高齢者医療制度 拙速な見直しは混乱を招く

朝日新聞 2010年07月26日

高齢者医療 見直すなら、ていねいに

後期高齢者医療制度に代わる新たな制度の原案を、厚生労働省の改革会議が示した。年内に最終案をまとめ、政府は来年の通常国会へ関連法案を提出するという。

しかし、この案には問題が多い。幅広い合意を得るには、もっと議論を重ねて良い案を練るべきだ。

原案では、75歳以上のお年寄りは地域の国民健康保険または会社の健康保険組合などに戻る。ただし、多くのお年寄りが移る地域の国保では、高齢者分だけ別勘定にして都道府県単位で運営するという。

年齢での線引きをやめるという民主党の方針と、現役世代と高齢者の負担の明確化や、広域化による格差縮小など現行制度の良い点は残すことを両立させようとする苦肉の策だ。

この案が実現すると、地域の国保は市区町村単位の現役世代と都道府県単位の高齢者が混在し、複雑でわかりにくい制度になってしまう。

将来は現役世代も都道府県単位にするとの方針を掲げているが、市町村間の保険料格差を是正して一つにするのは容易でない。

それ以上に問題なのは、財源の見通しが立っていないことだ。どんな制度にするにせよ、膨らみ続ける高齢者の医療費を誰かが負担しなければならない。税金を新たにいくら投入するのか。世代間、保険者間で保険料の負担をどう分かち合うのか。

ところが、消費税を含む税制の抜本改革の議論は政府内でまったく進んでいない。高齢者医療の財源を今後、いかに確保し制度の安定を図るかについて、政府の方針や覚悟すら示されないままである。

これでは、いくら新制度を描いてみても、その持続可能性に疑問がつきまとう。将来への不安も、制度への不信もぬぐえない。

分かち合いの理念もあいまいだ。示された原案では、サラリーマンの配偶者や子どもがいるお年寄りは扶養家族に戻り、保険料負担をしなくなる。その分だけ現役世代に負担がかかることになってもいいのだろうか。

見直しは、何をめざすのか。今の制度を廃止するのが目的というだけでは野党を説得することは到底できないし、かりに法案提出にこぎつけたとしても成立は見込めない。

制度を見直す以上は、多くの人々が納得し安心できる仕組みにしなければならない。今の制度の合理的な側面と問題点を冷静に見きわめ、よりよい制度に再構築する。そのめどが立たないのであれば、制度変更は混乱をもたらすだけになりかねない。

「マニフェストで約束したから」と、強引に進めるべき話ではない。野党も賛成できるような理にかなった内容と、ていねいな運び方を求めたい。

毎日新聞 2010年07月24日

後期高齢者医療 恒久的な処方せん示せ

「75歳という年齢で医療制度を分けるのは差別だ」などと批判されていた後期高齢者医療制度の廃止は政権交代の旗印の一つだった。しかし、廃止はできても、どんな代替案を示せるのかを危ぶむ声も強かった。

民主党政権が発表した新制度の骨子案によると、現在約1400万人いる後期高齢者の8割が国民健康保険(国保)へ、会社員と家族は勤務先の被用者保険へ移る。市町村が運営する国保は今も財政が危機的なため、高齢者は別勘定にして都道府県単位で運営する、というものだ。

年齢での区別をやめるという公約を守り、当面の国保財政の維持を図る点においては前進と言える。ただ、日本の高齢化は猛烈な勢いで進んでおり、75歳以上だけでも毎年50万人以上増え、この世代の医療費は毎年4500億円ずつ増えていくのだ。膨れあがる医療費そのものをどうするかという恒久的な処方せんを示してはいない。

高齢者の保険料負担を軽減するのであれば、公費(税)で賄うか、現役世代からの拠出金で賄うしかない。現行制度も50%が公費、10%が高齢者自身の保険料、残りの40%は健保と協会けんぽからの拠出金で運営されている。このまま消費税論議が進まず、事業仕分けや予算の組み替えでも財源が出てこなければ、これまで以上に現役世代の拠出金で支えざるを得ない。しかし、被用者保険も赤字だらけで、解散する健保組合も続出しているのが現状だ。

八方ふさがりの中で誰がどのように負担するかをめぐって制度変更を繰り返してきたのが高齢者医療問題なのである。この堂々巡りを解消するもう一つの方法は、高齢者医療の内容を見直し、医療費の支出を減らすことである。

後期高齢者医療制度で当初盛り込まれた「主治医」制度は、高齢者の慢性疾患などを1人の医師が総合的・継続的に診るというものだった。病気ごとに違う病院や診療所にかかり検査や投薬を重複して過剰に受ける高齢者がいることを考えれば、この制度は医療費の抑制につながると期待された。しかし、医療側には診療報酬上のメリットが薄く、患者側も診療が抑制されることを心配する声が多かったために広まらず、今年の報酬改定で廃止された。

