長期金利1%割れ 国債のバブルが心配だ

朝日新聞 2010年08月05日

下がる長期金利 世界デフレの不安を映す

米国も欧州も、日本のようなデフレに沈むのか。そんな懸念が市場から発せられた。長期金利の指標である新発10年物国債の流通利回りが、7年ぶりに1%を割り込んだ。

各国が景気刺激のために行っている超金融緩和政策で、世界の資金がだぶついている。そのマネーが株式市場を避け、より安全な資産とされる国債市場に流入したために各地で起きている金利低下の一環である。

引き金となったのは、米国や欧州の景気停滞感の強まりだ。先進国全体がデフレに突入するのではないか、との不安すら台頭してきた。

その結果、とりあえずマネーの行き先として選ばれているのが、先進国通貨のなかで相対的な安定感がある「円」であり、国内の投資家層に支えられて投げ売りのリスクも小さいとみられる日本の国債というわけだ。

財政赤字大国・日本の国債が買われ、利回りが下がるという不思議な事態が、こうして起きている。

景気過熱などで物価が上がるインフレの機運が高まれば、人々はモノやサービスを買おうとしてお金を使うようになり、金利が上がる。逆にデフレになりそうだと貯金に走ると、これが銀行を通じ国債購入に回って金利が下がる。長期金利の低下は世の中のデフレ懸念のバロメーターでもある。

今回の金利低下がやっかいなのは、欧米でリーマン・ショック後の景気回復が踊り場にさしかかった可能性を示しているという点ではない。むしろ減速や悪化のメカニズムが、日本でバブル崩壊後に起きた慢性的なデフレと似てきたというところにある。

銀行の不良債権が増え、金融を萎縮(いしゅく)させて消費も投資も冷やすことで全体の需要が長期的に停滞する。これが財政赤字や銀行の不良債権を再び悪化させる。こうした悪循環を打破する特効薬は見つかっておらず、回復には長い年月がかかる。

絶壁から転落するような急激なショックではないものの、止めどなく鍋底をはい続ける可能性に、世界のマネーは立ちすくんでいる。

国債残高が国内総生産(GDP)の2倍になろうかという日本の財政事情からすれば、当座の利払い負担が減る金利低下は歓迎したい面もある。だが、決して日本の財政運営が評価されて買われているのではない。

気まぐれに移ろうマネーに支えられている危うさを認識すれば、値上がりした国債相場に急落のリスクが蓄積されていることも見えてくる。

何かの拍子で売りが売りを呼ぶ可能性も排除できない。日本にとって大事なのは成長と財政健全化の両立を図ることであり、そのためにも市場で無用の波乱を招かないことだ。行き過ぎた金利低下を喜ぶことはできない。

毎日新聞 2010年08月05日

長期金利1%割れ 国債のバブルが心配だ

日本の長期金利が約7年ぶりに1%を切った。長期金利とは10年物国債の利回りのことで、市場で国債買いが進むと債券価格が上昇し、利回りは下がる。1%割れは、国債の大量保有者である金融機関の間で、依然として国債の購入熱が高いことを示している。

背景にあるのが、日銀の超緩和政策を受けた金余りだ。企業の借り入れ需要が弱いため、金融機関はタダ同然で調達した資金を「とりあえず安全そうだから」とこぞって国債に投じている。米欧の景気見通しが悪化し、世界的に国債買いが活発化したことも、購入に拍車をかけた。

この現象を見る限り、「日本もギリシャのようになる」と財政悪化への危機感を唱えた菅直人首相の言葉はウソのように思えてくるだろう。先進国一の借金大国ながら、国債は暴落するどころか大人気じゃないか、と増税や歳出削減に反対する人たちは言いそうだ。

しかし、「値下がりしそうにないから」と国債を買いまくる今のバブル現象はむしろ警戒すべきだろう。財政がこれほど悪化したにもかかわらず、金利上昇という市場の警報装置が作動しないのは、日本国債の95%もが国内で買われているという特殊事情と関係がある。リスクに敏感な投資家が日本国債を手放し資金を海外に引き揚げる、といった心配がないため、みんなで安心している。

しかし、国内依存をいつまでも続けられるわけではない。人口の高齢化による貯蓄の取り崩しで、近い将来、海外の投資家にもっと買ってもらわなければならなくなる。その時、格付けが安定していれば問題ないかもしれないが、それは不確かだ。

ギリシャのようになっていない理由の一つに、日本に残された増税余地がある。だが、「余地」はあっても、政治の決断がなければ何も変わらない。「金利が低いから」と財政再建を先送りすれば、格下げの引き金となりかねない。

菅首相はこのところ追加経済対策に前向きな発言をしている。円高が再び進行しており、景気対策要求が高まる恐れもある。しかし、「財政再建については一歩たりとも引くつもりはない」と言う以上、首相は安易な財政出動に逃げてはならない。

利回りが1%を切るほど国債価格が上昇したということは、それだけ下落のリスクが高まったと見るべきだ。国債を大量に買っている銀行や保険、年金の資金は元をたどれば私たち国民のお金なのである。

この金利低下は決して安心の材料ではない。国債の利払いに年10兆円も費やしている国の指導者なら、常に金利が上昇に転じたときのことを頭に置いておくべきだ。

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