イチロー新記録 世紀を隔て歴史を塗り替えた

朝日新聞 2009年09月15日

9年200安打 孤高の打者が歴史を刻む

記録達成の一打は、彼らしい内野安打だった。シアトル・マリナーズのイチロー選手がまた前人未到の地に立った。大リーグ初の9年連続200安打。とてつもない快挙をたたえたい。

ウィリー・キーラーが1901年に記録した8年連続を抜いた。108年ぶりの歴史の塗り替えである。

そもそも年間200安打の達成さえ大変なことだ。通算で最多はピート・ローズの10回。ただ4256安打の記録を残すこの希代の打者にして、200安打の連続は3年が限界だった。

今季、出血性胃潰瘍(いかいよう)で開幕から8試合を欠場した影響は小さくなかった。残る154試合で昨年並みの1試合平均1.314本を打ったとすると、ぎりぎりの202安打にしかならない。

だが戦列に戻ると、自己新記録の27試合連続を含め安打を量産した。先月下旬からも8試合を休んだが、先週には大リーグ通算2千安打も達成した。

「チェーシング・ヒストリー」。大リーグの公式ホームページは今回の記録挑戦を、こう表現した。イチローは「メジャーの歴史を追い、光を当てる男」というわけだ。

1年目の01年、242安打を放ち、ジョー・ジャクソンが作った新人最多安打記録を90年ぶりに塗り替えた。04年には262安打し、1920年にジョージ・シスラーが残した年間最多257安打を84年ぶりに更新した。そして今回の、世紀を超えた偉業だ。

細い体でこつこつ安打を重ねる姿は最初、「蚊のようだ」と揶揄(やゆ)された。「走りながら打つ」と言われる打撃も批判にさらされたが、自らのスタイルを貫き通した。孤高の打者である。

俊足で常に敵の内野をかき乱す。正確無比な守備と強肩。本塁打に象徴されるパワー全盛の大リーグにあって、野球本来の「スピード」の魅力を再認識させた功績は大きい。

近年、大リーグは筋肉増強系の薬物に手を染める選手が相次いだ。そんな中、不断の鍛錬と節制で肉体を維持し続けるイチローのプロ意識は、米国でも敬意の的だ。9年連続で球宴に選ばれていることはその証しである。

キーラーの現役時代、大リーグは白人の社会だった。第2次大戦後、黒人も次第に増えたが、ベーブ・ルースの本塁打記録を黒人のハンク・アーロンが74年に超える直前には、白人至上主義者からの嫌がらせや脅迫もあった。

時は流れ、中南米、アジアとメジャーを彩る選手は世界に広がる。多様化を象徴する一人がイチローである。

次に見据えるのは27人しか達成していない通算3千安打だろう。ジョー・ディマジオが41年に残した56試合連続安打の更新を望む声もある。

歴史を追ってきたイチローは、すでに自らが歴史となりつつある。新たに刻む道を、これからも見守りたい。

読売新聞 2009年09月15日

イチロー新記録 世紀を隔て歴史を塗り替えた

米大リーグの歴史に名を刻む偉業である。

シアトル・マリナーズのイチロー選手が、大リーグ史上初の9年連続200安打を達成した。200本目は、イチロー選手らしい内野安打だった。

野球殿堂入りしているウィリー・キーラーが8年連続200安打を樹立したのは、大リーグ草創期の1901年だ。イチロー選手は昨年、これに並び、今回、前人未到の領域に入った。1世紀余を経ての記録更新を祝福したい。

試合後、イチロー選手は「解放されました」と語った。「年間を通しての最大の目標」としている200安打を、重圧と戦いつつ、大リーグに移籍した2001年から途切れることなくクリアしての新記録だ。思いも格別だろう。

3月のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)決勝で、日本の連覇を決めるヒットを放った。今月6日には、大リーグ通算2000本安打も達成した。

今年も、イチロー選手のプレーに感動し、元気をもらった人は多いのではないか。

ただ、今季は順調なシーズンとはいえなかった。WBCの後、胃潰瘍(かいよう)で開幕から8試合を欠場した。8月下旬にも左ふくらはぎを故障し、8試合休んだ。

イチロー選手も、来月で36歳。年齢による衰えを指摘する向きもあったが、復帰すると、きっちりと結果を出してみせた。不断の努力があるからこそだろう。円熟の技で10年連続200安打、さらに、その先を目指してほしい。

印象的だったのは、マリナーズにとって敵地のテキサス・レンジャーズのファンも、記録達成に大きな拍手を送っていたことだ。

パワーあふれるホームランは無論、野球の醍醐(だいご)味だ。だが、イチロー選手の登場で、米国のファンは、巧打者の魅力も改めて認識したのではないだろうか。

強肩のイチロー選手は、守備でも8年連続してゴールドグラブ賞を受賞している。足も速い。走・攻・守に優れたプレーが、日本の野球の評価を米国で高めたことは間違いない。

「球界が前に進んでいくためには、技術だけでなく、記録の上でも後輩が先輩を抜かないと」。イチロー選手はかつて、こう語ったことがある。

次代を担う子供たちにとって、イチロー選手はあこがれの的であろう。その大目標に追いつけ、追い越せ、と練習に打ち込み、技を磨く。そうした選手が増えることが、野球界の発展につながる。

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