サッカーのワールドカップ(W杯)南アフリカ大会は、スペインが初の栄冠を手にして幕を閉じた。
1次リーグ初戦を落としながらも、攻めの姿勢を貫いたスペイン。研ぎ澄まされた美しさを感じさせる戦いぶりは、南アの民族楽器ブブゼラの音とともに、長く記憶されるだろう。
日本代表の躍進で人々が勇気づけられたように、今大会はスポーツと、人々や社会との豊かな関係をかいま見る場面が数多くあった。スペインの優勝も、そのひとつである。
これまでスペインがW杯で優勝できない原因のひとつに挙げられてきたのが、独立意識の強い地域の存在だった。たとえばカタルーニャ自治州には、歴史的ないきさつから中央への反発が強い。サッカーでも、クラブのFCバルセロナは応援するが、スペイン代表チームを支える雰囲気は乏しい地域だった。
だが、2年前に代表が欧州選手権を制したころから、社会の受け止めが変わってきたという。選手にも国代表としての意識が育まれてきた。W杯決勝後、バルセロナでは、州旗だけでなく国旗を振る人々も目立った。
スポーツは人々の心を溶かし、つなぎ合わせる力を秘めている。
南アの国づくりにもスポーツが一役買った歴史がある。自国開催した1995年ラグビーW杯で初優勝し、アパルトヘイト(人種隔離)政策撤廃後の民族融和を進めるきっかけとなった。
ズマ大統領は今大会の終盤、夏季五輪招致への意欲も示した。南アは高い失業率やエイズ問題などを今も抱えるが、サッカーW杯の成功もまた、社会の新たな活力を引き出すだろう。
アフリカ初の4強を逃したガーナ代表を南アのマンデラ元大統領がねぎらったのもすてきな光景だった。スポーツは人種、国境を超えて人を結ぶ。
一方で、代表チームが政治に翻弄(ほんろう)される場面も目についた。前回準優勝のフランスが今回、監督と選手の確執で揺れ、1次リーグで敗退すると、チームの立て直しに、サルコジ大統領や議会まで介入し始めた。
また、ナイジェリアのジョナサン大統領は決勝トーナメントに進めなかった代表チームに怒り、2年間、国際大会参加を禁じると言明した。数日後に撤回したが、政治家の身勝手にはあぜんとする。
スポーツは人々を熱狂させ一体感を与える。それだけに政治家の目には、利用したい道具と映り、ときに介入へと暴走させるのだろう。
W杯は次回14年、ブラジルで開かれる。同国は16年に南米初となるリオデジャネイロ五輪の開催も控える。
政治の思惑を軽々と超えて、人々の心を結びつける競技の数々を、今から楽しみにしたい。
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