振興銀前会長逮捕 背景含め徹底解明を

朝日新聞 2010年07月15日

振興銀事件 掲げた理想、裏切った罪

日本の経済を強くするには、中小企業を元気にすることが大切だ。金融面からの支えを強くしたい。しかし、そんな期待や努力に水を差す、ひどい事件が摘発された。

「中小企業の味方」「借り手の気持ちが分かる金融」をめざして2004年に創業したはずの日本振興銀行が、金融庁の検査を妨害した疑いで警視庁の強制捜査を受け、木村剛前会長が逮捕される事態に発展した。

背景には、商工ローン大手SFCGなどと連携した、いびつな事業が横たわっていると見られる。警視庁は全容をしっかり解明してほしい。

コンサルタントとして著名な木村氏は、小泉純一郎政権下で金融庁の顧問を務め、金融行政のルール作りに関与した。竹中平蔵元金融相や福井俊彦前日銀総裁とも親しく、日本の金融システム改革を唱道する「ご意見番」的存在だったこともある。

その木村氏が、自らの理想を中小企業金融で実践する場として設立したのが振興銀だった。

中小企業への融資は貸し倒れのリスクが高い。その分だけ利息を高くする。融資の判断に際しては、不動産担保や経営者の個人保証には頼らず、技術力や経営力を評価するはずだった。だが、大手銀行などが不良債権処理を終えて中小企業向け融資に力を入れ出すと、苦戦を強いられた。

業績を好転させたのは、利幅が大きいSFCGからの債権買い取りだった。しかし、これでは実質的に高利貸と変わらず、低利で預金を集める特権を認めた銀行免許を与える価値がある事業なのか、疑問がぬぐえない。

しかも振興銀は「1千万円までは国が保護する」と宣伝し高金利で預金を集めたといわれ、残高1千万円ぎりぎりの預金者が多い。このやり方は金融界で「政府の信用力にただ乗りしている」と批判されてきた。

さまざまな問題を総合すると、振興銀の事業モデルは持続可能なのか、という疑問に行き着く。金融ルールに精通し、掲げた理想も高かっただけに、その経営の堕落は一層罪深い。

その一方で、振興銀の転落が日本の中小企業金融の構造的な問題をあらためて浮き彫りにした面もある。小さな金融機関が優れた企業を融資先として発掘すると、大手行が後から乗り込んで来て契約をさらっていくという構図は、ちまたにあふれている。

自由な競争は大事だが、「井戸を掘る」「苗を植えて育てる」ような地道で骨の折れる企業発掘・支援という金融の社会的な使命とどう両立させることができるのか。

貸手と借り手の双方を含む日本の金融全体の問題を考える契機とするためにも、振興銀で何が起きたのかを徹底的に解明する必要がある。

毎日新聞 2010年07月15日

振興銀前会長逮捕 背景含め徹底解明を

金融庁の検査を妨害したとして警視庁が、日本振興銀行の木村剛前会長らを銀行法違反(検査忌避)容疑で逮捕した。木村容疑者は日銀出身で金融庁の顧問も務め、金融機関をチェックする立場にあった人物だ。その当人が検査妨害に加担していたことになるわけで、事実ならば、厳しく断罪されなければならない。

銀行など金融機関は、巨額の資金を扱う。しかも、そのほとんどは預かったり、運用を託された他人のお金だ。そうした金融機関が破綻(はたん)するとどうなるのかは、世界中を大混乱に巻き込み、深刻な不況をもたらすきっかけとなったリーマン・ショックで明らかだろう。

資金決済が主たる業務の銀行は、それに伴う金融サービスを提供することによりお金の流れを円滑化する役割を担っている。破綻した場合の影響は大きく、そのため銀行にはとりわけ厳しい規制が課され、金融庁や日銀は、銀行が業務を適正に行い、資産が健全性を維持しているのかを、厳格にチェックしている。

日銀の主要部局を歩み、竹中平蔵氏が金融担当相として銀行の不良債権問題に取り組んだ時期に、木村容疑者は竹中氏のブレーンとして金融庁の顧問に就いていた。銀行に厳しい規制が課されている理由についてもよく知っていたはずだ。

にもかかわらず、金融検査を意図的に妨害する行為に木村容疑者がかかわっていたというのが容疑の内容だ。本当ならば、言語道断の犯罪と言わねばならない。

ただし、背景についても考えておく必要があるだろう。日本振興銀行が設立された時期には、銀行の不良債権問題の一方で、高収益をあげる米英型金融機関をモデルに、日本の金融機関も経営のあり方を転換すべきだという論が展開されていた。

日本振興銀行は、銀行の貸し渋り・貸しはがしへの批判を背景に発足した。その一方で、新しい金融ビジネスをめざしたものの、業績は低迷した。旧商工ファンドのSFCGからの債権買い取りにからんだ違法金利は、そうした状況下で発生した。

