民主党代表選 数合わせより政策論議を

朝日新聞 2010年09月04日

小沢氏とカネ 仮に訴追を受けたなら…

民主党の小沢一郎前幹事長が、自らの資金管理団体の土地取引事件で、検察審査会の議決により「強制起訴」となれば、訴追に応じると明言した。

それ自体は、きわめて当然な判断である。

憲法の規定で国務大臣の訴追には首相の同意が必要だ。小沢氏はきのうのテレビ出演で、首相になっても自らの訴追に同意し、裁判を「堂々と受け、潔白を主張したい」と語った。

小沢氏の党代表選立候補には、「訴追逃れ」との見方がつきまとってきた。選挙戦序盤のうちに、そうした批判を払拭(ふっしょく)しておきたかったのだろう。

しかしながら、大きな問題はむしろそこから先に横たわっている。

仮定の話になるが、「小沢首相」が起訴されたとき、私たちは何とも異様な光景を目にすることになる。

刑事事件の被告は、一審の公判には必ず出席しなければならない。

判決の確定までは「推定無罪」の原則が働くとはいえ、私たち日本国民は裁判が終わるまで「被告席に立つ首相」をいただき続けることになる。

そのような首相が諸外国とどうやって首脳外交を展開するのか。公判中に危機管理や安全保障に絡む緊急事態が発生した場合、どう対応するのか。

裁判闘争をしながら、最高指導者の重責も果たす。そんなことが現実に可能だろうか。

小沢氏はこの間、検察の不起訴で「不正がなかった」ことが証明されたと繰り返してきた。しかし正確には、刑事事件として立件するに足る証拠が認められなかったということだ。

小沢氏のこれまでの説明には、腑(ふ)に落ちない点がたくさん残っている。

小沢氏は訴追を受ければ国会での説明に応じる考えも示したが、その前に、この代表選の中できちんと疑問に答えてもらわなければならない。

4億円の土地購入の原資をめぐる小沢氏の説明は二転三転した。手元資金があるのに、利息を払ってまで銀行融資を受けるといった不自然な資金の流れについても、納得のいく説明はない。小沢氏の了解なしに秘書が独断で処理したというのも、額面通りには受け取りにくい。

そもそも、この問題に対する小沢氏の認識は甘いと言わざるを得ない。

収支報告書の虚偽記載を、相変わらず「手続きミス」だと言っているが、収支報告書の記載が信用できなければ、政治資金公開制度の根幹が揺らぐ。単なる形式犯ではない。

今回の代表選では、カネと数の原理が幅をきかす「古い政治文化」の是非も重要な論点となる。説明責任を軽んじる政治もまた、古い政治である。

小沢氏がまずここで疑問に答えなければ、せっかくの政策論争の機会も十分に生かせない。

毎日新聞 2010年09月12日

論調観測 海外の民主党代表選報道 首相短命に厳しい目

ついに日本の政治が変わる--。そんな期待が高まった1年前とは様変わりである。今回の民主党代表選を伝える米欧メディアの目は一様に厳しい。

「1年で3人、5年で5人、過去20年で14人……」。バリエーションはあるが、活字メディアもテレビも日本の首相の交代頻度を枕ことばのように使う。

米紙ニューヨーク・タイムズは社説「日本のメリーゴーラウンド首相」(電子版6日付)の中で、「(今回また交代すれば)12カ月で3人目だ。こんなに短命では、とても新たな政策を打ち出すとか、ましてや成果を上げるなどということはできない。どの国であっても同じだ」と指摘。「しかし日本は世界第3位の経済大国なのだから、強力で主義に根ざした指導者が継続して政権を担う必要がある」と安定を求めている。

「民主党議員は親分への盲従ではなく勇気ある選択を」と踏み込んだのは英誌エコノミスト(9月4日号)だ。英国のみならず世界で読まれている週刊誌である。有権者の支持率で菅直人首相が圧倒的に上回ることや、民主党議員の多くが小沢一郎前幹事長の選挙対策のお陰で当選していることなどに言及したうえで、「日本の将来のためにも、小沢氏と小沢氏が象徴するものすべてを拒絶すべきだ」と強い口調で呼びかけた。

同誌は「ダークサイド(闇)」と題した別の記事で次のように分析している。「小沢氏を支持し続ける人たちの支持理由こそ、今回の選挙が日本にとっていかに重要か、そして今後問題となり得るかを示している。原則より実利、目に見える政治より密室で取引する古い政治を好んでいるということのようだ」

一方、米紙ワシントン・ポスト(電子版11日付)は特に日米関係の観点から日本の短命政権と小沢氏の代表選当選に懸念を表している。同氏が最近、米国人を「単細胞」と表現したことを受け、見出しは「単純なアメリカ人が気にした方がよさそうな日本の選挙」だ。

短命政権の連続により日本の政治が国外、国内で身の丈以下の影響力しか発揮できなくなっていると論評。小沢氏が米軍普天間飛行場の移設問題で米政府と再交渉する可能性を示唆したことから、「日米関係が再び基地再編論議に集中するようでは、他の重要な問題で前進の望みようがない」としている。

そして「民主党議員が多細胞の視点で選択するよう望む」と結んだ。日本人としては、余計なお世話だと反論したいところだが。【論説委員・福本容子】

読売新聞 2010年09月04日

予算概算要求 財政再建は避けて通れない

各府省が、2011年度予算の概算要求を財務省に提出し、予算編成作業がスタートした。

民主党代表選で、菅首相と小沢一郎前幹事長のどちらが次の首相になるにせよ、財政が火の車であることに変わりはない。景気をテコ入れしつつ、財政再建につながる予算と税制を作り上げる必要がある。

要求総額は96・7兆円と、10年度予算を大きく上回った。国債費が10年度より3・5兆円多い24・1兆円になった影響が大きい。

長期国債の金利を2・4%と、10年度の2・0%より高く想定したことで、利払いの費用が増え、国債費が大幅に膨らんだ。

長期国債の金利は現在、1%前後で推移しており、想定は高すぎるとの指摘もあるが、市場の動き次第で金利は大きく変動する。そうした点を考慮しながら、予算編成に取り組むしかあるまい。

菅内閣は、11年度予算の国債費以外の歳出を、10年度の71兆円以下とすることを掲げている。地方交付税の要求額は10年度とほぼ同じなので、一般歳出の要求額約55兆円の抑制が課題となる。

昨年の衆院選で民主党が公約した政策に関する要求額は、高速道路の一部無料化が10年度予算より500億円多い1500億円、農家の戸別所得補償もほぼ倍増となった。子ども手当は金額を示さない「事項要求」で、上積みを求めている。

こうしたバラマキを続ける余裕はないはずだ。今後、厳しく査定すべきである。

歳入面での焦点は、国債発行額を10年度の44兆円以下とすることができるかどうかだ。10年度は10兆円を超す税外収入があったが、埋蔵金の枯渇で11年度は多くを望めないのが現実である。

カギを握る税収は、景気動向が不透明で、10年度予算の37・4兆円から大幅増は期待薄だ。結局、国債増発に頼り、「44兆円以下」が守れなくなれば、国債への信用が失墜する恐れがある。

そうした事態を防ぐには、安定財源の確保が重要で、代表選では消費税率の引き上げに関する2人の論戦に着目せざるを得ない。

菅首相は、消費税を含む税制改革論議の重要性を指摘した。これに対し、小沢前幹事長は、衆院議員の任期中は引き上げないと主張している。

増え続ける社会保障費を賄うためにも消費税は欠かせない。今後の税制改正の中で論議を本格化させ、消費税率引き上げに道筋をつけるのが政治の責任であろう。

産経新聞 2010年09月10日

民主党代表選 小沢氏の国家観は危うい

民主党代表選で、小沢一郎前幹事長はこれまでほとんど争点にならなかった「国のかたち」をめぐる問題に言及した。

一つは、皇位継承を男系男子に限っている皇室典範について「男系の男性にはこだわっていない」と述べ、女性天皇を認める考えを示したことだ。過去に女性天皇は在位したが、全員が父方の祖先に天皇を持つ男系だった。女系を認めるのはその歴史を根底から変えることになり、重大な問題だ。

小沢氏は昨年暮れ、天皇陛下と習近平中国国家副主席の特例会見を、当時の鳩山由紀夫内閣とともに強引に実現させたことでも知られる。天皇と外国要人の会見は1カ月前までに申請が必要というルールを無視したものだった。

この時、小沢氏は「内閣が判断したことについて、陛下がその意を受けて行動なさることは当然のことだ」と述べた。内閣による天皇の政治利用を正当化した不適切な発言である。時の内閣が天皇を意のままに動かせるかのような傲慢(ごうまん)さもうかがえた。

民主党全体にも言えるが、特に小沢氏の皇室に対する姿勢には、極めて危ういものがある。

小沢氏は「靖国神社に『A級戦犯』を合祀(ごうし)すべきでないと以前から申し上げている」と分祀論を唱えた。「A級戦犯」は東京裁判で刑死した東条英機元首相ら戦争指導者を指す連合国側の用語だ。

また、菅直人首相も「A級戦犯」合祀を閣僚が靖国参拝しない理由に挙げている。

しかし、昭和28年の国会で「戦争犯罪による受刑者の赦免決議」が全会一致で採択され、国内法では戦争犯罪者ではない。

一方、小沢氏は永住外国人への地方参政権付与について「私個人は認める方向でいいが、議論が分かれているのでさらに議論する必要がある」と語った。この問題では、菅首相は「民主党は前から実現に努力してきた。その姿勢に変更はない」と述べている。

「A級戦犯」合祀は、中国が日本の首相の靖国参拝に反対する最大の理由だ。外国人参政権は、韓国や在日本大韓民国民団(民団)が強く求めている。中韓両国に過度に配慮する姿勢は、両氏ともあまり変わらないようだ。

10日に民主党有志が主催する討論会で、両氏は国の根幹にかかわるこれらの問題について、具体策をより明確に語るべきだ。

朝日新聞 2010年09月03日

民主公開討論 政治観の違いが見えた

「古い政治文化」か、「新しい政治文化」か。これが民主党代表選の重要な論点に浮かび上がってきた。

政権交代後も迷走の続く日本政治にとって避けて通れないテーマである。

菅直人首相と小沢一郎前幹事長にはより深く掘り下げて論じてほしい。

きのうの日本記者クラブの公開討論会では、菅氏が議論を仕掛けた。

「『古い政治』は二つある。ひとつはカネの問題。もうひとつは数の力。小沢さんの政治のあり方は、カネと数の原理が色濃くある」

そして、ほかの政党とも、国民との間でも政策を巡る議論を重ね、合意を形成する「熟議の民主主義」を確立し、新しい政治文化をつくっていきたいと語った。

小沢氏を単純に「古い政治文化」の体現者と決めつけるわけにはいかない。政治改革を主導してきた急進的な改革者の顔も併せ持つ。

ただ、自民党田中派以来の「数は力」の体質は否定できない。国政選挙での公認権や党の資金も背景にして、巨大なグループを築く。政策調査会を廃止し、自身が率いる幹事長室に権限を集中させる。そんな手法は、熟議の民主主義とは対極にある。

