金元工作員来日 政府は「北」に拉致協議を促せ

毎日新聞 2010年07月21日

金元死刑囚来日 「拉致」を風化させるな

北朝鮮の元工作員で大韓航空機爆破事件実行犯の金賢姫(キムヒョンヒ)元死刑囚が日本政府の招きで来日した。ものものしい警戒態勢の中、長野県軽井沢町の鳩山由紀夫前首相の別荘に入り、拉致被害者の田口八重子さんの兄で拉致被害者家族会代表の飯塚繁雄さんと長男耕一郎さん、中井洽・拉致問題担当相と面会した。

日本滞在中には、33年前に新潟市内で拉致された横田めぐみさんの両親らとも面会する。めぐみさんら拉致被害者の消息についてこれまで公にできなかったことがあるなら知っていることすべてを包み隠さず話してほしい。

金元死刑囚は昨年3月に韓国・釜山市で飯塚さん、耕一郎さんと面会した際はめぐみさんについて間接的にしか語らなかったが、その後日本政府関係者にめぐみさんと会ったことがあると証言した。こうしたことなどを受けて拉致被害者家族会などが来日を求めていた。

金元死刑囚は韓国政府に死刑を特別赦免されたとはいえ、乗員乗客115人の命を奪った大韓機爆破事件の実行犯だ。1年以上の懲役・禁固刑が確定した外国人は入国できないとしている出入国管理法に従えば来日が許されない人物である。しかもバーレーンで拘束された際、偽造旅券を所持していた偽造公文書行使の容疑者でもある。

しかし、今回は中井担当相が特例措置を打診し千葉景子法相が上陸拒否をしない判断を示した。警察当局も事情聴取は行わない方針という。警備上の理由で来日・日本滞在に関する情報も公表していない。

金元死刑囚は爆破事件を起こした1987年11月以降は韓国で生活している。このため、拉致事件の解明につながる新たな情報が提供される可能性は高くないとみられている。それにもかかわらず日本政府が元死刑囚の来日実現を韓国政府に強く働きかけたのは「拉致事件への関心を高め解決への機運を盛り上げるため」(政府関係者)という。

確かに拉致問題に関する日朝間の動きはこの2年近く全く止まっている。それが機運をそぐ一因になっているのは否定できない。福田内閣当時の08年夏、北朝鮮は拉致問題の再調査を約束したが、その直後の内閣交代を口実に先送りしたままだ。北朝鮮に約束の実行を強く求める。

日本政府には今回の異例の措置を一過性の“政治ショー”で終わらせることなく、韓国政府との連携も一層密にした粘り強い取り組みを求めたい。

拉致被害者家族の高齢化も進んでいる。めぐみさんの父滋さんの「訴え続けないと事件が風化してしまう」との言葉を重く受け止めたい。

読売新聞 2010年07月21日

金元工作員来日 政府は「北」に拉致協議を促せ

1987年の大韓航空機爆破事件の実行犯、金賢姫・元北朝鮮工作員が来日した。23日までの滞在中、拉致被害者の家族らと面会する。

「国民に拉致事件への憤りと関心を持ってもらう」ためにと、政府が韓国側に来日を働きかけてきた。拉致被害者の家族も要望していた。背景には、韓国の李明博政権が北朝鮮に厳しい姿勢をとっていることもある。

金元工作員は、特殊訓練の一環として81年から83年にかけて「完全な日本人になりきる」教育を北朝鮮で受けた。その時の教師役が78年に東京から拉致された田口八重子さんだった。

金元工作員は、爆破事件までの過程を、日韓当局の聴取や手記の中で詳細に語っている。田口さんの家族との面会は、昨年3月に韓国・釜山で実現している。

その後、拉致被害者の横田めぐみさんとも「北朝鮮で会ったことがある」と、新たな証言をしたものの、拉致被害者の安否にかかわる決定的な情報が明かされることは、期待しにくい。

