東欧MD中止 核交渉の歯車を回そう

朝日新聞 2009年09月19日

東欧MD中止 核交渉の歯車を回そう

「核なき世界」に向けて、オバマ米大統領が大きな外交カードを切った。

東欧のチェコ、ポーランド両国へのミサイル防衛(MD)システム配備を中止するという決断だ。ブッシュ前政権が進めていた、欧州でのMD計画の見直しである。

MDの東欧への配備に、ロシアは「我が国の核を無力化する」と反発していた。オバマ氏はその懸念を解消して、年内妥結を目指している第1次戦略核兵器削減交渉(START1)の後継条約づくりで、ロシアの歩み寄りをうながしたといえる。

ロシアのメドベージェフ大統領も、この決定を「責任あるアプローチ」と歓迎し、ミサイル拡散の脅威に「共同で取り組もう」と声明を出した。英国やフランスも歓迎している。

オバマ氏はこれで、MDと先制攻撃をセットにして核拡散に対抗するブッシュ戦略に、明確な区切りをつけたことになる。この決定を弾みにして、START1の後継条約に続く、さらなる核軍縮の展望を示してほしい。

23日にニューヨークで予定されている米ロ首脳会談、さらにオバマ大統領が議長を務める国連安全保障理事会の首脳会合が、その最初の舞台になるだろう。

そもそも東欧へのMD配備の目的は、イランの核・ミサイル攻撃からの防衛のはずだった。だが、ブッシュ前政権はこれを、北大西洋条約機構(NATO)を東に拡大するテコにしようとした。国内の反対を押し切ってMD配備を受け入れたチェコ、ポーランド両国にも、ロシアを牽制(けんせい)する狙いがあったようだ。

ロシアも対抗して、プーチン大統領(当時)が「MD配備を認めた国は核の標的になる」と発言するなど、露骨な威嚇をしてみせた。

ロシアは自国の防空ミサイルをイランに売却する動きも見せている。米国が配慮の姿勢をみせた以上、中止するのが当然だろう。

オバマ政権は、現行のMD配備計画に代えて、イージス艦に搭載される海上配備型迎撃ミサイル(SM3)を中心にしたシステムを段階的に配備していく方針だ。新たな計画は「柔軟性」を強調しており、イランの対応を見極めていくつもりなのだろう。

来月1日には、国連安保理常任理事国にドイツを加えた6カ国と、イラン政府との核問題をめぐる協議が予定されている。イランとの対話を呼びかけてきたオバマ政権にとっても正念場である。

核軍縮だけでなく、核・ミサイルの不拡散という点からも、ロシアが米国の動きに応じ、両国が協調路線にかじを切れば、その影響は大きい。北朝鮮の核・ミサイル開発を抑制するためにも、目に見える成果を期待したい。

毎日新聞 2009年09月20日

東欧MDと核 果敢な「オバマ軍縮」を

米露間の火種になっていた東欧ミサイル防衛(MD)計画についてオバマ米大統領が大胆な見直しを発表した。米露協調による核軍縮路線の一環だろう。オバマ大統領は24日の国連安保理首脳級会合で議長を務め、「核兵器なき世界」への新たな取り組みを打ち出すことも予想される。「オバマ軍縮」の成果に引き続き期待したい。

東欧MDは米国のブッシュ前政権が推進した構想だ。かつてはソ連陣営だったポーランドとチェコに迎撃基地やレーダー施設などを設け、主にイランのミサイルを撃墜しようというのだ。ブッシュ政権はポーランド、チェコと設置協定に調印し、北大西洋条約機構(NATO)も東欧MD計画を承認した。

現行計画の事実上の中止を喜ばない国もあるが、まずはオバマ政権の決断を評価したい。この計画については、迎撃の技術的可能性とは別に、果たしてイランから欧州へのミサイル攻撃を想定すべきなのか、という根本的な疑問があった。米・イスラエルにはイランへの警戒感が強いが、欧州には対イラン関係が良好な国も多いのである。