公開討論会で小沢氏は、矢継ぎ早に問いただされた。

小沢氏が首相になったら、連立を組み替えるのか。検察審査会で再び起訴すべきだと議決されれば、首相として自身の起訴に同意するのか――。

どの質問にも「勝つかどうかわからない」などとして、はっきりと答えない。説明を嫌い、白紙委任を求める体質の表れと言われても仕方がない。

官僚主導の政治から、政治主導の政治へ。「政」と「官」との関係のあり方については、両氏の基本的な考え方に大きな違いはあるまい。

両氏を分かつのは、「政」の中での権力観だろう。

クリーンでオープンな民主党を、と唱える菅氏は「全員参加」型の意思決定を唱える。

これに対し小沢氏は、明らかに権力集中型、トップダウン型である。

かねて、みずからのよって立つ「政治集団を強化、拡大」すること、「権力の集中」や「権力の行使」をためらわないことの必要性を繰り返し説いてきた(「日本改造計画」)。

小沢氏の政治遍歴を貫いてきた行動原理とでもいうべきものだ。

政治はプロセスよりも結果である。そんな考えもあるに違いない。

しかし、国民に「痛み」を求めざるをえない時代、丁寧な説明や合意形成を軽んじて本当に政治が進むのか。

この20年あまりの日本政治に大きな位置を占めてきた「小沢氏的なるもの」の是非が、代表選を通じ最終的に問われることになる。

毎日新聞 2010年09月07日

民主代表選 検察審査会 危うさ残る小沢氏発言

「政治とカネ」の問題は、依然として民主党代表選の大きな争点だ。小沢氏の資金管理団体をめぐる政治資金規正法違反事件で、東京第5検察審査会の2回目の議決が控える中、小沢一郎前幹事長はテレビ番組で「堂々と潔白を主張したい」と述べ、「起訴議決」があった場合、訴追に応じる考えを明確にした。その姿勢は評価したい。

一方で、小沢氏は、検察審査会制度について「強制力を持つ捜査当局が不起訴としたことについて、一般の素人の人がいいとか悪いとか言う仕組みが果たしていいのかという議論は出てくる」と発言した。

東京地検は2月、小沢氏を容疑不十分で不起訴としたが、第5審査会は4月、「起訴相当」の議決をした。東京地検が再び不起訴にし、現在は2回目の審査期間である。

「潔白だ」という表現が適切かどうかは別として、小沢氏が検察当局の2度の不起訴処分を強調したい気持ちは、理解できなくはない。また、検察審査会制度という立法にかかわる問題で、政治家が発言するのは、本来、自由である。

だが、小沢氏は審査の当事者である。この時期の発言は、審査員に何らかの影響力を及ぼそうとしているとの誤解を生みかねない。発言には慎重を期すべきだ。

検察審査会の議決に一定の拘束力を与える改正検察審査会法は、裁判員法と同じ04年5月に成立した。その際、民主党も賛成したことを忘れてもらっては困る。小沢氏は「素人」というが、法律家だけで司法を担う限界が指摘され、民意を反映させる目的で生まれた制度である。

その評価については、一定の時間をかけ、運用実態を検証し、長所や短所を判断する必要がある。

小沢氏は代表選告示後、「政治とカネ」の問題について「何回も記者会見を開き説明してきた」と繰り返す。だが、資金管理団体の土地購入の原資について、これまでの説明が二転三転したことなど、会見のやりとりだけで、国民の理解が得られたとは言えまい。刑事責任について、「推定無罪」の原則が働くのは当然だ。だが、元秘書3人が起訴され、その政治責任は当然残る。代表選の結果にかかわらず、国会の場で十分に説明する必要がある。

一方、菅直人首相の姿勢も疑問だ。代表就任時、「政治とカネ」の問題は、鳩山由紀夫前首相と小沢氏の辞任で「けじめがついた」との見方を示し、小沢氏の国会招致にも、消極的だった。だが、今になって「国民が納得できる説明が必要」というのは、ご都合主義だ。

読売新聞 2010年09月02日

民主代表選告示 指導力と政治手法も争点だ

民主党代表選が1日告示された。立候補した菅首相と小沢一郎・前幹事長は、それぞれ政権構想を発表し、共同記者会見に臨んだ。

この中で、衆院選政権公約の見直しや消費税増税、米軍普天間飛行場の移設問題などを巡り、主張の違いが浮かび上がった。両氏は、これらの政策争点についてさらに議論を深めてほしい。

菅首相は「クリーンでオープンな民主党」をめざすと表明した。今回の代表選が首相選びであることを強調し、「いずれの候補が首相にふさわしいか、国民に選択してもらう選挙だ」とも述べた。

世論調査にみられる一般国民の支持を背景に、小沢氏の「政治とカネ」の問題や強権的な党運営を批判し、党員・サポーターの支持拡大を図る狙いとみられる。

小沢氏は、「政治家自らの責任で政策や予算を決定できる体制を作らないといけないと感じ、立候補した」などと述べ、政権交代を機に政治主導体制を確立する必要性を強調した。

菅内閣の予算編成などが官僚主導に陥り、菅首相の指導力不足が目立っている、との認識に基づく批判だろう。

両氏の政治手法や政権運営のあり方、指導力についても、その違いを明確にしてもらいたい。

政策に関する最大の相違点は、昨年の衆院選の政権公約へのスタンスである。

菅首相は「実現困難な場合は国民に説明し、理解を求める」として修正に含みを持たせた。これに対し小沢氏は、政権公約を「国民との約束だ」と指摘した。

しかし、昨年の事業仕分けで捻出(ねんしゅつ)できた財源は、公約実現に必要な額にはるかに及ばない。無駄の削減だけで財源を確保することが困難なのは明白だ。

消費税問題では、小沢氏が当面引き上げないとの考えを示したのに対し、菅首相は「社会保障のあり方を財源と一体で議論する。その中で消費税の議論をすることが重要だ」と強調した。

社会保障費の財源を確保するには、消費税率の引き上げは避けて通れない。菅首相は、消費税論議を積極的にリードすべきだ。

普天間問題では、小沢氏が「沖縄県、米政府と改めて話し合いを行う」と表明し、5月の日米合意についても、「政策決定に関与していない」と語った。

合意をほごにすれば、日米関係を不安定にさせ、国益を著しく損ねる。小沢氏は何を考えているのか、具体的に語るべきだろう。

産経新聞 2010年09月08日

代表選と検察審 許されぬ審査員への恫喝

民主党代表選に出馬した小沢一郎前幹事長が、自らの関与が問われる政治資金規正法違反事件をめぐり、検察審査会(検審)のあり方に疑問をぶつけている。まな板の鯉(こい)が料理人にケチをつけているようなものだが、その鯉が最高権力者の座を争っているのだから、不適切きわまりない。

小沢氏は検審について「強制力を持った捜査当局が調べて何もなかった。不起訴だということについて、一般の素人の人がそれをいいとか悪いとかいう今の検察審査会の仕組みが果たしていいのか」と述べた。日本記者クラブ主催の公開討論会では「1年有余の強制捜査の中で実質的な不正、犯罪はなかったと結論を得ているので、審査会の皆さんもそのことをよく理解してくれると信じている」とも語った。

検審制度は、検察官が独占していた公訴権の行使に民意を反映させ、不当な不起訴処分などを抑制するために設けられた。しかも、民意による強制起訴を可能にした改正検察審査会法は、昨年5月に施行されたばかりだ。

小沢氏の一連の発言に、千葉景子法相が「改正され、ようやくスタートした段階で『どうか』というのはまだ早い」と語ったのは当然といえる。

小沢氏は6日、検審制度の見直しは「今のところ考えていない」と民放番組で語り、制度がある以上は「結論に従うのは当然だ」と軌道修正を図ったようにみえる。だが、当初の発言が検審制度の趣旨を否定し、現在進行中の審査に対する圧力や恫喝(どうかつ)につながっていることは間違いない。

小沢氏の資金管理団体「陸山会」の平成16、17年の政治資金収支報告書への虚偽記載容疑を審査している東京第5検察審査会は4月、小沢氏について「起訴相当」と議決した。東京地検特捜部の再度の不起訴を受けて、現在進められている再審査でも起訴相当の議決が出されれば、小沢氏は強制起訴される。議決は10月末までに出される見通しだ。

憲法75条は「国務大臣はその在任中、内閣総理大臣の同意がなければ訴追されない」と定め、小沢氏は首相になっても「逃げない」と語った。仮に強制起訴に至れば小沢氏は公判の場で存分に自らの主張を述べればよい。審査中の段階で審査員に予断を与えるようなことはあってはならない。

朝日新聞 2010年09月02日

民主 論戦始まる 対立軸ははっきりした

2人の違いがかなり鮮明になったことを歓迎したい。これからの2週間、首相選びにふさわしい、堂々たる政策論争を深めてもらいたい。

民主党代表選が告示され、菅直人首相と小沢一郎前幹事長がそれぞれ公約を発表し、共同記者会見をした。

小沢氏は昨年の衆院選マニフェストの実行を最優先する方針を表明した。消費税論議は、徹底した無駄の削減が済むまでしないと明言した。

米軍普天間飛行場移設問題でも、沖縄県、米国政府双方の理解が得られる解決策が必ず見いだせると強調した。

どちらの懸案も、小沢氏が幹事長として支えた鳩山政権がやろうとしてできなかったことだ。小沢政権で真の「政治主導」を確立し、解決できるというなら、そのための手段と道筋を、もっと具体的に語ってほしい。

菅首相は、実現が困難なマニフェストの修正と、消費税論議に取り組む姿勢を明確にした。

「クリーンで開かれた政治」を掲げて小沢氏との違いを明らかにし、「どちらが次の首相にふさわしいか、国民に判断していただく」と言い切った。

民主党内には矛盾する政策路線が同居する。それが迷走の原因にもなる。今回の代表選は、論争を通じて進むべき道を選び、政権再出発の足場を固め直す好機である。

その意味で、互いの違いをはっきりさせようという両氏の姿勢はいい。

ただ、政治資金問題に対する小沢氏の説明は不十分なままだ。

小沢氏は検察の不起訴で問題は決着済みという認識だが、市民の代表からなる検察審査会の判断次第では強制起訴の可能性が残る。首相を目指す資格があるかという問いから逃れるには、もっと言葉を尽くすしかない。

代表選後の行動も問われている。

「壊し屋」と評される小沢氏だが、会見では「党の分裂はありえない。結果がどうあれ、力を合わせて頑張る」「ねじれ国会を政界再編で乗り切る考えは持っていない」と明言した。

菅氏も同じ考えを示した。

政権交代時代に入り、各政党は民意と無関係な離合集散や合従連衡に血道をあげる悪癖から卒業すべきである。選挙後、手のひらを返すような動きを起こすことはないか。きのうの2人の言葉をよく覚えておこう。

代表選の投票権を持つのは、民主党の国会議員、地方議員、党員・サポーターだけだが、事実上は日本の首相選びである。両氏には、広く国民全体に支持を呼びかける姿勢が求められる。

組織票固めや水面下の多数派工作ばかりでは、有権者の心は離れる。

歴史的な政権交代から1年。すでに民主党政権は、がけっぷちに近づいている。その危機感を、両陣営と全党員が共有しなければならない。

毎日新聞 2010年09月05日

論調観測 菅氏VS小沢氏 「首相の資質」とは何か

いったんは「トロイカ体制」維持で合意しながらやっぱり決裂し、菅直人首相と小沢一郎氏の直接対決となった民主党代表選。「あいた口がふさがらない」(朝日)、「大義欠く小沢氏の出馬」(毎日)などと酷評した小沢氏に対して各紙がどのように公開討論を評価したのかを今週は観測してみたい。

