普天間移設報告 先送りは何も解決しない

読売新聞 2010年09月01日

普天間報告書 首相みずから沖縄の説得を

困難な課題を先送りするだけでは何も生まれない。日米関係を改善し、沖縄の基地負担軽減を実現するため、菅首相は、地元関係者の説得に全力を挙げる必要がある。

米軍普天間飛行場の代替施設に関する日米の専門家協議の報告書が、公表された。滑走路2本をV字形に配置する従来の「V字案」と、滑走路を1本に減らす「I字案」を併記し、それぞれの長所と短所を客観的に記述している。

日本政府が提案したI字案は、日米が合意していたV字案より埋め立て面積が25%減り、環境への影響が軽減される。一方で、新たな環境影響評価を要するため、完成予定時期が9か月遅れる。

両案には一長一短があり、どちらが良いとは言い難い。より問題なのは、沖縄県などが名護市辺野古への移設自体に同意せず、移設のメドが立っていないことだ。

日米両政府は当初、8月末までに代替施設の位置や配置を固める予定だった。今回、両案併記にとどめたのは、沖縄側の「地元の頭越しの決定だ」との反発を避けるためで、やむを得ないだろう。

だが、普天間問題の先送りは、日米関係全体に悪影響を与えている。在沖縄海兵隊のグアム移転など他の在日米軍再編計画は遅れている。11月のオバマ大統領来日に向けて、日米同盟を深化させる具体策を検討する作業も同様だ。

政府が今、最優先で取り組むべきは沖縄との信頼関係の回復だ。菅首相は6月の就任以来、「慰霊の日」に沖縄を訪問しただけで、仲井真弘多知事と普天間問題で本格的な協議はしていない。

8月中旬、ようやく福山官房副長官を沖縄に派遣したが、首相官邸の動きは鈍い。もっと政治家が汗をかくことが必要だ。11月に県知事選を控えているとはいえ、やるべきことは多いはずだ。

普天間飛行場の移設後の跡地利用をどうするのか。来年度で切れる沖縄振興特別措置法の延長や県北部の振興にいかに取り組むか。基地返還後の将来設計を具体的に示すことが、沖縄の世論の変化を促すことにもつながろう。

基地負担の見返りに地域振興を講じるのは「アメとムチ」の手法だとの批判は、安易に過ぎる。日本全体が負うべき安全保障のコストをより多く負担している以上、沖縄振興策の充実は当然で、国民の理解は得られるはずだ。

批判されるべきは、沖縄の説得という困難な課題に臆して、具体的な行動を取らず、問題の先送りを続ける菅政権の姿勢だ。

産経新聞 2010年09月01日

普天間移設報告 先送りは何も解決しない

米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)移設問題で、政府が発表した日米専門家協議の報告書は名護市辺野古周辺に滑走路2本をV字形に配置する案(現行計画)と滑走路を1本とするI字形案を併記するなど、最終決着を11月末の県知事選以降に先送りする姿勢を明示する内容となった。

日米両政府は本来、専門家協議で移設案を一本化し、11月の日米首脳会談で正式決定する段取りだった。にもかかわらず、決着を先送りするのは菅直人政権の怠慢と認識不足といわざるを得ない。日本の安全を守る抑止力の観点からも到底認められない。

12日には名護市議選が控え、政府が明確な方向性と指導力を示さなければ事態はさらに悪化しかねない。日米同盟の信頼と実効性を回復するために首相は期限内決着にあらゆる努力を注ぐべきだ。

報告書は運用上の問題や環境面などから検証を加えた。「埋め立て方式の滑走路建設が適当」と結論づけたのは当然といえる。

しかし、日本側が新たに加えたI字形案の長所は、現行計画と比べて埋め立て面積が少ないことぐらいしかない。新たな環境影響評価が必要となるため、工期は結果的に約9カ月も長びく。また滑走路1本では、米軍運用上のリスクも大きくなると指摘された。

米側が「現行計画が最善かつ最も現実的」と主張する中で、何のためにI字形案を付け加えたのかにも首をかしげざるを得ない。

報告を公表した岡田克也外相は「両案のどちらがいいかは評価していない。沖縄の理解なしに結論を出しても前に進めない」と述べた。だが、そもそも地元に非現実的な「県外移設」をあおり、住民を混乱に陥れたのは鳩山由紀夫前内閣とはいえ、同じ民主党政権ではなかったか。

昨年1年の迷走を反省し、同じ過ちを繰り返さないとするなら、菅首相も岡田外相も地元の変化を座して待つのでなく、率先して住民を説得していく指導力を発揮することが何よりも必要だ。

専門家協議を受けて移設案を一本化する日米外務・防衛閣僚協議(2プラス2)の開催時期も決まっていない。先送りは普天間基地の危険な現状を長期化させ、海兵隊グアム移転も遠のくばかりだ。中国や北朝鮮の挑発的行動に備えるためにも、普天間移設を遅らせてはならない。

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