論調観測 来年度予算 政権の命運が問われる

朝日新聞 2010年07月28日

来年度予算 政策の優先順位を明確に

菅直人首相が掲げる「強い経済、強い財政、強い社会保障」への歩みを刻めるかどうか。来年度予算の編成をめぐって、菅政権の真価が問われようとしている。

日本の借金財政は先進国で最悪なのに、ギリシャ危機のようにはならずに済んでいる。経常収支の黒字などと並ぶその理由の一つは、日本の税負担が先進国で最も低く、消費税などの増税余地がかなりあることだ。

だが、それが説得力をもつには、日本が財政赤字を制御できる国だということを示す必要がある。金融市場や国際社会の目は厳しく、政府の具体的な行動が問われている。

そのスタートとなる概算要求基準(シーリング)をきのう菅政権が決めた。歳出額、新規国債発行額は今年度の実績以下に抑えるとし、歳出膨張の歯止めを示した点は評価できるが、問題はどう実現するかだ。

歳出額が今年度並みといっても、現状維持では済まない。人口の高齢化で、社会保障費は毎年1兆円以上増える。その分だけ、どこを削るか。

菅政権は新成長戦略の一環として、医療や介護、環境など雇用拡大を見込む分野に「1兆円を相当程度超える」特別枠を設ける。それには他の予算を圧縮する必要がある。

こうした事情から、各省庁の予算を前年度比で一律1割ずつ削減することになった。

シーリングは歳出抑制の手段として長らく使われてきた。昨年の政権交代後、鳩山政権が「硬直的」だと廃止したが、予算要望額が一気に膨らみ、かえって混乱した。その経緯をみれば、復活は現実的な判断だろう。やりようによっては、かなり大胆な予算の組み替えもできるはずだ。

菅政権は今後の予算配分の作業で、公開型の「政策コンテスト」を導入するという。人気取りのパフォーマンスで終わらないよう、政策の優先順位を決めるのにふさわしい手法を編み出すことを期待したい。

このさい、民主党が政権交代時に掲げたマニフェストの目玉政策も政策コンテストにかけてはどうか。高速道路無料化、子ども手当、農家の戸別所得補償などだ。兆円単位の歳出増が伴うこれらの政策を古い工程表通りに実現するには無理がある。

国民に事情を正直に告げ、コンテストで既存政策と比べ、優先度の高さを決めればいい。推進すべきものと断念すべきものが見えてくるはずだ。

残念ながら、シーリングの決定過程は国民に見えにくかった。自公政権では、有識者を加えた経済財政諮問会議が予算の大枠を決め、その論議の内容も公開した。今後の予算編成にもかかわるオープンな政策決定の場をつくることも菅政権の重要課題ではないか。

毎日新聞 2010年07月25日

論調観測 来年度予算 政権の命運が問われる

酷暑の中で悪夢にうなされている気分に違いない。来年度の予算編成作業が始まったが、菅直人政権にとっては何とも重苦しい試練が続く。

まず、政府は11年度予算について国債の元本返済と利払い費を除いた歳出の上限を10年度並みの約71兆円とする方針を決めた。71兆円枠は閣議決定した「中期財政フレーム」の柱である。一方、高齢化による社会保障費の自然増(約1・3兆円)は削減の対象にせず、党からは成長戦略やマニフェストの政策に重点配分するため2兆円の特別枠を求められた。

税収増がそれほど期待できず歳出上限も決められた以上、そうした予算を確保するには何かを削らなければならない。省庁一律に約1割削減する案が浮上したが、閣僚からの強い反対で概算要求基準骨子には盛り込まれなかった。もとより政治主導で政策の優先順位に沿ったメリハリのある予算編成をしようというのが民主党である。しかし、肝心の国家戦略局構想を菅首相自ら捨ててしまった今、政治主導の実現はさらに険しくなったと言わざるを得ない。

各紙社説は危機的な現状認識から、一斉に歳出削減を迫る。「バラマキ政策を、大胆に見直すことが肝要である」(読売)、「高速道路の無料化や農家戸別所得補償の本格実施、子ども手当の満額支給など、民主党のマニフェストの一部をいったん白紙に戻す必要がある」(朝日)、「社会保障や公共事業など主要な分野ごとに厳しく上限を設ける仕組みが必要だ」(産経)、「社会保障を聖域視するのはよくない」(日経)などである。

財政再建が一刻の猶予も許されないことを考えれば、どれも当然のように思える。しかし、「金がないからできませんなんて、そんなばかなことがあるか」と参院選で現政権に怒りをぶつけたのが小沢一郎前幹事長である。たしかに、小泉政権当時、社会保障費の自然増を毎年2200億円削減したため医療や介護の現場が崩壊しかかり、国民の悲鳴を追い風にして誕生したのが民主党政権だ。

小沢氏の出方次第では9月の代表選がどうなるかわからないだけに菅首相の苦悩も深いだろう。だが、菅政権の命運だけでなく、1年前に政権交代を実現させた多くの国民の思いが「真夏の夜の夢」に終わるかどうかも問われているのだ。「予算編成の司令系統を明確にし、政府・与党が結束して」(毎日)当たるしかないと思うが、そういう雰囲気は生まれてくるのだろうか。【論説委員・野沢和弘】

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