地域主権論争 「粗雑」VS.「乱暴」を超えて

朝日新聞 2010年09月06日

地域主権論争 「粗雑」VS.「乱暴」を超えて

いよいよ、分権改革がすすむのか。

なにしろ、首相の座を争う2人が、この国の閉塞(へいそく)感をうちやぶる方策として、そろって分権、地域主権改革を唱えているのだ。

民主党代表選で、菅直人首相は「中央集権国家の霞が関縦割りのマイナスが、いまの日本の停滞につながっている」と指摘し、国のかたちを根本から地域主権に変えると宣言している。

小沢一郎前幹事長も「霞が関から権限と財源を地方に移す以外に方法はない」「官僚の既得権に大なたを」と訴えている。両氏の主張はその通りだ。速やかな具体化を期待する。

前途の険しさは、言わずとしれたことだ。民主党は政権交代を機に、分権を地域主権と言い換えたものの成果は乏しい。「政権の1丁目1番地」のはずが、関連法案はひとつも成立していない。権限や財源を守りたい霞が関の各省の消極姿勢が最大のブレーキだが、これからはねじれ国会という壁も立ちはだかる。

こんな現実を踏まえて、両氏の見解をつぶさに見れば、またも「掛け声倒れ」に終わりかねない危うさも目についてしまう。

たとえば、菅首相の場合は改革への本気度が問われかねない。公約に、改革の司令塔の地域主権戦略会議を「新設する地域主権推進会議」と誤って書いてある。この粗雑さはひどい。

昨年来その戦略会議で、首相はほとんど発言せず、目立った指示もしたことがない。それだけに、単純ミスの誤植が図らずも首相の改革への関心の薄さを象徴したようにも見えてしまう。

小沢氏の場合は主張が乱暴すぎる。「ひも付き補助金を廃止して一括交付金化する」という政府方針を、新たな財源をつくる手立てとして語り、「首長たちは自由に使えるお金をもらえるなら、現在の補助金の7割でいま以上の仕事を十分やれると言っている」と繰り返している。

われわれも一括交付金化をすすめ、その使い方を自治体の判断に委ねる大胆な改革を、各省を説き伏せてぜひ実現すべきだと考える。

だが、そこから数兆円規模の財源を生みだすのは難しいだろう。

なぜなら、約21兆円ある補助金のうち約17兆円は、医療、介護、生活保護や義務教育などにあてられている。この部分で自治体が合理化し、他の用途に回す余地はわずかだ。残る約4兆円の公共事業では、小沢氏のいう3割程度の削減は可能だろうが、財源をひねりだす打ち出の小づちにはならない。

そもそも一括交付金化は自治体の裁量枠を広げる一案で、財源を工面する策の柱にすえる発想に無理がある。

両氏には、首相として各省にどんな指示をするのか、具体的な地域主権改革策を競い合ってほしい。

毎日新聞 2010年09月08日

民主代表選 地域主権改革 交付金を脱線させるな

地域主権改革をめぐる議論が民主党代表選で迷走気味だ。マニフェストを実行するための財源について小沢一郎前幹事長は地方へのヒモつき補助金を使い道自由な「一括交付金」に改編することで捻出(ねんしゅつ)できると発言、地方から減額に懸念の声が起きている。

その一方で、菅直人首相は改革へ熱意を感じさせるメッセージをあまり発していない。政権交代以来「1丁目1番地」とのふれこみだったテーマは結局、その程度の位置づけなのか。両候補はより幅広い視点から、分権改革を論じてほしい。

補助金の交付金化は民主党が衆院選マニフェストに盛り込み、政府は来年度から段階的な実施を目指している。小沢氏は代表選でこの改革に関連し「補助金を一括交付金化すれば現在の6、7割に減らせる」と総額の削減効果を強調している。

各府省は使い道を厳格に縛った補助金を地方に配り、自治体を統制している。使途を限らない交付金への改編を大胆に進めれば、国と地方の関係は大きく変わる。実現に向けた小沢氏の熱意自体は評価できる。

だが、国の財源対策と直ちに位置づけることは疑問だ。国から地方への補助金の総額は21兆円だが、社会保障分野など義務的な必要経費が多い。公共事業分野などを簡素化すれば確かに総額はある程度縮減できるが、財源捻出効果を過剰に期待すべきではなかろう。

地方には小泉内閣時代の「三位一体の改革」に協力した結果、地方交付税減額など負担を押しつけられた、とのトラウマがある。麻生渡全国知事会長の「交付金化はそもそも(補助金を)地方の創意工夫に基づいたものにする話。いつのまにか、財源捻出論になっている」という懸念は理解できる。支出総額カットを強調すれば、改革への地方の警戒は強まる。仮に地方の抵抗で改革が失敗すれば、ほくそえむのは補助金を握る中央官庁の官僚である。

菅氏の発信も乏しい。「雇用、雇用」と力説しながら基礎自治体である市町村への分権を雇用創出と連動させるような戦略が聞かれない。交付金にしても、菅内閣の下で基本方針を決定する際、さまざまな表現で骨抜きが図られた経緯がある。

両候補とも地方の自主財源を本当に重視しているのなら、税源移譲論議が本筋のはずだ。国が地方行政をさまざまな基準で縛る「義務付け」の撤廃、国の地方出先機関の見直しなどが一体として論じられなければ分権は実現しない。交付金問題だけが突出するかのような議論では、「地域主権」の名に値しない。

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