政治資金をめぐる事件で東京第5検察審査会が小沢氏に2度目の「起訴相当」の議決をした場合、通常は強制起訴になるが、首相の同意がなければ国務大臣は訴追されないとされている。もしも小沢氏が首相になったらどうなるのか。この点を問われた小沢氏は「逃げません」と答えた。訴追に応じるという意味なのだろうが、「首相が被告となれば前代未聞で国政への影響は免れない」(毎日)という事態への言及はなかった。産経に至っては「有罪か無罪かどうかの法廷闘争が行われ、その決着がつくまでの間に、日本国の名誉と誇りはどれほど傷つくか」と断じた。

断固とした口調に圧倒されると、なんとなく納得してしまうが、小沢氏は肝心なことはあまり言っていない。そんな場面はほかにもある。

「金がないからできませんなんて、そんなばかなことがあるか」とは参院選での小沢氏の演説だ。公開討論でも予算の組み替え、無駄の削減を強調し「30兆円以上の政策的経費がある」と断言したが、その根拠は示さない。「国の補助金の7割は社会保障など義務的な経費だ。そこまで削るつもりでないと十分な財源にならない」(日経)という疑問が残るのは当然だ。

「普天間」移設問題でもそうだ。「沖縄が反対している限り、日米合意の計画は進まない」と小沢氏は強調するが、当初あるかのようだった打開策も「今、具体的にこうするとか、ああするとかいう案を持っているわけではない」と修正した。

「説明を嫌い、白紙委任を求める体質」を指摘した朝日は「この20年あまりの日本政治に大きな位置を占めてきた『小沢氏的なるもの』の是非が、代表選を通じ最終的に問われることになる」と論じた。

各紙とも総じて小沢氏に厳しい論調だったが、菅首相の評価が高かったわけではない。毎日は「国家ビジョンと政権の目的を訴える迫力において、物足りない」と指摘した。読売は「両候補の安保感覚を危惧(きぐ)する」と論じた。菅氏と小沢氏のリーダーとしての資質とともに、民主党政権の本質を見極める機会でもある。【論説委員・野沢和弘】

読売新聞 2010年09月01日

鳩山調停失敗 投票で決着を図るのは当然だ

挙党態勢を名目に「密室談合」で決着させるよりも、代表選で堂々と勝敗を決めるのが筋だ。これこそ多くの国民が求めているものだろう。

菅首相と小沢一郎・前幹事長は民主党代表選への立候補を正式に表明し、代表選は両氏の一騎打ちが確定した。

これに先立って両氏は会談し、代表選後も、勝敗にかかわりなくお互いに協力し、党の分裂を避けることで基本的に一致した。

菅首相と小沢氏の会談は、両氏が全面対決すれば、党に決定的な亀裂が入ることを懸念する鳩山前首相らが仲介した。

しかし結局、小沢氏の処遇ポストや、反小沢色の強い仙谷官房長官、枝野幹事長らを引き続き起用するかどうかで、折り合えなかったものとみられている。

菅首相は、30日の鳩山氏との会談で、菅、鳩山、小沢3氏の「トロイカ体制」で政権運営にあたる方針を受け入れた。

だが、そのまま小沢氏との間で妥協し、無投票で再選を固めるようなことをしたら、自民党の古い派閥談合政治と同じ、との批判は免れなかったろう。

一方の小沢氏も、ここで一転、撤退すれば、各種世論調査での不人気にたじろいだと受け止められたに違いない。

調停に乗り出した鳩山氏の責任は大きい。

内政・外交で迷走を重ね、首相を辞任して間もない鳩山氏は、本来、謹慎の身であるはずだ。

しかも、鳩山氏は、初めは菅首相続投を支持しながら、中途から小沢氏支持へと変わった。辞任の際、「クリーンな政党を」と言い残しながら、「政治とカネ」の疑惑を抱えたままの小沢氏を推すのもおかしい。

矛盾に満ちた言動を繰り返している鳩山氏は、調停役として不適格だったのではないか。

今回、代表選そのものが見送られたりしていれば、参院選の責任問題はもとより、衆院選政権公約(マニフェスト)の見直し、消費税率引き上げ問題、国の基本政策についての議論を深める機会が失われただろう。

2週間にわたって行われる代表選で、菅、小沢の両氏は、国家ビジョンや政権運営のあり方について、自らの見解を率直に語らなければならない。

今回の代表選びは、野党時代と違って首相を選ぶ選挙だ。民主党議員や党員・サポーターは、その点を強く自覚して1票を投じてもらいたい。

産経新聞 2010年09月03日

民主党代表選 「訴追されうる首相」疑問 カネと数の政治変えられるか

民主党代表選に菅直人首相とともに出馬した小沢一郎前幹事長に対し、重ねて重大な疑問を提起せざるを得ない。

日本記者クラブ主催の討論会で、小沢氏は東京第5検察審査会が2度目の「起訴相当」議決を行って強制起訴された場合の対応に関連し、訴追に応じるかどうかの問題をただされて「逃げません」と明言した。

率直な姿勢と言いたいが、代表選に勝って首相になったとしても、訴追され、刑事被告人となりかねない人物を最高指導者として仰ぐ国民は不幸である。

有罪か無罪かどうかの法廷闘争が行われ、その決着がつくまでの間に、日本国の名誉と誇りはどれほど傷つくか。違法行為を疑われている指導者がいかにモラルを訴えようとも、国民は聞く耳をもたないだろう。国が成り立たないのである。

日本の政治に重きをなしてきたからこそ、小沢氏は自らで出処進退を判断しなくてはなるまい。

討論会では小沢氏の政治とカネに質問が集中した。

小沢氏は東京地検特捜部の強制捜査を経て、不正はなかったと判断されたと重ねて強調し、「国会には強制捜査権はない」とも語った。証人喚問や政治倫理審査会に応じてこなかったことを正当化したのは残念だ。

≪普天間発言は無責任だ≫

国民の多くは、政治資金規正法違反事件に関する説明が不十分だと判断している。菅首相も「国民の常識が国会でも受け入れられないといけない」と説明責任を果たす必要性を指摘した。

だが、小沢氏は世論を「謙虚に受け止める」と言いながら、開き直りの姿勢に終始した。

元秘書ら3人が逮捕・起訴されたことへの責任は感じているとしたが、事件は政治資金収支報告書への記載をめぐる手続きなどが争われている形式犯にすぎないとの見方を崩していない。

自らの政治資金管理団体による土地購入に関する規正法違反事件では、20億円を超える虚偽記載があった。虚偽記載は形式犯などではなく、国民を欺く行為であることを無視しているようだ。

小沢氏が首相に就任した場合の訴追については、「国務大臣は首相の同意がなければ訴追されない」と定める憲法75条との関係が浮上していた。首相が起訴に同意しなければ、審査会の強制起訴は実現しないとされるためだ。

さらにあきれたのは、米軍普天間飛行場移設問題をめぐる小沢氏の対応である。

1日の会見で、小沢氏は「沖縄も米政府も納得できる案は、知恵を出せば必ずできる」として、「今、自分の頭にあることを言うわけにはいかない」と腹案があるような表現をしていた。

≪基本政策なぜ話さない≫

だが、討論会では「案があるとは言っていない」と発言を覆し、「みんなで考えれば、3人集まれば文殊(もんじゅ)の知恵ということがある」などと語った。日米関係を大きく損なった移設問題に対し、真剣さを欠いた無責任な姿勢としかいいようがない。

辺野古移設案の実現が、沖縄県民側の理解を得られなければ困難なことは、小沢氏が言うまでもない。また、小沢氏は幹事長時代には直接、関与していなかったので、移設問題をめぐる迷走についての責任はないといったような態度をとっている。

政権与党の最高実力者でありながら、政府への政策決定一元化を逆手に取るように、自身に責任はないと説明することなど、認められるものではない。

一方、菅氏は政治とカネや開かれた党運営などを対立軸に掲げ、「カネにまみれた政治文化を変える」と主張した。

小沢氏の政治手法を「カネと数の原理が色濃くある」と指摘したものの、現職首相として主要政策をどうするかをより具体的に説明すべきだ。

衆参ねじれの下で、どのように政策を実現していくかという指導力も感じ取れない。菅氏には、参院選で大敗したのに続投することの説明がなお求められている。

民主党政権の主要政策の曖昧(あいまい)さが政治の迷走を招いてきた。ばらまき政策を見直し、衆院選マニフェストをどう修正するのか。外交・安全保障の基本的な政策などを明確にしておかなかったことがいまの日本の惨状を招いている。

朝日新聞 2010年09月02日

民主 論戦始まる 小沢氏では財政が心配だ

マニフェストの実施について記者会見で違いを際立たせた菅首相と小沢前幹事長。2人の路線は、その背景にある財源の確保や財政健全化についても、真っ向から対立することがはっきりしてきた。

民主党代表選の一騎打ちは財政運営をめぐる路線闘争でもあり、どちらの路線になるかで国民生活を左右する大きな課題だといえよう。

小沢氏は、官僚主導のシステムを改革すれば巨額の財源を確保できるといい、無駄減らしの徹底が増税論議より優先すると主張する。菅氏は、消費税を含む税制改革に社会保障改革とセットで取り組むと説いている。

どちらの言い分にも、それなりに理はある。だが、理念だけで財政は運営できない。財源がどれほど必要で、どう工面するか。持続可能か。そうした裏付けがなければ、政策がいかに魅力的でも、成り立たない。

子ども手当や高速道路の無料化など民主党のマニフェスト政策を満額実施するには、巨額の財源が必要となる。菅、小沢両氏の主張はどちらが説得力があるだろうか。

それを判断するリトマス試験紙が来年度予算編成だろう。各省庁の概算要求が出そろった今こそ、両氏の考えを比べる格好の場面だ。

一般会計の要求総額は97兆円に迫り、要求額としては過去最大に膨らんだ。国債の償還や利払いにあてる国債費を除き、一般歳出の要求額は73兆円近くとなったが、菅政権はこれを今年度予算並みの「71兆円以下」に抑える方針だ。新規国債発行を今年度と同じ44兆円とする目標も掲げている。

菅政権が引き続き編成を進めるなら、この要求額から1兆~2兆円削れば目標枠は達成できそうだ。

税収を上回る44兆円もの借金は異常なことだが、日本経済の体力や世界経済の先行きの不確実性を考えれば、一気に緊縮へ舵(かじ)は切りにくい。まずはこれを守ることが最低ラインだ。

だが「小沢首相」が誕生したら、無駄の削減が看板倒れとなって、大盤振る舞いにならないか。小沢氏は子ども手当を来年度は月額2万円に引き上げる方針を掲げた。そのうえにほかのマニフェストをすべて実施すれば予算は計4兆~5兆円膨らむ。

それでも「71兆円枠」や「44兆円枠」は守れるのだろうか。あるいは小沢氏は、これらの枠を守らなくていいという考えなのか。そこをまず明らかにしてもらわなくてはならない。

「守る」という姿勢なら、財源を具体的に説明する必要があることは言うまでもない。

先進国で最悪の日本の借金財政は、国債相場の急落の引き金となる危険が増している。小沢氏の路線では、それに拍車をかける不安もぬぐえない。

毎日新聞 2010年09月04日

民主代表選 来年度予算 国の信用をどう保つ

96兆7465億円--。11年度予算の概算要求総額がまた過去最大に膨らんだ。民主党政権となり2年連続の記録更新である。

昨年はある程度やむを得ない面もあった。政権交代後、初の予算編成だったうえ、上限(シーリング)を設けず各省に要望を任せる異例の手続きをとったことなどだ。

今回は省庁に「一律1割削減」の枠をはめた。しかし、成長戦略やマニフェスト関連の政策用に「特別枠」を設けたこともあり、結局、要望が膨張した。しかも、子ども手当の上乗せ分が明示されていないなど、さらに追加の余地を残している。

