口蹄疫終息へ 再発防止に教訓を生かそう

朝日新聞 2010年07月29日

口蹄疫が終息へ 教訓生かし次への備えを

家畜の伝染病、口蹄疫(こうていえき)が猛威をふるっていた宮崎県で、家畜の移動制限がやっと解除された。最初に報告されてから3カ月余りかかって、ようやく流行は終息にこぎつけた。

この間、感染の広がりを抑えるため殺処分された牛や豚は約29万頭にのぼる。県内で飼育されている数の約2割にあたり、畜産農家は心理的にも経済的にも、大きな犠牲を払った。

日本の食を支える畜産農家の再生を支援していくとともに、今回の教訓をしっかりと受け止めて、今後の対策に生かすようにしたい。

前回、2000年の発生時は宮崎県と北海道で牛740頭が殺処分された。今回はウイルスを広げやすい豚に感染したこともあって、比べものにならない規模になった。日本で多くの人々が初めて目の当たりにした口蹄疫ウイルスのこわさである。

これからも、いつなんどき日本のどこかに、ウイルスが入り込まないとは限らない。

発生後の対応をめぐっては、いくつもの問題が浮かび上がった。

まず、発見の遅れがある。4月20日に1例目が確認されたが、感染は3月に始まり、この時点ではすでに十数戸の農家に広がっていたことが後でわかった。気づかぬまま、感染をさらに広げていたことになる。

症状だけでは判断が難しい場合も多い。簡便になった遺伝子検査を活用して、いち早く感染を見つけられる態勢を整えることが欠かせないだろう。

また、感染がわかったら、ただちに殺処分して埋却することが重要だが、埋却場所が不足していたことなどから、処分が大きく遅れた。

家畜伝染病予防法によれば、埋却地の確保は各農家の責任になっている。この法律ができた60年前に比べると、農家の規模ははるかに大きくなり、とりわけ養豚農家の場合は土地にほとんど余裕がない。埋却が滞りなく進んだ自治体は感染を早期に抑え込んだことをみれば、自治体で準備しておくことも必要ではないか。

一方、大型の家畜を扱える獣医師の不足も浮かび上がった。今回、多くの獣医師らが全国から応援にかけつけた。ただちに現地に派遣できる専門家チームを用意しておいたり、長期的には獣医師の養成を進めたりすることも大切である。こうしたことは政府が責任をもって進めるべきだ。

法律上、家畜の伝染病対策は都道府県の責任だが、県を越えて広がる事態を想定すれば、司令塔としての政府の役割もますます重要だ。

感染症対策は何よりスピードが求められる。これは、人でも家畜の場合でも同じだ。すばやく対策がとれるよう、都道府県と国の役割分担や連携の仕方を再確認しておく必要がある。

毎日新聞 2010年08月01日

口蹄疫終息へ 教訓生かし体制整備を

29万頭の家畜を犠牲にし、宮崎県で猛威を振るった口蹄疫(こうていえき)がようやく終息を迎えた。今後は、畜産農家の再建や地域経済の復興に焦点が移るが、防疫対策に終わりはない。

再発も念頭に、改めてこの3カ月を検証し、今後の体制作りに教訓を生かしたい。

まず、もっと早く感染を察知できなかったかという課題がある。都農町で最初の疑い例が見つかったのは4月20日。この時すでに、十数戸の農家で感染していたと見られる。

目に見えない病原体の侵入をキャッチするのは難しいが、口蹄疫は中国や韓国など近隣諸国で発生している。国際的に人や物が行き来する現代にあっては、いつ、どこに入ってきても不思議はない。常にウイルスの侵入を監視し、診断キットなどを利用してすばやく検出する体制が欠かせない。

初期の対応にも問題があった。大事なのは感染疑いのある家畜のすばやい殺処分と埋却だが、場所によっては埋却地が確保できず、処分が遅れた。それが感染拡大を招いた可能性がある。