リーマン・ショックを経て、金融機関のあり方が問われている。それを律する規制の見直しが欧米で進んでいる。

20年ほど前のバブル崩壊を経て対応してきた日本は、すでに制度的にも整備済みの部分も多く、切実感が乏しい。しかし、日本振興銀行については、違法取引や検査妨害に至る経過だけではなく、異例の早さが指摘されている設立過程とその後の運営について、規制当局の対応に問題がなかったのかも重要なポイントのはずだ。それに木村容疑者がどうかかわったのかも含め、解明を進めてもらいたい。

読売新聞 2010年07月15日

振興銀首脳逮捕 “改革派”の仮面がはがれた

日本振興銀行の木村剛前会長や西野達也社長ら5人が、銀行法違反(検査忌避)の疑いで警視庁に逮捕された。

金融庁の検査の際、見られては都合の悪い電子メール280通を、木村前会長の指示で削除していたという。

振興銀をめぐっては、検査忌避以外にも様々な疑惑が浮上している。警視庁は徹底した捜査で全容を解明してほしい。

木村前会長は日銀出身で、小泉政権時代に竹中平蔵元金融相のブレーンを務めた。その後、東京青年会議所の有志らと、中小企業支援を掲げ振興銀を旗揚げした。

小泉政権時代、構造改革路線を背景に、市場原理主義や弱肉強食の利益最優先の風潮が若手起業家らの間に強まった。

その中で、堀江貴文・ライブドア元社長の粉飾決算や、村上世彰元代表のファンドによるインサイダー取引など拝金主義を象徴する事件が起きた。

同時期に金融改革の旗手を自任した木村前会長も、結局、彼らと同様に馬脚をあらわした。金融行政に深く関与した経験がありながら、自ら事件を起こすとは、言語道断と言わざるを得ない。

逮捕された西野社長の後任には振興銀の社外取締役を務める作家の江上剛氏が就く。

旧第一勧業銀行の行員時代、総会屋との決別を経営陣に迫った逸話は有名だが、振興銀の経営環境は極めて厳しく、江上新社長は(いばら)の道を歩むことになろう。

中小企業の味方という振興銀の看板の裏には、利益のためなら手段を選ばぬ実態があった。

強引な取り立てで問題になった商工ローン「SFCG」(破産手続き中)に、出資法の上限を上回る年46%の暴利で融資した。表向きは適法な債権売買を装い、資金繰りに窮した高利貸しの上前をはねる取引と言える。

融資を頼んできた会社に、振興銀の息のかかった人物を役員に推薦して受け入れを強要し、経営の主導権を奪うなど、乗っ取りまがいの行為もあった。

金融庁は昨年からの検査で違法行為を暴いたが、ルール無視に染まった銀行の実態を、もっと早くつかめなかったのか。

木村前会長を中心に、取引先の中小企業で結成したグループの実態解明も焦点だ。振興銀が会員企業に融資する一方で、会員企業は振興銀の増資に応じていた。

融資や増資は適正だったのか、警視庁はこうした点についても真相を明らかにすべきだ。

産経新聞 2010年07月15日

振興銀事件 「改革の旗手」の罪は重い

中小企業向け融資専門の日本振興銀行の前会長、木村剛容疑者ら5人が銀行法違反(検査忌避)の疑いで警視庁に逮捕された。

金融庁の立ち入り検査に際し、違法性のある取引内容が記された電子メールの削除を指示したのが検査妨害にあたると判断された。

経営トップがかかわる組織ぐるみの犯罪は深刻だ。徹底した捜査で全容を解明してもらいたい。

特に問題なのは、木村容疑者が日銀の出身で、金融のプロ中のプロである点だ。

平成10年に金融行政を担う組織として金融監督庁(現金融庁)が大蔵省から分離、設置された。木村容疑者は当時、金融コンサルタント会社を経営していたが、検査に客観性を持たせるための「金融検査マニュアル」づくりに検討委員として参加した。

小泉純一郎政権下では竹中平蔵元金融担当相のブレーンとして金融庁顧問を務め、金融再生プログラムづくりに関与し、「金融改革の旗手」ともてはやされた。

逮捕容疑によれば、自ら決めた金融のルールを破ったことになり、罪状はなおさら重い。

振興銀内の順法意識についても「日本一厳しいガバナンス(企業統治)体制」と豪語していただけに、プロとしての矜持(きょうじ)はどこにいったのか。多くの人の期待を裏切ってしまった。

振興銀は昨年2月に破綻(はたん)した商工ローン大手SFCG(旧商工ファンド)との間で債権売買の形をとって、出資法の上限金利を大きく上回る手数料を取得していた。削除されたメールにはこうした違法取引に関する内容が多数記されていたとされる。

金融庁は今年5月、メール削除やSFCGとの問題取引などを含む法令違反で9月末まで約4カ月間の一部業務停止を命じた。法令順守体制の確立など、組織改革が急務だ。金融庁も不安を抱いている預金者の保護に万全を期してほしい。

振興銀は成長性のある新興企業の育成や貸し渋り対策を目的として、平成16年に木村容疑者が主導して設立された。設立当時の理想を支持する産業界の声は大きく、無担保融資の新しいビジネスモデルとして注目された。それだけに、失望も大きい。

今回の事件によって、日本の金融界の改革自体を止めてしまってはならない。

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