パレスチナ 和平への道を米国が示せ

朝日新聞 2010年09月04日

パレスチナ 和平への道を米国が示せ

イスラエルとパレスチナ自治政府の直接和平交渉が、1年9カ月ぶりにワシントンで再開された。

オバマ米大統領が双方に強く働きかけた結果である。大統領には11月の中間選挙に向けて外交成果を強調する狙いがあるだろう。しかし、外交ショーだけに終わらせてはならない。

交渉を取り巻く状況は厳しい。イスラエルは和平で強硬姿勢をとる極右政党を含む右派連立政権である。一方のパレスチナ自治政府はヨルダン川西岸だけを支配し、ガザはイスラム組織ハマスが抑え、政治的に分裂している。

米政権は1年以内の合意を目指すとするが、直接交渉で双方が合意に達する可能性は低いと言わざるを得ない。

だからこそ、和平実現には米国の強い指導力が必要である。むしろ、双方の主張を聞いたうえで、オバマ大統領が双方に具体的な和平案を提示するような踏み込んだ役割を期待したい。

オバマ大統領は就任以来、和平はイスラエルとパレスチナの2国共存によって実現すると明言してきた。

それは、イスラエルが西岸とガザの占領を終わらせ、パレスチナ国家が独立することで成就する。そのためには西岸のユダヤ人入植地問題の処理や、双方が首都と主張する聖地エルサレムの帰属で合意する必要がある。

アラブ首脳会議はすでにイスラエルが占領地から撤退すれば集団でイスラエルと国交を正常化することを決めている。イスラエルにとっては自国の安全を確立する重要な機会である。

1948年のイスラエル独立で生じたパレスチナ難民問題も忘れてはならない。国連総会は難民の帰還権を認めたが、イスラエルは約500万人の難民が国内に帰還すれば国が破綻(はたん)すると懸念を強める。しかし、難民問題が未解決では紛争は終わらない。

オバマ大統領の和平仲介では、同じく米民主党のクリントン元大統領が2000年12月に示した包括的な和平指針の提案が参考となるだろう。

提案では、イスラエルが西岸の9割以上から撤退するが、停戦ラインに近い入植地はイスラエルに編入し、その代わりに、パレスチナ側にイスラエルの土地を与える土地交換案が示された。エルサレムは双方の共通の首都とし、難民問題ではパレスチナ国家を主な帰還先とすることを唱えた。

クリントン提案は任期切れ直前に出され、成就しなかったが、オバマ大統領には双方を説得し、国際社会の理解と支持を得る時間が残っている。

米国が踏み込んだ案を出せば、和平の実現に悲観的になっている双方の民衆に希望を示すことができる。双方の選挙で、和平派が影響力を強めるうねりが出てくるかもしれない。

交渉再開にあたり、そんな期待を描きつつ、和平の行方を見守りたい。

毎日新聞 2010年09月06日

中東和平交渉 米国は強力な後押しを

「今後2週間ごとに交渉を行えば、エルサレムの帰属や国境画定も含めて1年以内の最終解決も可能」。これが1年8カ月ぶりの直接交渉でイスラエルとパレスチナが到達した共通認識だ。意義深い合意である。双方が合意を誠実に実行し、流血と不信の地に「2国家共存」の平和を招き寄せるよう願ってやまない。

だが、前途を楽観できないのも確かだ。00年の米クリントン政権による中東和平仲介は失敗した。3年前、7年ぶりに再開された和平交渉でブッシュ前大統領は「08年末までの交渉妥結を目指す」と宣言したが、皮肉なことに08年末に待っていたのは、イスラエル軍のガザ(パレスチナ自治区)空爆と侵攻だった。妥結どころか交渉は完全に宙に浮いた。

それ以来の直接交渉である。交渉再開にこぎつけたオバマ政権の努力を評価したい。昨年6月、訪問先のエジプトで中東和平の重要性を訴えたオバマ大統領は、その熱意を形にして見せたのだろう。だが、米国が手を離せば交渉は再び宙に浮きかねない。引き続き米国の強力な後押しを期待するしかないのが実情だ。