ただでさえ、新たな借金を増やさないという政府の約束が怪しくなりかけているというのに、民主党代表選で、もっと先が見えなくなってきた。2人の候補には抽象的な財源論議にとどまらず、まず来年度予算をどうするのか、具体的な考えを早急に示してもらいたい。

「政治主導の予算」を強調する小沢一郎前幹事長は、「一律1割削減」を官僚依存の象徴のように非難している。自らが財源について問われると、「無駄を省く」「地方が自由に使える補助金にすれば少ない額で済む」「国の資産の証券化で財源を作る」などと主張する。

しかし、知りたいのはそうした施策をいつ実行するのか、来年度は新たな財源がいくら見込めるのか、といった見通しだ。

歳出についても数字付きで示してもらいたい。小沢氏は、マニフェストの実現、地域経済の振興、景気対策などを唱えているが、来年度予算に何を盛り込むのか。「政治主導予算」の具体的な姿が見たい。

一方、菅直人首相は、8兆7000億円に達した、概算要求総額と歳入見通しのギャップを、どうやって圧縮していくのか明らかにしなければならない。特別枠については、これから公開の「政策コンテスト」で仕分けをするというが、他人任せではいけない。小沢氏に指摘されるまでもなく、限られた財源の中で政策に優先順位をつけるのは、政治指導者の最も重要な責任の一つである。

消費税問題に懲りたのか、参院選後、菅首相が財政再建の緊急性を訴える場面がめっきり減ったようだ。しかし、「国債費以外の歳出を3年は増やさない」という約束が、一度の予算編成も経ず破られるようでは、今後、どんな公約を掲げたとしても信用されないのではないか。

仮に首相が交代しても、同じ政権党である以上、国の信用にかかわる決定を簡単にほごにするようなことがあってはならない。

読売新聞 2010年08月27日

小沢氏出馬表明 日本の針路を競う代表選に

民主党代表選は、再選をめざす菅首相と小沢一郎前幹事長との、事実上の一騎打ちになることが固まった。

与党第1党の党首選は首相選びに直結する。「脱小沢」か「親小沢」かという権力争奪の多数派工作に堕することなく、あるべき日本の針路を論じ合って雌雄を決してほしい。

◆分裂、政界再編の芽も◆

小沢氏は、9月1日告示、14日投開票の党代表選に出馬する意向を表明した。

党内の幅広い支持を得られることを前提に出馬を検討していた小沢氏は、鳩山前首相の支持をとりつけた上で立候補に踏み切った。だが、支持の大勢が固まっているわけではない。

今回の対決の背景には、小沢氏と、「脱小沢」を掲げる菅首相や仙谷官房長官、枝野幹事長らとの強い軋轢(あつれき)がある。

鳩山氏は、党の亀裂が深まる事態を避けるため、菅首相と小沢氏との仲介に動いた。だが、鳩山氏が小沢氏の要職起用を含む挙党態勢の構築を求めたのに対して、菅首相は難色を示した。

小沢氏は反発し、菅首相の無投票再選を容認すれば、党内で孤立しかねず、窮余の決断になったものとみられる。

挙党態勢を条件に「菅氏支持」を表明していた鳩山氏は、一転して「小沢氏支持」に変わった。参院選前、政局混迷の責任をとってともに辞任した小沢氏を代表に推すのは、納得し難い行動だ。

鳩山氏の調停失敗を受け、小沢氏が正面突破を図ったことで、代表選は党を二分する争いになる見込みだ。党分裂含みの展開も予想され、今後、野党を巻き込んだ政界再編の動きも出てこよう。

◆「政治とカネ」説明を◆

小沢支持グループは、参院選の敗北が衆院選の政権公約(マニフェスト)から逸脱した結果だとして、「原点回帰」を唱えている。菅首相の消費税率引き上げ検討発言も批判してきた。

しかし、子ども手当などのバラマキ政策は、当初の極めて甘い財源見通しにより、公約通りに実行できないのは明らかだ。

小沢氏が原点回帰路線に立つなら、公約実施に向けた現実的な財源と、工程表を早急に提示することが肝要だ。

小沢氏がなすべきことは、それだけではない。「政治とカネ」の問題について、きちんと説明責任を果たすことが欠かせない。

自らの資金管理団体の土地購入をめぐる政治資金規正法違反事件について、小沢氏は先の通常国会では、衆院政治倫理審査会で弁明せず、証人喚問からも逃れた。

しかし、参院選の結果、与党が過半数を失ったことによる「衆参ねじれ国会」の下で、野党側の厳しい追及を乗り切っていくことは極めて難しい。

今秋、検察審査会が再び、「起訴すべき」と議決すれば、本来なら小沢氏の強制起訴は免れない。ただ、憲法には「国務大臣は在任中、総理大臣の同意がなければ訴追されない」との規定がある。

菅支持派からは「小沢氏は起訴を逃れるため、首相をめざすのではないか」との声も聞かれる。

実際、「起訴議決」の場合、小沢氏はどう対処するのか。事前に明らかにする責任もあろう。

一方、菅首相は、小沢氏の出馬が確定したことを、重く受け止めなければならない。

菅首相以下、民主党執行部は、参院選敗北について明確な責任をとらず、敗因についても十分な総括をしてこなかった。これらが党内に不満を醸成した。

◆政治空白の余裕はない◆

党運営や政策遂行をめぐる首相の指導力や判断力に、民主党の多くの議員が不安を抱いていることも否定できない。

最近の円高や株安など、経済危機への対応一つとっても、菅内閣の動きは鈍い。代表選の最中にあっても、首相は国政を預かる責任を果たさなければならない。

首相は、政権公約の修正を図ろうとするなら、政権交代以降の政策を再点検し、今後、何を変え、何を継続するのかを明確にすることが大事だ。

消費税率の引き上げ問題も、右顧左眄(うこさべん)せず、所信を正面から訴えるべきである。

現在の民主党は2003年、当時の菅民主党代表と小沢自由党党首が、政権交代を旗印に、両党を合併して生まれた。

当初から「選挙互助会」とか、「理念なき合併」との指摘があった。憲法改正や安保政策、消費税問題など党の基本政策は、今もって確立していない。これが、政権担当政党として政策を進める上の障害になっている。

この際、両氏は、党分裂や政界再編に至る可能性に臆することなく、党の基本政策について徹底した議論を展開すべきだ。

産経新聞 2010年09月02日

代表選告示 政治とカネもっと説明を

民主党代表選が告示された。菅直人首相と小沢一郎前幹事長がそれぞれ発表した政策は、対立軸が浮かび上がってきた。だが、具体論ははっきりしていない。首相選びに直結するだけに、さらに論戦を深めなくてはならない。

小沢氏は1日夕の記者会見で、政治とカネについて「政治資金管理団体の資料をすべて公表したのは私一人だ」などと強調した。さらに「1年有余の強制捜査の結果、不正はなかった」と東京地検特捜部が不起訴処分を下したことを挙げて、改めて潔白を主張した。

だが、小沢氏は東京第5検察審査会から「起訴相当」議決を受け、再び同じ議決が出れば強制起訴される立場にある。元秘書ら3人が逮捕・起訴された政治的・道義的責任も大きい。小沢氏の発言は全くの開き直りともいえ、説明になっていない。

菅氏は、小沢氏が党代表や首相を目指すなら、さらなる説明が必要だと指摘した。国の最高指導者は国民に範を示す義務があることを忘れないでもらいたい。

普天間問題では両氏の対立が鮮明になった。小沢氏は「沖縄も米国政府も納得できる案は、知恵を出せば必ずできる」と語り、沖縄側の強い反対で実現のメドが立たない辺野古移設案を見直す必要性を主張した。具体案については「頭の中にあることを言うわけにはいかない」と説明を避けた。

菅氏は「これ以上方向性が定まらない状況を継続することは、1年近く続いた混迷を改めて招く」と述べた。小沢氏は国外移設案を模索しているようだが、日米同盟の空洞化に拍車をかける結果とはならないか。

衆院選マニフェストへの対応で、小沢氏は「誠実な実行」を主張しているが、財源論は一般会計と特別会計を合わせた「国家予算207兆円の全面組み替え」など従来と変わらない。国民の利益につながらないばらまき政治をさらに続けるというのだろうか。

会見では、国が使い道を決める中央からの「ひもつき補助金」を廃止して「一括交付金化」にすべきだと強調したが、地方職員給与のアップに回り、住民サービスに必要な予算が足りなくなるなど新たな問題も生じかねない。

菅氏もマニフェストをどう修正していくか、もっと具体的に示すべきだ。

朝日新聞 2010年09月01日

民主党代表選 密室の談合よりはいい

民主党代表選がきょう告示される。

菅直人首相と小沢一郎前幹事長が激突し、代表、そして首相の座を争う。

直接対決を避けようという動きが土壇場まで続いたが、うまくいかなかった。「密室の談合」といった厳しい批判を招くのは必至だっただけに、民主党にとっては幸いというほかない。

小沢氏は記者会見で、菅氏について「挙党一致態勢をとるべきではないという考えだったようだ」と指摘した。

菅氏は、仲介者から人事面での配慮を求められたが、「国民から見えないところで決めるのはおかしい」と考え、応じなかったと説明した。

菅氏の対応は当然である。

挙党一致と、ポストをめぐる水面下の取引は別物であり、そんなことで首相を決められては国民はたまらない。

それにしても、鳩山由紀夫前首相の一連の行動は理解に苦しむ。

菅、小沢、鳩山の3氏によるかつての「トロイカ体制」に立ち戻って、「挙党態勢」を構築するよう訴えた。菅、小沢両氏の会談を「責任を持って仲介の労を取る」とまで述べた。

いまさら「トロイカ」を持ち出す思考に驚く。政治とカネの問題で引責し小沢氏とダブル辞任したばかりなのに、どういう脈絡からこうした発言が出てくるのかわからない。

鳩山氏は身を慎むべきである。

今回の代表選は、菅政権が発足してわずか3カ月で実施される。党としての決まりごとだからやむをえないが、あまりにも短命な首相を生みかねない仕組みは本来、好ましくはない。

しかし、小沢氏が出るというなら、話し合いで正面衝突を回避するより、正々堂々と戦ってもらう方がいいだろう。この党の抱え込んできた矛盾が、あまりにも大きいからである。

結党以来、民主党は様々な政治的潮流を併せのんできた。小沢氏が率いていた自由党との合併が典型だ。

理念や政策路線、政治体質が違っても、政権交代という大目標は共有できたから、まとまってこられた。

しかし、目標を達成してしまうと、党内がばらけ、迷走感が深まった。いったい何をめざす政党か、足場を定める作業を怠ってきたからである。

この機会に徹底して議論を戦わせ、決着をつけないと、民主党のみならず政党政治そのものが漂流してしまう。

この代表選を、単なる権力闘争ではなく、新しい政治をひらくきっかけにしなければならない。

民主党の議員らには、首相選びに加われない国民に代わって、どちらがふさわしいか見極める重い責任がある。ポストがほしいから、報復が恐ろしいからと判断を曲げては、有権者から手痛いしっぺ返しを受けるだろう。

これは実質日本の首相選びである。そのことを心してもらいたい。

毎日新聞 2010年09月03日

民主代表選 菅首相 もっと骨太に政策論を

民主党代表選に出馬した菅直人首相と小沢一郎前幹事長による討論が行われた。投票先を決めていない多くの国会議員や党員票の動向がカギを握るため、今後展開される政策論争が勝敗に大きく影響することは確実だ。事実上の首相選びにふさわしい骨太な議論を展開すべきである。

