米金融規制法 景気冷やさぬ慎重運用を

毎日新聞 2010年07月23日

米金融規制法 改革の本番はこれから

「50年に1度」「100年に1度」と言われる甚大な金融危機には、それに見合う大胆な制度改革が伴わねばならない。何の責任もない多くの市民があまりにも重い犠牲を強いられるからだ。

米国で成立した金融規制改革法はどうだろう。2300ページに及ぶ新法は、ウォール街の暴走を阻止し、消費者を保護することを目指している。歴史的改革の一歩にはなりうるが、七十数年前の大恐慌時代に実現した大改革に匹敵する内容ではない。少なくとも現段階ではそうだ。

金融業界の猛反発が早くから予想された金融規制改革を何とか法律という形にしたオバマ大統領のねばり強さは評価に値する。支持率を落としながらも、3月の医療保険制度改革法、今回の金融規制改革法と、極めて困難な2大改革法の成立にこぎつけた。

だが、成立を優先した結果、妥協が重なり、施行に必要な規制の具体的中身は、今後の各担当当局に委ねられることになった。意味ある改革に近づくかどうかはそれ次第だ。

「税金を使い金融機関を救済することは二度とない」。法案に署名した大統領は意義を強調した。主要金融機関が将来、破綻(はたん)に直面した際、政府が管理下に置き、粛々と分割・清算する権限を得たからだ。「大きすぎてつぶせない」という暗黙の政府保証を否定することで、大手金融機関が野放図にリスクをとることを困難にする狙いがある。

しかし、実行は容易ではなかろう。政府が問題金融機関を処理しようとした途端、他の金融機関に不安が飛び火する恐れがある。市場の混乱は国外にも及ぶだろう。結局現実にはつぶせない、となれば、事実上の安全網に支えられた利益追求が今後も続きかねない。

新法には、これまで不透明だったデリバティブ(金融派生商品)取引の情報開示や銀行が自己勘定で行う高リスク取引の制限などが盛り込まれ、それなりに前進といえる。

しかし、危機の再発防止に欠かせない二つの重要な課題が残っている。一つは金融機関の自己資本規制強化で、国際的な協議が行われている。もう一つは、金融の暴走を促した世界的な金余りだ。長期に及ぶ低金利政策が原因だが、失敗を繰り返さないための措置はまだとられていない。いずれも日本の金融に大きな影響を及ぼすもので注視したい。

金融は米経済の成長をリードしてきた主要産業だ。その利益を縛る改革には相当な抵抗があろう。しかし、世界中を巻き込んだ今回の危機を簡単に過去のものとされては困る。改革に対するオバマ政権の本気度が試されるのはこれからだ。

産経新聞 2010年07月20日

米金融規制法 景気冷やさぬ慎重運用を

米国の金融規制改革法案が上院で可決され、オバマ大統領の署名を経て成立する。一昨年9月のリーマン・ブラザーズ破綻(はたん)に伴う世界金融危機を教訓に、再発を防ぐための金融規制が大幅に強化される。

高額の報酬目当てにリスクの高い取引に手を出し、危機を招いた金融業界に一定のたがをはめることには異論がない。「大きすぎてつぶせない」との理由から、税金で金融機関を救うような事態は二度と起こさないとの決意表明が、今回の法案の趣旨ともいえるからだ。

しかし、米国の金融機関の不良債権処理は遅れており、景気の足取りもまだ不確かだ。規制が行き過ぎて、米経済を萎縮(いしゅく)させるようなことになれば、世界経済にも影響を及ぼしかねない。

法案は今年11月の米議会中間選挙を控え、金融機関に対する厳しい世論を多分に意識しているとされる。今後の具体的な法律の運用にあたっては、「角を矯めて牛を殺す」結果にならぬよう、慎重な対応を求めたい。

法案には米連邦準備制度理事会(FRB)によるノンバンクを含む大手金融機関の監督強化や、金融システムを監視する協議会の新設、経営難に陥った大手銀行を税金で救済せずに破綻処理する制度の整備などが盛り込まれた。銀行自らの投機的取引やヘッジファンドなどへの投資を制限し、自己資本規制も強化する。

米国は1933年、世界恐慌を教訓に、銀行と証券の業務を明確に分離するグラス・スティーガル法を定めた。しかし、その後、欧州の金融機関との競争条件を同じにする狙いもあって同法を撤廃、大胆に規制緩和を進めた。今回の措置は、その金融自由化路線を再び抜本的に転換するものだ。

今後の課題は、日本や欧州など各国で異なる金融規制の整合性をいかに図っていくかだ。投機資金は規制の緩い国や規制の抜け穴を狙って動く。各国がバラバラに新たな金融規制を打ち出すことは、世界の金融システムを不安定化しかねない。

「リーマン・ショック」の再発防止は各国共通の目標だ。主要20カ国(G20)財務相・中央銀行総裁会議などで金融規制の国際協調に向けた議論が積み重ねられている。新たな規制が国内の金融機関にとって不利にならぬよう、日本も国際ルールづくりで積極的に声を上げていく必要がある。

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