朝日新聞 2009年09月12日
法科大学院 法曹が連帯し質向上を
法科大学院を卒業した人を対象にする新司法試験の合格者が発表された。4回目のことし、年々下がってきた合格率はさらに27%にまで落ちた。
合格者も初めて前年を下回り、2043人。来年あたりをめどに合格者を3千人にする計画なので、本来なら2500~2900人が目安だった。
法務省は、大学院修了生の水準が反映された結果という立場だ。
しかし合格者の多い上位校では、今回3度目の受験機会だった06年度の修了生でみると、合計7割前後が合格を果たした。「修了者の7、8割が合格」の理想を達成しているといえる。
問題は大学院間の格差が広がり、下位校が全体の足を引っ張っていることだ。今回も、合格者5人以下の大学院が74校のうち24校もあった。
04年から開校した法科大学院は乱立気味で、1学年の総定員は約5800人だ。大学院側はこれを大幅に削減する方針だが、もっと早く手を着けるべきだった。すでに6割の大学院で入試の競争率が2倍に満たない状態になっている。実績を上げられない大学院の再編は避けられまい。
法曹界には「法科大学院を出た司法修習生の質が落ちている」との嘆きがある。日本弁護士連合会は昨年、「合格者増のペースダウン」を求めた。
だが、市民に司法を利用しやすくするため法曹人口を増やすことは、裁判員制度や法テラスと並ぶ司法改革の3本柱だ。その中心が法科大学院である。合格者数を絞ることより、全体の質を高めることを考えねばならない。
弁護士会と裁判所、検察庁の法曹三者は、法科大学院教育の充実について、連帯して責任を持っていることを改めて認識してもらいたい。
旧司法試験のような一発勝負の勝者ではなく、法科大学院から司法修習へというプロセスによって、人間性豊かで思考力を持った法律家を育てる。それがこの制度の理念だ。一部で法科大学院が予備校化しているとも言われる。そうであれば本末転倒だ。
法科大学院と司法研修所、法曹三者が学生の育成過程をきめ細かく分担し、法律家として独り立ちさせるまで責任を持たねばならない。
大学院の充実のためには、法曹の現場を経験した人材を教員としてもっと送り込む必要がある。
最高裁長官を昨年、70歳で定年退官した島田仁郎氏は今年、東北学院大の法科大学院で教壇に立った。合格者の少ない下位校だ。半年前まで最高裁のトップにいた法律家が、自ら東京の自宅から仙台まで通勤し、学生たちに直接教えたのだ。
経験豊かな法律家が、現実に法がどう運用されているかを伝える意味は大きい。大勢力である弁護士界から教育の場に転じる人がもっと出てほしい。
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毎日新聞 2009年09月14日
新司法試験 抜本的見直しが必要だ
もはや本来の目標や想定から大きく外れた。新司法試験の09年結果にはそう感じざるを得ない。
法科大学院修了者が対象の新司法試験は06年から実施されている。法務省は合格率7、8割を見込んだが、初めから5割に届かず年を追って下落、4回目の今回は27・6%と過去最悪を更新して2割台に落ち込んだ。初めて合格者数も前回を下回り、2043人。目安の2500~2900人に遠く及ばなかった。
このままでは、2010年には合格者を3000人と想定し、法曹人口を18年には5万人(08年約3万1000人)と描いた政府の計画は画餅(がべい)に帰すほかない。
一方で、法科大学院は74校で1学年定員約5800人。後れを取るまいというふうに相次いで設立され、「乱立」とも評される。その内実は一定ではなく、各校の合格率は大きな開きが生じている。
新司法試験をめぐるこうした状況は制度発足時から懸念された。中央教育審議会は今春、法科大学院の入学者の質の確保、修了者の質の保証、教育体制充実、評価システム確立を柱に改善を強く求め、入学定員削減を迫った。入学者選抜や修了認定を厳格にし、高水準の教育を保つ。当然のはずだが、多くの大学院にそれができていない実態がある。
だが、法科大学院にメスを入れれば万事解決する話ではない。
裁判員裁判、法テラスとともに司法改革の柱である新司法試験は、法曹人口を大幅に増やし、市民が日常のトラブルなどでも適正な法的解決がしやすくすることが主眼だ。
また最難関試験で合格率数%だった旧来の司法試験とは違って、新制度は法学知識偏重の「ペーパーテスト秀才」ではない、人間性、教養、柔軟な発想力など幅広い適材を求めたはずだ。法科大学院に法学部出身者以外の未修者コース(3年)があるが、今回の合格率は18・9%で法学部出身者向け既修者コース(2年)の半分にも満たなかった。
法科大学院側からは、結局は法学系以外の社会人らに不利な試験になっていないかという指摘もある。試験内容や選考基準などを本来の目的に照らし、詳しく検証してほしい。
合格者大幅増で「質の低下」の指摘もあり、日本弁護士連合会は増員のペースダウンを提言した。弁護士の就職難という状況もある。
だが忘れてならないのは、司法が市民生活にとけ込み、気後れなく活用できることは、これからの社会の活性化に不可欠ということだ。
その理念を下ろさず、どう問題点を改善するか。政府、教育界、法曹界は試行錯誤をいとわず、一致して取りかかってほしい。正念場だ。
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