続投を目指す菅氏は小沢氏について「カネと数の原理が色濃くある」と政治手法を批判、雇用を重視する経済再生の必要性を力説した。現職首相として菅氏が実現性を重視して政策を主張する姿勢は評価できるが、国家ビジョンと政権の目的を訴える迫力において、物足りない。税制、社会保障など改革の全体像をより具体的に語らねばならない。

焦点となるのは財政が深刻さを増す中での経済、財政、社会保障の再構築の方策だ。討論では菅氏が「ある程度負担をしても将来安心できる社会」に向け税制、社会保障の一体改革を説いた。これに対し小沢氏は税制の議論自体は認めながらも「北欧型のような非常に大きな負担をする福祉は無理がある」と主張した。

さきの参院選では消費税増税論議の生煮えさがたたったにもかかわらず逃げずに議論を進める姿勢ならば、賛成だ。年金など社会保障の改革像、野党との協議の進め方などより具体的な説明を期待する。マニフェスト見直しで肝心なのは何を堅持し、何を修正するかの仕分けだ。特に、子ども手当について制度にどう磨きをかけるか、より踏み込んで考え方を示してほしい。

一方で不満もある。菅氏は政策の各論や首相としての日々の活動について多弁だが、目指すべき改革の構想や理念が小沢氏に比べ、なかなか伝わってこないのだ。

円高、株安で大きく揺れる足元の経済をめぐり小沢氏は急激な円高に対応するため為替介入の「覚悟」や海外資源への投資などに言及した。菅氏は「円高への危機感はかなり早く持っていた」と強調しつつ、デフレ対策としての雇用重視を繰り返した。じっくり議論を深めてほしい。

幹事長当時の小沢氏が「事業仕分け」に当選1回議員をあてることに難色を示したと菅氏が批判したのも気になった。無意味だとは言わないが、国のビジョンを競う場にしては、少々スケールが小さな話題ではないか。

参院選敗北を経て、政権の「旗印」をなかなか示せずにいたのが菅政権の大きな課題だった。「行政と役所の文化」「カネにまみれた政治文化」の打破を強調するだけでは物足りない。足元の政権運営に加え、リーダーに期待されるのは国家像と政権目標の提示である。

読売新聞 2010年08月20日

民主党代表選 「小鳩」の総括と政策論が先だ

来月1日の民主党代表選の告示まで2週間を切り、各グループの駆け引きが活発化している。

19日には鳩山前首相がグループ研修会を開き、党内最大勢力を率いる小沢一郎・前幹事長も出席した。

小沢氏は、鳩山グループなど党内の幅広い支持が得られることを条件に、出馬を検討しているという。研修会への出席も、そのための布石とみられている。

一時は政界引退を表明していた鳩山氏も、約150人の国会議員を研修会に集め、党内への影響力を誇示した。

再選をめざす菅首相、出馬の可能性を探る小沢氏の双方から秋波を送られる状況を利用し、政治的復権を果たすつもりなのだろう。挙党一致を条件に首相続投を支持している鳩山氏は、研修会でも、挙党態勢の構築を求めた。

しかし、小沢氏も鳩山氏も、代表選をにらんで動く前に、なすべきことがあるのではないか。

鳩山氏には、米軍普天間飛行場の移設問題の迷走で、日米関係に亀裂を生じさせた重い責任がある。「政治とカネ」をめぐる問題では、両氏とも十分な説明責任を果たしていない。

「小鳩」政権時代への反省と厳しい総括をしないまま、合従連衡に走る姿が、国民の目にどう映るだろうか。

特に小沢氏の場合、「政治とカネ」の問題で検察審査会の審議が継続中だ。代表選に出馬するなら、どうけじめをつけるのか、具体的に語る必要があろう。

一方、菅首相の対応も、問題なしとは言えない。

先月末の記者会見で、消費税率引き上げを代表選の公約に掲げないとの考えを示したが、参院選で敗北したからといって、財政健全化の旗まで降ろしてよいのか。

むしろ代表選を機に、消費税問題の党内論議を深めるぐらいの攻めの姿勢が求められよう。

昨年の衆院選の政権公約(マニフェスト)をどう扱うかも重要な論点である。

子ども手当の支給や高速道路無料化といったバラマキ政策を続けることが財政的に不可能であることは明らかだ。年末の予算編成を考えれば、政権公約の大胆な見直しは避けて通れない。

昨年の政権交代で民主党代表選は、かつての自民党総裁選のように首相選びに直結する。

民主党はそれを強く自覚し、今回の党首選びを、国家ビジョンや国民生活にかかわる政策を競う場としなければならない。

産経新聞 2010年09月01日

民主党代表選 日本どうするか競い合え

民主党代表選は、鳩山由紀夫前首相による一本化調整が不調に終わり、菅直人首相と小沢一郎前幹事長がそれぞれ出馬を表明した。

首相は調整の過程で、小沢氏や鳩山氏らを柱とする「トロイカ体制」を復活させ、挙党態勢を作る考えを示していたが、小沢氏の具体的処遇などで折り合わなかったようだ。

これにより「密室談合」の調整で事実上の首相選びが行われる最悪の事態は避けられた。だが、それは結果論にすぎない。

首相は人事の調整を否定したが、告示前日まで「談合」調整がもつれたこと自体、ごく限られた人物による新体制での権力やポストをめぐる取引が展開されていたとしか受け取れないからだ。国民不在の密室調整など受け入れられるものではない。その認識があまりにも欠けている。

首相は「小沢さんの了解なく何も決められない形は良くない」とも述べていた。トロイカ体制に合意したのは、自らの再選や政権安定を優先させるため、「脱小沢」路線を転換しようとしたことを意味していよう。

すでに出馬の意向を表明していた小沢氏が、鳩山氏の調整になぜ応じたのかも不可解だ。政権運営の中枢に参画できるなら、一本化に応じてもよいとの判断があったと思わざるを得ない。

選挙戦が行われる以上、首相と小沢氏は堂々と政策で競い合ってもらいたい。米軍普天間飛行場の移設問題や膨大な赤字財政、年金をはじめとする社会保障制度の立て直し、急速な円高株安への対応など内政・外交ともに懸案は山積している。首相も小沢氏も厳しい経済情勢に言及している。この国をどうするのかの理念とともに、多くの課題への処方箋(せん)を示さねばならない。

首相は31日夕の記者会見で、社会保障財源としての消費税のあり方が争点になるとの認識を表明した。参院選では「税率10%」の根拠を示さないなど発言がぶれた。与野党協議にどう臨むかなど、明確に語る必要がある。

小沢氏は東京第5検察審査会から「起訴相当」の議決を受け、再度同じ議決が出れば強制起訴される立場だ。政治とカネの疑惑も説明しておらず、出馬の適格性を問われている。国民の不信を払拭(ふっしょく)しない限り、最高指導者となる資格がないことを銘記すべきだ。

朝日新聞 2010年08月27日

小沢氏出馬へ あいた口がふさがらない

どうしてここまで民意とかけはなれたことができるのか。多くの国民が、あぜんとしているに違いない。

民主党の小沢一郎前幹事長が、党代表選に立候補する意向を表明した。

政治とカネの問題で「責任を痛感した」と、幹事長を辞して3カ月もたっていない。この間、小沢氏は問題にけじめをつけたのか。答えは否である。

いまだ国会で説明もせず、検察審査会で起訴相当の議決を受け、2度目の議決を待つ立場にある。

鳩山由紀夫前首相にも、あきれる。小沢氏率いる自由党との合併の経緯から、この代表選で小沢氏を支持することが「大義だ」と語った。「互いに責めを果たす」とダブル辞任したことを、もう忘れたのか。

二人のこのありさまは非常識を通り越して、こっけいですらある。

民主党代表はすなわち首相である。党内の多数派工作に成功し、「小沢政権」が誕生しても、世論の支持のない政権運営は困難を極めるだろう。

党内でさえ視線は厳しい。憲法の規定で、国務大臣は在任中、首相が同意しない限り訴追されない。このため「起訴逃れ」を狙った立候補ではないかという批判が出るほどだ。政治とカネの問題をあいまいにしたままでは、国会運営も行き詰まるに違いない。

より重大な問題も指摘しなければならない。

自民党は小泉政権後、総選挙を経ずに1年交代で首相を3人も取りかえた。それを厳しく批判して政権交代に結びつけたのは、民主党である。

今回、もし小沢首相が誕生すれば、わずか約1年で3人目の首相となる。「政権たらい回し」批判はいよいよ民主党に跳ね返ってくるだろう。より悪質なのはどちらか。有権者にどう申し開きをするのか。

それとも小沢氏は代表選に勝っても負けても、党分裂といった荒業もいとわずに大がかりな政界再編を仕掛けようとしているのだろうか。

金権腐敗政治と決別し、2大政党による政権交代のある政治、有権者が直接政権を選ぶ政治を実現する――。そんな政治改革の動きの中心に、小沢、鳩山両氏はいた。20年余の歳月を費やし、ようやく目標を達成したと思ったら、同じ二人がそれを台無しにしかねないことをしようとしている。

ほぼ1年前、新しい政治が始まることを期待して有権者は一票を投じた。その思いを踏みにじるにもほどがあるのではないか。しょせん民主党も同じ穴のむじな、古い政治の体現者だったか――。政党政治自体への冷笑がさらに深まっては取り返しがつかない。

代表選をそんな場にしてはならない。有権者は政権交代に何を託したのか、根本から論じ直し、古い政治を乗り越える機会にしなければならない。

毎日新聞 2010年09月03日

民主代表選 小沢氏 疑問多い「財源」「カネ」

小沢一郎民主党前幹事長が公開討論会で表明した政見の重点は、官僚依存から政治主導への本格的転換、昨年衆院選のマニフェストへの回帰である。菅直人首相との「違い」と小沢氏の存在感を際立たせようという戦法のように見える。

しかし、小沢氏の主張には、笑顔を交えた力強い物言いにもかかわらず、疑問が付きまとう。

まず、「政治とカネ」である。政治資金をめぐる事件で、東京第5検察審査会が「起訴議決」をした場合の対応を問われた小沢氏は「逃げません」と語った。起訴手続きに従うという意味だろう。当然だが、首相が被告となれば前代未聞で国政への影響は免れない。ただし、それへの言及はなかった。

一方で、国会での説明となると突然、後ろ向きとなった。証人喚問や政治倫理審査会出席について「出ることに何の躊躇(ちゅうちょ)もない」と述べながら、「証人喚問や政倫審以上に強制力を持つ捜査を受けて何の実質的犯罪もないということなので国民に理解してもらいたい」と語った。検察捜査で不起訴となったのだから国会での説明は必要ないという言い分は納得できない。資金の使途を含め不明な点は多く、国会を通じ国民に説明する政治責任を果たすべきだ。

第二に、昨年のマニフェストを実行するための財源問題だ。小沢氏は「国家予算の組み替え」「無駄の削減」を強調しつつ、具体的には一括交付金を挙げた。地方の裁量でお金が使えれば、中央省庁の縦割り行政による補助金の無駄が削減できるという主張のようで、「30兆円以上の政策的経費がある」と強調した。

