放駒新理事長 外部の風が通る組織に

朝日新聞 2010年08月14日

相撲理事長交代 改革への不安募る新体制

不祥事で揺れ続ける角界のトップが代わった。一昨日あった日本相撲協会の臨時理事会で、武蔵川親方が理事長の辞任を表明した。新理事長には、理事12人による選挙で、武蔵川親方が推した放駒親方が選ばれた。

改革に大なたを振るうべき新しい理事長には本来、しがらみがなく組織運営にたけた外部の人材が適当だ。監督官庁の文部科学省も協会の自浄能力に疑問を抱き、外部からの登用が望ましいとの考えを示してきた。

それでも内部理事たちは「力士出身理事長」にこだわった。改革を推し進める上で不安が募る新体制である。

すっきりしない交代劇だった。

武蔵川親方が示した理由は「体調がすぐれず、医師から理事長職を続けるのを止められた」こと。理事会で、野球賭博問題など一連の不祥事の責任に触れることはなかったという。

「協会再生のため頑張りたい」と理事長に復帰してから、わずか1週間である。辞任に際し、在任中の不祥事の責任についての考えを公にするのが筋だろう。だが昨日発表したコメントも、健康上の理由を述べただけだ。

弟子の大麻問題で辞任した北の湖元理事長に続いて、事実上の引責辞任であるはずだ。組織の長としてけじめをつける気が本当にあったのか。

トップが2代続けて任期途中に辞任するという事態は、角界に自己統治能力が欠けていることの証しだ。放駒理事長が就任について「私自身戸惑っている」と話したことも心もとない。

維持員席を巡る問題や野球賭博など立て続けに明らかになった不祥事の決着はついていない。それどころか新たに力士2人が野球賭博に関与していたことが分かり、放駒理事長は就任早々遺憾の意を表明した。違法行為を隠したまま名古屋場所の土俵に上がっていたことはファンへの背信だ。裏カジノ疑惑を報じられた佐ノ山親方の問題など、課題は目前に山積している。

協会全般の改革を目指す「ガバナンス(統治能力)の整備に関する独立委員会」は暴力団排除対策を協会に提言したが、これは角界改革の端緒に過ぎない。閉鎖性の高い部屋制度や巨額の金がからむ年寄株の問題などが、独立委が目指す改革の「本丸」となる。

ところが、業務委託している弁護士を「文科省寄り」と決めつけて、解任しようとした騒動が象徴するように、親方衆は今も内向きの論理から抜け出せない。

改革には痛みが伴う。既得権益を切り崩される、と親方衆は身を固めるだろう。だが、ここでやり遂げねば、いよいよ世の中から見放される。

放駒理事長は外部役員の数を増やす考えも持っているようだ。目に見える大胆な体制の変革を望みたい。新執行部の本気度が問われている。

毎日新聞 2010年08月14日

放駒新理事長 外部の風が通る組織に

日本相撲協会の新しい理事長に元大関・魁傑の放駒親方が就任した。

ここ数年、協会をめぐる不祥事が相次ぐ中、数少ない「クリーンな理事」といわれたのが放駒親方だった。野球賭博事件発覚後の7月、武蔵川前理事長自身が名古屋場所中の謹慎処分を受けた際、実現しなかったものの、親方衆が「理事長代行」に推したのも放駒親方だった。

いわば「最後の切り札」としての放駒親方の理事長就任だが、結果的に力士出身の「まわし組」からの昇格という先例を踏襲したトップの交代劇に批判的な見方も強い。

監督官庁の文部科学省をはじめ、外部の有識者で作る「ガバナンス(組織の統治)の整備に関する独立委員会」の奥島孝康座長も「新理事長には外部理事がふさわしい」と発言していた。

私たちも相撲界の抜本的な改革を進める上で、「外部理事長」に委ねるべきではないかと提言してきた。協会の閉鎖的な体質を変えるには協会トップを含めた体制の刷新が欠かせないと思うからだ。

武蔵川前理事長が辞任する直前にも、協会は何を考えているのかと首をかしげる事態が起きている。独立委員会のアドバイザーを務め、協会広報部への助言を委託している望月浩一郎弁護士に対し、協会は一方的な解約を通知、それに批判が集まると直ちに撤回と、迷走が続いた。

「外部理事長」を求める周囲の声を押しのける形で協会は「まわし組」内での理事長の継投を選択した。ただし、新理事長も改革そのものを後戻りさせることはできない。

12日に暴力団排除対策と維持員席制度の改革について最終答申をまとめた独立委員会は今後、年寄名跡や相撲部屋のあり方などについても改革のメスを入れようとしている。

これらは相撲界の根幹にかかわる制度だ。それだけに、理事長ポストを外部に委ねることに「まわし組」には強い抵抗があったのだろう。しかし、多くのファンに支えられている大相撲が旧態依然とした組織運営を続け、これ以上、不祥事の温床を残すことは許されない。

幸い、放駒新理事長は前理事長の謹慎期間中、代行を務めた村山弘義・外部理事が矢継ぎ早に実施した警察との協力体制の構築などについて「内部の人間ではできなかった行動」と評価し、今後も外部理事に「副理事長」ポストを用意するなど、協会運営に外部の考えを反映させる方策を検討しているといわれる。

