JAL再生へ 厳しい改革、貫く覚悟を

朝日新聞 2010年09月01日

JAL再生へ 厳しい改革、貫く覚悟を

日本航空の再生の青写真ができた。年初に経営破綻(はたん)した日航と管財人の企業再生支援機構が、銀行団との7カ月あまりの調整を経て更生計画案をまとめ、東京地裁に出した。

経営の再建には、破綻の要因ともなった高コスト体質を根本から改革することが欠かせない。更生計画がグループ人員の3分の1にあたる1万6千人を削減し、国内外の計45路線から撤退するという厳しい内容を盛り込んだのは当然である。

銀行団に融資や社債などの債務を9割近くカットしてもらい、支援機構から3500億円の公的資金の注入を受けることになったのも、抜本的な改革への決意が前提にあればこそだ。日航はそれを貫いてもらいたい。

更生計画提出にこぎつけた背景には、幸運もあった。世界経済が同時不況から回復に向かい、航空需要もかなり戻ってきたからだ。今期は営業黒字への転換を見込む。

政府支援下で事前調整型の破綻処理となった利点もあった。政府保証のつなぎ融資を受け、効率の悪いジャンボ機をすべて退役させて新型の中小型機に買い替えることができるようになり、経費削減を進めやすくなった。

しかし、今後の経営環境については決して楽観すべきでない。

米国景気の悪化が明らかになり、世界経済の失速が懸念されている。航空市場の先行きも不確実性が強まったが、環境が悪くなっても、政府支援の追加に安易に頼るようなことはもはや許されない。

全日空との競争だけでなく、海外との価格競争がますます激化することも考えておかねばならない。日航が生き残りをかけて挑むアジア市場には、低コストを武器にした各国の格安航空会社がひしめいている。

だが、単なる価格競争に陥るのではなく、サービスの品質を武器に競争力を保つことが課題となる。

カギとなるのは、第一に「安全」だ。また、日本の航空会社には、運航時間の正確さが世界トップという強みもある。安全と正確さをコスト削減と両立させることが、アジア市場で生き抜く条件になるのではないか。

破綻の根本原因と指摘されてきた「親方日の丸」意識を変えることも重要だ。会長に迎えた稲盛和夫京セラ名誉会長に民間経営のあり方を学び、意識改革を進めているというが、こびりついた意識を変えることは一朝一夕にはできないだろう。

日航は政府支援の期限である2013年初めまでに再建を終え、再上場か新スポンサー探しをする必要がある。景気の動向や競争激化を考えれば、時間とのたたかいには厳しいものがある。組織と意識の改革を急ぎ、業績改善を目に見える形で示してほしい。

毎日新聞 2010年09月06日

日航更生計画 信頼の回復が第一だ

難航していた日本航空の更生計画案がまとまり、東京地裁に提出された。株主責任を明確にするため100%減資を実施し、金融機関などが持つ債権も9割弱にあたる5215億円を削減する。そのうえで官民ファンドの企業再生支援機構から3500億円の出資を受ける。支援機構は3年で支援完了することになっており、期間内の12年末までに日航は再上場をめざす。

来年3月末までに約1万6000人を削減し、不採算の国内外45路線から撤退する。燃費の悪いジャンボ機などの退役も進める。こうした措置により13年3月期は1175億円の営業利益をあげ、売上高に占める比率は9・2%を見込んでいる。

債権放棄に伴う資産圧縮により減価償却費が大きく減ることが、収益面にも貢献する。その一方で、100%減資によって株主優待券が発行できなくなったことから、顧客離れが進むというマイナスの効果も生じている。

公的資金を受けながら、値引き競争を仕掛け、顧客を囲い込むといったことは、同業他社との過当競争に拍車をかける。何より、日航の経営がつまずいた大きな原因は、座席販売を旅行代理店に委ね、コストに見合う価格での販売ができなかったところにあるとされている。

そうした収益管理の甘さの是正が課題だけに、安易な値引きに走ることは許されまい。地道な営業努力と良質なサービスで顧客の信頼を回復していくしかない。

当面の最大の課題は、金融機関による融資の再開だ。巨額の債権放棄を受け入れた銀行などとしては、簡単に応じるわけにはいかない。再建の進み具合を見てからというのは、当然の対応だろう。

更生計画案にはLCCと呼ばれる格安航空への参入検討も盛られた。ただし、これは国土交通省の指導の結果だった。日航としては、値段だけでなくサービスの内容も重視する乗客が日本では大半で、LCCに対する需要はそれほど大きくはならないと見ているようだ。

しかし、LCCの台頭と、路線と価格を自由に設定できるオープンスカイによって世界の航空業界の地図は大きく塗り替わっている。日本では羽田と成田の発着便数が限られてきたことから、世界的な枠組みからはずれた形になっていた。

