米国の景気減速懸念から、円高・ドル安に歯止めがかからない。為替安定へ、政府と日銀が連携を強化し、機動的に対応すべきだ。
円相場は1ドル=84円台に上昇した。1995年以来、15年ぶりの水準だ。この年に79円台の史上最高値を記録したが、このまま円高が進めば、最高値をうかがう展開もあり得る。対ユーロでも円が上昇し、円独歩高といえよう。
円急騰は、ようやく業績が好転し始めた自動車、電機などの輸出企業の収益を圧迫し、景気回復に悪影響を与えかねない。
円高に伴う輸入価格の下落により、日本のデフレがさらに長期化することも懸念される。
円高加速が嫌気され、12日の東京株式市場の株価は急落した。今後の為替相場の動きを警戒しなければならない。
円高が進んだきっかけは、米連邦準備制度理事会(FRB)が10日、景気判断を大幅に下方修正し、事実上の追加金融緩和策に踏み切ったことである。
市場への資金供給量を減らさずに、長期金利の低下を促し、景気を下支えする狙いだ。米国でも台頭し始めたデフレ懸念に対し、先手を打つ思惑もあろう。
しかし、市場ではむしろ、雇用悪化と個人消費の低迷など、景気減速への警戒感が一段と高まったといえる。米国の金利低下で、日米金利差が縮小するという見方も重なり、ドルが売られている。
比較的安定した通貨と受け止められた円が、“消去法”で買われている事情もある。
気がかりなのは、FRBの追加策による景気テコ入れ効果が限定的とみられる点だろう。財政赤字を抱えたオバマ政権も、新たな景気刺激策を実施しにくい。政策に手詰まり感がみえる。
そこで米当局は、当面は輸出で景気を下支えしようと、輸出促進にプラスになるドル安の進行を容認する構えのようだ。財政危機問題を抱えた欧州も事情は同じで、通貨安頼みがうかがえる。
そんな中、円急騰に無策ぶりが目立つのが日本政府と日銀だ。
日銀は10日、金融政策の現状維持を決めたばかりだが、量的緩和策の拡充を含め、追加策の検討が急務ではないか。あまりにも危機感が足りない。
経済産業省は円高が経営などに与える影響について、企業調査を月内にまとめるという。しかし、これも緩慢すぎる。
政府・日銀は、円高阻止の為替介入をためらうべきでない。
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