている。こうした規制を見直し、安全を確保しながら参入を拡大していくべきだろう。

市場の拡大を促すことで雇用の場が増え、介護機器の開発といった投資も刺激される。経済の好循環をつくり出す知恵が必要だ。

介護職場の現状を改善することも重要な課題だ。平均賃金は月21万円程度で全産業平均より10万円以上低く、短期間でやめる人も多い。

自公政権下では08、09年度の補正予算で介護施設などの職員の処遇改善に計5千億円超を投じたが、この措置は11年度末で切れる。財源不足で介護職員の賃金が引き下げられる事態を防ぐためにも、今後は税や保険料、自費負担を組み合わせて介護保険制度を充実させていく必要がある。

介護保険の見直しを議論する厚労省の審議会が今月から、職員の処遇と保険料・税負担を話し合う。良質な介護サービスの提供に必要な賃金はどの水準か。そのためにいくら負担する必要があるのかを掘り下げ、改革の方向を打ち出してほしい。

焦点のひとつが、65歳以上の年金世代が払う保険料だ。現在は月4160円だが、12年春の改定で5千円突破が確実視される。市町村から「もう限界」と悲鳴も聞こえるが、職員の給与改善などとの総合判断が求められる。

いずれは消費税の引き上げを含む税制改革も避けては通れないことも念頭に、議論を進めてもらいたい。

読売新聞 2010年09月10日

成長実現会議 経済再生に民間の知恵生かせ

日本経済の成長を取り戻すため、民間の知恵を大いに活用すべきだ。

政府の「新成長戦略実現会議」が9日、初会合を開き議論を始めた。

菅首相はさっそく、国際的に高い法人税の実効税率の引き下げや、雇用確保に役立つ減税措置の検討などを指示した。

実現会議は、菅首相を議長に主な経済閣僚、日銀総裁、有識者、経済団体のトップがメンバーとなっており、6月に決めた新成長戦略を具体化する司令塔となる。

せっかく多彩な人材が集結するのに、成長戦略だけをテーマとするのではもったいない。

自公政権時代に政策決定を主導した経済財政諮問会議などを参考に、当面の円高対策から、中長期をにらんだ財政・社会保障改革まで、財政・金融政策を幅広く議論する会議とする必要があろう。

政府の成長戦略は、早期にデフレを克服し、今後10年の平均成長率を名目で3%、実質では2%にする高い目標を掲げている。環境や健康など成長分野や、アジア向け投資などにテコ入れし、120兆円を超す新規需要と、500万人の雇用を創出するという。

これを達成するハードルはかなり高い。実現会議は、府省ごとにバラバラの政策を調整し、具体策を指示する役回りだ。

有効な政策の障害となる官僚の権限争いや縦割り行政を排除してほしい。国家戦略室との役割分担も整理しておく必要があろう。

重要なのは、府省や業界ごとに対立する主張を整理し、どう意見集約していくかだ。

首相が指示した法人税率の引き下げでも、積極的な経済産業省と、税収減を懸念する財務省との温度差は大きい。早期実現に向け、政治の指導力が問われよう。

今後、実現会議は経済界の主張を政策に反映していく場として、重要な存在になりそうだ。

鳩山内閣時代は、政治と経済界が疎遠になり、景気の足を引っ張るような政策が次々に打ち出された。いまだその後遺症が残る。

製造業への派遣労働禁止や温室効果ガスの大幅削減など、異論の多い政策は、専門家の意見も聞きつつ、経済界の声に耳を傾けて見直さねばなるまい。

市場では急速に円高・株安が進んでいる。鳩山内閣が経済財政諮問会議を廃止してしまったことで、首相と日銀総裁が同席する会議は途絶えていた。

実現会議の発足で、政府・日銀の政策協調が、より円滑になるよう期待したい。

産経新聞 2010年09月09日

代表選と成長戦略 欠けている企業活性化策

民主党代表選で問われているのは、日本経済の成長戦略である。円高、株安で大きく揺さぶられている足元の経済はもとより、長引くデフレから脱却する道筋をどう描いていくのか。

だが、菅直人首相と小沢一郎前幹事長が掲げる成長戦略には、経済の担い手である企業の活動を活性化させる政策が決定的に欠けている。経済の持続的な成長にどこまで結びつくのか、不透明というしかない。

菅氏は「一に雇用、二に雇用、三に雇用。仕事が増えれば経済が大きくなり、税収が増えて社会保障の充実につながる」と雇用創出を第一の柱に据えている。

菅氏が描く成長分野は医療や介護、保育などが中心である。確かに介護などは高齢化の進展もあって、需要が急増している。だが、財政支援によって雇用を増やすだけでは成長は期待できまい。

企業が利益を上げてこそ、大きな雇用も生まれる。重要なのは、医療や介護分野などをいかに産業化していくかである。

一方の小沢氏は「内需で最低限の経済成長が可能な経済体質にしないといけない」と言う。もっともな主張だが、少子高齢化で人口が減ってゆく中で、国内消費の掘り起こしを強調するだけではやはり不十分だ。

需要拡大の具体策にも欠ける。小沢氏は自由党時代に「各種事業規制の原則撤廃」を主張していたが、今回の代表選では規制緩和への言及もまったくない。

両氏にともに欠落しているのは、グローバル経済への企業の競争力をいかに強めていくかの視点だ。それには自由貿易協定(FTA)を拡大し、企業の国際競争力を高め、外需を伸ばす戦略が必要だろう。世界的に高い法人税率の引き下げなども実行すべきだ。

さらに、成長戦略の中心的役割を果たすのは規制緩和である。医療では混合診療の解禁や医療機器の審査期間の短縮、保育では保育所の認可条件の緩和など、やるべきことは多い。それができないのは、支持母体の労組への配慮といわれても仕方あるまい。

民主党政権の経済政策に対しては従来、企業を国内から追い出し、雇用を減らす「アンチビジネス」との批判が経済界から出ている。いま求められるのは、企業が国内で設備投資と雇用を拡大できる企業活性化策の断行だ。

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