アジア外交 ASEANともっと深く

朝日新聞 2010年07月23日

アジア外交 ASEANともっと深く

東南アジア諸国連合(ASEAN)の外相会議が、東アジアサミット(EAS)への米国とロシアの参加を認める方針を出した。

この秋のASEAN首脳会議で正式に認められれば、すでに参加している中国、インドを含め、中南米をのぞくアジア・太平洋地域の大国が勢ぞろいすることになる。

世界金融危機のあと最も早く立ち直ったのが中国を中心とするアジアだ。いまやこの地域が世界の経済を先導しているといっても過言ではない。

中国は台湾とも経済協力枠組み協定を結び、地域の大国としての存在感をますます高めている。中華経済圏ができつつあるという見方もある。

米ロはこうした現実に突き動かされ、アジアに直接関与する道を選んだのだろう。米国には、アジアで影響力が低下しつつあるのではないかという危機感もある。テロとの戦いという点で、イスラム原理主義につながるネットワークがある東南アジアに地歩を固める意味もあったと見られる。

また、大中華圏にのみ込まれたくないASEANが、バランス感覚を発揮した結果でもあるだろう。

日本は、日米同盟は地域の安定のための公共財だとして、米国がEASに関与する必要性を説いていた。今回の方針は、日本には歓迎すべきことだ。

しかし、米国が直接EASに参加すれば、米国の考えを代弁する国は必要ない。日本の影が薄くなることも覚悟しなければならない。

だからこそ今、日本独自のアジア外交の構想力が問われる。

EASは元来、東アジア共同体の可能性を探ることが大きな目的だった。米ロの参加によってその性格が変わるのか、目を凝らさねばならない。参加国が増えれば議論の収斂(しゅうれん)は難しくなるし、大国の利害の衝突もあるだろう。

立ち上がりつつある中華経済圏には日本も分かちがたく結ばれている。その現実を踏まえ、東アジア共同体構想の道筋との折り合いをどうつけていくのか。それをどこで話すのか。

共同体はそのメンバーも決まっていないが、少なくともASEANと日中韓が中心になることは間違いない。

ASEANは2015年の統合を目指して経済の一体化を進め、憲章も制定した。そこには共同体づくりで一歩でも先んじ、より広い地域統合の核という地位を確保する意図もある。

日本は中韓との連携を強めねばならないが、歴史問題をはじめ乗り越えるべき複雑な課題がなおある。

一方、ASEANとはこれまでに積み重ねてきた協力関係の厚い蓄積がある。まずそれを強化し、重要なパートナーとして関係をさらに深めることも、アジアで日本が存在感を増すためには欠かせない。

毎日新聞 2010年07月24日

北朝鮮ARF参加 言い逃れは通らない

北朝鮮の元工作員、金賢姫(キムヒョンヒ)元死刑囚が日本社会に複雑な波紋を残して去った日。ハノイで東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)が開かれた。最大の焦点は韓国哨戒艦の沈没事件である。

この会議に北朝鮮が送り込んだ朴宜春(パクウィチュン)外相ら一行は、事前に他国代表団と活発に接触し、「哨戒艦事件とは無関係」だと主張した。中国に助けられて国連安全保障理事会による名指し非難を免れた成果を維持するための工作だ。

北朝鮮は金元死刑囚に実行させた87年の大韓航空機爆破事件や、それより前に韓国大統領暗殺を狙ったビルマ(現ミャンマー)での爆弾テロ事件を「韓国のでっちあげ」と言い張った。哨戒艦事件に関する姿勢と何ら変わるところがない。この現実を国際社会は忘れてはなるまい。

韓国側の多国籍調査団は哨戒艦の沈没原因を「北朝鮮の魚雷攻撃」と結論した。十分な説得力があり、本来は安保理で北朝鮮の責任を明確に問うべきであった。

しかし国際政治の現実の中で、それは実現されず、しっかりした「包囲網」は形成されていない。アジア太平洋地域の政治・安全保障問題を協議するARFもまた、その限界を超えるものではない。

そこで米韓は、日本海での大規模な合同軍事演習をはじめとする一連の長期的な軍事演習を決めた。ソウルでの外務・国防担当閣僚会議の際にはクリントン米国務長官が新たな対北朝鮮制裁を予告した。その上で、日米韓が共同歩調をとる構えでハノイに乗り込んだのだ。

安保理の会合では韓国と北朝鮮から個別に説明を聞いただけだったため、ARFでの議論が国際舞台での「初の南北直接対決」となった。

韓国の柳明桓(ユミョンファン)外交通商相は北朝鮮に謝罪を求め、6カ国協議再開の前提として「核廃棄」に向けた明確な意思表示を促した。クリントン長官は「孤立し好戦的な」北朝鮮の態度変化を要求した。岡田克也外相も米韓支援の発言をした。

北朝鮮の朴外相はこの攻勢をはねつけた上で、「平等な6カ国協議」を通じた「朝鮮半島非核化と平和体制構築」を目指すと述べたという。これは、まず安保理決議による対北朝鮮制裁を解除せよという要求であり、在韓米軍が撤退せねば核放棄しないという意味にもなる。

中国は6カ国協議の早期再開を主張したというが、北朝鮮の態度がこれでは成果はおぼつかない。米韓が既に表明した通り、安易な再開を避けるのはやむをえない。問題解決への近道はないことを覚悟して、北朝鮮の責任逃れを許さず、「対話と圧力」を続けるしかあるまい。

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