他方、ロシアは東欧MDについてロシアのミサイルを想定したものだと反発し、NATOとの軍事バランスに関係する欧州通常戦力(CFE)条約の履行停止を表明した。米露の核軍縮でも東欧MDが波乱要因になってきた。必要性と効果が定かでない東欧MDが米露の緊張をもたらすのは理解に苦しむことである。

今回、オバマ政権は東欧MDの迎撃対象を長距離ミサイルから中短距離ミサイルに変更するなど、ロシアを敵視しない姿勢を強調した。米露協調でイランに対処しようというのだろうが、この際、米国に考えてほしいのは、真の脅威はどこにあるか、という問題である。

イランが核兵器を開発しているかどうか、必ずしも定かではない。核実験やミサイル発射を繰り返す北朝鮮の方が重大かつ現実的な脅威であるのは明らかだ。ブッシュ政権がイラク戦争などに力を使い果たし、北朝鮮の核兵器開発を防げなかったことを教訓とすべきである。

オバマ大統領は24日の会合で、兵器管理と核軍縮、国際的不拡散体制の強化などを主要議題にするという。特定の国の核問題は論じない方針だが、世界の核兵器の9割を持つ米露が核軍縮を進めるとともに、北朝鮮などが核兵器を廃棄しなければ、世界は決して安全にならない。

日本から出席予定の鳩山由紀夫首相は、新たな核の脅威にさらされる唯一の被爆国・日本の窮状と「核なき世界」へのビジョンを、国際社会に明確に発信してほしい。

読売新聞 2009年09月21日

東欧MD中止 米露関係の進展につながるか

米国の欧州防衛ミサイル戦略の大きな転換だ。オバマ米大統領が、東欧へのミサイル防衛(MD)システム配備計画の中止を発表した。

ブッシュ前政権のもとで着手されたMD計画は、イランの長距離弾道ミサイル脅威を想定し、ポーランドに迎撃ミサイルを配備し、チェコに探知レーダー基地を建設するというものだった。

自らの勢力圏とみなす東欧への配備に反発してきたロシアが、今回の決定を歓迎したのは当然だ。ロシアは、真の狙いはロシアの核戦力封じではないかと警戒し、中止を強く求めていたからだ。

オバマ政権の決定は、無論、ロシアの言い分を受け入れたわけではない。イランの脅威に対する米国の認識の変化が根底にある。

大統領は、対処すべき脅威は、開発が想定より遅れているイランの長距離ミサイルではなく、強化された中短距離ミサイルであり、それに即して新たなMD計画を進めると表明した。

新たな計画では、2020年ごろをめどに全欧をカバーするMDシステム展開を目指す。まず、11年にイージス艦搭載の海上配備型SM3迎撃ミサイルを、15年ごろ陸上配備型の迎撃ミサイル改良型を加えていく予定だという。

現実の脅威に、実証ずみのシステム配備で、迅速かつ実効ある防衛態勢を築くというもので、一応、もっともな説明といえよう。

しかし、ロシアの脅威にさらされてきた東欧諸国は動揺している。冷戦後、北大西洋条約機構(NATO)に加盟して安全保障を図ってきたのに、米国が見捨てるのではないかという疑心暗鬼だ。

米国内にも、「同盟国への裏切りだ」と批判する声がある。

オバマ大統領が、NATO加盟国に対する武力攻撃には集団的自衛権の行使で共同防衛措置をとると明言したのは、こうした不安の払拭(ふっしょく)を狙ったためだろう。

オバマ大統領には、ロシアとの関係進展につなげたいという期待もあろう。核軍縮でも、濃縮をやめないイランに制裁強化で圧力をかけるためにも、ロシアの協力は不可欠だ。だが、その思惑通り、ロシアが歩み寄るかどうか。

米国は、欧州でのミサイル防衛戦略の力点を、中短距離弾道ミサイルへの対応に切り替えた。それは北朝鮮の脅威に対し、日米がまさに実践していることだ。

北朝鮮は核武装し、中距離ミサイル・ノドンで日本を狙っている。日米はMDシステム運用に磨きをかけていかねばならない。

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