多剤耐性菌 感染防止の基本怠るな

毎日新聞 2010年09月05日

多剤耐性菌 感染防止の基本怠るな

アシネトバクター・バウマニは、水や土壌の中にいるありふれた細菌である。ふつうの人が感染しても健康に問題はない。

しかし、重い病気の患者や高齢者など免疫力の弱った人に感染すると、重症化することがある。通常は抗生物質が有効だが、多剤耐性を獲得した菌に感染するとほとんどの抗生物質が効かない。結果的に死亡する人が出てくる。同じような多剤耐性菌は他にもいろいろある。

だからこそ、病院では耐性菌対策が重要な課題であり、神経をとがらせていなくてはならない。

それなのに、多剤耐性アシネトバクターの集団院内感染が起きた帝京大病院では反応が非常に悪かった。昨年8月からこの耐性菌の感染者が発生、今年2月からは感染者が増えていた。にもかかわらず、5月の連休明けまで病院全体として対策がとられていなかったという。

病院の管理がしっかりしていれば、ここまで広がることはなかったはずだ。死亡者も減らせただろう。病院は感染経路の特定を含め、今回の事例を検証すると同時に、日常的な管理体制の不備を洗い出し、改善していくことが欠かせない。院内感染防止対策の専従スタッフが十分かどうかの見直しも必要だ。

対応が後手に回ったことに加え、国や都への報告が遅れたことにも問題がある。5月に院内で対策を取り始めたのに、今月に入るまで保健所に報告しなかったのは遅すぎる。こうした耐性菌発生の情報は国全体で迅速に共有しなくてはならない。

多剤耐性アシネトバクターは10年ほど前から世界的に増え問題になっている。日本でも昨年、福岡大病院で院内感染が起きたが、この時は海外での感染が発端だったと考えられている。

今回の感染経路は不明だが、国内で広がり始めた恐れがある。菌は医療従事者や患者の家族などを通じて病院外に広がっていくこともある。最近、インドなどで感染が増え、世界保健機関(WHO)が注意を呼びかけている別の多剤耐性菌もある。

さまざまな耐性菌を念頭に各病院で体制整備やマニュアル作りを徹底することはもちろん、国としての対策も必要だ。

耐性菌の出現を抑えるには薬の適切な使用も大事だが、発生を食い止めることは難しい。次々出現する耐性菌に有効な抗生物質を新たに開発するというイタチごっこが続く中で、心配なのは、抗生物質の開発が停滞していることだ。

耐性菌の出現が避けられない上、慢性疾患の薬と違って処方期間が短く、収益を上げにくいことが一因らしい。感染防止と並び抗生物質の開発のあり方も緊急の課題だろう。

読売新聞 2010年09月08日

新型多剤耐性菌 情報共有の仕組みを構築せよ

ほとんどの抗生物質が効かない「多剤耐性菌」が、相次いで日本に入り込んできた。

帝京大学病院で大規模な院内感染を引き起こしたのは、「アシネトバクター」という土中などにいる細菌が多剤耐性化したものだ。

その衝撃が収まらぬうちに、今度は独協医科大学病院から、「NDM1」という抗生物質分解酵素を持つ多剤耐性大腸菌の感染患者がいた、と報告された。

いずれも海外での感染拡大が警告されていたものの、国内にはまだ本格的には入り込んでいない、と見られていた。

インフルエンザのように飛沫(ひまつ)感染で広がるものではないため、過度に恐れる必要はないだろう。だが、多くの人が世界を行き交う時代だけに、新型耐性菌への警戒を強めねばならない。

NDM1を持つ大腸菌は、国内初の感染報告である。

独協医大によると、患者はインドから帰国した男性で、入院していた昨年5月に高熱が続いた。

その時点では原因が分からなかったが、今年8月に英国の医学専門誌でNDM1を持つ大腸菌の感染拡大が指摘されたため、保存してあった男性の大腸菌の遺伝子検査などを実施し、判明した。

男性はすでに回復、退院している。入院中も院内感染の予防策を徹底して行っており、他の人に感染させた可能性はないという。

ただ、医療関係者は帝京大病院の院内感染問題とはまた別の意味で、NDM1の上陸を強い緊張感を持って受け止めている。

大腸菌に近い細菌に毒性の強いサルモネラ菌や赤痢菌があり、それらにも、大腸菌からNDM1の遺伝子が取り込まれる可能性があるからだ。

また、多剤耐性アシネトバクターやNDM1を持つ大腸菌などがすでに国内でも広がっているのに把握されていないのではないか、との懸念もぬぐえない。

厚生労働省は感染症法にもとづき、5種類の薬剤耐性菌に関して感染情報を収集しているが、アシネトバクターもNDM1も対象に含まれてはいなかった。情報の収集先も、すべての医療機関を網羅してはいない。

厚労省は、今回の二つの耐性菌について緊急の全国調査を行う方針だ。同時に情報収集の仕組み自体を再構築する必要があろう。

すべての医療機関が、すべての耐性菌情報を、迅速に共有できるシステムが要る。政府は危機管理問題として取り組むべきだ。

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