児童生徒の学力を正確に把握し、全国規模で蓄積されたデータを国や学校現場が指導の改善に生かすには、すみやかに全国学力テストを全員参加方式に戻すべきだ。
文部科学省は、4月に実施した4回目の全国学力テストの結果を公表した。全員参加を前提とした過去3回と異なり、今年から全国の小中学校の約3割を抽出する方式に変わった。
ただ、抽出に漏れた学校の希望参加は認められた。最終的に全体の7割を超す約2万3800校が参加し、小学6年、中学3年生の計約163万人が、国語と算数・数学の問題に取り組んだ。
多くの学校がテストへの参加を望んだ。子ども一人ひとりの答案からつまずきを見つけ、きめ細かな指導につなげる。そうした検証の機会は、すべての学校に等しく提供されるべきである。
国が費用を負担して答案の採点と集計を行うのは、抽出対象の約1万校だけだ。希望参加校は独自に採点しなければならない。夏休み返上で採点にあたる教員も多いことだろう。
今回は、2007年のテストの際に小6だった子どもが、中3としてテストに臨んだ。3年たっても円の面積の求め方がわからない子どもが1割以上いる実態もわかった。指導法の改善が課題として教育現場に突きつけられた。
抽出方式への変更で、把握できるのは都道府県別の平均正答率までになった。しかも、サンプル数を絞ったことにより、正答率は1~2%程度の幅があるため、正確な順位は出せなくなった。
市町村別や学校別のデータは途切れてしまった。そうしたデータを都道府県が分析し、成績の悪かった学校に教員を手厚く配置することは難しくなった。
民主党政権はコスト削減を理由に、十分な議論も行わないまま全員参加方式を中止した。全員参加の場合の予算57億円は抽出方式で33億円になったが、貴重なデータが失われた代償の方が大きいのではないか。
批判の多い高校無償化には4000億円が投じられている。
文科省は2012年度以降に、理科や社会、英語をテスト教科に加えることを検討している。科学技術分野における人材育成の重要性を考えれば、理科の学力把握は欠かせない。
子どもに過度の負担をかけない範囲で、学力の実態を多角的に測定し、それを効果的に生かせるテストの方法を追求してほしい。
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