しかし、今年度予算の地方への補助金総額は21兆円で、公共事業関連はうち3・5兆円である。「30兆円」の根拠は何だろう。また、一括交付金にすれば地方自治体に回る金額が減ってもやっていけると言うが、本当にそうか。地方は減額には反対姿勢だ。そもそも、民主党の一括交付金は「地域主権」政策として打ち出されたものであり、地方の行政の自由度を高めるのが目的だったはずだ。

第三は「普天間」移設問題だ。沖縄が反対している限り、日米合意の計画が進まないのは小沢氏の主張の通りである。しかし、日米合意を尊重しつつ、沖縄、米政府と「よい知恵はないかと話し合う」とも言う。沖縄との協議は当然としても、沖縄が反発している日米合意との関係はどうなるのだろう。前日の記者会見で「今、自分の頭にあること」と腹案を示唆しながら、この日は「案を持っているわけでもない」と語ったのも不可解だ。

産経新聞 2010年08月31日

民主党代表選 密室談合決着に反対する

民主党代表選で、鳩山由紀夫前首相は30日夜、菅直人首相と会談し、両氏と小沢一郎前幹事長を柱とする「トロイカ体制」で合意した。これに先立ち鳩山氏は輿石東参院議員会長を交えて「密室談合」を続けた。

トロイカ体制の意味は不明だが、首相が人事面で「脱小沢」路線を放棄し、小沢氏の出馬取りやめに加え、小沢、鳩山、輿石各氏を要職で処遇することなどが想定されるという。これで「挙党一致」の態勢をとるというが、菅首相への国民の信頼を裏切るものといえ、受け入れられない。

こうした「密室談合」で取引しようというのは、民主党がかねて政治理念としてきた自民党の「古い体質」の払拭(ふっしょく)というテーマとまったく矛盾している。政権交代の意義すら否定しかねず、情けないとしか言いようがない。

代表選は菅首相と小沢氏の一騎打ちとみられていた。内政・外交の懸案をいかに解決するか、政策で競い合うべき舞台だ。

焦点は政権公約(マニフェスト)の取り扱いだ。参院選で消費税増税を提起した菅首相は、財政再建に取り組む姿勢を見せている。財政状況や今後の野党との政策面での連携を考慮して、マニフェストの一部修正も避けられないという立場をとっている。

これに対し、小沢氏は「国民との約束」であるマニフェストが原点であり、その実現を最重視する姿勢を強めている。消費税増税については、国民と約束していない課題だとして否定的だ。

だが、ムダの排除で財源を生み出すと主張していた小沢氏の論拠は、もはや崩れている。どのようにマニフェストの財源を捻出(ねんしゅつ)するかという具体論を語っていないことに小沢氏の問題がある。

さらに国民の政治不信を高めているのは、鳩山氏の動きだ。民主党と自由党の合併を提唱した鳩山氏は、小沢氏とともに政権交代を実現したことで「小沢氏への恩義」を繰り返している。

これは政党を私物化するような発想にほかならない。政治とカネの問題でけじめをつけ、自浄作用を発揮すると約3カ月前に約束したことをやすやすと踏みにじった。無責任と自己保身の民主党政治の転換が図れるのか。

無投票決着で表向きの対立を回避したとしても、得られるものはなにもない。

朝日新聞 2010年08月21日

民主党代表選 なんのために戦うのか

この人たちはいったい何をやっているのか――。少なからぬ有権者があきれているに違いない。

9月1日の民主党代表選告示に向け、党内各グループの駆け引きが激しくなってきた。困難な時代のかじ取りを担う指導者選びだというのに、あまりに内向きな主導権争いである。

鳩山由紀夫前首相のグループが開いた研修会は、衆参両院議員約160人が集まり、小沢一郎前幹事長に立候補を促す決起集会のようであった。

「反菅」だ、「脱小沢」だと、自民党政権時代にさんざん見せられた派閥中心の総裁選びを思い起こさせる。政権交代で民主党が手を切ったはずの「古い政治」そのものではないか。

菅直人首相は就任わずか3カ月である。参院選敗北の責任はあるにしても、実績を残すだけの時間がたっていないし、退かなければならないほどの失政もない。民意も続投支持が多い。

なにより首相交代は総選挙による、という政権交代時代の原則をまたぞろないがしろにするべきではない。

それでも、民主党が代表選をするのなら、その意味はどこにあるのか。

政権担当後の迷走でぼやけてしまった政策路線を定め直し、再出発の土台固めをすることにしかあるまい。

具体的には、財源不足で行き詰まった昨年の衆院選マニフェストを大胆に見直すのか、それとも文字通りの実現にこだわるのか。菅首相が提起した消費税の引き上げ論議に踏み出すのか、それとも棚上げするのか、である。

互いに相いれない二つの潮流を整理できないままでは、だれが首相であっても力強い政権運営はおぼつかない。ねじれ国会の下で不可欠な、野党との話し合いに臨む足場も定まらない。

2週間にわたる代表選で、党員・サポーターも参加して徹底した政策論争を行う。そのうえで勝敗が決すれば、あとは一致結束して政策を遂行する。民主党が進むべき道はそこにある。

寄り合い所帯で出発した民主党は、亀裂を恐れるあまり外交・安全保障など意見が割れるテーマで党内論議を怠ってきた。もう逃げは許されない。

菅首相はマニフェストや消費税に対する考えを封印し、争点をぼかそうとしているふしがある。これはいただけない。正式な立候補表明では対立をいとわず、堂々と信念を語ってほしい。

小沢氏周辺では「小沢首相」待望論が勢いを増しているという。しかし、政治とカネの問題や強権的な政治手法で政権交代への幻滅を招き、今の苦境を招いたのは小沢氏ではないか。

政治資金では、いまだに国会で何の説明もしていない。検察審査会の判断次第では強制起訴の可能性も残る。

けじめをつけないままの立候補は、民主党政権からの民心のさらなる離反を招くだけだろう。

毎日新聞 2010年09月02日

民主代表選告示 論戦の構図は見えた

民主党代表選が1日告示され、菅直人首相と小沢一郎前幹事長との対決がスタートした。消費税や普天間問題をどうするのか、そして小沢氏は政治とカネの問題をクリアできるのか。もちろん、さらに論戦を深める必要があるが、この日、両氏が発表した「政見」や、共同で行われた記者会見により、対決構図の輪郭が見えてきたのは確かだ。

両氏の違いの一つが財源問題だ。小沢氏は衆院選マニフェストの変更を迫られている現状を「官僚に任せっきりのやり方ではだめだ」と批判。行政の無駄遣いを徹底的に省くのが先だと重ねて主張した。また、地方への国の「ひも付き補助金」を一括交付金に変えることなどにより相当額の財源が出てくるとも語った。

だが、一括交付金への転換は来年度から制度化を目指す方針を菅内閣も既に決定しており、どれだけの削減効果があるかも定かでない。この日、菅首相は「政権を取ればカネが出てくる」と小沢氏が代表時代に財源論をあいまいにした点を暗に批判したが、やはり、小沢氏はもう少し具体的に示す必要がある。小沢氏も将来の消費税引き上げは否定しなかったのも、この日のポイントだ。その点についても、もっと聞きたい。

対する首相は国民の負担増となっても安心できる社会保障制度が必要との考えを示し、参院選後、封印していた消費税引き上げ問題に言及した。無駄の削減には限界があると考えているのなら、首相もまた具体的な数字を挙げて説明してほしい。

一方、米軍普天間飛行場の移設問題に関し、小沢氏は「十分沖縄県と話し合いをして解決策を見いだせる。今のままでは沖縄県民の反対で(実現)できない」と語ったが、具体的な解決策は「今、自分の頭にあることを言うわけにはいかない」と言及を避けた。

「腹案」があるのなら、なぜ、鳩山内閣時代に進言しなかったのかと思う人も多いはずだ。せめて、それは沖縄県内なのか、県外・国外なのかくらいは明確にしないと、肝心の沖縄県民も評価ができないのではないか。首相は「日米合意を白紙に戻せば混乱を招く」と反論したが、これも今後の重要な論点となる。

さらに政治資金問題について、小沢氏は「私だけが国家権力による強制捜査を受けたが、何ら不正行為はなかったことが明らかになった」などと語るだけだった。これでは不十分だ。元秘書の起訴や政治的な責任についてどう考えるのか。今後も問われることになろう。

菅首相も小沢氏も語ったように、今度の代表選は実質、首相を選ぶ選挙だ。両氏の討論や記者会見などの機会を極力増やしてもらいたい。

産経新聞 2010年08月27日

小沢氏出馬 国の指導者に不適格だ 「政治とカネ」で信頼失った

「とことんクリーンな民主党」を実現すると鳩山由紀夫前首相が、小沢一郎前幹事長とともに身を引いてから2カ月余りで再び小沢氏を担ぎ出す所業には、開いた口がふさがらない。

小沢氏は東京第5検察審査会から「起訴相当」の議決を受け、再度同じ議決が出れば強制起訴される。一連の疑惑を晴らそうとせず、国政の最高指導者を目指す姿には、強い疑問を呈さざるを得ない。25日の講演でモラルの破綻(はたん)に言及したが、信なくば政治は成り立たない。日本の最高指導者として不適格なことは明白である。

■「訴追逃れ」では論外

代表選は小沢氏と菅直人首相の一騎打ちになる情勢だ。首相も参院選で大敗したのに、なぜ続投するのか。説得力ある説明に欠ける。さらに両氏以外の選択肢もなさそうな点に、日本が滅亡の淵(ふち)に立つ窮状が示されている。

小沢氏は野党の再三の証人喚問要求を拒み、説明責任を果たしてこなかった。役職辞任というけじめはつけても議員辞職に相当するとの厳しい批判があるなか、政治的・道義的責任を取り切ったとは言い難い。そのうえ刑事責任の有無を今も審査されている。

小沢氏の出馬について、強制起訴を逃れることが目的ではないか、との指摘が党内外にある。憲法75条が「国務大臣は首相の同意がなければ訴追されない」と定めていることから、首相になることで「政治とカネ」の問題に決着をつけようというものだ。

だが、憲法は「すべて国民は法の下に平等」(14条)ともうたっている。そのような意図を疑われること自体、為政者たる資格はないだろう。

小沢氏サイドから「仮に首相になったとしても東京地検特捜部の再聴取に応じる」との考え方が示されているが、そもそも捜査の対象となる人物を首相に押し立てること自体、理解しがたい。

小沢氏が中央突破の姿勢を貫こうとすることは、法治制度の根幹を揺るがしかねない。小沢氏とすべての民主党議員が、はっきりと認識すべき点だ。

小沢氏は出馬を固めた理由の一つに、首相が挙党態勢作りを拒否したことを挙げた。「小沢氏はしばらく静かにしていた方がいい」と述べた首相が、党人事などを通じて実際に「脱小沢」の姿勢をとったことへの不満である。

小沢氏側の意向を鳩山氏が菅首相に伝えたものの受け入れられず、代表選での対決に踏み切った。このような主導権争いや政治的地位を保つための権力闘争は「私闘」ともいえ、情けない。

昭和60年、衆院議院運営委員長だった小沢氏は政治倫理審査会の「生みの親」だ。同時に政治倫理綱領を「疑惑をもたれた場合にはみずから真摯(しんし)な態度をもって疑惑を解明」すると定めた。平成5年の著書「日本改造計画」では、政治資金規正法の違反者に対して「言い逃れを封じるための連座制の強化」などを挙げ、規正法改正を実現してきた。

