菅経済対策 無策に危機感なく国滅ぶ

毎日新聞 2010年08月25日

円高株安 古びた発想から卒業を

「大変だ、何とかしろ」コールがまた強まってきた。例によって「大変」の理由は円高だ。24日の東京市場で再び1ドル=84円台となり、日経平均株価が、9000円を下回った。前日、菅直人首相と日銀の白川方明総裁が電話協議をしたものの、具体的な「対策」を打ち出さなかったために、一段と円高・株安が進んだのだという。

しかし、円高↓輸出企業が大変↓株安↓緊急対策を、というワンパターンの発想からはそろそろ卒業すべきではないか。パニック的に目先の対策を急いでも、日本経済が抱える本質的な課題の解決にはつながらない。これまで何度となくとられてきた「円高・株安対策」が何をもたらしたかを考えれば明らかだ。後に残ったのは借金の山である。

少し冷静になって眺めてみよう。

対ドルの円相場が1ドル=79円台に突入した15年前に比べ、日本企業も世界経済も様変わりしている。貿易に占める通貨の比重や物価の影響を勘案した総合的な為替レートをみると、今の円相場は過去20年間の平均よりまだ低い(円安)という。95年の1ドル=79円に匹敵する円高は、今のレートなら1ドル=約58円といった試算もある。

一方、製造業は世界各地で現地生産を増やし、為替相場の変動に備え、一定の手だてもとっている。

さらに一部の企業は、この間、着々と海外企業の買収を進めてきた。円の価値が上がることは、外国の企業や資産が割安価格で買えることを意味する。トムソン・ロイター社によると、日本企業による外国企業の買収額は今年すでに昨年1年間の総額を超えた。円高は、一層拍車をかけそうだ。

注目すべきは、大企業だけでなく、中小の機械メーカーなどが成長市場と見たアジアで現地企業の買収に活発になっていることだろう。すべての企業にとって円安=善ではない。円高を武器に変えて、攻めの経営をしようとしている企業もある。

日本語では常に「円高」とマイナスイメージで語られるが、英語だと「ストロング・エン」(強い円)だ。通貨価値の上昇は「ゲイン」(利得)とも言う。悲鳴を上げるだけでなく、せっかくの強さを利益につなげる発想を広められないものか。

では政府は何もしないでよいかといえば、全く逆だ。与党内、政党間の主導権争いに終始し、規制緩和や社会保障制度改革など待ったなしの課題が置き去りになっていることこそ危機である。日銀に追加金融緩和を迫ったり、為替介入や補助金支給といったお決まりの対症療法に逃げ込むことが仕事だと勘違いしてもらっては困る。

読売新聞 2010年08月26日

円高加速 政府・日銀は具体策を急げ

政府・日銀の対応の鈍さに投機筋が付け込み、円高に歯止めがかからなくなっている。

24日の海外市場で、15年ぶりに1ドル=83円台をつけるなど、急ピッチで円が上昇している。市場には、やがて史上最高値の79円台が視野に入るとの見方もある。

日本経済への打撃を見越して、東京市場の平均株価は9000円を割り、25日の終値は今年最安値の8845円となった。

円の急騰を止めないと、企業や家計の心理が冷え込み、景気が腰折れしかねない。

政府・日銀は、円高阻止に向け市場介入も選択肢に、断固たる姿勢で臨むべきである。

このところ、政府と日銀の対応は、誤算が続いている。

今月10日、日銀は追加の金融緩和を見送ったが、その直後に米連邦準備制度理事会(FRB)が追加の緩和策を実施した。それが今回の円急騰につながった。

円高対策で注目された菅首相と白川方明日銀総裁の23日の会談は、15分間の電話会談に終わった。内容も乏しかったため、政策当局の狙いに反し、一層の円高と株の失望売りを誘った。

閣僚らによる「市場との対話」も、ちぐはぐさが目立つ。

野田財務相が24日夕に開いた緊急記者会見は、市場を注視する考えを示しただけで具体策がなく、むしろ円高に拍車をかけた。

財務相は25日、「必要な時は適切な対応を取る」と、やっと市場介入の可能性を示唆した。菅首相もこの日、民主党衆院議員らとの会合で、「そう遠くない時期にちゃんと対応する」と述べた。

だが、いずれも流れを変える材料にならなかった。

これまでの及び腰の姿勢から、「日本政府はまだ動かない」と、投機筋は踏んでいるのだろう。

政府は、円がさらに上昇し、1ドル=80円突破をうかがうまで「奥の手」を温存したい気持ちもあろうが、そろそろ潮時ではないか。日本単独での市場介入を、真剣に検討すべき段階と言えよう。

米欧は自国通貨安を容認しているが、デフレと成長鈍化に悩む日本の円が独歩高なのは説明がつかない。日本が円高修正に動いても海外から強い批判は受けまい。

日銀も、9月上旬の金融政策決定会合に向け、追加金融緩和の検討に入ったという。円高阻止、景気浮揚の両面で期待したい。

市場動向によっては、定例会合を待たずに臨時会合を開き、金融緩和を急ぐべきである。

産経新聞 2010年08月25日

菅経済対策 無策に危機感なく国滅ぶ

菅政権の経済政策で問われているのは円高・株安にいかに立ち向かうのかという決意と具体的な処方箋(せん)である。

しかし、24日の円相場は一時1ドル=83円台に上昇、東京市場の平均株価は1年4カ月ぶりに9000円を割り込んだ。前日に行われた菅直人首相と白川方明(まさあき)日銀総裁の電話会談でも、具体的な円高対策が何ら示されなかったからだ。

円高はようやく回復しつつある企業業績を圧迫し、景気回復に悪影響を及ぼしかねない。輸入価格の下落を通じてデフレ脱却を一段と難しくする。政府・日銀には景気が二番底に陥らないよう、緊密に協調するとともに、スピード感ある政策対応が求められる。

首相と総裁は、なぜ直接会わないのか。しかも会談は約15分という短さだった。仙谷由人官房長官は「現時点の経済金融動向をみると電話がもっとも適切だと判断した」と説明したが、かえって政府・日銀の足並みの乱れと危機感のなさを露呈し、それが市場に失望感を与えた。

政府・日銀のコミュニケーション不足には重大な懸念を抱かざるを得ない。自民党政権下では日銀総裁がメンバーの経済財政諮問会議があった。民主党政権はそれを廃止したため、経済閣僚らも含めた議論の場がなくなった。

これでは緊密な意思疎通が図れるはずがない。なにより誰が経済政策のかじ取りに責任を持つのか。本来、その司令塔となるべき首相の存在感が見えてこない。

首相も総裁も3カ月に1回などと悠長なことをいわず意見交換すべきだ。財務相や経済財政担当相が景気認識を一致させるのは当然のことだが、政府与党内の横断的議論を活発にし意思決定メカニズムを明確にする必要がある。

政府と日銀の足並みがそろってこそ市場は納得する。円高が一段と進む場合には日本単独でも介入が必要だろう。菅政権は追加経済対策の策定も急がねばならない。財政上の制約はあるが、若年層の雇用対策や年内で終了予定の家電や住宅のエコポイント制の再延長などが検討されている。経済基盤の強化や新しい産業の創出につながる規制緩和策も欠かせない。

日銀も政策金利の引き下げ余地が乏しいとはいえ、無策は許されない。日本経済に対する危機意識を共有し、追加の金融緩和に知恵を絞るときだ。

株式勝男 - 2010/08/27 09:52
政府の追加経済対策が出て来そうですね!
日銀も金利を下げる対策を出さなければ、円高が・・・
勉強させてもらいました。 ありがとうございます。
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