日テレ記者遭難 自然のこわさを忘れるな

毎日新聞 2010年08月04日

日テレ記者遭難死 原因を検証し教訓に

埼玉県秩父市の防災ヘリコプター墜落事故を取材していた日本テレビ報道局の記者とカメラマンが遭難し、亡くなった。取材中の痛ましい事故であり、心から哀悼の意を表したい。だが、なぜ最悪の結果に至ったのだろうか。

2人は、先月31日早朝、山岳ガイドを同行して入山した。沢の水が冷たく水量も多かったが、2人がTシャツにジャージー姿と軽装だったため、ガイドのアドバイスでいったん引き返した。その後「尾根で機体が見える場所を探す」と、2人だけで再び入山し、遭難したとされる。

死因はいずれも水死だった。川か滝つぼに落ちて亡くなったとみられている。31日午後は、現場付近でも多量の雨が降っており、川の増水の可能性も指摘されている。

現場は、急峻(きゅうしゅん)な谷の間を沢が走る危険の多い地域で、警察が取材の自粛を求めていた。だが、それだけで取材自体が無謀だったと責めるわけにはいくまい。戦争取材から災害・事故取材まで、取材が危険と背中合わせになる事態は少なくない。

その場合、取材の必要性や緊急性に照らして、報道機関は取材の可否を自主的に判断する。もちろん、その判断には責任が伴う。

日本テレビの幹部は、ガイドの同行など条件をつけて取材を了承したという。問題なのは、いったん引き返した2人が、ガイドと別れて再び入山したいきさつだろう。

前線で取材する記者らが現場に近づこうとするのは理解できる。特に、テレビの場合、映像は必須だ。再入山の際に本社サイドとやりとりはなかったのか。ルールと異なる行動を取る場合の連絡体制に不備はなかったか。要は、本社の幹部が取材の安全性などを最終的にチェックできていたかどうかである。

日本テレビは、事故を検証し、そうした点を明らかにしてほしい。それは、報道に携わる者全体への教訓にもなるだろう。

中高年を中心に登山が人気だ。だが、急な天候の変化など、夏の山には危険はつきものだ。

昨年7月、北海道大雪山系のトムラウシ山で、ツアーの登山客ら8人が凍死した事故は記憶に新しい。北海道日高山系ヌカビラ岳では2日、登山客ら8人が、沢の増水と疲労で動けなくなり、救助された。秩父でも、沢登りしていた登山グループの女性が滝つぼに転落したのが発端で、結果的に、救助中の防災ヘリコプター墜落、取材する記者らの遭難と、2次、3次の事故につながった。

ガイドの同行や十分な装備はもちろん、天候や健康状態に応じた柔軟なスケジュールのもとで、登山に万全を期してほしい。

産経新聞 2010年08月03日

日テレ記者遭難 自然のこわさを忘れるな

埼玉県秩父市の山中で1日、ヘリコプター墜落現場を取材しようとした日本テレビの記者とカメラマンが遭難死する痛ましい事故が起きた。事故は、先月25日に沢登り中の女性が滝つぼに滑落死した事故に端を発している。救助に向かった県防災ヘリの二次災害に続き、記者らの事故は三次災害となった。そこに、自然に対する認識の甘さはなかったか。

事故当日、2人を案内したガイドによれば、カメラマンの装備は十分だったが、記者はTシャツにジャージーのズボン姿で、「軽装で危険」と判断し、一度は引き返したのだという。だが2人は、ガイド抜きで再び山に入った。

2人が発見された現場は標高約900メートルにある滝つぼで、水死だった。記者の頭部には複数の傷があり両足の靴が脱げていた。滑落などのトラブルに遭い、カメラマンが巻き込まれた可能性がある。だとすれば遭難は、一次災害と同様のものだったことになる。

日本テレビによれば、カメラマンはアラスカやチベットなどの山岳取材を経験した「有事を想定した山岳取材のキャップ」だったという。冬山、高山の豊富な経験が夏の標高が低い現場に油断を生じさせたのではないか。そうでなければ、軽装の記者を同行させたことの説明がつかない。

現場は標高こそ低いものの、大きな岩や切り立ったがけが多く、埼玉県警は「危険な難所」として取材自粛要請を出していた。加えて、遭難当日の秩父市周辺には雷注意報が出ており、強い雨も降った。県警は2日の現場検証も濃霧や降雨を理由に中止した。四次災害を危ぶんでの判断だった。それだけ現場を「危険なところ」と認識している証左でもある。

とび職のベテランに、こう聞いたことがある。「2階から落ちて半年入院したことがある。10階以上の現場から落ちた話はほとんど聞いたことがない。危ないのは地面が近くに見えてきてからだ」

山だけではない。海水浴中の事故の多くは浜辺の近くで起きる。安全とみえた川辺のキャンプ場が増水で流される。自然は油断を許さない。恐れすぎてもいけないが、侮ってはいけない。

報道記者やカメラマンには、現場に少しでも近づきたいという習性がある。だが、報道の自由には重い責任が伴う。悲しい結果にしてはなるまい。

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