戦略港湾指定 周回遅れではあるが

朝日新聞 2010年08月10日

ハブ港湾 釜山港への遅すぎる挑戦

アジアのハブ(拠点)をめぐる競争が激しさを増している。空港に続いて港湾も、態勢をどう立て直すかが重要な課題になってきた。

世界のコンテナ取扱量トップ10にはシンガポールや中国の上海、深セン(センは土へんに川)、香港、韓国の釜山などアジアの港が並ぶ。1980年代にトップ10入りしたこともある日本の港は、国内首位の東京港でも26位にすぎない。

そこで政府は今後5~10年でアジアのハブ港湾にふさわしい港を整備する方針を打ち出した。選ばれたのは京浜(東京、川崎、横浜)、阪神(神戸、大阪)の2地域だ。

国際物流の世界は、規格化された「巨大な箱」コンテナの普及で輸送スピードが格段に向上し、コストが劇的に下がった。これがグローバル化とあいまって世界の物流量を飛躍的に増やす起爆剤になった。最も恩恵を受けたのがアジアである。

日本の港はこの波に乗り遅れた。日本の観光客が韓国の空港を国際ハブ空港として利用するように、最近では日本の荷主が地方港からのコンテナを釜山港で国際航路に積み替えるケースも増えてきた。

なにしろ釜山港の荷役料などは日本より3~4割安い。低料金を背景に、運営会社が日本の自治体や荷主に売り込んできている。

日本の港がこのまま地盤沈下すれば、日本経済や雇用にとっての悪影響が心配される。電機メーカーなどはアジア各国の拠点との間で部品や半製品を大量に融通しあっており、物流コストや在庫期間は競争力を左右する。港が高コストで使いにくければ、生産を海外に移す要因ともなる。

産業の空洞化を防ぐためにも、日本の港も運営会社の民営化や統合、効率化を進め、荷役料の引き下げや24時間運用などのサービス向上に早く取りかからなければならない。

ハブ港湾を二つに絞ったことで、限られた公共事業財源を集中できる。港湾のような基盤工事の予算は地方自治体や地元国会議員などに配慮して、多くの港にばらまかれてきた。今後は超大型コンテナ船が横付けできる岸壁整備を京浜、阪神で進めるなど、メリハリがつくだろう。

それでもハブ港湾を一つに絞りきれなかった戦略は、まだ甘いとも言える。釜山港に追いつくのに、2地域への分散投資でいいのかどうか。

国土交通省は全国の重要港湾103カ所のうち、国直轄で護岸工事などの新規予算をつけられる港を43カ所に絞った。なお多すぎないだろうか。

空港や港湾の乱立は財政の膨張を招いただけでなく、どれも整備が中途半端となってアジアとの競争に負けている。遅きに失した感はあるが、今からでも大胆に改めなければならない。

毎日新聞 2010年08月10日

戦略港湾指定 周回遅れではあるが

国が港湾政策の見直しを進めている。103ある重要港湾のうち優先的に予算配分するところを43に絞り込む一方、国際的なハブ(拠点)港をめざし予算を重点配分する「国際コンテナ戦略港湾」に、阪神港(大阪、神戸港)と京浜港(東京、川崎、横浜港)を指定した。原材料などのバラ積み貨物(バルク)を扱う港湾についても、年末をめどに「国際バルク戦略港湾」を選定することにしている。

アジア市場の拡大を見据え、中国や韓国、シンガポールが集中的な投資で特定港湾の重点整備を進める一方、日本は都道府県単位で整備を続けた。その結果、国内に数多くの港湾が整備されたものの、利用率は低く、また、主力となる港湾についても国際的な地位が大きく低下してしまった。

コンテナ取扱量で1980年に世界4位だった神戸港は、08年に44位へと下がり、京浜と阪神の取扱量を合計してもシンガポールの半分に満たないという状態だ。

政府は、来年の通常国会に、京浜、阪神両港への支援措置を盛った関連法案を提出し、大型船舶が着岸可能なターミナルの整備や、割高な入港料の見直しなどを進め、海洋国家日本の復権をめざすという。

港湾整備予算を広く薄くばらまいても効果は薄く、選択と集中を進めるのは当然のことだ。ただし、国は04年に予算を重点配分する「スーパー中枢港湾」として東京、神戸港など6港を指定したものの、差は縮まっていない。

今回、国際的な戦略港湾と位置づけ、さらに絞り込んで集中整備するのは、船の大型化が進み、最大級の船が入港できるようにするには、十分な水深を持った岸壁の整備が必要という事情が背景にある。

ただし、港湾の能力を高めれば、寄港する船が増えるというものではない。アジアと欧州を結ぶ航路のうち、日本の海運会社が運航しているコンテナ船の大半が、貨物の集積度が低いため日本には寄港せず、上海などで折り返しているのが実情だ。

国際的なハブ港の機能を日本が回復するのは容易ではない。周回遅れと言われるが、それでも日本の港湾改革は進めなければならない。割高の入港料や施設使用料の引き下げや、港湾使用の24時間化は、荷主への負担軽減と利便向上につながり、競争力強化の観点からも重要だ。

また、国内の港同士の連携強化も大きな課題だ。地方の港からの貨物を京浜や阪神の港に集約できないならば、ハブ港としての機能強化にはつながらない。

数多くの問題を抱える内航海運を含め港湾改革は待ったなしだ。

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