ねじれ国会での、与野党の役割を再考させられる論戦だった。
菅直人政権発足後、衆院予算委員会が初めて開かれ、自民党の谷垣禎一総裁と石破茂政調会長が、これまでとはひと味違った質問ぶりを見せた。
谷垣氏は「日銀総裁がしばらく空席だった。ああいう乱暴でむちゃなことは自民党は決してしない」と明言した。政権に就いていた2008年、参院の第1党の小沢民主党に日銀総裁人事などで苦しめられた。その仕返しはしないという宣言である。
赤字国債の発行を認める法案について「真剣に向き合わざるを得ない」と語った。否決すれば予算の執行もままならず、政府を追い込める。一方で、国民生活に深刻な影響が生じ、野党も批判を浴びかねない。
衆参の多数派が異なるうえ、与党が衆院の3分の2も持たない状況では、野党も与党とともに、権力と責任を分かちあう。そのことに対する自覚を、谷垣質問に見て取ることができる。
ねじれに苦しんだ経験を持つ党が野党となる。政権交代がもたらした政党政治の成熟の一側面かもしれない。
谷垣、石破両氏が菅首相を叱咤(しった)激励したのも、印象的な光景だった。
石破氏は「野党の時の総理は気迫に満ち満ちていた。気迫と責任感を持って国民を説得するのが政治家の役割だ」と語った。しっかりしてください。毅然(きぜん)とした態度を。野党とは思えぬような言葉を首相に投げかけた。
確かに参院選後の首相はすっかり歯切れが悪くなっていた。消費税を持ち出したから選挙に負けたと責められ、9月の党代表選で消費増税を約束することは考えていないとも述べていた。
首相はこの日も慎重な物言いに終始したが、参院選で提起したのに代表選で言わないのでは言葉が軽すぎると谷垣氏に批判されると、「私は財政再建では、一歩も引くつもりはない」と力を込めた。
代表選を控えて発言を慎重にせざるをえない事情はわかる。だが、いったい何をしたいのかあいまいにしていては、だれの理解も得られない。
党内の了解を得るだけでは法案はひとつも通らない。目を向けるべきは国会全体であり、さらには民意である。
内向きな発想を捨て、めざすことを明確にし、説得を試みる。財政再建で引かないというのなら、同じ目標を掲げる自民党に「財政健全化責任法」を提出せよと首相の側から促す。それくらいの攻めの姿勢があってもいい。
きのうのような論戦のありようが定着すれば、政策ごとに多数派を形成する土壌も整う。それなら歓迎である。
政治の停滞を許さない日本の苦境が、野党に「大人のふるまい」を促す。首相はそれに応え、幅広い合意を取り付ける努力を始めるべきである。
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