15年ぶり円高 相場安定にあらゆる手を

朝日新聞 2010年08月14日

円急騰 政府・日銀は連携強化を

外国為替市場で円高が続き、15年ぶりの水準を記録する進展をみせた。景気への影響が心配だが、同時に懸念すべきは、政府・日銀の連携不足や対応のもたつきである。

このところの円高の引き金となったのは、米国の景気の先行きに対する不安だ。今後も金融緩和が続くとの観測や、連邦準備制度理事会(FRB)の公開市場委員会での決定が緩和策の一環とみなされたのを機に、ドル売り・円買いの動きが加速した。

米国は失業率が高止まりし、消費が低迷している。オバマ政権が財政の健全化を公約していて景気てこ入れ策には限界があるため、米国も日本のようなデフレに陥るのではないかといった懸念が台頭し、株安とドル安の連鎖を引き起こした。

ギリシャ危機などで安くなったユーロに続いてドルが売られる結果、日本はデフレ下で巨額の財政赤字を抱えているのに消去法で国債や円が買われるという展開になっている。

円高が続けば、日本の輸出産業の回復を遅らせ、長期デフレからの脱却も難しくなる。だが、日銀は10日までの金融政策決定会合で円高を静観する姿勢を示した。野田佳彦財務相も11日の段階では円高に対してコメントすることに消極的だった。このため、投機筋に足元を見られた感がある。

菅直人首相が一昨日、仙谷由人官房長官に「ちょっと動きが激しいのではないか」と電話し、野田財務相の緊急会見、日銀の総裁談話発表と続いた。この効果で円高にひとまずブレーキがかかったのは幸いだった。

しかし、もっと早い段階でスムーズに対応できなかったものだろうか。

昨年11月のドバイ・ショックでも84円台後半まで円が上昇した。今回の円高は、インフレ率の違いなどを考慮した実質実効為替レートでは、15年ぶりとまでは言えない面もある。

円高で浮足立ってはいけない。とはいえ、投機筋の行き過ぎた円買いを早期に抑える努力を政府・日銀に求めたい。「口先介入」だけでも効果が見込める局面なら、静観やノーコメントが賢明な策とは思えない。状況しだいでは円売り介入も辞さない、との姿勢を示すことも大切である。

民主党政権が為替の問題に不慣れという事情もあるだろうが、いつまでも後手に回ってはいけない。

欧米の政府や中央銀行との対話も、今のままでは心もとない。

米国は、輸出を増やすドル安を容認しているふしがある。財政赤字削減に動く欧州も、ユーロ安を追い風にした輸出に期待を寄せている。

急激な為替変動が世界経済の回復を損なったり、戦前のような為替切り下げ競争に陥ったりしないよう、各国に理解と協力を求めることも必要だ。

読売新聞 2010年08月13日

円急騰 政府・日銀は為替安定へ動け

米国の景気減速懸念から、円高・ドル安に歯止めがかからない。為替安定へ、政府と日銀が連携を強化し、機動的に対応すべきだ。

円相場は1ドル=84円台に上昇した。1995年以来、15年ぶりの水準だ。この年に79円台の史上最高値を記録したが、このまま円高が進めば、最高値をうかがう展開もあり得る。対ユーロでも円が上昇し、円独歩高といえよう。

円急騰は、ようやく業績が好転し始めた自動車、電機などの輸出企業の収益を圧迫し、景気回復に悪影響を与えかねない。

円高に伴う輸入価格の下落により、日本のデフレがさらに長期化することも懸念される。

円高加速が嫌気され、12日の東京株式市場の株価は急落した。今後の為替相場の動きを警戒しなければならない。

円高が進んだきっかけは、米連邦準備制度理事会(FRB)が10日、景気判断を大幅に下方修正し、事実上の追加金融緩和策に踏み切ったことである。

市場への資金供給量を減らさずに、長期金利の低下を促し、景気を下支えする狙いだ。米国でも台頭し始めたデフレ懸念に対し、先手を打つ思惑もあろう。

しかし、市場ではむしろ、雇用悪化と個人消費の低迷など、景気減速への警戒感が一段と高まったといえる。米国の金利低下で、日米金利差が縮小するという見方も重なり、ドルが売られている。

比較的安定した通貨と受け止められた円が、“消去法”で買われている事情もある。

気がかりなのは、FRBの追加策による景気テコ入れ効果が限定的とみられる点だろう。財政赤字を抱えたオバマ政権も、新たな景気刺激策を実施しにくい。政策に手詰まり感がみえる。

そこで米当局は、当面は輸出で景気を下支えしようと、輸出促進にプラスになるドル安の進行を容認する構えのようだ。財政危機問題を抱えた欧州も事情は同じで、通貨安頼みがうかがえる。

そんな中、円急騰に無策ぶりが目立つのが日本政府と日銀だ。

日銀は10日、金融政策の現状維持を決めたばかりだが、量的緩和策の拡充を含め、追加策の検討が急務ではないか。あまりにも危機感が足りない。

経済産業省は円高が経営などに与える影響について、企業調査を月内にまとめるという。しかし、これも緩慢すぎる。

政府・日銀は、円高阻止の為替介入をためらうべきでない。

産経新聞 2010年08月13日

15年ぶり円高 相場安定にあらゆる手を

円高ドル安に歯止めがかからない。一時1ドル=84円台まで上昇し、15年ぶりの円高水準になった。企業業績の悪化懸念から12日の日経平均株価も一時、今年の最安値を更新した。

行き過ぎた円高は好転しつつある企業業績に冷水を浴びせ、日本経済の腰折れにつながりかねない。デフレ経済からの脱却も困難にする。菅直人政権と日銀はさらに急激な円高が進む不測の事態に備えておかねばならない。

今回の円高の引き金になったのは欧米の景気の失速懸念だ。米連邦準備制度理事会(FRB)が金融緩和に動いたことから、日米金利差の縮小を予想させ、市場での円買い・ドル売りが一段と加速した。金融システム不安がなく、企業業績も持ち直してきた日本経済が、欧米に比べて相対的に安定しているとみられ、「円」が買われている形だ。

しかし、米国の事情による円高ドル安、と静観している場合ではあるまい。何より心配なのは、円が続伸することで企業経営者の間に不安感が広がり、投資や雇用を控えさせることだ。企業の海外移転が加速し、国内の産業空洞化の進行も懸念される。

菅首相が財務相当時、安易に具体的な為替水準に言及し、相場が混乱したことがある。その反省があるのかもしれないが、政権の反応は鈍い。政府・日銀は、市場に対して円高阻止のメッセージを明確に発すべきだ。日銀は先の政策決定会合で金融政策の現状維持を決めたばかりだが、量的緩和など一段の金融緩和策についても柔軟な対応が必要だ。

欧米との国際協調も進める必要がある。先進7カ国(G7)の財務相による電話会談などを働きかけてもよい。日欧米とも一昨年秋のリーマン・ショック後の景気対策で財政が悪化、政策金利引き下げの余地も小さい。市場では「欧米は自国通貨安を容認し、輸出拡大で活路を見いだそうとしている」との見方が広がっている。

だが、自国利益を優先して国際協調をないがしろにしては世界経済の持続的成長にマイナスだ。市場の信認を得るためにも、G7が一致して「協調介入も辞せず」との姿勢をみせるべきだ。

政策対応が後手に回れば、市場は投機的資金に翻弄(ほんろう)される。それを阻止するには、G7各国の連携がなにより肝要である。

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