公務員人件費 「2割削減」の約束守れ

朝日新聞 2010年08月12日

公務員人件費 目先の策では減らせない

人事院が、国家公務員の給与について内閣と国会に勧告した。年間給与の1.5%引き下げもさることながら、労働基本権に関する言及が興味深い。基本権を回復して人件費を削減することが本当に可能か。民主党の主張に事実上、疑問を呈しているからだ。

公務員は仕事の特性から、憲法で保障された労働基本権のうち団体交渉権を制限され、ストを禁じられている。その代わり人事院が民間の賃金動向を調べ、それにあわせるよう勧告する。

民主党は、この仕組みの変更をめざす。昨年の衆院選では基本権を回復し労使交渉で給与を決めると公約した。総人件費を2割削減する方法としても労使交渉による給与決定を挙げた。

だが勧告は、むやみに賃上げすれば倒産しかねない民間企業とは違い、国が労使交渉で給与を決める難しさを指摘。何のために基本権の制約を見直すのか、目的の明確化も求めた。

もっともな指摘だ。労働者が本来持つ権利の回復をめざすのは良いが、それで人件費を減らすというのは八百屋で魚を求めるたぐいではないか。

現行制度でも給与は下がっている。減少に転じる前の1998年に比べ、09年は本省係長で12.8%、地方の係長で17.5%減。民間にあわせた上、比べる企業の規模を「100人以上」から「50人以上」に広げたためだ。さらに大幅に引き下げたいと交渉しても労組が簡単に応じるとは考えにくい。

これに限らず、民主党の人件費削減案は首をひねりたくなるものが多い。

国家公務員を自治体に移す案も経費節減につながるとは限らない。確かに人件費は減るが、自治体に受け入れてもらうには、給与の財源を渡さざるを得ないだろう。国と自治体が似た仕事を手がける「二重行政」をどう解消するか、それでどれほど合理化できるかを詰めないと効果は見えてこない。

原口一博総務相は、新規採用を約3千人減らす措置を15年間続ければ1700億円の人件費減になるという。だがそれでは若者の雇用が減り、年齢構成もゆがむ。弊害も十分考慮したうえでなければ有益な議論にはならない。

勧告通り1.5%引き下げるか、さらに減らすか。閣内ではそんな議論が始まっている。来年度予算編成は厳しい。消費増税論議も避けられない中、確かに人件費を聖域にはできない。

であればこそ急がれるのは大きな絵を描くことだ。その努力を怠り、目先のつじつまだけあわせていてはひずみが生じる。増税論議の前に率先することが不可欠だというなら、国会議員の歳費削減が先ではないか。

公約通りにできると言い繕うのは、もうやめた方がいい。求められるのはその場しのぎの策ではなく現実的な手段だ。実態を正直に説明し、地に足をつけた議論を始める時がきている。

毎日新聞 2010年08月12日

公務員人件費 「2割削減」の約束守れ

これで国民の理解が得られるだろうか。人事院は国家公務員の10年度の給与を内閣と国会に勧告した。ボーナスの支給月数を47年ぶりに4カ月分を割る水準に減額、月給は年齢に応じて扱いに差を設けたうえで平均0・19%引き下げた。

民主党は国家公務員の総人件費2割削減を衆院選、参院選双方のマニフェストで掲げたが、今回の減額では目標に遠く及ばない。他の施策も含めた人件費改革の全体像を政府・与党は早急に示さねばならない。

人事院にしてみれば、現行制度の枠内でできる限り工夫はしたということかもしれない。ベテラン公務員の給与が民間の同年代の社員を上回っていることを踏まえ、勧告は55歳を超す職員の給与の下げ幅を大きくした。遅きに失した取り組みとの指摘もあろうが、公務員の厚遇批判を意識した表れだろう。

