首相初の予算委 「谷垣質問」にどう応える

朝日新聞 2010年08月03日

衆院予算委 与野党の姿、新たな兆し

ねじれ国会での、与野党の役割を再考させられる論戦だった。

菅直人政権発足後、衆院予算委員会が初めて開かれ、自民党の谷垣禎一総裁と石破茂政調会長が、これまでとはひと味違った質問ぶりを見せた。

谷垣氏は「日銀総裁がしばらく空席だった。ああいう乱暴でむちゃなことは自民党は決してしない」と明言した。政権に就いていた2008年、参院の第1党の小沢民主党に日銀総裁人事などで苦しめられた。その仕返しはしないという宣言である。

赤字国債の発行を認める法案について「真剣に向き合わざるを得ない」と語った。否決すれば予算の執行もままならず、政府を追い込める。一方で、国民生活に深刻な影響が生じ、野党も批判を浴びかねない。

衆参の多数派が異なるうえ、与党が衆院の3分の2も持たない状況では、野党も与党とともに、権力と責任を分かちあう。そのことに対する自覚を、谷垣質問に見て取ることができる。

ねじれに苦しんだ経験を持つ党が野党となる。政権交代がもたらした政党政治の成熟の一側面かもしれない。

谷垣、石破両氏が菅首相を叱咤(しった)激励したのも、印象的な光景だった。

石破氏は「野党の時の総理は気迫に満ち満ちていた。気迫と責任感を持って国民を説得するのが政治家の役割だ」と語った。しっかりしてください。毅然(きぜん)とした態度を。野党とは思えぬような言葉を首相に投げかけた。

確かに参院選後の首相はすっかり歯切れが悪くなっていた。消費税を持ち出したから選挙に負けたと責められ、9月の党代表選で消費増税を約束することは考えていないとも述べていた。

首相はこの日も慎重な物言いに終始したが、参院選で提起したのに代表選で言わないのでは言葉が軽すぎると谷垣氏に批判されると、「私は財政再建では、一歩も引くつもりはない」と力を込めた。

代表選を控えて発言を慎重にせざるをえない事情はわかる。だが、いったい何をしたいのかあいまいにしていては、だれの理解も得られない。

党内の了解を得るだけでは法案はひとつも通らない。目を向けるべきは国会全体であり、さらには民意である。

内向きな発想を捨て、めざすことを明確にし、説得を試みる。財政再建で引かないというのなら、同じ目標を掲げる自民党に「財政健全化責任法」を提出せよと首相の側から促す。それくらいの攻めの姿勢があってもいい。

きのうのような論戦のありようが定着すれば、政策ごとに多数派を形成する土壌も整う。それなら歓迎である。

政治の停滞を許さない日本の苦境が、野党に「大人のふるまい」を促す。首相はそれに応え、幅広い合意を取り付ける努力を始めるべきである。

毎日新聞 2010年08月03日

首相初の予算委 「谷垣質問」にどう応える

厳しい追及が影を潜めた提案型の姿勢に、足元の自民党内から批判や不満が出るのではないか。そんな心配をしてしまうような谷垣禎一・同党総裁の質問だった。

菅直人政権発足後初の衆院予算委員会が2日開かれた。目を引いたのは消費税率の引き上げ問題などに対し、菅政権側から「真摯(しんし)に提案があれば真摯に受け止める」と繰り返し、与野党協議を必ずしも拒否しない姿勢を示した谷垣氏だ。もちろん、これでこの問題に関する与野党協議が直ちに始まるわけではないだろう。だが、ねじれ国会の下、どう与野党合意を図っていくかが問われる中で、谷垣氏が一石を投じた点は評価していい。

谷垣氏は、3年前の前回参院選で勝利し、参院で多数を握った民主党が、日銀総裁人事案件などを次々と否決した例を挙げ、「自民党はああいう乱暴なことはしない」と明言。質問時間の大半を、先の参院選で自民党が年金、医療、介護など社会保障にあてることを目的に「当面10%に」と引き上げを打ち出した消費税問題に費やした。

