消える国家戦略局 耳を疑う内閣の変節

朝日新聞 2010年07月17日

国家戦略局断念 「政治主導」は大丈夫か

民主党政権が「政治主導」の司令塔役、総合調整役と位置づけてきた国家戦略室が、菅直人首相への助言機関に衣替えされることになった。

「官僚主導」と利益誘導の不透明な政策決定から、首相を中心とする内閣主導の決定へ。政権交代で有権者が最も期待した変革は、いまだ道半ばであることが改めて浮き彫りになった。

戦略室が機能を縮小し、首相への意見具申や情報提供に徹する「知恵袋」となっても、官僚機構とは異なる役割を果たすことはできるだろう。

問題は、腰の定まらない政治主導体制を政権全体としてどう整備し、実効あるものに育て上げるかである。

首相主導、政治主導のさきがけは、小泉政権時代に脚光を浴びた経済財政諮問会議だ。首相、主要閣僚や民間有識者でつくる機関が、族議員や省庁の利害を超えた経済財政運営を試みた。

国家戦略局は、いわばその民主党政権版である。当初は、予算編成機能そのものを財務省から移すといった急進的な構想も語られていたほどだ。

昨年の総選挙マニフェストには、「新時代の国家ビジョンを創(つく)り、予算の骨格を策定する」と盛り込み、政権獲得後、まずは法改正のいらない戦略室としてスタートさせた。

権限を持った「局」への格上げを今回断念した背景には、先の参院選で「ねじれ国会」が再現し、政治主導確立法案の成立が絶望的になったこともある。鳩山前政権では菅氏や現官房長官の仙谷由人氏が担当相となり、それなりに存在感を示したが、十分な役割を果たせないまま方向転換となった。

これまで民主党政権の政治主導は、迷走続きだったといわざるをえない。政治主導が何を意味するかについての認識のズレも克服されていない。

昨年末の予算編成では、マニフェストで約束した政策の取捨選択をめぐり、閣内で手間取り、当時の小沢一郎民主党幹事長の鶴の一声で決した。

内閣主導ならぬ「与党主導」を見せつけた場面は枚挙にいとまがない。

閣内でも大臣以下の政務三役が首相や官邸の意向とは異なる動きを見せ、政治主導とは似て非なる「政治家主導」だと批判されもした。

これらは、首相を中心に官房長官、財務相ら主要閣僚が緊密な「チーム」を形成できなかった点に原因がある。

前政権の轍(てつ)を菅政権が踏むことはないのか、懸念は小さくない。

首相が掲げる「強い経済、強い財政、強い社会保障」のグランドデザインをどこで描くのか。その総合調整や、世論への説得をだれが担うのか。

さらに、ねじれ国会では野党との調整抜きに政策は実現できない。党の役割が重くなる。党と内閣との役割分担を含め、政権としての意思決定の仕組みを早く確立することが先決である。

毎日新聞 2010年07月17日

消える国家戦略局 耳を疑う内閣の変節

いったい、菅直人首相は参院選の大敗をどう認識しているのだろう。政府は政治主導に向けた目玉として掲げていた国家戦略局構想を事実上断念、現在置かれている国家戦略室を「知恵袋」的なシンクタンクに格下げする方針を固めた。

国家戦略室については官房長官との役割分担などをめぐる問題が表面化していた。だからといって昨年の衆院選であれほど強調していた公約を参院選で十分説明もせず変更するのであれば、有権者への背信に等しい。政治主導の理念も後退させる変節と言わざるを得ない。

「政策調整はせず、シンクタンク機能に重点を置く」との仙谷由人官房長官の説明に、耳を疑う思いである。民主党は衆院選マニフェストで首相直属の「国家戦略局」を置き、官民の人材を結集して政治主導の予算編成や国家ビジョンを策定することを明記していた。

ところが政権交代が実現すると法整備は進まず、準備段階として国家戦略室が置かれた。戦略室は内閣の基本方針の企画立案や総合調整にあたるとされたが、官房長官らとの役割分担がうまくいかず、権限に法的な裏付けもなく、なかなか機能しなかった。そんな中で戦略室の機能縮小は構想の事実上の断念である。

最大の問題は、方針転換が民主党政権が掲げる政治主導の理念後退を意味することだ。首相や仙谷氏、玄葉光一郎政調会長らが協議し予算編成に向け調整するというが透明性に乏しく、実態は財務省を中心とする官僚主導になりかねない。調整機能を持たない戦略室の「知恵」が生かされる保証はない。

菅内閣は政権発足以来、党政調を復活させる一方で官僚との協調路線を打ち出している。民間人や政治家も含めた政治主導を目指すなら、何らかの枠組みの構築が不可欠なはずだ。政府内調整や党側との協議を円滑に進めたいからといって、司令塔機能をなくすのでは本末転倒だ。

参院選で首相が有権者にはっきりと説明していなかったことも問題だ。むしろ民主党の参院選公約では国家戦略室設置を実績として掲げ「経済運営や税財政の基本方針を決定しています」とアピールしている。投票直後の転換に理解は得られまい。

官僚や党との関係をめぐり、鳩山内閣が混乱したのは事実だが、自民党政権時代の運営に回帰しては、行政の無駄撲滅や地域主権改革など到底、実現しまい。菅内閣の改革マインドの後退を国民は厳しい目で見ているはずだ。このままでは、みんなの党の渡辺喜美代表が言う「菅直人さんの草の根の冠が取れて『官』内閣」との批判通りになりかねない。格下げ方針を撤回すべきである。

産経新聞 2010年07月17日

国家戦略室 国づくり投げ出す格下げ

外交・安全保障や予算の骨格づくりなど、国のかたちをつかさどる機関を縮小してしまい、菅直人首相は今後、どうやって国家ビジョンを描いていくつもりなのか。

民主党政権で政策調整の司令塔と位置付けられていた国家戦略室の機能を縮小し、首相への助言機関の一つに格下げすることである。

「国家戦略局の設置」は、民主党が昨年の衆院選で示した政権構想の中でも、政治主導を実現する重要な柱だったはずだ。

うまく機能すれば、中長期的な視野に立った政策を官邸主導で展開することが期待された。

鳩山由紀夫前政権下で、戦略室が当初期待された機能を果たしていなかった問題はある。だが、統治機構に関する基本的な考え方を安易に変更してしまうこと自体が民主党主導政権の戦略のなさを露呈している。

戦略室を縮小する理由の一つは、戦略局への格上げなどを図る政治主導確立法案が先の通常国会で成立せず、衆参両院にねじれが生じた中で成立のメドが立たないことだという。

法案は、戦略局を法律的に位置付け、官房副長官を現在の3人から1人増やして局長に充てるほか局長の下に「国家戦略官」を置くことなどを盛り込んだ。だが政府・与党は通常国会での成立に全力を注いだとはいえまい。

鳩山政権発足時から、当時の藤井裕久財務相は「予算編成権はあくまでも財務省にある」と主張した。岡田克也外相は「外交・安全保障の基本は戦略局構想に入っていない」と述べていた。

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