困難な課題を先送りするだけでは何も生まれない。日米関係を改善し、沖縄の基地負担軽減を実現するため、菅首相は、地元関係者の説得に全力を挙げる必要がある。
米軍普天間飛行場の代替施設に関する日米の専門家協議の報告書が、公表された。滑走路2本をV字形に配置する従来の「V字案」と、滑走路を1本に減らす「I字案」を併記し、それぞれの長所と短所を客観的に記述している。
日本政府が提案したI字案は、日米が合意していたV字案より埋め立て面積が25%減り、環境への影響が軽減される。一方で、新たな環境影響評価を要するため、完成予定時期が9か月遅れる。
両案には一長一短があり、どちらが良いとは言い難い。より問題なのは、沖縄県などが名護市辺野古への移設自体に同意せず、移設のメドが立っていないことだ。
日米両政府は当初、8月末までに代替施設の位置や配置を固める予定だった。今回、両案併記にとどめたのは、沖縄側の「地元の頭越しの決定だ」との反発を避けるためで、やむを得ないだろう。
だが、普天間問題の先送りは、日米関係全体に悪影響を与えている。在沖縄海兵隊のグアム移転など他の在日米軍再編計画は遅れている。11月のオバマ大統領来日に向けて、日米同盟を深化させる具体策を検討する作業も同様だ。
政府が今、最優先で取り組むべきは沖縄との信頼関係の回復だ。菅首相は6月の就任以来、「慰霊の日」に沖縄を訪問しただけで、仲井真弘多知事と普天間問題で本格的な協議はしていない。
8月中旬、ようやく福山官房副長官を沖縄に派遣したが、首相官邸の動きは鈍い。もっと政治家が汗をかくことが必要だ。11月に県知事選を控えているとはいえ、やるべきことは多いはずだ。
普天間飛行場の移設後の跡地利用をどうするのか。来年度で切れる沖縄振興特別措置法の延長や県北部の振興にいかに取り組むか。基地返還後の将来設計を具体的に示すことが、沖縄の世論の変化を促すことにもつながろう。
基地負担の見返りに地域振興を講じるのは「アメとムチ」の手法だとの批判は、安易に過ぎる。日本全体が負うべき安全保障のコストをより多く負担している以上、沖縄振興策の充実は当然で、国民の理解は得られるはずだ。
批判されるべきは、沖縄の説得という困難な課題に臆して、具体的な行動を取らず、問題の先送りを続ける菅政権の姿勢だ。
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