いつものように非公開で移動しながら、さらに今回は異例ずくめだった。金正日総書記の中国訪問である。
父の故金日成主席と会談して核危機を一時しのいだ元米大統領のカーター氏が16年ぶりに訪朝しているというのに、会いもせず、平壌に氏を残したまま中国へ向かった。
ふつうは首都・北京で外国首脳と会談する胡錦濤国家主席がわざわざ地方に出向いて金総書記に応対した。しかも、前回の訪中と会談からわずか3カ月余りしかたっていない。
よほどの事情があるのだろう。
いま北朝鮮は分水嶺(ぶんすいれい)に差しかかっている。金総書記の健康不安は、後継体制構築が急務であることを示す。
指導政党の労働党は、党大会に匹敵する代表者会を来月上旬に開く。「最高指導機関選挙」が目的だと宣告しており、統治と後継の問題が大きくからんでいるのは間違いあるまい。
そんな折の訪中だった。両首脳は友好を確認し、「国際および地域問題について見解が一致した」という。
核を開発し、危機的な経済にあえぐ北朝鮮はどう進むのか。それは北東アジアの平和と安全に直接かかわる。日本はいかに対応すべきかを探るためにも、北朝鮮の動向にさらに目を凝らしていかねばならない。
北朝鮮にとって唯一の「頼みの綱」はやはり中国である。
経済再生と後継体制固めには対外関係の好転が欠かせないが、韓国が「北朝鮮製の魚雷攻撃」と断じた3月の韓国艦沈没事件の後、北朝鮮は無関係だとして日米韓と対立を深めている。一方、日韓に続いて、米国も北朝鮮への経済制裁の強化へと動いている。
中国は、周辺が不安定になるのを嫌い、事を荒立てたくない。そうはいっても、中国には、北朝鮮問題の深刻さを重視し、圧力もかけて北朝鮮を説得してもらいたいところだ。
だが北朝鮮は中国に一層、寄り添おうとしているようだ。経済再建に中国の資本を期待している。北朝鮮はいま激しい水害に襲われているが、食糧を含めた支援も望んでいよう。
また労働党の重要会議を前に、後継体制について中国側に説明し、理解を求めたかもしれない。
そういえば、今回の訪問先では故金主席が抗日運動時代に足跡を残したというところが目立った。国内向けの宣伝だろうが、三男ジョンウン氏とされる後継者への世襲の正当化を狙ってのことではないか。
ただ、国内の厳しい思想統制のなかで後継体制づくりはそれなりに進むだろうが、北朝鮮が生きていくうえでの難題は山積している。それらを打開していくには、日米韓をはじめ国際社会に対し誠実に臨まなくては、展望は開けない。
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