その小沢氏が国会で説明もせず、規正法の網を巧みにすり抜けているのでは、国民の政治不信が強まるのは当然だ。

■早急に国民の信問え

密室談合による調整を進めてきた鳩山氏の行動も、あきれ果てる。鳩山氏は母親からの巨額の提供資金の取り扱いをめぐる疑惑を招き、その使途に関する説明をまったく果たしていない。「政治とカネ」で国民の信を失った当事者だ。首相退陣後は政界を引退すると述べたこともあるが、一体どうなったのか。

日本はいま、内政、外交ともに国難ともいえる状況に直面している。経済面では急速な円高・株安への対応で、政府はなすすべもない。さらに、中国の軍事力の強大化が日本周辺で脅威になっているにもかかわらず、米軍普天間飛行場移設問題の解決はいまだめどが立っていない。日米同盟関係の空洞化は、日本の平和と安全を危険にさらしている。

党内の権力闘争に血道を上げている状況ではない。参院選での敗北以降、責任を取らず、けじめもつけようとしない菅首相が、2カ月以上にわたる政治空白を作っている。その政治責任は重い。

小沢、鳩山、菅3氏による政権たらい回しと無責任な対応は許されない。だれが民主党代表となり、首相になっても早急に国民の信を問うことを強く求めたい。

毎日新聞 2010年09月01日

民主党代表選突入へ せめて実のある論戦を

民主党の代表選への候補一本化をめぐる菅直人首相と小沢一郎前幹事長の会談が31日夕決裂し、1日告示の民主党代表選は、両氏による全面対決となった。私たちは「政治とカネ」の問題を抱えたままの小沢氏の代表選立候補に対して、大義を欠くと批判してきたが、こうなった以上は、この機をとらえて日本の明日につながる理念、政策論争を徹底的に行う場にするよう強く求める。

会談では、挙党態勢の中身については両者に相当な隔たりがあり、候補の一本化は図れなかった。ただし、両氏は会談後記者団に、選挙後はどういう結果であろうと協力関係に再び戻る、との意向は示した。

一本化の動きは、双方から起きていた。首相からすれば、党内最大グループを率いる小沢氏と激突しても勝利は約束されず、仮に代表を続投しても党が分裂状態に陥れば、ねじれ国会の下で政権運営は危ぶまれる。一方、小沢氏の立場も厳しい。毎日新聞の世論調査では菅氏が首相にふさわしいと答えた人は78%で、小沢氏の17%を大きく上回った。国会議員の基礎票で優位だったとしても小沢氏の「政治とカネ」に対する国民の目の厳しさは、陣営にも身にしみたはずだ。

菅、小沢氏両方ともガチンコ勝負に二の足を踏んだというのが、にわか一本化調整の真相だ。党を二分する選挙戦を前に早くも両陣営の多数派工作は激化し、党を一気に分裂状態に追い込みかねない様相だった。

そんな折、仲介役として立ち回ったのが鳩山由紀夫氏だ。首相との会談で自身も含めた「トロイカ体制」の構築で一致し、首相は「脱小沢」路線を軌道修正した。ところが肝心の小沢氏がそのレベルの合意では同調せず、首相と小沢氏の会談はもの別れに終わった。

両氏の対決の本質は、「脱小沢」体制で参院選を戦い、結果的に大敗した菅首相がその後の党、内閣の人事でどれだけ小沢氏側に譲歩するか、いわば、権力のシェア(分け前)争いにあった。小沢氏側からすれば、反小沢といわれる仙谷由人官房長官や枝野幸男幹事長らの更迭が念頭にあったといわれる。

首相は小沢氏との間で直接人事のやりとりはなかった、としているが、小沢氏周辺から具体的なポストについての注文があったことは認めており、人事を密室での取引で決めることはできない、との理由で拒否した、という。一方で、小沢氏は首相側との折衝の中で小沢氏にとっての挙党態勢にまで首相側の譲歩が得られなかった、としており、実態的には仙谷氏らの人事で折り合いがつかなかったものと推測できる。

だが、いずれにせよ、権力のシェアをめぐる攻防は、合意に至らなかった。これからは、政策、理念をめぐる戦いが始まる。首相はこの選挙で日本のあり方を根本から立て直す、との決意を明らかにした。小沢氏は1日の記者会見で所見、政策をつまびらかにする段取りだ。

ここで三つの注文をつける。

第一に、小沢氏は立候補にあたり政治とカネの問題について、説明を尽くさなければならない。東京地検特捜部に元秘書ら3人が起訴された政治資金規正法違反事件について、その事実関係、責任問題を改めて明らかにする必要がある。

また、検察審査会の審理の結果、事件が強制起訴となった場合、「訴追には時の首相の同意を必要とする」憲法の規定に合わせてどう対応するかも語らなければならない。仮に「小沢首相」になった場合、国会がこの問題で混乱するのは目に見えているからだ。腰低く丁寧に何度も説明責任を果たすことが立候補の資格要件と思ってほしい。

第二に、両氏は政策理念と基本政策を明らかにしなければならない。首相に対しては、「最小不幸社会」の理念を肉付けすると共に、昨年衆院選のマニフェストを今一度精査し、限られた財源の範囲内で優先順位をもう一回付け直すこと、さらに、参院選で主張した消費税上げを軸とした「強い経済・社会保障・財政」戦略を再構築、制度設計、工程表の全体像を描くことを求めたい。

小沢氏には、1993年に出版された「日本改造計画」以降の理念、政策の変遷の説明を求めたい。マニフェストの実現が最優先なら財源をどうするのか、普天間問題を含む外交・安保政策についても、かつてに比べると米国に距離を置くように見えるがその真意が何であるのか、骨太な構想を示してもらいたい。

第三に、政治手法、政局対応も知っておきたい。まずは、このねじれ国会をどう乗り切るか。連立なのか政界再編なのか。特に小沢氏が首相になった場合、解散・総選挙で国民の信を問う構えがあるのかどうか、を明らかにしてもらう必要がある。

ある意味では避けられない激突だったのだろう。だが、外交、経済両面で国のかじ取りが極めて厳しい状況下で、最低でも2週間の政治空白を作ることへの代償は求めざるを得ない。1年前になぜ民主党政権を誕生させたのか。せめてそのメリットを今一度国民に思い起こさせる大ぶりな政策論争を展開すべきだ。

産経新聞 2010年08月26日

民主党代表選 認められない「密室談合」

民主党代表選で再選を目指す菅直人首相と、小沢一郎前幹事長の対決によって党内の亀裂が深まることを避けるため、鳩山由紀夫前首相を中心とした調整作業が進められている。

小沢氏は24日夜に鳩山氏と協議し、出馬について「一両日中に判断したい」と伝えた。25日の政治セミナーでの講演で小沢氏が代表選に言及しなかったのも、調整過程にあることと関係しているのだろう。

首相と鳩山氏も25日に会談するなど、輿石東参院議員会長も含めて挙党態勢構築に向けた調整が続いている。首相再選後の主要ポスト配分を含めた党実力者による密室談合そのものではないか。

民主党が置かれた状況、民主党に何が求められているかを、まったく認識できていない動きとしか言いようがない。

民主党が直視すべきは、ばらまき政策を多用し、政治とカネの問題で自浄作用が働いていないことだ。国民の利益を守る政治にどう転換するかが問われている。答えは徹底した政策論議を通じて導き出すしかあるまい。

だが、菅首相の再選とその後の挙党態勢を前提とした一本化調整は、政策論争を封じてしまいかねない。今、民主党が結論を出すべきは、ばらまき政策の見直しであり、消費税増税論議の具現化である。景気を浮揚させるためにも欠かせない。

民主党政権は衆院選でのマニフェストに固執して、十分な財源の裏付けがないまま、子ども手当などを推し進めてきた。だが、これらが国民の支持を得られたとはいえず、景気浮揚効果もみられなかった。鳩山氏とともに小沢氏はそうした政策を推進してきた。

小沢氏は講演で、急速な円高に関して「日本経済は大きな打撃を受ける」と懸念を表明したが、有効な対策については具体的に明らかにしていない。

首相は参院選で消費税増税を提起したが、今後どう取り組むかは曖昧(あいまい)だ。首相の再選に反対する勢力には、「原点回帰」を名目としてばらまき政策を続け、消費税論議を封じ込める動きがみられる。消費税論議は埋没してしまいかねない状況といえる。

党内の権力バランスに重きを置く密室調整は即刻打ち切り、国民の前で公明正大に政策論議を行うべきである。

毎日新聞 2010年08月29日

論調観測 民主党代表選 「小沢氏出馬」評価に違い

9月14日投開票の民主党代表選は、小沢一郎前幹事長が立候補表明し、菅直人首相と一騎打ちの情勢になった。「全面対決」とも「戦争」とも形容される対立の構図が固まり、27日付各紙が社説で取り上げた。

全国紙は、朝日、日経を除き一本社説だった。今後の政治情勢を見据え、大きな節目ととらえたということだ。

自らの資金管理団体による政治資金規正法違反事件という「政治とカネ」の問題を抱える小沢氏の立候補について、評価に隔たりがあった。

毎日、朝日、産経の3紙は、小沢氏立候補への厳しい見方がメーン見出しになった。「大義欠く小沢氏の出馬」(毎日)、「あいた口がふさがらない」(朝日)、「国の指導者に不適格だ」(産経)と辛らつである。

日経も「小沢氏の出馬は疑問がぬぐえない」と指摘した。

一方、「あるべき日本の針路を論じ合って雌雄を決してほしい」(読売)、「『国のかたち』を堂々と論じてほしい」(東京)と述べた2紙は、小沢氏に注文を付けつつ、菅・小沢両氏の争いを前向きにとらえた。

毎日は選挙後、「党分裂や解体の過程に向かう可能性は否定できない」との見方を示した上で、経済の厳しい状況などを踏まえ「政治の混乱が加速し、限られた貴重な時間が空費されるならば、政治の自殺行為に等しい」と、警鐘を鳴らした。

朝日も、1年前に民主党が大勝した衆院選での有権者の期待に触れつつ「古い政治を乗り越える機会にしなければならない」と指摘した。

国民目線での行動を、両紙は民主党に求めたと言える。なお朝日は28日付社説でも取り上げ、政策論争を促した。

読売と東京は、菅・小沢対決が民主党の分裂、政権崩壊に結びつくことも致し方ないとの考えを示した。

読売は、03年の民主・自由両党の合併にさかのぼり、主要テーマで党の基本政策が確立していないとし、両氏に対し、党分裂や政界再編に至る可能性におくするなと訴えた。東京も小沢氏が勝っても負けても混乱や政界再編の可能性があると指摘したうえで、多少の混乱はやむを得ないと結論づけた。

代表選と衆院解散を結びつけたのは2紙だ。毎日が「『小沢首相』が誕生した場合、衆院解散で民意を改めて問うことが筋である」と述べたのに対し、もともと民主党政権自体に批判的な産経は、誰が首相になっても早急に国民の信を問えと主張した。【論説委員・伊藤正志】

産経新聞 2010年08月25日

民主党代表選 第三の候補はいないのか

民主党代表選は、菅直人首相の出馬表明に続き、小沢一郎前幹事長の動向に注目が集まっている。だが、両氏のいずれにも、日本丸のかじ取りを担うことには強い疑問を呈したい。

菅首相は参院選で大敗し、国民の信を失ってしまった現実をどう考えているのか。敗北のけじめをつけないことで、2カ月以上の政治空白をつくることになった。その責任はきわめて大きい。

小沢氏は自らの政治資金管理団体をめぐる政治とカネの問題で、東京第5検察審査会から「起訴相当」議決を受けている。同審査会が同じ議決を行えば「強制起訴」となる。一連の事件では国会議員を含む元秘書ら3人が起訴されている。政治的かつ道義的責任をあいまいにし、疑惑の渦中にある人物は、日本の指導者になる資格はないといってよい。

