海保ヘリ墜落 原因究明を阻む悪質な隠蔽だ

朝日新聞 2010年08月24日

海保ヘリ墜落 情報隠しは「常識」なのか

乗員5人が死亡した第6管区海上保安本部のヘリコプター墜落事故で、6管本部の組織ぐるみの情報隠蔽(いんぺい)が明らかになった。

事故は司法修習生向けのデモンストレーション飛行の合間に起きたが、そのデモ飛行があったこと自体を隠していた。飛行目的は事故原因を解明するために必須の情報であり、証拠隠しともとられかねない行為である。

ヘリは香川県沖の瀬戸内海上空で、島と島の間に張られた送電線に触れて墜落した。記者会見では飛行目的を「パトロール」と説明し、報道機関からの指摘を受けてデモ飛行を認めたのは事故から丸一日以上たってからだ。

前原誠司国土交通相は「疑義をもたれることを隠していたことは問題だ。厳しく反省してもらわないといけない」と批判し、隠蔽の経緯を報告するよう海上保安庁長官に指示した。

このデモ飛行は、岡山地検で研修中の司法修習生のための体験航海にあわせて計画された。2回のデモ飛行とパトロールを実施する予定で、事故は2回目のデモ飛行に向かう途中だった。

デモ飛行そのものが問題なのではない。海保の仕事の内容を理解してもらうため、小学生を乗せた体験航海や海の日のイベントなどでもおこなわれていることだ。

それならばデモ飛行の事実をなぜ隠したのか。隠蔽は6管の幹部らが協議して決めていた。海保は海難事故などで検察庁に事件を送致する関係にある。岡山地検に迷惑をかけてしまうと気をつかったのなら、一般常識から離れた役所同士の身内の論理である。

あろうことか、記者会見した6管の林敏博本部長は「世間の常識と海上保安庁の常識とでは違うところがある」と述べた。本部長は自らの判断でデモ飛行を公表しなかったことは認めながら「組織的な隠蔽ではない」とするなど説明も一貫しない。事故後の対応がなんともお粗末だ。

現場付近は船の往来が多く、墜落の巻き添えで被害が出てもおかしくなかった。島々を結ぶ送電線は各地にある。長野県で2004年、信越放送の記者らが乗るヘリが送電線に触れて墜落した事故を受けて航空法が強化された。それでもまた起きたことを深刻にとらえ、事故原因を解明し、法令の見直しも再び検討しなければならない。

事故調査にあたる運輸安全委員会は、事故原因とともにデモ飛行を隠蔽した理由も明らかにすべきだ。

運輸安全委員会は海上保安庁と同じ国交省の外局だ。昨年、JR西日本の脱線事故で報告書漏洩(ろうえい)が問題になったばかりである。一方、刑事事件としての捜査は海保自身の管轄だ。身内意識で手を抜くようなことがあってはならない。場合によっては警察への協力要請も必要だろう。

毎日新聞 2010年08月21日

海保ヘリ事故 うその説明は許されぬ

第6管区海上保安本部広島航空基地のヘリコプターが墜落し、4人が死亡、1人が行方不明になっている事故に絡み、航空目的にかかわる重要な情報が、丸1日以上、伏せられていたことが判明した。

事故は、18日午後、香川県多度津町の佐柳島(さなぎじま)沖の瀬戸内海で起きた。海保ヘリが、佐柳島とその約700メートル東に位置する無人島の間に架かる送電線に接触したことが原因で墜落したとみられている。

事故を受けて同日夜に会見した同本部側は当初、「パトロール中だった」とだけ説明した。だが、実際には、司法修習生に見てもらうため、デモンストレーション飛行をしていた合間に事故が起きていた。19日夜の会見で、自ら説明を変えた。

「司法修習生に迷惑をかけたくなかった」と釈明するが、うそをついた理由として受け入れることは到底、できない。

デモ飛行は、巡視艇の乗船者らの目の前で、高度20~30メートルの往復飛行をする。海上保安業務への理解を深めてもらう一環として、小学生らも対象に日常的に行っているという。

事故機は、最初のデモ飛行を終え、いったんその現場を離れ、再びデモ飛行に向かう途中で墜落した。

飛行計画は、デモ飛行を前提に組まれていた。直接、間接を問わず、デモ飛行が事故に影響を与えていないかどうかは、当然、運輸安全委員会の事故調査の対象にもなるはずだ。誰の指示で、どういう理由でその情報が伏せられたのか。同本部は調査をして説明すべきである。

一方、前原誠司国土交通相は、20日の閣議後の会見で「疑義をもたれることを隠していたことは問題だ。どんな情報もつまびらかにしていくことが大事だ」と述べ、同本部の情報公開の姿勢を批判した。

だが、デモ飛行の海域と、事故海域が離れていることなどを理由に、同本部と同様、デモ飛行と事故の間に因果関係がないとの見方を示したのは早計に過ぎるのではないか。

今回、事故調査に当たる運輸安全委員会と、海上保安庁はともに国交省の外局である。同委員会は、独立行政委員会として、一定の独立性があるとはいえ、調査が始まったばかりであり、担当相として予断を与えかねない発言は慎むべきだ。

