院内感染 速やかに情報開示し再発防げ

朝日新聞 2010年09月06日

院内感染 衛生対策の基本を大切に

東京都板橋区の帝京大付属病院で、薬の効きにくいアシネトバクター菌による大規模な院内感染が起きた。

昨年8月以来、これまでに46人が感染し、少なくとも9人はそれによって亡くなった可能性がある。

病院が院内感染を疑い、過去にさかのぼる調査を始めたのは今年5月中旬になってからだ。保健所への報告も、今月初めだった。

死者が出ているという情報が病院内で十分に共有されていなかったことも明らかになっている。初動が遅れたばかりか、あまりに危機感が欠けた対応だったといわざるを得ない。それが被害を広げた可能性も高い。

この病院は高度な医療を行う特定機能病院だ。8月に厚生労働省と都の定期検査を受けた。その際、感染防止の態勢が弱いという指摘を受けながら、院内感染について報告しなかった。首をかしげたくなる対応だ。

徹底的に態勢を見直すべきだ。

全国の病院でも、感染防止の態勢を急いで再点検してほしい。

こうした薬の効きにくい細菌は世界的にじわじわ広がっており、日本でも感染例が相次いでいる。

2008年秋から翌年の1月にかけて福岡市の福岡大病院で、今回と同じ細菌に26人が感染して4人が死亡する例があり、厚労省は警戒を呼びかけた。今年2月、愛知県の病院でも起きた。

細菌との戦いは予断を許さない。最初の抗生物質ペニシリンの登場以来、すり抜けて耐性を獲得した細菌と、強力な抗生物質の開発競争が続いてきたが、薬の開発がなかなか追いつきにくくなってきたのが現状だ。

主要な抗生物質のどれもが効かない多剤耐性と呼ばれるタイプや、効く薬が全くないスーパー耐性菌と呼ばれるものまで出てきた。

アシネトバクター菌は土の中などにいるありふれた細菌で、健康な人にはまず病気を起こさないが、がんなどで免疫力が弱った人に感染すると、肺炎や敗血症などの重い症状を起こすことがある。普通なら抗生物質が効くが、今回のように多剤耐性になると、ほとんどの薬が効かなくなる。

大切なのは、すばやい対応だ。千葉県の船橋市立医療センターでは昨年、このスーパー耐性菌が見つかった。ただちに院内感染対策チームを招集して病院中に警報を発した。患者を個室に移して病院全体の衛生対策を徹底させた。それが功を奏した。

人工呼吸器などの医療機器の管理やせっけんでの手洗いなど、基本的な衛生対策の徹底が大切なことは、過去の多くの事例が教えている。

感染がわかったら、院内で、そして地域で、情報を共有して取り組む。そんな基本も再確認しておきたい。

読売新聞 2010年09月04日

院内感染 速やかに情報開示し再発防げ

高度医療をになう大学病院で、なぜこれほど大規模な院内感染が起きてしまったのか。

帝京大学医学部付属病院(東京都板橋区)は3日、がんなど重病で入院していた患者46人が、ほとんどの抗生物質が効かない多剤耐性の「アシネトバクター」と呼ばれる細菌に感染していた、と発表した。

感染者のうち27人が亡くなっており、この中の9人は感染が死因につながった可能性を否定できない、という。

犠牲者9人とすれば、2000年に大阪で、02年に東京で、いずれもセラチア菌の院内感染で犠牲者が出たケースを上回り、近年では例のない被害である。

帝京大は、今年4~5月に感染者が増加したため、調査委員会を設置して調べていたという。保健所へ届け出たのは、今月2日だった。あまりにも遅すぎる。

アシネトバクター自体はどこにでもいる細菌で、健康な人が感染しても影響はない。だが、重症患者など抵抗力が衰えている人が感染すると、肺炎や敗血症などを起こすことがある。

福岡市の福岡大病院でも23人が感染したことが、昨年1月に判明している。多剤耐性アシネトバクターによる大規模感染はこれが国内初の事例で、厚生労働省は注意を呼びかけていた。

高度医療機関には抵抗力の弱い重症患者が集まるため、ひとたび院内感染が起きれば、取り返しのつかないことになる。

今回の帝京大病院の場合は、どのような経路で感染が広がったのか。公表が遅れたのはなぜか。

大学病院などには院内感染担当者の配置が義務づけられているはずだが、そこに油断や落ち度はなかったのか。

帝京大は調査委による独自の調査結果をもとに、こうした疑問に答えなければならない。厚労省と東京都も、徹底した調査で事実関係を究明すべきだ。

院内感染は、どんなに警戒しても完全には防ぎきれないことも事実である。治療で抗生物質が多用されていることで、新たな耐性菌を生み出してもいる。

多剤耐性アシネトバクターは、まだ国内の感染報告は少ない。しかし、別の多剤耐性菌による院内感染は多数発生している。

拡大を防ぐには、早期発見と迅速な対応が欠かせない。そのためには、全国規模の監視体制を強化するとともに、医療機関は感染の事実はすばやく開示し、発生情報を共有しなければならない。

産経新聞 2010年09月07日

院内感染 悪質な隠蔽許さぬ処分を

帝京大病院(東京都板橋区)で46人もの入院患者が対象となる院内感染が発生し、感染が原因で少なくとも9人が亡くなった。情報共有が大幅に遅れ、拡大防止策が後手に回った結果、国内最大規模の被害につながった可能性が強い。

感染症対策は、早期発見に基づく感染ルートの特定と速やかな情報の公表が大切だ。ところが、病院側は何度も公表の機会がありながら、1年近くも情報を伏せてきた。悪質な隠蔽(いんぺい)行為と言わざるを得ない。

警視庁が、業務上過失致死の疑いもあるとみて医師ら病院関係者から感染が起きた経緯について事情を聴いたのは当然だ。東京都に加え、厚生労働省も医療法に基づいた異例の立ち入り検査を行った。行政としても結果次第で、特定機能病院の指定取り消しや一定期間の業務停止も含めて厳しい処分で臨む必要がある。

今回、院内感染を起こした病原体は、ほとんどの抗生剤が効かない「多剤耐性アシネトバクター」(MRAB)と呼ばれる細菌だ。その後の調査で、別種の多剤耐性菌により死者が出ていることも分かり、やはり院内感染が原因との見方が強い。

病院では昨年8月時点で最初とみられる感染者が見つかり、死亡者も出ていたのに、感染との因果関係が確認できないとして、対策部署への報告はなかった。

保健所への報告や外部への公表は今月に入ってからだ。8月初旬には厚労省と都による定例の立ち入り検査が実施されていたが、報告もしていない。菌が検出された患者の転院時にも情報が転院先に伝えられなかった。病院側は「もう少し早く報告、公表すべきだった」と対応の不備を認めているが、結果の重大さに対する責任ある発言とはいえない。

MRABは、免疫力の落ちた術後の患者が感染すると、肺炎や敗血症を引き起こして死亡するケースがある。院内感染菌のひとつとして世界中で問題になっている。健康な人でも感染し、有効な抗生剤がない「スーパー耐性菌」も国内の大学病院で見つかったことが明らかになった。

厚労省は今後、報告制度の在り方について検討する有識者会議を立ち上げるという。だが、どんなルールも医療機関としての自覚が前提となる。さもなければ絵に描いたもちにすぎない。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/470/