両氏とは別の第三の候補者が出馬して、日本をどうするかを語ることこそがいま、求められている。民主党は国民の意識と乖離(かいり)している現実を直視すべきだ。

首相の言動のいいかげんさを示すのは、23日の新人議員との懇談会で、「小沢前幹事長も含めて前向きな態勢を作る」などとした発言だ。首相支持派と反対派による党内対立の拡大を懸念する新人らの不安を考えたのだろう。

だが首相は2カ月前、「小沢氏はしばらく静かにしていた方がいい」と語り、政権運営で小沢色を払拭(ふっしょく)する考えを示していた。挙党態勢に言及し、小沢氏に配慮を示すことで代表選を乗り切りたい思惑なのだろうが、こうした発言のぶれを露呈していて信頼を得られるだろうか。

一方、小沢氏支持グループは、検察審査会が小沢氏の刑事責任の有無を検討していることは、代表選出馬の妨げにはならないと主張している。

また、小沢氏は衆院選マニフェストの修正の動きを牽制(けんせい)し、公約実現を主張している。だが、子ども手当などのばらまき政策の財源難に対し、小沢氏はムダの排除で生み出すことができると主張してきた。実際にはそうはならず、ガソリン税などの暫定税率廃止も撤回した。政策的な疑問や矛盾を放置しているにすぎない。

再選を目指す首相以外に、取りざたされる対抗馬が小沢氏だけという現状を憂慮する。民主党のあり方が根本から問われている。

毎日新聞 2010年08月27日

民主党代表選 大義欠く小沢氏の出馬

党分裂の可能性もはらむ、重大な岐路である。9月の民主党代表選は動向が焦点となっていた小沢一郎前幹事長が出馬を表明、続投を目指す菅直人首相との全面対決が確実な情勢になった。

最大グループを率いる小沢氏の出馬で党は二分されそうだが「政治とカネ」の問題を抱えたまま、首相の「脱小沢」路線に反発しての出馬は大義を欠くと言わざるを得ない。政権交代を実現したさきの衆院選からわずか1年、むき出しの闘争が党を分裂状態に追い込み、経済が混迷を深める中で政治の混乱に一層、拍車をかける懸念は深刻である。

つい2カ月半前のあの光景はいったい何だったのだろう。小沢氏と鳩山由紀夫前首相は「政治とカネ」の問題をめぐる政権混乱の責任を取り、「クリーンな政治」の実現に向け、互いに手を取り合って政権の表舞台から去ったはずではないか。

ところがその2人が会談し、小沢氏は「不肖の身であるが出馬の決意をした」と鳩山氏の支援を出馬の理由として語り、鳩山氏は「小沢氏は(政治とカネの)問題を背負いながらも国のため命をかけたいと決断をした」と持ち上げた。多くの国民の目に異様に映ったに違いない。

党首選びを機に実力者が名乗りを上げ、政策論争を通じ競うことは本来、望ましい姿だ。しかし、事実上の首相選びと重なる今代表選に関しては、小沢氏の出馬が抱える問題は大きいと言わざるを得ない。

小沢氏の資金管理団体による土地購入をめぐる政治資金規正法違反事件は、まだ決着していない。この問題で小沢氏による国会での説明は一度も行われておらず、政治的な説明責任が果たされたとは到底、言えない状況である。

しかも、小沢氏自身を東京第5検察審査会が一度「起訴相当」と議決しており、2度目の議決次第では強制起訴される可能性がある。憲法の規定により閣僚の訴追(起訴)には首相の同意が必要とされ、首相の起訴も自身の同意が必要とみられる。「推定無罪」が原則とはいえ、こうした問題に直面しかねない小沢氏は首相候補として適格性が問われる。各種世論調査で小沢氏が要職に就くことに世論の風当たりがなお強いことは当然である。

小沢氏擁立に至るまでの、かつての自民党に勝るとも劣らない国民不在の調整ぶりも問題だ。鳩山氏や小沢氏を支持するグループは「挙党態勢」の構築を首相らに求めたが、要するに幹事長人事などを通じての「脱小沢」路線の転換要求である。

小沢、鳩山氏は衆院選公約(マニフェスト)修正などをめぐる首相の対応に不満を募らせていたというが、議論する機会はいくらでもあったはずだ。結局、このまま党中枢から排除される危機感から小沢氏が権力闘争に踏み切り、それを鳩山氏が後押ししたのが実態ではないか。

軽井沢で開いたグループの会合に小沢氏を招くなど、出馬に至る過程で大きな役割を果たしたのは鳩山氏だ。首相退陣だけでなく一度は今期限りの議員引退まで表明しながら菅、小沢両氏の仲介役として動き、「脱小沢」見直しが首相に拒まれると小沢氏支援に回った。一連の言動はあまりに節度を欠いている。

選挙戦は党を二分する激しいものとなる。小沢氏自身を対立軸とする戦いが泥沼化した場合、仮に選挙で勝敗を決しても修復できないしこりが残り、党分裂や解体の過程に向かう可能性は否定できない。財政危機が深刻な中で急激な円高、株安で経済が動揺するかつてない厳しい状況に日本は追い込まれている。そんな中で政治の混乱が加速し、限られた貴重な時間が空費されるならば、政治の自殺行為に等しい。

混乱を招いた菅首相の責任は重大である。「脱小沢」路線を堅持したことは理解できるが、そもそも参院選の敗北後、政権を立て直す方向を明確に示さなかったことが小沢氏擁立の動きを加速した側面がある。

今代表選では党員・サポーター票も大きな比重を占める。首相は財政再建、社会保障の再構築に向けたビジョンはもちろん、マニフェストのどの部分を維持し、見直すかの方向性を勇気を持って語る必要がある。財務省主導となってきた政権運営、「脱官僚」路線の見直しにみられる改革マインドの後退についても真剣な再点検を迫られよう。

一方で、小沢氏も出馬するのであれば、自身の「政治とカネ」をめぐる問題について最低限、国民に改めて説明すべきだ。マニフェスト順守など原点回帰を訴えるにしても、どう財源を捻出(ねんしゅつ)するかを具体的に語らねばならない。仮に「小沢首相」が誕生した場合、衆院解散で民意を改めて問うことが筋である。

政権交代の果実よりも混乱が目立つ中、首相、小沢氏、鳩山氏という新鮮味に乏しい3氏が主役を演じた抗争劇に国民の目は冷ややかだろう。政策不在の多数派工作が過熱すれば失望感はいよいよ深まり、党の政権担当能力への疑問も強まろう。民主党のみならず、日本政治が転落の間際にある中での代表選であるという自覚を強く求めたい。

産経新聞 2010年08月18日

民主党代表選 数合わせより政策論議を

民主党代表選の来月1日の告示を前に、鳩山由紀夫前首相が19日に長野県軽井沢町で開くグループ研修会に小沢一郎前幹事長が出席するかどうかが注目されている。

鳩山、小沢両氏の連携で多数派が形成されれば、代表選の帰趨(きすう)が決するとみられているためだ。小沢グループ内には小沢氏自身の出馬を求める動きもある。続投を目指す菅直人首相のほかに出馬意思を明確にした議員はまだいないが、いくつか注文しておきたい。

最大の問題は、首相支持派とそれに対抗しようとする小沢氏を中心としたグループの間の綱引きという内向きな争いに終始し、日本をどうするかの政策論議がきわめて低調なことだ。首相選びにも直結する代表選の意味を、当の民主党議員たちが正しく認識しているのか大いに疑問である。

内政・外交にわたり政治を迷走させ、先の参院選で国民の信を失った民主党政権は、直ちに政治の軌道修正を図る必要に迫られている。だが、首相は具体論を先送りし、それをテーマに打って出ようという党内の動きも鈍い。これでは、国家統治の責任を放棄するものと国民の目には映るだろう。

鳩山、小沢両グループが連携して政策的に何を目指すのかも見えてこない。両氏は衆院選マニフェストの重視など「原点回帰」の姿勢を強めている。子ども手当などばらまき政策への批判に耳を傾けないなら、国民の利益を守れない政治が続くだけだ。

そもそも鳩山、小沢両氏は政治とカネの問題をめぐって国会での説明責任を果たしていない。とくに、東京第5検察審査会から「起訴相当」の議決が出ている小沢氏に対する国民の不信感はきわめて強い。率先して証人喚問などに応じていくことが欠かせない。

党内には民主党が政党としての綱領を持たないことや、与野党に異論のある日韓併合100年に合わせた首相談話を問題視する動きも一部にある。これまで放置してきた国のあり方や、政党の根幹にあたる考え方を明確にする好機と位置付けるべきだ。

参院選で掲げた消費税問題の取り扱いも避けられない。党内論議を加速させ、超党派の協議に持ち込む道筋を示す必要がある。衆参のねじれを生かし、必要な政策を実現する気があるのか。政権与党の基本姿勢が問われている。

毎日新聞 2010年08月18日

民主代表選 政策と結束固める場に

9月14日の代表選に向け、民主党の各グループの研修会が始まった。

菅直人首相を再選するのか、それとも別の人に代えるのか、その場合どことくっつけば過半数を制するのか、サポーター票はどこが有利なのか、それと関連して新しい執行部の布陣はどうするのか、合従連衡を狙っての党内政局がスタートする。

ここで勘違いしてほしくないことが二つある。一つは、与党、政権政党としての代表選だ、ということである。代表交代は、一国の首相の首をすげ替えることを意味する。この内外重要な局面で、党内事情により首相を在任3カ月で使い捨てにするのであればそれだけで公党としての責任は免れない。しかも、前任者が9カ月で退陣した後だ。人材不足と選出ミスの不明を恥じてただちに下野すべきである。どうしても代えざるを得ない、というのであれば、次に選ばれた人物はただちに解散・総選挙で国民の信を問うべきだろう。

与党の党首を選ぶということは、それほど厳しいことである。すぐさま世界を相手に国の安危を背負わねばならない。そこは野党気分では困る。自民党が長期政権下で2、3年ごとに総裁選を実施していたのは、政権交代が起こりにくい中選挙区制ゆえに首相ポストを派閥間でたらい回しする、という疑似交代の知恵だった。小選挙区主体の制度になった今は、首相の交代は、衆院選での国民の投票で実現すべきだろう。当然のことながら代表任期を機械的に2年とする党規約も変えるべきだ。

もう一つは、菅VS小沢一郎前幹事長による数の争いではなく、あくまで政策が肝心だということだ。1年前なぜ民主党政権が誕生したのか、その原点を思い起こすべきだ。政治主導による新しい政策実現を国民は新政権に託したのではないか。

それには基本政策を鍛え直すことだ。まずは、あの時のマニフェストを今一度精査し財源との兼ね合いで優先順位をもう一回付け直すこと。次に、参院選で主張した消費税上げを軸とした強い経済・社会保障・財政戦略を再構築し、制度設計、工程表の全体像を描くこと。そして、外交・安保政策を当面の普天間問題と中長期的な戦略とに分別して、国民的な英知を結集することである。

政策があって初めてそれが数となり、その二つが相まって政治的パワーに転化する。開かれた場での徹底的な政策論争、そして、雌雄を決した後の一致結束。国民が代表選に望んでいるのはそういうことではあるまいか。実際問題として、民主党はそのプロセスがあって初めてねじれ国会に対応できる強い与党になれるのだ。菅首相もじっくり休んだ後はひたすら政策を磨き直してほしい。

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