中国人船長逮捕 粛々と厳正な捜査を

朝日新聞 2010年09月09日

尖閣 争いの海にせぬ知恵を

東シナ海の尖閣諸島沖で、中国のトロール漁船が石垣海上保安部の巡視船に衝突し、中国人船長が逮捕される事件がおきた。尖閣諸島は、日本が領土と定めて実効支配しているが、中国も主権を訴える敏感なところだ。それだけに、双方とも今回の事件には冷静に対処することが大切だ。

海上保安庁によると、船長は日本の領海上で巡視船「よなくに」から退去警告を受けたが、船首を「よなくに」の船尾に接触させて逃走。別の巡視船「みずき」の再三の停船命令も無視して、急に船の方向を変えて「みずき」に衝突させた。

「みずき」の船体はへこみ、甲板の鉄製のさくが倒れた。幸いけが人は出なかった。海保の発表によれば船長の行為は悪質で、逮捕は当然だろう。

中国外務省は尖閣諸島は中国固有の領土であるとして、日本の巡視船による現場での活動の停止を求めた。

中国のメディアは、巡視船が中国漁船にぶつかってきたと報じている。ネット上でも対日批判の書き込みが相次ぎ、北京の日本大使館前では抗議活動があった。

真相の解明は捜査を待つとして、ここは国民感情の対立が新たな対立を招くことは避けねばならない。仙谷由人官房長官が「ヒートアップせず、冷静に対処していくことが必要だ」と語ったのは落ち着いた判断だ。

グローバル化の時代になり、人や物の流れが盛んになっても、領土や領海をめぐる問題の解決は非常に困難だ。

ましてや戦争の記憶が残る日中間の主権問題は、愛国心を刺激しやすく、とりわけ難しい。

「我々の世代の人間は知恵が足りない。次の世代はもっと知恵があろう」

中国の最高実力者だった小平氏が尖閣問題について1978年にこう語って解決を後代にゆだねた。だが、一世代を経ても双方が納得できる策は見つからない。だからこそ、話し合いで対処するしかない。共に誤解や疑心を招くような言動は厳に慎むべきだ。

日本政府は尖閣諸島の私有地を借り上げたり、海上保安庁に厳重に警備させたりして、活動家の上陸など問題が起きるのを防いできた。中国側も私有地借り上げや海保警備に異は唱えながらも、実力行使には出てこなかった。双方とも領土問題が日中関係を揺るがさないように配慮してきた。

しかし、中国の近年の海軍力の増強の内実は不透明なままだ。ベトナム沖などの南シナ海で、武装した大型漁業監視船に守られて中国漁船が操業していることは、漁業と海軍・海洋当局の強い結びつきを想起させる。

不信は不信を呼び、脅威感さえ招きかねない。このような事件を繰り返さず、平和な海を維持するために、日中は協働すべきだ。

毎日新聞 2010年09月09日

中国人船長逮捕 粛々と厳正な捜査を

海上保安庁は、沖縄県の尖閣諸島沖で同庁の巡視船に衝突して逃走した中国の大型トロール漁船の船長を公務執行妨害容疑で逮捕した。船長は逃走の際、巡視船に意図的に衝突したことを認めているという。幸いけが人はなかったが、日本領海内での操業を発見されて逃走する際の極めて危険な行為であり、違法操業の疑いもある。日本の対応を非難する中国側に理はない。

海上保安庁によると、漁船は尖閣諸島・久場島の北西約15キロの日本領海内で、停船命令を出しながら追跡中の海保の巡視船「みずき」に突然かじを大きく切って衝突した。漁船はその約40分前にも別の巡視船「よなくに」に衝突している。

尖閣諸島が日本固有の領土であるのは歴史的にも国際法上も疑いなく他国との領有権問題は存在しない、というのが日本政府の立場である。しかし、中国と台湾も領有権を主張しており、周辺の日本領海内ではこれまでも中国や台湾とのトラブル、事故がたびたび起きている。

08年6月には尖閣諸島・魚釣島沖で台湾の遊漁船と第10管区海上保安本部の巡視船が接触し遊漁船が沈没した。同年12月には中国の海洋調査船が魚釣島沖の日本領海内に侵入、長時間にわたって航行した。

その際、中国側は「正常な巡航活動をすることについて非難される余地はない」と正当性を主張したが、今回も日本側の対応を「違法な妨害活動」と非難している。

だが、違法な行為をしたのがどちらなのかは明らかだろう。海上保安庁によれば、漁船が巡視船に衝突したのは日本領海内であり、漁船が日本領海内で操業用の網を引き揚げる様子を「よなくに」の保安官が確認もしている。石垣海上保安部は逮捕した中国人船長に対し不法操業についても取り調べる方針という。当然である。

東シナ海では4月から5月にかけて中国海軍の艦載ヘリコプターが海上自衛隊の護衛艦に異常接近したり、中国の海洋調査船が日本の排他的経済水域(EEZ)内で海上保安庁の測量船に接近したりした。日本近海でのこうした中国側の行動が不測の事態につながらないよう日中両政府間で海上危機管理メカニズムの構築が検討されている。協議を加速させる必要がある。