当事者だけでは解決できない問題もある。イスラエルは入植地建設を26日まで凍結しているが、仮に建設再開となればパレスチナ側の反発は避けられない。そもそも占領地へのユダヤ人入植地建設は、日本の外務省も国際条約違反とみなす問題行為なのに、これをやめるよう説得できるのは実質的に米国だけだ。

また、イスラエルは東西エルサレムを支配下に置いて「不可分の首都」と宣言し、パレスチナもエルサレムを将来の独立国家の首都と主張している。聖地をめぐる問題の決着には第三者の仲介が不可欠だろう。

こうした難問に対して、双方の妥協すべき課題を確認する「枠組み合意」方式を導入したのは注目すべき新機軸である。当事者の和平への意思が問われるが、妥協を引き出す米側の粘り強い調整も必要だ。

ユダヤ系組織や親イスラエル団体が強い力を持つ米国では、再選をめざす1期目の大統領は中東和平仲介を敬遠する傾向があった。秋に中間選挙を控えるオバマ政権が本格仲介を決意したのなら英断というべきである。だが、形式的な仲介に終わるようなら、アラブ世界の対米不信には一気に拍車がかかるだろう。

今回の合意にはガザを実効支配するハマスの反発も予想される。同じ自治区でもヨルダン川西岸とガザを別の組織が支配する形態は一日も早く解消すべきだが、合意をぶち壊そうとハマスがイスラエル攻撃やテロを仕掛けるのは容認できない。早くも双方の衝突が伝えられる。イスラエルの自制も必要だ。

読売新聞 2010年09月05日

中東和平交渉 お互いの譲歩が打開への道

イスラエルが占領してきた土地にパレスチナ国家を樹立し、2国家共存を目指す首脳間の直接交渉が、1年8か月ぶりに再開された。

今後2週間ごとに交渉を続け、1年以内の妥結を目指すという。中東和平プロセスが息を吹き返したことを、まずは歓迎したい。

仲介に努めてきたオバマ米政権には、11月の米中間選挙を前に、有権者に中東外交の成果を示す必要があった。米国がイスラム世界で失った信頼を回復する梃子(てこ)にしたいとも考えたのだろう。

交渉は、最初は細部の詰めにこだわらずに進めるとしているが、問題は山積している。

まず、イスラエル政府が続けてきた占領地へのユダヤ人入植地建設だ。交渉は、建設凍結措置を受けて再開されたが、約束した凍結期間は今月26日に切れる。

建設が再び始まれば、パレスチナ側は交渉をボイコットしかねない。早期決裂を回避する知恵と工夫が求められている。

将来のパレスチナ領の一部が、イスラエル国家を認めないイスラム原理主義組織ハマスに統治されている現実もある。ハマスは交渉から排除されており、交渉での合意が履行される保証はない。

そして、過去の交渉を決裂させてきた長年の課題がある。聖地エルサレムの帰属問題と国境画定、さらにパレスチナ難民の帰還権の扱いだ。だが、これら難題については、過去の交渉経緯から、互いに相手の立場は分かっている。

要は、イスラエルのネタニヤフ首相が「永遠で不可分のイスラエルの首都」エルサレムを分割し、移譲できるか。パレスチナ自治政府のアッバス議長がパレスチナ難民のイスラエルへの帰還権を放棄できるかどうかだ。

連立政権内に一切の譲歩を嫌うタカ派を抱える首相には、難しい決断だ。議長も、400万人を超える難民を簡単に見捨てるわけにはいかないだろう。

アラブ諸国で初めてイスラエルと平和条約を結んだエジプトのサダト大統領も、テロを繰り返したパレスチナ解放機構(PLO)と和平に合意したイスラエルのラビン首相も同胞の凶弾に倒れた。

場合によっては死を賭すような譲歩を迫られるかもしれない。

2国家共存体制が築ければ、譲歩を決断した首脳に対する国民の否定的な見方はいずれ覆る。和平に反対するハマスは、パレスチナ人の支持を失っていくだろう。

パレスチナを経済支援してきた日本も、交渉を後押ししたい。

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