事故現場海域で、なぜ通常高度を大きく下回る不自然な低空飛行をしたのかが、今後の事故調査のポイントになるとみられる。

運輸安全委員会は昨年、JR福知山線脱線事故の報告書漏えい問題が明らかになったばかりだ。身内意識を捨て、公正・中立な立場で調査を貫き、再発防止策を示すことが信頼を得る道につながる。

読売新聞 2010年08月22日

海保ヘリ墜落 原因究明を阻む悪質な隠蔽だ

海上保安庁の言語道断の隠蔽(いんぺい)行為が明るみに出た。原因調査の妨害行為にほかならない。

第6管区海上保安本部のヘリコプターが瀬戸内海上空で送電線に触れて墜落、乗員5人が死亡する事故が起きたのは、18日午後のことだった。

それからまる1日以上も、飛行目的の一つが、海保の巡視艇に体験乗船している司法修習生向けのデモンストレーション飛行だったことを隠していたのだ。

それまではパトロールのためとだけ説明し、報道機関からの指摘を受けてデモ飛行を公表した。

前原国土交通相が「隠していたことは問題だ。厳しく反省してもらわないといけない」と強く批判したのも当然である。

デモ飛行そのものが悪いのではない。海保の業務を理解してもらうために、司法修習生などに見学してもらうことは意味がある。

しかし、デモ飛行は事故の原因調査のため現地に出向いた国交省運輸安全委員会の調査官にも伏せられていた。広い意味で証拠の隠滅のようなものだろう。

さらに今回のケースが悪質なのは、6管の本部長ら幹部が集まって、デモ飛行は公表しないと組織ぐるみで決めていたことだ。

しかも、最初にデモ飛行を認めた際には、総務課長が「自分が意図的に判断して発表しない方がいいと考えた」と、個人の判断であることを強調していた。これでは本部長らは無関係だったとする二重の隠蔽である。

任務遂行中に殉職した職員や遺族のことを考えれば、決してできない行為である。国交省としても6管の本部長以下の責任を厳しく問うべきだろう。

隠蔽について6管は「デモ飛行の場所と事故現場は17キロ離れており、事故と関係なかったため」と釈明している。

しかし、事故はデモ飛行の合間の廃船調査中に起きた。飛行計画に無理はなかったのか。デモ飛行と事故との関係も、調査を尽くしたうえで結論づけることだ。

運輸安全委は、隠蔽の理由や事故の真相を徹底的に解明する必要がある。JR西日本の脱線事故の調査では、調査情報をJR西に事前に漏らすという、調査機関にあるまじき失態があった。

海保と同じ国交省内の組織だからといって、少しでも手加減するようでは信頼は地に落ちる。

再発防止のためには乗務員の操縦にだけ目を向けず、飛行の安全体制など、海保や6管に対する調査も厳正に行うべきである。

産経新聞 2010年08月24日

海保ヘリ墜落 隠蔽は不信しか生まない

香川県沖の瀬戸内海で海上保安庁のヘリコプターが墜落した事故をめぐり、第6管区海上保安本部(広島)による組織的な情報の隠蔽(いんぺい)行為が明らかになった。隠蔽は不信しか生まない。国土交通省は厳正な調査と処分を断行し、海保は組織のあり方について根本から見直すべきだ。

乗員5人全員が亡くなった痛ましい墜落事故が起きたのは、18日午後だった。当初の発表によると「ヘリはパトロール中だった」とされた。19日夜になって、指摘を受けた6管本部は、ヘリが岡山地検の司法修習生のためのデモンストレーション向けに飛行していたことを認めた。会見した総務課長は「司法修習生に配慮して公表を控えた」と語った。

21日午前に6管次長が会見し、事故当夜にデモ飛行の事実を公表しないことを本部長が了承したと明かし、「組織的な隠蔽ととられても仕方がない」と話した。

だが午後の会見では、本部長は謝罪する一方で「隠蔽したつもりはない」と強調した。「司法修習生への配慮」については本部長、次長ともに否定し、「総務課長の個人的判断」と突っぱねた。

この間に6管本部の会見は20回を超え、言を左右にした。これが同僚を亡くした組織の対応だろうかと首をかしげざるをえない。

しかもデモ飛行の事実が当初、事故原因の調査を担う国交省運輸安全委員会にさえも隠されていたのは重大だ。デモ飛行は事故原因と関係する可能性もある。

一体、この組織はどうなっているのかと、あきれる。前原誠司国交相が「事実関係をしっかり調べ、厳正に処分しなければいけない」と語ったのも当然である。

一連の食品偽装事件などで、民間会社は情報の隠蔽が社業を傾けかねないことを知ったはずだ。広報に求められるのはリスク情報を隠蔽しない勇気と決断だろう。

6管本部長は「世間の常識と海保の常識が違う部分があるかもしれない」と答えた。これでは「角界の常識は世間の非常識」とされた日本相撲協会と変わらない。

海保が日本の海を守り、過酷な海難救助にあたる重大な任務を担っていることには敬意を表したい。だからこそ、今回の隠蔽は残念でならない。情報の開示こそが信頼を生み、事故の再発防止にもつながることを強く再認識する必要がある。

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