全国学力テスト 全員参加に戻し競い合え

読売新聞 2010年08月02日

全国学力テスト 「抽出」で失った貴重なデータ

児童生徒の学力を正確に把握し、全国規模で蓄積されたデータを国や学校現場が指導の改善に生かすには、すみやかに全国学力テストを全員参加方式に戻すべきだ。

文部科学省は、4月に実施した4回目の全国学力テストの結果を公表した。全員参加を前提とした過去3回と異なり、今年から全国の小中学校の約3割を抽出する方式に変わった。

ただ、抽出に漏れた学校の希望参加は認められた。最終的に全体の7割を超す約2万3800校が参加し、小学6年、中学3年生の計約163万人が、国語と算数・数学の問題に取り組んだ。

多くの学校がテストへの参加を望んだ。子ども一人ひとりの答案からつまずきを見つけ、きめ細かな指導につなげる。そうした検証の機会は、すべての学校に等しく提供されるべきである。

国が費用を負担して答案の採点と集計を行うのは、抽出対象の約1万校だけだ。希望参加校は独自に採点しなければならない。夏休み返上で採点にあたる教員も多いことだろう。

今回は、2007年のテストの際に小6だった子どもが、中3としてテストに臨んだ。3年たっても円の面積の求め方がわからない子どもが1割以上いる実態もわかった。指導法の改善が課題として教育現場に突きつけられた。

抽出方式への変更で、把握できるのは都道府県別の平均正答率までになった。しかも、サンプル数を絞ったことにより、正答率は1~2%程度の幅があるため、正確な順位は出せなくなった。

市町村別や学校別のデータは途切れてしまった。そうしたデータを都道府県が分析し、成績の悪かった学校に教員を手厚く配置することは難しくなった。

民主党政権はコスト削減を理由に、十分な議論も行わないまま全員参加方式を中止した。全員参加の場合の予算57億円は抽出方式で33億円になったが、貴重なデータが失われた代償の方が大きいのではないか。

批判の多い高校無償化には4000億円が投じられている。

文科省は2012年度以降に、理科や社会、英語をテスト教科に加えることを検討している。科学技術分野における人材育成の重要性を考えれば、理科の学力把握は欠かせない。

子どもに過度の負担をかけない範囲で、学力の実態を多角的に測定し、それを効果的に生かせるテストの方法を追求してほしい。

産経新聞 2010年08月02日

全国学力テスト 全員参加に戻し競い合え

春に実施された小学6年と中学3年対象の全国学力テストの結果が公表された。都道府県別で上位と下位にかなり開きがある。市町村や学校別ではさらに学力差が大きいはずだ。

しかし、4回目の今年は民主党政権下で抽出方式に縮小され、市町村や学校レベルの学力比較ができなくなった。やはり全員参加に戻し、すべての学校、教師の授業改善に生かすべきだ。

結果をみると、子供たちの学力の課題はまだ多い。記述式問題が苦手な傾向は変わらない。敬語で「申す」と「おっしゃる」の区別がつかない中学生が目立つ。夏目漱石の『吾輩は猫である』の「羊の御厄介(ごやっかい)になったり、蚕(かいこ)のお世話になったり」という衣服を着ることを例えた表現が分からない生徒も少なくない。文豪の作品に親しまない弊害など、現代の子供の課題がうかがえる。

秋田、福井など上位校は宿題など家庭学習もきちんと行われ、地域が教師を信頼し、協力しあう態勢が共通している。上位校に授業方式などを見習い、平均と比べ成績が悪い学校が家庭に呼びかけ、地域をあげて学力向上に取り組み始めたばかりである。

昭和30年代に日教組の反対闘争で学力テストが中止になった経緯がある。教育界はその後も競争や序列化を嫌う傾向を引きずっている。全員参加方式のときから文部科学省は都道府県などに市町村、学校別の成績公表を禁じた。

民主党政権では競争などを嫌う傾向がさらに強まり、事業仕分けで抽出率が当初の4割から3割になった。予算を削るところが違うのではないか。

学力向上に力を入れる大阪府などが開示請求に応じ、市町村別成績を公表する動きが出ていた。だが抽出方式では市町村や学校別の抽出数が限られる。不参加もあるため事実上、市町村別、学校別成績は公表できなくなっている。

抽出対象以外の希望参加も合わせると参加校は7割を超えた。文科省の調査では都道府県教育委員会のうち「全員参加が望ましい」とする教委が7割を占める。多くの保護者が学校別の成績公表を望んでいるという調査もある。

来年度から新しい学習指導要領が小学校を皮切りに本格実施される。抽出では学校ごとの課題が分からない。全員参加で大いに競い合うことが望まれる。

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