金総書記訪中 6か国協議再開につながるか

朝日新聞 2010年08月31日

金総書記訪中 分水嶺に近づく北朝鮮

いつものように非公開で移動しながら、さらに今回は異例ずくめだった。金正日総書記の中国訪問である。

父の故金日成主席と会談して核危機を一時しのいだ元米大統領のカーター氏が16年ぶりに訪朝しているというのに、会いもせず、平壌に氏を残したまま中国へ向かった。

ふつうは首都・北京で外国首脳と会談する胡錦濤国家主席がわざわざ地方に出向いて金総書記に応対した。しかも、前回の訪中と会談からわずか3カ月余りしかたっていない。

よほどの事情があるのだろう。

いま北朝鮮は分水嶺(ぶんすいれい)に差しかかっている。金総書記の健康不安は、後継体制構築が急務であることを示す。

指導政党の労働党は、党大会に匹敵する代表者会を来月上旬に開く。「最高指導機関選挙」が目的だと宣告しており、統治と後継の問題が大きくからんでいるのは間違いあるまい。

そんな折の訪中だった。両首脳は友好を確認し、「国際および地域問題について見解が一致した」という。

核を開発し、危機的な経済にあえぐ北朝鮮はどう進むのか。それは北東アジアの平和と安全に直接かかわる。日本はいかに対応すべきかを探るためにも、北朝鮮の動向にさらに目を凝らしていかねばならない。

北朝鮮にとって唯一の「頼みの綱」はやはり中国である。

経済再生と後継体制固めには対外関係の好転が欠かせないが、韓国が「北朝鮮製の魚雷攻撃」と断じた3月の韓国艦沈没事件の後、北朝鮮は無関係だとして日米韓と対立を深めている。一方、日韓に続いて、米国も北朝鮮への経済制裁の強化へと動いている。

中国は、周辺が不安定になるのを嫌い、事を荒立てたくない。そうはいっても、中国には、北朝鮮問題の深刻さを重視し、圧力もかけて北朝鮮を説得してもらいたいところだ。

だが北朝鮮は中国に一層、寄り添おうとしているようだ。経済再建に中国の資本を期待している。北朝鮮はいま激しい水害に襲われているが、食糧を含めた支援も望んでいよう。

また労働党の重要会議を前に、後継体制について中国側に説明し、理解を求めたかもしれない。

そういえば、今回の訪問先では故金主席が抗日運動時代に足跡を残したというところが目立った。国内向けの宣伝だろうが、三男ジョンウン氏とされる後継者への世襲の正当化を狙ってのことではないか。

ただ、国内の厳しい思想統制のなかで後継体制づくりはそれなりに進むだろうが、北朝鮮が生きていくうえでの難題は山積している。それらを打開していくには、日米韓をはじめ国際社会に対し誠実に臨まなくては、展望は開けない。

読売新聞 2010年08月31日

金総書記訪中 6か国協議再開につながるか

北朝鮮の金正日総書記の訪中が終わった。

5月上旬の訪中に次ぐ年内2度目の異例の訪問だった。27日に吉林省長春で行われた胡錦濤・中国国家主席との首脳会談の中で、金総書記は、核問題をめぐる6か国協議について、早期再開を希望する考えを示した。

これまで北朝鮮は、再開の前提条件として、制裁解除を求めていた。今回、条件に言及したかどうかは明らかでない。協議再開までには曲折が予想される。

今回の訪中の狙いは、慢性的に不足している食糧やエネルギーの支援要請にあったろう。協議への復帰表明も、そのためのカードではなかったか。

今回の旅程は、北朝鮮の権力継承作業の一環と見られている。北朝鮮は近く、44年ぶりの党代表者会で党最高指導機関の選挙を行うという。金総書記の三男、ジョンウン氏が要職に就き、3代世襲が公然化するとの観測がある。