必要な治療が受けられなくなるのは断固反対だが、過剰診療に歯止めをかける医療体制の構築は現役世代にとっても必要だ。むしろ慢性疾患が中心の高齢者から医療改革を進めていくことはできないものか。

負担の分散だけでは限界がある。手厚い医療を求めるなら負担増は避けられない。負担増が嫌なら医療費を抑える方策も考えるべきだ。

読売新聞 2010年07月24日

高齢者医療制度 拙速な見直しは混乱を招く

後期高齢者医療の見直しを、それほど急ぐ必要があるのか。

今は無用の混乱を避けて、現行制度を適切に検証・評価し、議論を積み重ねるべき時だろう。

現行制度に代わる仕組みを検討している厚生労働省の「高齢者医療制度改革会議」が23日、新制度の骨格案をとりまとめた。

これを土台として年末までに最終案を確定し、来年の通常国会に法案を提出するという。

民主党はマニフェスト(政権公約)に「後期高齢者医療制度の廃止」を掲げている。これにこだわって、見直しを急いでいるようだが、あまりにも拙速である。

現行制度で後期高齢者は都道府県単位の独立した保険に加入しているが、骨格案では、市町村の国民健康保険か、本人や世帯主が勤める企業の健保などに入る。

ただし、高齢者の8割以上が加入することになる国保では、高齢者の収支は別勘定で運営する。

その運営は、現行同様に都道府県単位で行う。税金と現役世代の支援金で9割、本人の保険料は1割、という現行制度の負担割合も維持する。

高齢者が家族とは別の保険証を持つことはなくなる。ただし、膨らみ続ける高齢者医療の負担割合を明確にするため、事実上の別枠方式は残す、という案だ。

長妻厚労相は、高齢者を区別しない医療制度を作るとの原則を示し、改革会議をスタートさせた。骨格案が原則を守った制度と言えるかどうか、疑問の声も出るのではないか。

また、再び高齢者が加入する保険を変更するには、相当な準備を必要とし、少なからぬ混乱も生じるだろう。

さらに問題なのは、財源の議論がまったくないことだ。制度をどういじっても、高齢者の医療費が縮小するわけではない。

消費税の議論をきっちり詰め、公費の投入をどこまで拡大できるか十分に検討しつつ、制度を練る必要がある。

現行の後期高齢者医療制度は、呼称などに対する感情的反発が先行したが、負担軽減措置もとられて制度は定着しつつある。

改革会議で高齢者団体の代表から「現行制度はすでに廃止されたと思っている人が多い」という趣旨の発言まであった。

手直しするならば、超党派協議で社会保障の財源をきちんと確保した上で、年金や介護などと共に高齢者施策全体を抜本改革する中で進めるべきだ。

産経新聞 2010年07月26日

高齢者医療 現行制度の改善が得策だ

議論が拙速すぎはしまいか。厚生労働省がまとめた、後期高齢者医療制度を廃止した後の新制度の骨格案のことだ。

75歳で一律区分したことが批判を集めたことから、1400万人の対象者の8割を国民健康保険(国保)に戻し、勤め続けている人や会社員の扶養家族は健康保険組合などに移すとした。

制度をよりよく改める努力は大切だが、問題はその内容だ。今回の案は制度が大きく変わるようにも見えるが、国保では高齢者の医療費や保険料は若者世代とは別勘定で計算するという。運営も現行制度と同様に都道府県単位とし、高齢者本人の保険料1割、税金と現役世代からの支援金で9割という負担割合も維持する。

これならば、現行制度を改善したほうが早いのではないか。民主党は政権公約で後期高齢者医療制度の廃止を掲げているが、「自分たちのメンツのために『廃止ありき』で議論を進めている」と批判されても仕方があるまい。

これ以外にも疑問点は少なくない。会社員の扶養家族などの保険料負担がなくなるが、負担する人と新たな不公平感が生じはしまいか。高齢者が加入する制度が分かれることで、高齢者医療全体の負担の構図も見えづらくなる。

現役世代の負担を明確にした現行制度の意義は大きい。高齢者に支払い能力に応じて負担を求めたのも、限りある財源の中での知恵だった。制度を見直すことで、こうした利点が損なわれるのでは本末転倒といえよう。

さらに問題なのが、肝心の財源論が抜け落ちていることだ。どんな制度でも、膨らむ高齢者医療費を誰かが負担しなければならない。消費税を含めた税制改革の議論や、年金や介護といった社会保障全体での検討が不可避だ。

高齢者医療制度の見直しは、受け皿となる若者の医療制度とも密接に連動する。健康保険組合などの財政も悪化している。負担の在り方だけでなく、医療費の伸びをどう抑えていくかという視点も求められよう。

政府・民主党は来年の通常国会での法案提出を目指しているが、医療制度改革は一朝一夕にはいくまい。野党との協議も必要だ。現行制度は2年以上が経過し、高齢者の理解もかなり進んだ。「廃止ありき」ではなく、腰を据えた議論が求められる。

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