国際的な海上輸送の要衝である南シナ海で、中国が海軍力を背景に高圧的な姿勢で進出しつつあり、米国やアジア諸国が警戒感を強めている。
米国防総省は16日に発表した年次報告書で、南シナ海などでの中国の軍事力拡大を「東アジアの軍事バランスを変える主要な要因」と位置づけた。
エネルギーの9割、食糧の6割を海上輸送に依存する日本にとっても、看過できない動きだ。政府は、問題解決に向けて米国やベトナム、インドなど関係各国と連携を深めるべきだ。
南シナ海は、スプラトリー(南沙)諸島を中心に、200を超える島や岩礁が点在し、中国やベトナム、フィリピン、マレーシアなどが領有権を主張している。
ところが、中国が近年、自国の漁船保護を名目に海軍艦艇をこの海域に派遣するなど、各国と摩擦を繰り返している。
海南島では、大規模な潜水艦基地を建設中だ。石油などの海洋権益の確保だけでなく、台湾有事の際に米軍の介入を阻止するなど、軍事的な理由からも、南シナ海全域を中国の勢力下に置こうとしているとみるべきだろう。
中国が、台湾やチベット問題で使ってきた「核心的利益」という表現を、最近は南シナ海にも使い始めたことも、そうした懸念を裏付けるものだ。
南シナ海は、中東と北東アジアを結ぶ海上交通路(シーレーン)である。この海域で排他的な動きを取ることは認められない。中国には強く自制を求めたい。
ベトナムなどアジア各国は、多国間協議で問題解決を図るよう求めている。これに対し中国は、領有権を主張する国同士が2国間協議で話し合うべきだ、という立場を崩していない。
領有権争いが軍事的な衝突などに発展すれば、この海域をシーレーンとして利用する国々にも甚大な影響が及ぶ。懸念を共有する国も参加する多国間協議で、緊張緩和策や信頼醸成措置を検討するのが筋だろう。
新たに米国も加わる予定の東アジア首脳会議(EAS)で討議するのも一案ではないか。
多国間協議に中国を呼び込むためには、懸念を共有する国が相互に協力し合うことが肝要だ。
政府は昨年末にはインド、先月にはベトナムとの間で、外務、防衛両省が参加する戦略対話を発足させた。こうした協議の場を積極的に活用し、緊張緩和に向けた共同行動を進めてもらいたい。
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