死刑刑場公開 まだ開示すべき情報は多い

毎日新聞 2010年08月28日

「刑場」公開 まずは議論の出発点に

東京拘置所の刑場が公開された。裁判員裁判で、国民が死刑判決に向き合う可能性がある中で、「判断や議論の一つの基礎にしてほしい」との千葉景子法相の意向で実現した。

映像を見た人には、死刑執行の現場がリアリティーをもって迫ってきたはずだ。

執行室の踏み板を開けるボタン室には、三つのボタンがある。執行の際、3人の刑務官が同時に押す。どれか一つが踏み板と直結している。一つでは、刑務官の心理的負担が重いための配慮とされるが、悩む人間を3人に増やすとの声も聞く。究極の国家権力の行使を担う刑務官の仕事の重さを改めて思う。

千葉法相は、死刑の存廃を含めた議論をするための勉強会を今月、法務省内に設置した。国際的には、死刑廃止国が増える中で、どう死刑制度を見直すのか。刑事政策の根幹にかかわるだけに、第三者からも意見を聞き、しっかり議論を進めねばならない。その前提として、死刑執行について一層の情報公開が求められる。刑場の公開を、まずは出発点としてほしい。

死刑の存廃とは別に、国際的に批判が強いのが、死刑囚に対する処遇である。接見など外部との接触は極めて制限的だ。独居房に収容され、拘置所内の交流もほとんどない。「心情の安定を図るため」と説明されるが、拘禁ノイローゼで精神に異常をきたす例もあるという。

死刑の執行が当日朝まで本人に知らされないことへの批判も強い。

日本でも、かつては、死刑囚が所内の文化活動などを通じ、他者と交わる機会があったようだ。告知も前日などにされ、家族と最後の別れをすることができた時期もある。

絞首刑についても、検討が必要だ。米国では、州によって異なるものの、薬物注射による執行が主流になっている。日本の判例では、絞首刑は、憲法が禁じる「残虐な刑罰」に当たらないとされるが、時代や世界の流れを見据えて判断したい。

また、米国では、執行の現場に被害者遺族や死刑囚の家族、ジャーナリストが立ち会うことがある。先月の執行には、千葉法相自身が立ち会った。執行を秘密のベールに包むのではなく、関係者の言葉を通じ、国民に広く現実を知ってもらうことも、「存廃の是非」を判断する材料になる。検討課題としてほしい。

内閣府が昨年実施した世論調査では、死刑容認派が8割を超す。だが、過去のデータでは、聞き方や調査時期、仮釈放のない終身刑の有無を前提とした場合などによって数字は変化する。政府が、より多くの材料を提供する中で、冷静に国民的な議論を進めることが大切である。

読売新聞 2010年08月28日

死刑刑場公開 まだ開示すべき情報は多い

死刑が執行される東京拘置所の刑場が報道機関に初めて公開された。

裁判員制度が始まり、国民が死刑判決にかかわる可能性がある時代になった。これまで情報公開に消極的だった法務省も、姿勢を転換する必要性を認めたのだろう。

今後も死刑に関する情報の開示に努めるべきだ。

報道機関には撮影も許可され、密室の様子が初めて外部に知らされた。絞首刑が行われる執行室や刑務官が執行ボタンを押す部屋などが公開された。

千葉法相は今月、死刑制度のあり方を議論する勉強会を省内に作った。もともと死刑廃止論者だった法相は、制度の存廃論議を始める方針も示し、国民的な議論の必要性を強調している。

しかし、国民には死刑制度を考える材料が、ほとんど明らかにされていないのが現状だ。

刑事訴訟法で定められている、死刑確定から6か月以内の刑の執行は守られていない。過去10年の執行までの期間は平均で5年11か月だ。確定から20年以上拘置されている死刑囚もいる。なぜこうした事態が生じるのか。

1998年以降、執行の事実と人数のみを公表していた法務省は、07年から死刑囚の氏名も公表するようになった。だが、執行順の決定過程は説明していない。

死刑囚が独房でどのような生活を送り、反省しているかどうかを知ることも難しい。

執行方法は刑法で絞首と定められているが、これに対する議論は一度もなかったのだろうか。

7割の州に死刑制度がある米国では、被害者遺族やメディアが執行に立ち会える。当局から執行までの経緯の説明も受けられる。

法務省は死刑囚のプライバシーに配慮しつつ、被害者側の意向も踏まえた上で、可能な限り説明を尽くすべきではないか。

法務省の内部には、死刑囚の最後の局面に関する詳細な情報を公開すると、執行方法や処遇などを巡る議論が、いずれ死刑廃止論議に結びついてしまうという警戒感があった。

死刑の現状を国民に知らせ、執行方法や制度の運用に見直すべき点がないのかどうか、問題提起する姿勢も必要だろう。

内閣府の世論調査では、死刑制度容認派が8割を超えている。罪に見合う処罰として極刑を求める被害者遺族は多い。

「存続か廃止か」の議論を急ぐのではなく、現行制度の運用を改善する視点の議論が望まれる。

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