背景には、家畜伝染病予防法の不備がある。半世紀以上前にできた法律で、家畜を処分する責任を農家に求めている。しかし、最近の大規模飼育には対応しきれない。抜本的なルールの見直しが必要だ。

宮崎県と北海道では00年にも口蹄疫が発生した。この時は牛の感染にとどまり、短期間で抑え込むことができたため、国にも県にも、油断があったのではないか。

今回は、ウイルスの感染力や病原性が強かったとみられ、ウイルスの排出量が牛の100~2000倍といわれる豚にも感染した。こうした情報をすばやく伝え、感染拡大防止に役立てることも大事だ。

殺処分に対する国の補償が、迅速に表明されなかったことも問題だった。農家の心理と、対応の遅れによる被害の拡大を認識していれば、もっとすばやい対応ができたはずだ。

農家の種牛の助命をめぐる混乱にも釈然としない部分が残る。法律を機械的に適用すれば殺処分しかないが、宮崎県は県所有の種牛を特例で避難させている。

特に、流行が終息に向かう中で、国は「例外を認めない」というだけでなく、抗体検査をするなど、リスクを科学的に判断する道もあったのではないか。検証してほしい。種牛を守る手段を日ごろから用意しておくことの重要性はいうまでもない。

今回、宮崎県の農家は、家族のように思っていた家畜を殺処分することによる心理的なダメージも受けた。経済・心理両面からの支援にも力を注ぎたい。

読売新聞 2010年07月28日

口蹄疫終息へ 再発防止に教訓を生かそう

宮崎県を揺るがした家畜伝染病、口蹄疫(こうていえき)の感染被害が、発生から3か月で、ようやく終息に向かうことになった。

県はすべての家畜の移動制限を外し、非常事態宣言も解除した。県内で飼育していた牛や豚の約2割に相当する29万頭を殺処分するという多大な犠牲を払い、ひとまず危機を脱した。

初動のまずさや制度の不備などが次々と露呈した3か月間でもあった。国と自治体は、こうした教訓を生かし、畜産の実態に即した防疫体制を構築すべきである。

感染拡大の要因は、まず初期対応が不十分だったことだ。県は口蹄疫の症状を見逃し、最初の事例を発表した時点で、すでに10農場以上に感染が広がっていた。その後も検査や消毒を徹底しなかったことが最後までたたった。

口蹄疫が発生した際、即座に人員や資材を大量に投入できるような体制の整備が急務である。

60年前に制定された家畜伝染病予防法が、大規模な畜産経営が主流となった現状にそぐわないという問題も浮き彫りになった。

例えば、家畜の殺処分と埋却を農家に義務付けているが、大規模な養豚農家が埋却地を確保できず、殺処分が遅れた。ウイルス放出量が牛の1000倍に達する豚の埋却に手間取ることは、口蹄疫対策では致命的である。

こうした問題に対処するには、飼育する頭数などに応じ、自治体が埋却の候補地を事前に決めておくことが必要ではないか。

国の権限を強化することも重要だろう。口蹄疫は県境を越えて発生する可能性が高く、国全体で危機管理すべき対象だからだ。

だが、現行法では殺処分の命令など重要な権限は都道府県にある。自治体は地元の利益を優先しがちで、国益を考えた防疫体制が機能しなくなる危険性がある。

今回、種牛の殺処分を求めた国に対し、県が特例的な延命を主張して混乱を招いた。こうした事態を繰り返してはならない。

感染が終息しても、被害農家の経営再建はこれからだ。殺処分で家畜がいなくなった農家は数年間、大幅な収入減を余儀なくされる。心身ともに打撃を受け、畜産から撤退する農家もある。精神面での支援も必要だろう。

菅首相は27日の口蹄疫対策本部会合で「農家が再び安心して畜産を営める支援が重要だ」と強調した。殺処分を柱とする防疫制度を講じていくうえでも、農家が協力しやすくなるような家畜の補償や経営支援の充実が求められる。

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