水俣病認定基準 救済策の抜本見直しを

朝日新聞 2010年07月17日

水俣病認定 司法に従い新たな基準を

最高裁で水俣病の患者と認められた女性が、国や熊本県には水俣病と認定されなかった。司法によって退けられた認定基準を、行政がかたくなに変えなかったためだ。

80歳を超えて女性は、行政に認めさせるために再び裁判を起こさなくてはならなかった。提訴から3年、大阪地裁はその訴えを全面的に認め、熊本県知事に水俣病と認定するよう命じた。

1977年につくられた認定基準は「手足のしびれなど感覚障害のほか、聴覚障害など他の症状との組み合わせを要する」としている。

きのうの判決は、複数の症状が必要とするこの行政の基準を「医学的な正当性を裏付ける的確な証拠は存在しない」と、明確に否定した。感覚障害だけでも水俣病と認められる場合があり、被害者の生活歴などから総合的に判断すべきだと指摘した。

幅広く被害者を救おうとする04年の最高裁判決に沿った考え方であり、きわめて妥当なものだ。熊本県知事は控訴せず、早く原告の女性を水俣病と認定すべきである。

水俣病の原因はチッソが海に垂れ流した有機水銀だった。政府は当初、「疑わしきは救済する」という方針で幅広く患者と認めていた。だが認定患者が増え続けたためハードルを高くした。それがいまの基準だ。

その結果、認定患者はいまも3千人にとどまっている。95年の「政治決着」では約1万1千人の未認定患者が「解決金」を受け取って、やむなく引き下がった。

最高裁判決を受け、基準が変わることを期待して認定申請者が急増した。ところが政府は基準を見直さず、行政と司法の二つの基準に戸惑って各県の認定審査は進まなくなってしまった。

そこで未認定患者の新たな救済策として昨夏、特別措置法が成立した。95年に続いて、認定基準を棚上げにしたままの「第2の政治決着」である。

その法律にもとづいた新救済策が始まっている。3万人を超える被害者が対象だ。しかし、いまの基準が司法の場で改めて否定されたことで、救済を求める人たちには混乱が生じよう。

度重なる司法判断に背を向け、患者を切り捨てるようないまの認定基準に固執することが、これ以上許されようか。症状の重さに応じて補償ランクを設けた新たな認定の仕組みをつくるべきだ。公平性を高めるため、医者だけでなく法律家や学者も認定審査会に入れてもらいたい。菅政権はいまこそ政治主導で取り組んでほしい。

さらに欠かせないのは、不知火海一帯の被害調査だ。それをなおざりにしたことが、患者の救済がこじれた大きな原因である。いまからでもこの「公害の原点」の実相を明らかにしなければ、歴史に汚点を残すことにもなる。

毎日新聞 2010年07月17日

水俣病認定基準 救済策の抜本見直しを

水俣病関西訴訟の最高裁判決で水俣病の被害者と認められた大阪の女性が行政による不認定処分の取り消しを求めた裁判で、大阪地裁は熊本県に対して、女性を水俣病患者として認定するよう命じた。

判決は国の認定基準を事実上、否定したといえる。救済策の抜本的な見直しを迫る内容であり、国は高齢化が進む水俣病被害者の現実を踏まえ、全面解決につながる救済の枠組みを早急に築かねばならない。

チッソ水俣工場の排水に含まれていたメチル水銀が原因となった水俣病は、公式発見から既に54年が経過している。

国は1977年に公害健康被害補償法に基づき、水俣病の認定基準を定めた際、「感覚障害のほか運動失調、視野狭さくなど複数の症状の組み合わせ」を条件にした。

判決は、この条件について「医学的正当性を裏付ける的確な証拠は存在しない」と否定した。その上で、条件を満たさない場合でも、メチル水銀の摂取状況に加え、症状の内容や表れた経緯など個別の事情を総合的に判断すれば、水俣病と認められるケースがある、と指摘した。

改正行政事件訴訟法の定着で、司法による行政のチェック機能が強化されるようになった。アスベスト被害や二重課税などをめぐって行政の不作為や誤りを正す判決が相次いでいる。今回の判決も行政の責任を明確に示したものといえる。

04年の水俣病をめぐる最高裁判決は、一つの症状で水俣病の被害者と認め、国などに賠償を命じた。しかし、国は認定基準を見直さず、一時金方式による「政治決着」を図ってきた。

今年3月には、未認定患者団体の「水俣病不知火患者会」が国と熊本県、チッソに損害賠償を求めた裁判で和解の基本合意が成立した。国は裁判以外で救済を求めている被害者に対しても和解内容と同じ水準の救済策を示している。だが、認定患者とは受け取る金額に大きな差があるうえ、救済を受けるためには、水俣病患者の認定申請を取り下げなければならない。被害者たちは「苦渋の選択」を迫られている。

水俣病の未認定患者は3万人以上とみられ、環境省によると、8000人以上が認定を申請している。今回の判決を受け、未認定患者が新たな訴訟を起こす可能性もある。

国は水俣病の発生から年月が経過して因果関係の立証が難しいという理由で、被害の実態調査を行ってこなかった。しかし、水俣病問題は国の環境政策の是非を根本から問うものと考えるべきだろう。被害の全ぼうを把握し、恒久的な救済・補償の仕組みを構築しなければならない。

読売新聞 2010年07月18日

水俣病地裁判決 被害者救済を着実に進めよ

最高裁は水俣病と認めたのに、認定基準を改めない行政の姿勢はおかしい――。大阪府の女性がそう訴えていた裁判で、大阪地裁は「水俣病と認めるべきだ」とする女性側勝訴の判決を言い渡した。

行政と司法で水俣病と認める尺度が違う「二重基準」の問題を、改めて浮き彫りにした判決だ。

水俣病の未認定患者問題では、原因企業のチッソが一人210万円の一時金を支払うといった救済策を、多くの被害者が受け入れている。熊本地裁での集団訴訟でも、原告と国、熊本県、チッソが和解することで合意している。

これにより、水俣病問題は全面解決に向けて大きく前進したが、今回の判決で、より多くの補償を求めて救済策を受け入れず、司法に患者認定を求める被害者が増える可能性もある。

水俣病と認めるための国の認定基準は1977年(昭和52年)に策定された。「感覚障害に加え、運動失調や視野狭さくなど、複数症状の組み合わせが必要」とする厳格な内容だ。

これにより、認定申請しても退けられる未認定患者が数多く存在するようになった。原告の女性も「症状は手足の感覚障害だけ」と熊本県に棄却された。

このため女性は、国などに損害賠償を求めた関西水俣病訴訟に参加し、2004年の最高裁判決で勝訴した。症状の組み合わせがなくても、家族に認定患者がおり、手足の感覚障害があれば水俣病と認める緩やかな判断だった。

だが、国は「最高裁は認定基準の見直しには言及していない」として基準を見直さず、熊本県は女性を水俣病と認めなかったため、今回の訴訟を起こした。

大阪地裁判決は、国の認定基準について「意義は否定できない」としながらも、「要件を満たさないという一事で水俣病にかかっていないとはいえない」との判断を示した。最高裁判決に沿った考え方といえよう。

ただ、国が認定基準を見直せば、新たな認定患者に対する補償金などが必要になる。チッソには巨額の財政負担が加わるだろう。未認定患者の救済策全体が滞ってしまう懸念も生じる。

水俣病問題をここまでこじれさせた責任が、未認定患者に対する十分な救済策を施してこなかった国にもあることは間違いない。国には現在の救済策を確実に遂行していくことが求められる。

被害者の高齢化が進む。最も大切なのは早期解決であろう。

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