毎日新聞 2010年07月08日
ゆうパック混乱 「顧客より利益」のツケだ
宅配便「ゆうパック」の大規模遅配は、混乱から1週間を経て、ようやく解消したようだ。この間に遅れて配達された荷物は34万個余りにのぼるという。経営陣を入れ替え仕切り直し中の日本郵政は、その看板に大きな傷が付いた形だ。
ゆうパックは、日本通運が運営していた「ペリカン便」を吸収する形で再出発した。しかし、取り扱う個数や窓口が大幅に増えたにもかかわらず集配拠点は抑えられ、1カ所当たりの取扱個数が急増したという。
また、荷物を仕分ける機械が異なり、作業手順の習熟が進んでいなかったことから、機械が頻繁に停止したことも影響したようだ。
生鮮食品が傷み再発送を余儀なくされたり、プレー開始にゴルフバッグが間に合わないなど、多くの人が迷惑を受けた。
宅配便事業は、ヤマト運輸と佐川急便が取扱個数の約7割を占める。コストを抑えつつ、きめ細かなサービスによって市場を拡大させてきた。これを日本郵政と日通が追いかけてきたが、劣勢は否めず、共同で宅配会社を設立し事業統合を行うことにした。
しかし、社員の教育・訓練、配達日数などサービス水準の維持、業績が下振れした際の対応策について疑問があるとして、総務省は認可を与えず、昨年10月の統合が流れたといういきさつがある。
ペリカン便だけが先に移管された宅配便会社は、システム投資なども重なって赤字が膨らんだ。そうした状況を改善するため、ペリカン便の吸収を急ぎ、規模拡大と効率化で乗り切ろうとしたのだろうが、それが裏目に出てしまった。
昨年10月の統合が流れたのは自公政権下での判断の結果だったが、その際の懸念がそのまま表面化し、大混乱につながった。
自公政権下での郵政民営化の進め方に問題があったというだけでは、今回の大規模な遅配の説明にはならないのは明らかだろう。
郵政改革は、政権交代をはさんで方向が大きく転換した。官業への回帰が懸念され、民業圧迫などと反発も強い。そのさなかでのゆうパックの問題だ。情報公開が遅れるなど対応も後手に回った。荷物が多い中元シーズンをなぜ選んだのかも含めて、理解に苦しむ点が多々ある。
昨年の政権交代後、日本郵政の経営陣からは、民間出身者が退けられ、旧大蔵省と旧郵政省の官僚OBに入れ替わった。「脱官僚」の方針にもかかわらずだ。
日本郵政のガバナンス(企業統治)には厳しい目が向けられている。まずは、原因と責任の所在をはっきりさせることが必要だ。
|
読売新聞 2010年07月08日
ゆうパック遅配 顧客第一の視点を忘れるな
荷物を約束の期日に届けられないようでは、宅配業界の厳しい競争を勝ち残るのは難しい。
日本郵政グループが全国展開する宅配便「ゆうパック」で、大規模な配達の遅れが発生した。
7月1日に日本通運のペリカン便と統合したが、新たに導入した情報処理端末などに不慣れなため操作ミスが多発した。お中元のシーズンで、荷物が多かったことも混乱に拍車をかけた。
結局、30万個を超える荷物が予定より半日から2日以上も遅れ、混乱がほぼ収拾するまでに1週間もかかった。
物流のプロとして、あまりの失態である。原口総務相も郵便事業会社の鍋倉真一社長を呼んで遺憾の意を伝え、経緯や今後の対応などを報告するよう求めた。
郵便事業会社は、原因を徹底解明し、再発防止に万全を期さねばならない。
ゆうパックはペリカン便との統合で収益力を高め、ヤマト運輸と佐川急便という業界の2強を追撃する構えだったが、出足からつまずいた形となった。
会社側は、準備は万全だったと釈明しているが、研修による作業手順の徹底など、備えが足りなかった面は否めない。
赤字続きのペリカン便の合理化を急ぐため、繁忙期を承知で7月の事業統合を強行したとされる。「顧客第一」の視点が欠けていたと言われても仕方あるまい。
1日に始まったトラブルを軽視し、4日まで発表しなかった経営陣の姿勢も信頼を損なった。こうした判断のどこに問題があったのか、厳しく検証することが、出直しの第一歩となる。
遅配をきっかけに、商品の配送をゆうパックから別の宅配便に切り替えた通販業者もある。時間通りに配達する精度の高さが、宅配便の命である。
顧客離れを防ぐため、安定した集配体制の確立を急がねばならない。商品の再発送など、遅配によって生じた被害への誠実な対応も重要である。
電子メールの普及で、はがきや手紙の利用が減って、郵便事業はじり貧になりつつある。にもかかわらず、郵便物の放置など不祥事が後を絶たない。
その中で起きた今回の遅配問題だ。経営に大きなダメージを与える恐れも指摘されている。
経営陣はもとより、全社員が大事なネットワークを担う責任を改めて自覚し、緩んだタガを締め直してほしい。
|
産経新聞 2010年07月07日
郵政見直しと遅配 官業逆戻り路線の弊害だ
「親方日の丸」意識が招いたのは誰の目にも明らかだ。先週から日本郵政グループの宅配便「ゆうパック」で計34万個を超える荷物の遅配が発生している。
日本郵政は日本通運の「ペリカン便」を1日に統合し、ゆうパック事業を再スタートさせた。だが、日通から引き継いだ荷物の仕分け機械の操作に不慣れな職員らの作業ミスが続出した。中元商戦による取扱量増加も加わって荷物が集中、さばききれない状況が生じた。しかも、経営トップの判断ミスで遅配の事実の公表が遅れ、混乱に拍車をかけた。
新鮮さで勝負する食品業者や、指定期日通りに届くのを楽しみに待っていた消費者から強い怒りの声が上がったのは当然だ。
郵便事業会社の鍋倉真一社長は「トラブルは一過性で土日で回復できると判断した」と会見で釈明した。だが、準備不足のまま統合を急いだことがそもそもの原因とも指摘されている。
危機意識と経営感覚のなさは深刻である。民間企業なら当たり前の「顧客第一主義」が欠如していた。連立与党による「官業逆戻り路線」の弊害とおごりが潜んでいなかったか。
今回の参院選で問われている郵政見直しの争点もそこに帰結する。昨年の衆院選後、鳩山由紀夫前政権は「小泉政権の民営化路線を抜本的に見直す」として、民間出身の経営陣に代えて官僚OBを主要ポストに就けた。鍋倉氏も総務省出身だ。
|
この記事へのコメントはありません。