高齢者の不明拡大 見守り支援の拡充を

毎日新聞 2010年08月14日

高齢者の不明拡大 見守り支援の拡充を

かつては100歳というだけで珍しかった。100歳の双子の姉妹がテレビで人気になったのは記憶に新しい。それが今や4万人を超える。20年後には27万人とされる。高齢者の所在不明が各地で続々と浮かび上がっている。今のうちに所在確認ができる体制を作っておかないと大変なことになりはしないか。

ある人がどこに住んでいるのか、生きているのか亡くなっているのかという個人情報が載った公的記録は住民基本台帳や戸籍だが、いずれも本人や家族からの申請によって内容の信頼性が担保されている。所在不明者の広がりは、性善説に基づいた従来の申請主義だけでは確認が難しくなった現状を物語っている。

自治体が職権で台帳から氏名を削除することもできるが、やはりその人の不在の確認が前提だ。行政権限によって福祉サービスを決めていた措置制度のころは、市町村の福祉事務所がそれぞれの高齢者宅を訪問して健康状態や暮らしぶりを調べ、援助台帳を作っていた。しかし、介護保険制度では高齢者が事業所と契約して福祉サービスを受けるのであって、行政の直接的な関与は大きく後退した。ケアマネジャー、相談支援事業者、地域包括支援センターもあるが、どこも余裕がない。

民生委員が敬老の日に高齢者宅を訪ねて祝い金や記念品を渡し安否確認をしている自治体も多い。だが、所在不明を区役所に連絡したところ、役所内で情報が伝わらなかった例もある。住民基本台帳は総務省、戸籍は法務省、年金記録は厚生労働省という縦割りの弊害は、自治体内の情報伝達にも影響している。

まず、こうした個人情報の管理を一元化し一体的な運用ができるシステムの構築が必要だ。地域福祉を支える人員も圧倒的に足りない。独居の高齢者や認知症になった夫婦だけで暮らしている世帯も珍しくなくなった。特に高齢人口が急激に増えている都市部は深刻だ。福祉サービスは民間の福祉事業所に任せても、安否確認を含めた権利擁護は行政がもっと責任を持ってやるべきことだ。

介護保険の施行と同時に導入されたのが成年後見である。判断能力が衰えた高齢者の財産管理や身上監護を担うための制度だ。もしも100歳以上の高齢者に後見人が付けば、所在不明問題などが起こる可能性は著しく少なくなるはずだ。ただ、現状では親族が後見人になるケースが多く、財産管理をめぐるトラブルも起きている。ここにも公的な関与がもっと求められる状況がある。

年金の搾取や悪質商法被害などにあわないために、また災害時の所在確認のためにも、高齢者を見守る体制を飛躍的に拡充すべきである。

読売新聞 2010年08月16日

所在不明高齢者 安否確認の仕組み作りを急げ

実在しないまま、書類の上では年齢を重ねていく“長寿者”が、なぜ、これほどいるのか。

東京都足立区で111歳とされる男性のミイラ化した遺体が見つかった事件に端を発した、所在不明高齢者の問題は、日を追うごとに拡大し続けている。

全国の自治体が100歳以上の人について調べているが、存否が分からない高齢者は、読売新聞の集計で240人を超えた。さらに増えることは確実だ。

神戸市で「125歳の女性」がいるはずの場所は、30年近く前に市の公園になっていた。公園用地を買収した部署は、住民登録の部署と情報を共有しなかった。

大阪市では「127歳の男性」は44年前に、「123歳の女性」は30年前に、住所地とは別の区で死亡届が出ていたのに住民登録に反映されていなかった。

行政の怠慢というしかない。

一方で、発端となった足立区のケースのように、家族が確信的に死亡を隠し続ける場合もある。

今回の問題をきっかけに、三重県で56歳の男が2年前に当時80歳の母親に食事を与えず死なせ、遺体を白骨化するまま自宅に放置していた事件が発覚した。

同様のことがほかにもないか、よく調べなければならない。

行方不明ではあるが「生きている」と家族が信じているケースもあろう。しかしその場合でも、不明者の年金を受け取り続けることは、正当な行為とは言えまい。

こうした事件や不適切な年金受給が生じるのは、住民登録と確認作業を、いいかげんなままで済ませてきたからだ。

今のところ、調査は100歳以上に絞られているが、100歳未満の高齢者も当然、実態を把握しなければならない。

その場合、対象者は90歳以上で約130万人、75歳以上だと国民の1割を超えて約1370万人になる。全員の所在や安否を面接して確認するには、膨大な労力と時間がかかる。

医療や介護の利用記録を積極的に安否確認に活用すべきだ。

たとえば、75歳以上の人が一定期間、診療も介護も受けていなければ、行政が権限をもって確認に動けるような仕組みが要るのではないか。

政府が導入を目指している「社会保障と税の共通番号」ができれば、そうした方策も講じやすくなる。個人情報保護とのバランスをとりながら、超高齢社会に役立つ番号制度を整えるべきだ。

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