「税金の無駄遣いを省くことは必ずやらないといけないが、社会保障費は増大していく。これに立ち向かっていかなくてはならない」「赤字国債に頼らないことが必要。私たちも大いに反省している」--。谷垣氏の質問には「政権に甘すぎる」との批判も出ようが、国民には分かりやすい内容だったと思われる。

ところが、これに対し、及び腰だったのは、与野党協議を呼びかけている菅首相だった。

参院選での消費税に関する自らの発言について、この日の予算委でも「唐突と受け止められて申し訳なかった」と再三陳謝したのは、国民にというより、民主党内での首相への批判を気にしたものだろう。

谷垣氏は「協議を呼びかけるなら、まず政府・与党として考えを示せ」と迫ったが、首相は「私から具体的に申し上げるのは控えたい。民主党の方で議論をお願いしている」と言うだけで、参院選中から指摘されたように何を目的に増税するのかも結局はっきりしなかった。これでは議論は進まない。

今の選挙制度が続く限り、民主党政権が続こうと、自民党が政権を奪回しようと参院で単独過半数を取るのは難しく、ねじれは常態化する可能性がある。だが、何も動かない国会を国民が望んではいないはずだ。このため、私たちは、ねじれを前提とした国会審議のあり方を模索するよう求めてきた。

予算委の初日、せっかく自民党側から変化を見せたのに、このままでは菅首相の方が「国会を動かす気がない」となってしまう。

読売新聞 2010年08月03日

予算委質疑 首相は消費税から逃げるな

菅政権の発足後、初の本格的な国会論戦の場である衆院予算委員会が始まった。

自民党の谷垣総裁は、消費税問題を中心に、菅首相の見解をただした。

首相は「財政再建から引くつもりはない」と強調しながら、消費税については、当面、民主党政策調査会の議論に委ねる考えを繰り返した。党内で結論を出す時期も明言を避けた。

参院選の公約発表時には、首相は、自民党が掲げた税率10%への引き上げを参考にすることや、今年度中に税制の抜本改革案を取りまとめることなどを具体的に語っていた。首相の発言が大きく後退しているのは明らかだ。

財政の健全化と社会保障財源の安定的な確保のためには、消費税率を引き上げるしかないことは、多くの国民が理解している。首相が消費税問題で逃げの姿勢を取ることは許されない。

谷垣総裁は、先の通常国会で廃案となった財政健全化に関する自民党の法案を、秋の臨時国会に提出し直す意向を表明した。審議に入るなら、民主党との修正協議に応じるとも述べた。

法案には、基礎的財政収支を2020年度までに黒字化する目標などが盛り込まれ、菅政権が6月にまとめた財政運営戦略とかなりの部分が共通する。

これをきっかけに、税財政改革に関する超党派協議を始めることも可能なはずだ。

にもかかわらず、首相は「真摯(しんし)に受け止め、前向きに検討するよう党に指示したい」と答えるのが精いっぱいだった。

民主党には、小沢一郎・前幹事長のグループを中心に消費税論議を牽制(けんせい)する勢力がいる。9月の党代表選を前に、首相は、再選反対の声が党内に広がることを警戒して、慎重な言い方をせざるを得なかったのだろう。

だが、首相がそんな及び腰の姿勢では、超党派協議はいつまでも始まらない。財政への危機感が本物なら、党内論議を急ぐよう指導力を発揮するのが筋だろう。

米軍普天間飛行場の移設や「政治とカネ」の問題でも、首相の答弁は具体性を欠き、あいまいなものに終始した。

“内憂”に気を取られて安全答弁を繰り返していては、ねじれ国会の打開に不可欠な野党との協力関係は築けない。政権の求心力も高まらず、党代表選での再選戦略にもマイナスでしかあるまい。

首相はもっと攻めの姿勢で国会論戦に臨むべきである。

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