追加経済対策 景気浮揚には物足りない

朝日新聞 2010年08月31日

円高・景気対策 日銀との距離感も大切に

円高と景気への対策で、政府と日本銀行が足並みをそろえた。国民の不安に応えようと動いたことはひとまず評価できるが、連携のあり方などについて課題を残した。

日銀はきのう、臨時の金融政策決定会合で追加の金融緩和を決めた。政府もそれに続いて追加経済対策の基本方針を発表した。

世界的な景気後退懸念の中で、欧米諸国は金融緩和と通貨安容認に傾いている。このためドルやユーロが売られ、日本の円は消去法的に買われて円高となる構造が続いてきた。

米国の景気悪化や金融緩和が見込まれているため、今後も円高の波が押し寄せてきそうだ。

日銀の追加緩和は昨年のドバイ・ショックに伴う円高を受けて始めた「新型オペレーション」と呼ばれる資金供給策の拡大だ。これによって市場の金利を全体として押し下げ、民間設備投資を刺激するなど景気テコ入れを図る。同時に、円高ドル安の誘因となる日米間の金利差縮小を防ぎ、円買い圧力を減らす策だ。

政府の追加経済対策は、4~6月の国内総生産(GDP)で景気が予想外の失速ぶりを示したことを受けて具体化した。若者の採用促進など雇用を重視したり、企業の設備投資を国内に誘導して内需拡大につなげようとしたりする点などは評価できる。

急ごしらえで、予備費9千億円の枠内にとどめたために小粒ではある。だがこれを手始めに、新成長戦略に沿って環境・エネルギーや医療・介護をはじめさまざまな分野で雇用と需要の創出を進めるべきだ。

政府・日銀の対策が出そろう過程では、気がかりな点もある。菅直人首相は日銀の追加緩和策や白川方明総裁との会談を求め、日銀を臨時会合へ追い込んだ。これは民主党代表選に向けた実績作りの色彩も帯びた。

両者の協調は大切だが、首相はあくまで日銀の独立性に配慮した物言いや行動に徹してほしい。

毎年巨額の国債発行が続くことを考えれば、日銀の独立性を守ることがきわめて重要だ。将来、日銀が国債の引受機関と化すとの疑いを生み、日本経済に対する世界の信頼が崩壊するような事態を防ぐためにも、首相は適切な距離を保たねばならない。

日銀も反省すべき点がある。特に市場との対話のまずさが円高を助長したのではないか。総裁の会見などでは行き過ぎた円買いの芽を摘むような情報発信が重要である。

米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長は、内部で合意していない金融緩和の選択肢についても最近のスピーチで言及している。日銀も、慎重な言い回しにこだわる伝統の殻に閉じこもってばかりはいられない。

毎日新聞 2010年08月31日

政府・日銀追加策 一時しのぎでは困る

最近の円高・株安を受け、政府と日銀が追加の景気対策を決めた。歩調を合わせて発表することでアナウンスメント効果を高め、将来への不安心理が加速度的に高まるのを抑えたかったのだろう。

市場はひとまず落ち着いたように見える。しかし、米国経済の動向次第では再びドルが売られ、円高が進行することもあるだろう。その度に、対症療法的な景気テコ入れ策を追加していては、きりがないし、副作用も増えるばかりだ。

オバマ米大統領の言葉を借りるまでもなく、成長促進に「特効薬」はない。短期的な市場の動きに右往左往するのではなく、難しくとも取り組まねばならない課題を一つ一つ解決していく努力が必要である。

政府が規制緩和を前倒しで実施する意思を見せたことは、評価できる。新成長戦略の実行に向け、経済界や労働界の代表も参加する会議を創設するというが、円高に振れただけで株が売り込まれるような日本経済や株式市場の体質・構造に切り込む議論を期待したい。家電や住宅のエコポイント制延長にいつまでも頼るわけにはいかない。

一方、日銀が再び政治の圧力にさらされる形で追加の緩和策に動いたことは、将来に禍根を残した。日銀の政策委員会が今回決めたのは、年0・1%という極めて低い固定金利で日銀が銀行に貸し出すお金の量を、今の20兆円から30兆円に増やすというものだ。

うち20兆円はこれまで同様、期間が3カ月の貸し付けだが、追加分の10兆円は6カ月物と長めにした。ただ、半年から1年かけ総額30兆円に増やす段階的な措置で、景気や円高への影響はほとんど期待できないと見られる。金融政策決定会合をわざわざ1週間繰り上げ臨時会合を開いて決める内容とは言い難い。

最大の問題は、今回のような前例が重なることの危険性だ。市場が動くたびに政治から「迅速な追加策」への催促が強まり、日銀は政策の自由度をますます失いかねない。

「日銀」とひとくくりに語られるが、金融政策を決めるのは総裁以下9人の政策委員会メンバーだ。議論を経て、一人一人が独立した立場で政策変更をすべきかどうか判断する。今回の会合では須田美矢子委員が30兆円への拡大に反対したが、全員が一致しないことも、総裁が多数決で少数派となることもありうるのだ。総裁に圧力をかければ政策を動かせると考えるのは乱暴過ぎる。