そのジョンウン氏を伴って中国国内にある故金日成主席のゆかりの地を巡ったのだとすれば、世継ぎ教育の意味もあったはずだ。

金総書記の相次ぐ訪中には、北朝鮮経済を立て直すため、隣接する中国東北3省との経済関係の強化を図るという中長期的な狙いもうかがえる。

今回の訪問先は、吉林省と黒竜江省だった。金総書記は、5月には遼寧省を訪れ、港湾都市・大連を視察した。その発展ぶりを参考にしようとしているのだろう。

弾道ミサイル開発を続け、核実験を強行した北朝鮮に対し、国連安全保障理事会は経済制裁決議を採択した。

韓国哨戒艦の沈没事件を受けて、日本や韓国は独自に追加制裁や貿易制限を実施し、米国も近く制裁を強化する方針だ。

金総書記の度重なる訪中は、国際的孤立を深める北朝鮮が中国への傾斜を強めている証左だ。

中国は、経済破綻(はたん)や後継体制の揺らぎから北朝鮮が不安定となることを恐れ、何としても支える姿勢だ。だが、北朝鮮が核開発に固執する現状こそが、東アジア地域の安定を損なう根本的原因だ。安易な援助は禁物である。

金総書記に、核保有と経済発展は両立しないとはっきり告げることが、中国の責務だ。

北朝鮮が核ミサイルを持てば、日本への脅威は格段に強まる。それを阻止するため、日本は、北朝鮮の動向を注視しつつ、米韓との連携や中露との協調を強化していかなければならない。

産経新聞 2010年09月02日

金総書記の訪中 容認できぬ独裁継承支援

北朝鮮の金正日総書記が訪中し、胡錦濤国家主席と会談した。報道によると、金総書記は「早期の6カ国協議再開を推進して朝鮮半島の緊張を緩和し、半島の平和と安定を維持したい」と述べたという。

東アジアの緊張を高めているのは北朝鮮自身だ。白々しい発言と言わざるを得ない。協議再開を求める前に核開発をやめ、韓国海軍哨戒艦撃沈事件の責任を認めて謝罪することが先である。

米国は金総書記訪中の公表を受け、新たな独自金融制裁を発動した。麻薬や武器取引など違法な外貨獲得の中枢である朝鮮労働党の資金管理組織など、3団体1個人を対象としたものだ。これに先立ち、日米両政府は6カ国協議の早期再開は困難との立場で足並みをそろえた。当然である。

今年5月に続く金総書記の訪中は、北朝鮮で拘束されていた米国人男性を解放する目的でカーター元米大統領が訪朝したのに合わせたものだった。米国要人には会わず、中国との緊密な関係を内外に誇示しようとした姑息(こそく)な演出としか見えない。

北朝鮮には差し迫った事情がある。近く開催される44年ぶりの朝鮮労働党代表者会で当面の国家目標「強盛大国」元年(2012年)に向けた後継体制を固めなければならない。このため中国の支援を切望している。

金総書記は胡主席に次の2点を求めたとみられる。第1に党代表者会で中央委員に選出される三男ジョンウン氏を中心とする後継体制の認知、第2には独裁体制維持のための経済援助だ。昨年11月のデノミ失敗で北朝鮮の経済危機に拍車がかかった。また、最近の大洪水被害によって食糧難が一層深刻化しているからである。

しかし、北朝鮮の窮地は自らが招いたものだろう。国連安全保障理事会の決議に基づく武器禁輸や金融制裁は、2度にわたる地下核実験の実施や弾道ミサイル発射強行の結果である。

中国が北朝鮮に対し、非核化や韓国、日本に対する敵対行動中止の確約をとらないまま見返りの援助を与えては、違法行為と独裁権力の世襲を認めることになる。

日本にも問題がある。朝鮮学校への高校授業料無償化の適用問題だ。北の体制に組み込まれた学校に公金を投入すれば、日本独自の制裁効果も台無しである。

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