とはいえ、財政が深刻化し、民間の給与が厳しい中、勧告がどこまで国民の納得を得られるかは疑問だ。国家公務員総人件費の2割削減のためには約1・1兆円のカットが必要だが、財務省試算によると、今回の勧告に伴う削減効果は790億円にとどまる。「55歳超」の減額幅増加にしても、審議官級以上の指定職は対象外だ。なお一層の減額が可能か、政府は勧告の完全実施にこだわらず慎重に検討すべきだろう。

同時に、国の地方出先機関や定員の見直しなど、「人件費2割削減」を空手形に終わらせないための全体像を政府は早急に示す必要がある。さもないと、給与改定に必要な関連法案が「ねじれ国会」下で野党の理解を得る保証はあるまい。

給与構造を大胆に改めるためには、人勧制度の見直しは避けられない。国家公務員の労働基本権制約の代替措置として存在する人勧制度だが、給与体系が硬直化する一因となっている面は否定できない。改革急進派のみんなの党は公務員に原則として労働基本権を与え、代わりに身分保障をはずし民間並みのリストラを実施するよう主張しているほどだ。人勧制度の抜本見直しに踏み込むためにも、政府は労働基本権問題の決着を急がねばならない。

一方で人事院は公務員定年の65歳までの段階的延長に向けた意見を年内にまとめる考えも示した。定年延長の方向性は理解できるが、人件費圧縮の阻害要因とならないよう、制度設計に細心の注意を払う必要があることは言うまでもない。

菅直人首相が財政の危機的状況を国民に訴える中、公務員の処遇は別扱いというのでは税制改革などに国民の共感は得られまい。政府自らが経費削減に率先垂範する意味を決して軽んじてはならない。

読売新聞 2010年08月14日

公務員給与勧告 人件費抑制へ多角的議論を

このままでは「総人件費2割カット」は、やはり、掛け声倒れに終わるのではないか。

人事院は2010年度国家公務員一般職給与について、月給を平均0・19%、ボーナスを0・2か月分それぞれ引き下げるよう勧告した。2年連続のマイナス勧告だ。

この通り実施されれば、公務員の平均年収は、9万4000円減る。国の費用負担の減少は、790億円程度である。

民主党は、衆院選の政権公約で「国家公務員の総人件費を2割削減する」とし、削減額は1・1兆円と試算していた。

無論、給与改定だけでこれが可能というわけではない。だが、その落差は大きすぎる。

玄葉公務員改革相は「公務員の定員削減や地方移管もある。労働基本権を付与して労使交渉で人件費を抑制していく。削減のための工程表を作る」と述べている。

いずれも簡単な話ではない。

人事院は今回の勧告で、「公務員の定年を段階的に65歳まで延長することが適当」としている。

天下りあっせんの禁止などにより、高齢期の雇用問題は切実さを増している。定年延長となれば、人事管理の面でも、大幅な制度の見直しが必要になるだろう。

その際、増加する総人件費をできるだけ抑制するには、60歳代前半の給与水準を相当引き下げなければならない。

一方、定員を維持するとして公務員の新規採用を極端に減らすならば、職場にひずみを生じ、公務員の士気や仕事の効率に影響が出かねない。しっかりした制度設計が欠かせない。

公務員に労働基本権を付与する問題も、議論が進んでいない。

協約締結権が与えられると、民間と同様、労使交渉で給与などが決定される。そうなれば公務員の労働基本権制約の代償措置である人勧制度は、廃止を免れない。

今回の勧告は、労働基本権付与に関して論点整理をしている。

付与する職員の範囲や交渉・協約事項をどう定めるのか、国会はどう関与するのかなど、数多くのテーマがある。

問題は、安易な交渉で人件費が膨らんだり、労使対立で結論が出なかったりすることだ。その歯止めも検討しなければならない。

厳しい国家財政を考えれば、公務員給与の抑制は必要だ。政府・与党は、公務員制度改革の全体像を早く固めるとともに、労働基本権付与などについて野党とも議論を深めるべきだ。

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