それでも、拉致後の消息を少しでも知りたいと思う拉致被害者の家族の気持ちに、金元工作員は誠実に応えるべきだ。

哨戒艦沈没事件で、韓国政府が「北朝鮮の魚雷攻撃」と断定するなど、北朝鮮のテロ国家の本質は何も変わっていない。

拉致問題でも拉致被害者の再調査の約束を実行しないまま、日朝間協議は2年近く進展がない。

金元工作員の来日は、民主党政権が拉致問題に真剣に取り組んでいる姿勢を示す狙いもあるのだろう。しかし、拉致の真相究明や被害者の帰国に向けた北朝鮮への働きかけを強めていくことこそ、重要である。

今回の来日には問題もある。

金元工作員は韓国で死刑判決を受け、その後、特別赦免となった元死刑囚だ。同時に、日本からすれば、大韓機を爆破した際に日本人名義の偽造旅券を使った偽造公文書行使の容疑者である。

出入国管理・難民認定法は、政治犯を除き、国の内外で1年以上の懲役・禁固刑を受けた外国人の入国を認めていない。今回は同法の特例の規定に基づき、千葉法相が特別に上陸許可を出した。

警察は本来なら金元工作員を容疑者として事情聴取すべきなのだが、それも見送る方針だ。

こうした措置が国益にかなうという政治判断はあり得るが、その理由については、政府として詳しく説明すべきだろう。

産経新聞 2010年07月21日

金元工作員来日 「拉致」解決につなげたい

大韓航空機爆破事件(1987年)の実行犯、金賢姫(キムヒョンヒ)元北朝鮮工作員が来日した。23日までの滞在中に、元工作員が北朝鮮で日本語教育を受けた拉致被害者、田口八重子さんの家族と再会し、横田めぐみさんの両親との面会などが予定されている。

金元工作員は「田口さんと暮らした1980年代初め、同僚の女性工作員を通じて、めぐみさんにも会った」と日本の政府関係者に証言している。さらに詳しい状況が両親に伝えられ、救出のための何らかの手がかりが得られることを期待したい。

今回の来日をめぐり、いくつかの問題点が指摘されていた。

金元工作員は韓国で死刑が確定し、赦免されたとはいえ、日本の入管難民法で入国が認められていなかった。しかし、特別な事情があるとして、特別上陸許可が出された。大韓機事件で日本名の偽造パスポートを使った旅券法違反の疑いもあるが、警察当局は事情聴取を見送る方針だ。

韓国側にも、複雑な事情があった。当初、元工作員は今年5月に来日する方向だったが、北による韓国哨戒艦撃沈事件や4月に来日した黄長●(ファンジャンヨプ)元朝鮮労働党書記の暗殺未遂事件が起き、来日が延期された経緯がある。このため、厳戒態勢が敷かれ、元工作員の記者会見なども行われない予定だ。

双方が難問を抱えながらも、実現にこぎつけた日韓両国の外交努力を評価したい。

大韓機事件はソウル五輪妨害を狙った北朝鮮の爆破テロで、乗客・乗員115人が犠牲になった。元工作員の来日は、拉致がそうした北のテロと結びついた国家犯罪であることを、改めて世界に知らしめることになろう。

今月、欧州連合(EU)欧州議会は北朝鮮に対し、拉致被害者の即時解放を求める決議案を採択した。このような動きがさらに広がることを望みたい。

菅直人首相は就任3日目の6月10日、被害者家族と面会し、「韓国などと連携しながら、拉致問題を含めて解決を目指していく」と決意を語った。また、同月18日の拉致問題対策本部の会合で「拉致は主権侵害そのもので、断じて容認できない」とあいさつした。

今回の来日を単なる政治的なパフォーマンスで終わらせないためにも、菅政権は言葉だけでなく、拉致問題の解決に直結する具体的な行動を取るべきだ。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/416/