防衛力報告書 現実的な政策に転換せよ

毎日新聞 2010年08月28日

武器輸出三原則 見直しは「理念」曲げる

菅直人首相の私的諮問機関「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」が、年末の「防衛計画の大綱」改定に向けた報告書を首相に提出した。武器輸出三原則を見直し、「原則輸出を可能とすべきだ」と提唱している。菅首相は三原則堅持を表明したが、北沢俊美防衛相は防衛産業の立て直しを理由に見直しに言及しており、今後、議論となる。

三原則は、他国への武器や武器技術の輸出を禁じるもので、対米供与などについては例外化または個別に検討する措置を取っている。

報告書は、武器禁輸政策が安全保障面の「国際協力の促進の妨げになっている」として見直しを主張した。また、共同開発・共同生産に踏み切れば、先端技術の取得、開発コストの低減、他国との安保協力深化などの利点があると強調している。

しかし、政府も認める通り、三原則などにより軍備管理・軍縮で日本が一定の発言力を持てるようになったのは事実だ。防衛産業の育成と引き換えに「平和国家の基本理念」の柱とされてきた三原則を放棄するのは賛成できない。必要なら共同開発を含め、個別に検討して例外措置を設ける現行の手法で十分である。

報告書はまた、76年大綱以降、防衛力の基本的考え方だった基盤的防衛力構想の放棄を求めた。同構想は、軍事的脅威に直接対抗するより、自らが力の空白になって周辺地域の不安定要因にならないよう必要最小限の防衛力を保持するというものだ。これは部隊・装備の量によって抑止力を構成する「静的抑止」だとして、日本周辺の情勢変化を踏まえて多様な事態への対処能力を持つ「動的抑止力」整備を提言している。

現行の04年大綱は、基盤的防衛力に代わって「多機能・弾力的・実効性ある防衛力」を打ち出しつつ、基盤的防衛力構想の「有効な部分の継承」もうたっていた。報告書は、この完全放棄とともに「踏み込んだ防衛体制の改編」を求めた。

具体的には、中国や北朝鮮への対応を想定した南西方面の防衛力充実が念頭にあるのだろう。「脅威」を無視した防衛力構想はありえない。が、相手国の軍事力に見合って防衛力を整備する脅威対抗一辺倒の発想では、互いの軍拡によって緊張を生む「安全保障のジレンマ」に陥る危険がある。政府に十分な検討を求める。

一方、非核三原則について報告書は、当面は改める情勢にはないとしながらも、「持ち込ませず」を念頭に「米国の手を縛る」と強い疑問を呈した。現在の米国の核戦略からみて三原則見直しは現実的でない。また、見直しに踏み切った場合の国際的反応も考慮しなければならない。三原則は今後も堅持すべきだ。

産経新聞 2010年08月28日

防衛力報告書 現実的な政策に転換せよ

首相の諮問機関「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」がまとめた報告書のポイントは、集団的自衛権の行使を禁じる憲法解釈の変更や、将来的な非核三原則の見直しなどを求めたことだ。

ややあいまいな表現はあるが、日本の平和と安全を守るために見直しは妥当なものであり評価したい。

問題はいかに実現していくかである。報告書を受け取った菅直人首相は「国際的な安全保障環境に対応する観点から、政府としてしっかり検討していく」と述べた。これまで集団的自衛権の見直しなどを求めた報告書は、あまり顧みられなかった。年末に行われる「防衛計画の大綱」の改定などを通じて、首相は現実的な政策に転換すべきだ。

報告書は中国が軍事力を急速に近代化させ、日本近海での海洋活動の活発化や東シナ海から太平洋にまで活動範囲を広げていることを注視し、「その能力、意図に関する不透明性・不確実性が問題」と指摘した。

同時に、米国の国際社会での圧倒的優位性の低下が指摘されるなかで、「米国の抑止力への依存は、日本の通常戦力による防衛努力を減じてよいことを意味しない」と必要な防衛力整備を求めている。離島などの安全確保を重視したのも当然だ。

日米同盟の実効性を高める集団的自衛権の行使容認や、受動的な防衛戦略の姿勢とされる専守防衛の問題点を挙げ、「こうした政策は、日本自身の選択によって変えることができる」と指摘した。必要な政治判断が行われてこなかったことが問題なのだ。

非核三原則について「一方的に米国の手を縛ることだけを事前に原則として決めておくことは、必ずしも賢明でない」と、将来的な見直しを提起した。

北朝鮮や中国の核の脅威に対し、「持ち込ませず」原則を見直すことは不可欠なのである。

国連平和維持活動(PKO)参加5原則の見直しなども求められた。民主党はPKOへの積極的な参加を掲げていながら、必要な法整備を怠っている。

政権与党でありながら確立された安全保障政策を民主党が持っていないことが、多くの懸念をもたらしている。党代表選での政策論争を通じて、安保政策の骨格を明確にしておく必要がある。

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