改正移植法適用 透明性が信頼を保つ

朝日新聞 2010年08月11日

臓器提供 可能な限りの透明性を

脳死状態になった人の意思がわからない場合であっても、家族が承諾すれば臓器を提供できる。そんな改正臓器移植法が先月半ばに全面施行されてから初めて、家族の同意によって臓器提供が行われた。

提供したのは、交通事故で脳死状態になった20代の男性で、心臓、肺、肝臓などが摘出され、それぞれ待機していた患者に移植された。

旧法では、提供するという本人の意思が書面で残されていることが必要だった。改正法では、本人が拒絶していない限り、家族の判断に託される。

日本臓器移植ネットワークによれば、この男性は家族で一緒に臓器移植に関するテレビ番組を見ていたときに、提供したいと話していたという。家族は、そうした本人の意思を考えて、提供を決めたようだ。

移植を待つ患者にはありがたいことでも、本人の意思を示す書面がない状態での決断は、家族にとってとくに重いものだったと思われる。

そんな家族の気持ちを大切に受けとめ、しっかり支援していくことが求められる。同時に、今回の貴重な経験も生かして、よりよい移植医療の実現をめざしたい。

今回は臓器移植に関して会話が交わされていたことから、本人の意思を判断しやすかっただろうが、そうでない例も今後は出てくるに違いない。

今後の参考にするためにも、厚生労働省は、しっかり検証し情報をできるだけ開示する必要がある。

改正法の下では、脳死状態になったら、家族に対し、臓器提供という選択肢があることが、医師から示されることになっている。どの時点でどんなふうに家族に告げられたのか。

そして、家族が決断するまでの経過はどうだったか。

信頼される移植医療のシステムを築くには、密室に閉じこめることなく、透明性を保つことが欠かせない。そっとしておいてほしいという家族の気持ちやプライバシーに配慮しつつ、可能な限り、具体的に何が起きたのか、明らかにしてほしい。

一方、今回の例を契機に、家族に託された責任の重さを改めて感じた人も多かったのではないか。臓器を提供するかどうか。本人の意思に沿う道は何か。悲しみにくれる中で、推し量ってでも決断しなければならない場合もありうるからだ。

本人の意思がはっきりしていれば、家族の精神的負担はより少なくなる。そのためには、日頃からよく話し合い、できるだけ書面で残しておくのがよいかもしれない。

お盆休みでさまざまに家族が集うこの時期である。家族の範囲には祖父母も含まれる。万一の時にどうするか、話し合ってみてはどうだろう。

毎日新聞 2010年08月11日

改正移植法適用 透明性が信頼を保つ

男性は20代。交通事故で脳死状態となった。ドナーカードなど臓器提供の意思を示す書面はなかった。だが、万一の時には臓器提供してもいいと家族に話していたという。

以前の法律では臓器提供できなかったケースである。7月17日に改正臓器移植法が全面施行され、本人が拒否していなければ家族の承諾で提供できるようになった。男性はその適用1例目となり、心臓、肺、肝臓などが各地の患者に移植された。

「日本は条件が厳しすぎて移植が進まない」と考えてきた人々にとっては、提供が増える希望の兆しだろう。一方で、改めて浮き彫りになった課題もある。

まず、提供に至る手続きや情報の透明性の問題がある。臓器提供について家族に説明した日本臓器移植ネットワークによると、男性は家族と移植関連のテレビ番組を見ている時に臓器提供に積極的な発言をしたという。

ところが、それがいつだったのか、脳死での提供を想定していたのか、といった点ははっきりしない。

改正法の下で、どこまで厳密に調べ、公表する必要があるのか、疑問に思う人がいるかもしれない。しかし、人の気持ちは変わるので、意思表示の時期が大事との考えもある。脳死と心臓死に対する気持ちが異なる場合もあるだろう。

これまでとはルールが大きく変化しただけに、移植コーディネーターができる限り情報を把握し、公表していかないと、移植医療への信頼は得られないのではないか。家族の意思確認も含め、臓器提供に至る経緯が適切だったかどうか、振り返って検証することが信頼確保には欠かせない。

今後は、提供の意思がわからないドナー候補も出てくるだろう。生前の意思をはかりかねる状況で、意思決定を迫られる家族の苦悩は想像に難くない。提供した後で、悩んだり、後悔したりする家族が増えるようでは困る。

これらを考え合わせると、日ごろから「自分が脳死になったら」という話を家族や親しい人の間でしておくことがますます重要になる。家族との関係が薄い人がいることを思えば、法律の求めがなくとも、ドナーカードなどの普及を進める努力を怠ってはならない。

今回は20代の成人だったが、改正法がさらに大きな影響を与えるのは子どもの臓器提供だろう。虐待による脳死ではないか、本人の気持ちはどうだったかなど、大人以上に難しい判断を迫られる。

移植が増えれば、臓器提供に直面する家族も増える。ドナー家族のケアもいっそう求められている。

読売新聞 2010年08月10日

改正移植法適用 生かされた臓器提供の意思

臓器提供の意思を書面では示していなかった人が、家族の承諾によって脳死と判定され、心臓や肺が他の人に移植されることになった。

移植医療の拡大をめざした改正臓器移植法に基づく、初の移植手術である。

提供者は交通事故に遭った20代の男性だ。意思表示カードは持っていなかったが、かねて家族に、脳死になった時には臓器提供したい、と話していたという。

家族はその意思を尊重した。しかし極めて重く、つらい決断だっただろう。

この男性は多くの人を救う。心臓は大阪で20代の男性に、肺は岡山でやはり20代の男性に、肝臓は東京で60代の女性に、腎臓は群馬で10代の男の子に。尊い命のリレーである。

先月17日に改正法が施行される以前は、本人が意思表示カードなど、書面で提供の意思を示していなければ、臓器移植は認められなかった。

欧米などでは、本人が提供拒否の意思を示していない限り、家族の判断で臓器の提供ができる。このため、米国では年に数千例、欧州の主要国でも年間数百例の脳死移植が実施されている。

改正法は欧米と同様、家族の判断で臓器提供を可能にした。

1997年に臓器移植法が施行されてからの13年間で86例にとどまっていた脳死移植は、今後、毎年30例以上に増えると予測されている。いずれは、今回の改正で認められた乳幼児間の臓器移植も行われるだろう。

臓器提供を着実に生かすには、今回のケースをきっちり検証することが重要だ。

治療は完全に尽くされたか。脳死判定は厳密に行われたか。家族は十分に納得して提供に同意したか。あらゆる点を厳しく確認することは、脳死移植の信頼を培うために欠かせない。

今回は、本人が口頭で家族に提供意思を示していた。しかし、実際にはそうしたケースばかりではないだろう。

その場合は、脳死判定の実施と臓器提供の判断を求められる家族の側に相当な負担がかかる。

本人の意思がはっきりしていれば、それが第一だ。この点は改正法でも変わりはない。

新たな運転免許証や健康保険証には、臓器提供意思の記入欄が設けられている。万が一、脳死に陥った時に、臓器提供を承諾するのか、拒否するのか。皆が真剣に考えておきたい。

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