しかし、羽田と成田の発着便数拡大によって、事情は変わろうとしている。海外のLCCが日本への乗り入れを増やそうとしており、日本の航空輸送の市場構造が変化するかもしれない。そうした状況への対応も含め、日航の再建には、まだまだ課題が山積している。

読売新聞 2010年09月02日

日航更生計画 謙虚に着実に再出発を目指せ

今年1月に経営破綻(はたん)した日本航空が、最終的な再建策を盛り込んだ更生計画案を東京地裁に提出した。11月までに認可を受ければ、金融支援などの再建策が本格的に動き出す。

日航再生には、巨額の公的資金が投入される。計画が頓挫し、国民負担が生じるような事態を招いてはならない。

そのためには、経営危機に陥るたびに問題を先送りし、政治や行政に頼ってきた日航の体質を抜本的に改め、計画を着実に実行することが重要である。

更生計画の柱は、大規模なリストラだ。年金や賃金のカット、1万6000人の人員削減、老朽化した大型機の退役、子会社売却などにより、3年間で営業費用を5000億円圧縮するという。

幾度となく経営合理化が叫ばれながら、人件費や機材の高コスト体質が改善せず、日航は法的整理に追い込まれた。今度こそリストラを断行しなければならない。

計画には、銀行団による5200億円の債権放棄と管財人である企業再生支援機構の3500億円の出資が盛り込まれ、2013年3月期には1000億円以上の営業利益を上げるとしている。

だが、肝心の事業戦略が明確ではなく、一連の金融支援やリストラ策だけで黒字転換できるかどうか、疑問が残る。

例えば、検討課題の一つに掲げた格安航空会社の創設だ。この分野は世界的に急成長しており、アジア勢などの台頭で激しい競争が繰り広げられている。

羽田、成田の発着枠拡大で格安航空会社の新規参入が本格化すれば、後発の日航が市場に食い込むのは容易ではなかろう。

ライバルの全日本空輸に対抗して、国際線を温存させようとしている姿勢も気になる。

国内外45路線の廃止とともに、羽田発着便など新規就航を打ち出したが、国際線はビジネス客主体で収益性が高い反面、景気の影響を受けやすく、不況期には経営に大きな打撃を与えかねない。

業績が回復しない場合、国際線の大幅縮小や全面撤退などを検討すべきではないか。

一方、航空業界に対する政府の支援も十分ではない。航空機燃料税の引き下げを検討している程度で、着陸料の見直しや空港の統廃合などの課題は手つかずだ。

このままでは、弱肉強食の大型再編が相次ぐ世界の航空市場で、日本の航空会社は競争力を発揮できない。日航再建と同時に航空行政の見直しも急ぐべきである。

産経新聞 2010年09月05日

日航更生計画 安易すぎる公的資金注入

1月に経営破綻(はたん)した日本航空と管財人の企業再生支援機構が会社更生法に基づく更生計画案を東京地裁に提出した。

金融機関に5215億円の債権放棄を求める一方、3500億円の公的資金注入という異例の措置が計画の柱である。これによって日航は来年3月までに債務超過を解消し、黒字企業に生まれ変わるとしているが、あまりに甘い見通しといわざるをえない。

加えて日航は主要債権団の日本政策投資銀行や大手メガバンクに運転資金などに3200億円の追加融資を求めているが、債権団は強い難色を示している。それは再建の可能性に強い疑問を抱いているからにほかなるまい。

企業再生支援機構はこれまでの大規模なリストラによるコスト削減や、旅客需要の回復などで「業績は順調に上向いている」と強調する。円高も燃料調達費用の節減と海外旅行客の増加要因につながっていることなどを指摘する。

しかし、円高が長期化すれば、輸出頼みの日本経済が冷え込み、結果的にビジネス客を中心に業績悪化の要因となりかねない。

今後の事業戦略は国内外の計45路線から撤退するものの、国際線はできる限り残す方向だ。稲盛和夫会長はビジネス客を中心としたプレミアム(高付加価値)戦略を強調する。だが、世界の航空業界は相次ぐ再編と格安航空会社の台頭で競争が激化し、債権団から国際線の全面撤退を求める声もくすぶっている。もっと大胆な事業の選択と集中が必要ではないか。

そもそも公的資金の活用を安易に考えては困る。大手金融機関の経営悪化で公的資金が使われたのは金融システム維持のためだ。

昨年6月のゼネラル・モーターズ(GM)破綻でも、米政府が公的資金を使ったのは経済に与える影響が大きかったからだ。それに比べて、日航破綻に伴う影響は比較にならないほど小さい。

民主党政権は「顧客が複数の航空会社を選べる」という利便性を公的資金注入の理由に挙げるが、会社存続が前提になってはいないか。公的資金の注入基準もあいまいであり、明確にすべきだ。

こうした状況下で、稲盛会長が「2年ぐらいで勘弁してほしい」と早期退職を示唆したのは無責任のそしりを免れまい。日航と支援機構は更生計画案をもっと厳しく見直さなければならない。

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