領有権がからむ問題は双方のナショナリズムを刺激しやすい。北京ではさっそく、尖閣諸島の中国領有を主張する団体が対日抗議行動を起こした。仙谷由人官房長官は冷静な対処を呼び掛けているが同感である。事件は事件として粛々と捜査し、事態をエスカレートさせてはならない。中国側の慎重な対応を求めたい。

読売新聞 2010年09月09日

尖閣沖衝突事件 中国人船長の逮捕は当然だ

尖閣諸島が日本の領土であることは、歴史的にも国際法的にも自明のことである。

海上保安庁が、尖閣諸島沖の日本領海内で違法に操業し、立ち入り検査を妨害した中国漁船の中国人船長を逮捕した。当然の対応だ。政府は国内法にのっとって、厳正に刑事手続きを進めればよい。

中国漁船は7日、海保の巡視船の停船命令に従わずに逃走し、その際、船体を巡視船2隻に衝突させた。海保は、意図的な妨害行為と判断し、公務執行妨害容疑で船長を拘束した。

海保には、衝突行為の経緯や違法操業の実態について徹底解明を望みたい。

中国政府は、尖閣諸島を「中国の領土だ」と主張し、今回も違法操業にはあたらないと反論している。船長の逮捕にも外交ルートを通じて抗議してきた。

しかし、尖閣諸島は、明治政府が1895年に日本の領土に編入して以来、いかなる国も異議を唱えてこなかった。1951年に調印したサンフランシスコ平和条約でも、日本が放棄した領土には含まれていない。

中国や台湾が領有権を主張し始めたのは、70年代初頭からに過ぎない。尖閣諸島近海の東シナ海に石油や天然ガスが埋蔵されていることが明らかになった直後のことだ。中国の領有権の主張に無理があるのは明らかである。

中国のインターネット上では、日本を非難し、船長を英雄視する「反日・愛国」世論が盛り上がりをみせている。

ネット世論が混乱を(あお)った5年前の「反日」暴動を再現させるようなことがあってはなるまい。中国側に冷静な対応を求めたい。

日中間では、東シナ海のガス田共同開発に向けた条約交渉が、7月末にようやく始まったばかりである。交渉は粛々と進めるなど、日中関係全般を悪化させないことが大切だ。

尖閣諸島沖では衝突事件当時、約160隻もの中国漁船が違法操業していたという。

中国海軍は南シナ海で、自国の漁船保護を名目に艦船を派遣し、東南アジア諸国と緊張を高めている。東シナ海でも、漁船を“先兵”に影響力拡大を図るつもりだとしたら、日本の安全保障にかかわる問題である。

違法操業などの取り締まりは海保が対応するとしても、海上自衛隊も情報収集に努め、得られた情報を共有するなど、海保との連携を緊密に図ってほしい。

産経新聞 2010年09月09日

中国船領海侵犯 すぐに逮捕すべき事案だ

尖閣諸島周辺で中国漁船が領海侵犯したうえ巡視船に衝突した事件で、石垣海上保安部は公務執行妨害容疑で中国船の船長を逮捕した。当然の対応としても、事件発生から逮捕まで半日近くかかったのは疑問である。

海上保安庁の保安官が中国漁船に乗り込んだのは7日午後1時前だ。その後、関係省庁の幹部と首相官邸が協議を重ねたとされる。仙谷由人官房長官は中国と波風を立てたくない意向だったという。「国内法で処理すべきだ」との方針に傾き、立件の結論は同日深夜までずれ込んだ。

だが、中国漁船は逃走時に巡視船に衝突を繰り返し、2隻を破損させている。明白な犯罪行為で、ただちに船長らを現行犯逮捕すべきケースだった。中国との外交問題化を避けようとした仙谷氏らの態度も問題である。

中国人船長に対しては、逮捕容疑の公務執行妨害や漁業法違反(立ち入り検査忌避)だけでなく、領海侵犯の意図や背景などについても、厳しく追及する必要がある。単なる違法操業でなく、漁船を装った情報収集や工作活動の疑いもあるからだ。

船長以外の中国人船員14人を立件しない方針もおかしい。安易に国外退去させず、船員からも時間をかけて事情を聴く。船体構造の実況見分も、当然必要だ。

中国船による領海侵犯事件は今回に限らない。平成16年3月、中国人活動家を乗せた船が尖閣諸島に接近し、活動家7人が不法上陸した。20年12月には、中国の海洋調査船が尖閣諸島周辺の領海を9時間半にわたって侵犯した。

南シナ海では昨年3月、米海軍の音響測定船が中国船に異常接近され、調査を妨害される事件が起きた。その後も、中国は東南アジア諸国に対し、軍事力を背景にした威嚇的な態度を続けている。

今回の事件での日本の対応は、世界中からも注視されている。前例にもなるケースだけに、これまで以上に主権を守る毅然(きぜん)とした姿勢が求められる。

尖閣諸島は日本固有の領土にもかかわらず、中国は1992年の領海法で一方的に中国領とした。既成事実化の動きには、断固たる措置を取らねばならない。

菅直人内閣は海上保安庁と海上自衛隊の連携を密にするなど、自国の海洋権益を守るために万全の警戒態勢を敷く必要がある。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/477/