政策委員会が最善の決定をできるような環境を保証することは政権の責任だろう。日銀にも対外的なコミュニケーション力を高め、政策への理解を得る努力を求めたい。

読売新聞 2010年08月31日

政府・日銀協調 「次の一手」も視野に入れよ

急激な円高に歯止めをかけようと、政府と日銀が、ようやく協調して動き始めた。

日銀が30日、臨時の金融政策決定会合で、量的金融緩和の追加策を決めた。年0・1%の超低利による資金供給を10兆円拡大し、総額30兆円とする。

この日は、菅首相と白川方明日銀総裁が直接会い、経済情勢について協議した。政府も、雇用や消費の促進を柱とした追加経済対策の基本方針をまとめ、首相は「経済対策と金融政策を2本柱に機動的な対応を取る」と強調した。

政府・日銀が、経済政策で足並みをそろえて行動したことを、ひとまず歓迎したい。

とはいえ、追加緩和などの内容自体は想定の域を超えず、物足りなかった。タイミングも遅きに失したと言わざるを得ない。政府・日銀は強い危機感を持って、政策運営にあたるべきだ。

昼過ぎに追加緩和が発表された後も、為替市場で円高傾向が続いた。東京市場の平均株価は、朝から政策期待で9000円台を回復していたが、午後の取引では逆に上昇幅が縮小した。

市場関係者の多くが、日銀の本気度を疑っているのだろう。確かに市場や政府にせっつかれ、政策を小出しにした印象が強い。

先週末、米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長が講演で、追加緩和の用意があると表明し、先手を打たれた形になったことも、効果をそいだ。

もはや市場の関心は日銀の「次の一手」に向き始めている。対応の遅れを再び投機筋に突かれ、円高を加速させぬよう、長期国債の買い入れ増額など、新たな緩和策も視野に入れるべきだろう。

円高は輸出企業や下請けの部品メーカーなどの利益を減らし、設備投資の意欲を冷え込ませる。

仮に、1ドル=85円という現在の円高水準が定着すると、製造業の4割が、工場や開発拠点を海外に移転する考えだという。産業空洞化が日本経済を弱体化させる事態は、避けねばならない。

政府・日銀は、円売りの市場介入も選択肢に、現在の円高水準を容認しないとの決意を、断固として示すべきである。

政治の動きが、市場に与える影響にも注意したい。先週来、民主党代表選の展開次第でバラマキ政策が増えるとの懸念から、長期金利が急上昇する場面があった。

市場はさまざまな要因で激しく動く。政権与党として、市場の声によく耳を傾けてもらいたい。

産経新聞 2010年08月31日

追加経済対策 景気浮揚には物足りない

政府・日銀が最近の円高・株安に対応する対策をようやくまとめた。市場は対策を好感して一服感が広がったが、日本経済を取り巻く厳しい環境を考えれば、もっと迅速な対応が必要だ。

政府・日銀は今後も市場の動きを注視し、急激に円高が進んだ場合には必要に応じて機動的に市場介入できるような万全の準備が求められる。また、景気を着実に回復させるために、実効ある政策を打ち出すべきだ。

日銀は臨時の金融政策決定会合を開き、銀行に年0・1%で貸し付ける額を10兆円増やして30兆円とした。事実上の金融緩和で、金利を引き下げる狙いもある。

日銀は日本経済の先行きに自信を示して金融緩和には消極的だったが、欧米景気の下振れを警戒する姿勢に転換したといえる。今後も経済の実態に合わせた弾力的な金融政策が必要だ。

政府も経済関係閣僚会議で追加経済対策の基本方針を決めた。家電・住宅向けエコポイントの延長や新卒向けの雇用対策などを盛り込んだが、これらは即効性ある円高・株安対策とはいえず、景気浮揚効果は物足りない。円高で採算が悪化した中小企業向けの融資制度の充実など、地方の実情に配慮した対策も検討すべきだ。

また、政府が6月にまとめた成長戦略の具体化に向けた推進会議の創設も決めた。この成長戦略は本来、もっと早くから着手すべき課題だった。会議には関係閣僚や日銀総裁、労使代表の参加が見込まれているが、利害が対立する労使の参加で効果的な政策を立案・実行できるかは疑問だ。

菅直人首相は30日の白川方明(まさあき)総裁との会談で、政府・日銀は今後も経済運営で連携することを確認した。しかし、15年ぶりとなる一時1ドル=83円台を記録した今回の円高局面では、首相と総裁が円高対策を電話で済ませるなど、緊張感を欠いた対応があった。効果的な「口先介入」もみられなかったのは残念だ。

米が今後も金融緩和することが予想される中で円高進行の恐れは払拭(ふっしょく)されていない。急激な円高には欧米との政策協調を図り、場合によっては日本単独でも市場介入を辞さない決意が必要だ。

何よりも重要なことは、規制緩和などを通じて抜本的な構造改革を進め、円高に耐えられる強い体質をつくり上げることである。

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