こうした考えは放駒新体制のもとで早急に実現してもらいたい。今回の改革を「千載一遇のチャンス」ととらえる発想が今こそ相撲界には必要ではないだろうか。

読売新聞 2010年08月14日

放駒新理事長 改革断行し開かれた相撲界に

理事長の交代を大相撲再生の契機としなければならない。

日本相撲協会の武蔵川理事長(元横綱三重ノ海)が辞任し、その後任の第11代理事長に放駒(はなれごま)親方(元大関魁傑)が選出された。

野球賭博問題で角界への信頼が失墜する中、新理事長には相撲協会の抜本改革を断行する強いリーダーシップが求められる。

武蔵川理事長は2年前、大麻問題の責任をとって退任した北の湖理事長(当時)の後を継いだ。改革に意欲をみせたものの、角界を立て直すには至らなかった。

名古屋場所では、自らの部屋の力士が野球賭博にかかわっていたため謹慎処分を受け、場所運営で指導力を発揮できなかった。

体調不良を辞任の理由に挙げているが、事実上の引責辞任といえるだろう。

新理事長について、相撲協会を監督する文部科学省は、力士出身者ではなく、外部の人材が望ましいとの意向を示していた。

度重なる不祥事で、閉鎖体質に染まった親方たちが自浄能力を発揮できなかった実態を踏まえての判断だったのだろう。

だが、理事会は“身内”の理事長を選んだ。協会トップの理事長は、角界の内情を知る力士出身者にしか務まらないという理事会の意思の表れといえる。

放駒新理事長は現役時代、真摯(しんし)な土俵態度で人気があった。親方としては、横綱大乃国らを育て、実直な人柄でも知られる。相撲協会は、そのクリーンなイメージに再生の(かじ)取りを託したわけだ。

放駒新理事長は、「引き受けた以上は最大の努力を払いたい」と語った。山積する課題に対処するために、外部役員の増員を検討する考えも示した。

「角界の常識は世間の非常識」と言われる内向きの論理を排除し、外部の意見を積極的に取り入れ、開かれた相撲協会へと変えていってもらいたい。

最優先で取り組まねばならないのは、野球賭博問題などで浮き彫りになった暴力団との関係を断ち切ることだ。暴力団排除対策を速やかに実施し、徹底することが、信頼回復の第一歩となる。

相撲協会の組織改革など、中長期的な課題も避けて通れまい。

秋場所の初日は9月12日だ。新理事長が先頭に立ち、あと1か月足らずの間に、ファンが納得する改革の道筋を示す必要がある。

そうでなければ、NHKの中継中止などで揺れた名古屋場所の騒動を繰り返すことになる。

産経新聞 2010年08月14日

大相撲の危機 小細工やめて抜本改革を

日本相撲協会は、武蔵川理事長(元横綱、三重ノ海)の辞任を受けて放駒理事(元大関、魁傑)を新理事長に選んだ。一方で、12日にも予定された「暴力団排除宣言」の実施は見送られた。新たに2力士の野球賭博への関与も明らかになった。改革のスピードは遅いと断じざるを得ない。

武蔵川理事長の後任について、監督官庁の文部科学省や、協会の全般的な改革を目指す第三者機関「ガバナンス(統治)の整備に関する独立委員会」側は外部からの起用を求めていた。だが協会内には力士出身にこだわる声が根強く、5日の武蔵川理事長復帰、12日の新理事長誕生と人事は混乱を極め、改革はなおざりにされた。

この間には、賭博問題を調べる特別調査委員会委員や文科省との連絡担当を務める望月浩一郎弁護士を一方的に解約し、独立委の奥島孝康座長に「改革をしないという意思の表れと受け止めるしかない」と批判された。あわてた協会側は一転して続投を要請したが、望月弁護士は文科省との連絡担当などの業務について返事を保留している。不信の根は深い。

先延ばしとなった「暴力団排除宣言」も、本格改革のスタートにすぎない。外部に向けた宣言は、自らの体質改善を伴わなくては実のあるものとはならない。独立委は今後、部屋制度や年寄名跡(親方株)といった問題にもメスを入れる。新理事長には、予想される「まわし組」の強烈な反発を抑え込む気概が求められる。

放駒新理事長は誠実な人柄で知られるが、就任を受けた会見で改革への意気込みを問われて「改革というより、いま起きている問題を早く解決したい」と答えた。

しかし、いま求められているのは対症療法的な小細工ではない。根幹からの本格的な改革であることを強く自覚すべきだ。

名古屋場所で賜杯なき涙の全勝優勝を飾った横綱、白鵬は、夏巡業で謹慎明けの力士を次々と土俵に上げて土まみれにし、再生への意欲を示した。会場周辺を自発的に清掃する力士らの姿もあった。現役の思いを、協会幹部は真摯(しんし)に受け止めなくてはならない。

9月12日の来場所開幕まで1カ月もない。テレビ中継のない名古屋場所では、多くの相撲ファンが寂しい思いをした。同じ思いをさせないため、角界は総力をあげて改革に取り組むべきだ。

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