大相撲改革 旧弊となぜ決別できない

毎日新聞 2010年07月06日

日本相撲協会 親方に任せておけない

大相撲名古屋場所の番付が1週間遅れで発表された。例年なら季節感をともなう恒例行事だが、今年は大違いだ。野球賭博をめぐる激震が尾を引き、さまざまな疑問符を抱えたまま11日の初日を迎える。

日本相撲協会は4日の臨時理事会で大嶽親方(元関脇・貴闘力)、大関・琴光喜関の解雇など、賭博に関連した親方、力士らの処分を決定。謹慎処分となった武蔵川理事長の代行に外部理事の村山弘義・元東京高検検事長が就任し、とりあえず名古屋場所を乗り切る体制を決めた。

これらは外部有識者で作る特別調査委員会(座長=伊藤滋・早稲田大特命教授)が先月末にまとめた勧告に沿った内容だ。勧告がすんなりと受け入れられ、村山代行のもとで新スタートを切ったのなら多少は不安を解消できたかもしれないが、事態はそう単純ではなかった。

理事会前日、力士出身の理事の間から「協会トップの仕事は暴力団排除だけではない。相撲界を理解する人間でないとつとまらない」と、村山氏の代行就任に反発し、放駒理事(元大関・魁傑)を代行に推す声が出たという。

「相撲界のことは相撲人で決めたい」。親方たちの考えはそういうことだろう。だが、神社の境内を借りて晴れた日だけ興行していた時代ならいざ知らず、公共の電波で全国に中継され、公益法人として税の軽減措置も受けている今の相撲界では許される話ではない。

ここ数年、相撲界で相次いだ不祥事を思い返してほしい。時津風部屋の若い力士の暴行死事件、外国人力士の大麻汚染、元横綱・朝青龍をめぐるさまざまな騒動と、力士本人の問題以前に師匠、親方の指導力に疑問を抱かざるを得ない出来事が次々と発生した。そして今回は親方まで巻き込んだ野球賭博である。

私たちは先人たちが築き上げてきた大相撲の長い歴史と伝統に敬意を払っている。長年、大相撲を支えてきたのは相撲界の先人に加え、全国の相撲を愛するファンだ。それにもかかわらず、大相撲を今、泥まみれにしているのは現役の師匠、親方たちではないのか。今さら「相撲界のことは任せてほしい」と言われても誰も聞く耳を持つまい。

親方の間からNHKの中継辞退の提案も出ているという。純粋に反省して出直す意図から出た提案なら、それも一つの選択肢だ。

大相撲が興行である以上、反社会組織との付き合いの歴史も古いという指摘もある。だからこそ、積年の悪弊を大掃除する絶好の機会でもある。村山氏の「代行」を取り、理事長に迎えることも考えるべきではないだろうか。

読売新聞 2010年07月07日

大相撲中継中止 ファンの落胆に再生で応えよ

野球賭博問題で揺れる大相撲名古屋場所について、NHKは中継放送をしないことを決めた。

テレビは1953年から、ラジオは28年から続く中継が戦時中を除き、初めて中止になる。がっかりした相撲ファンは多いことだろう。

取組終了後にダイジェスト番組を放送するというが、生放送の醍醐(だいご)味とはほど遠い。

日々稽古(けいこ)に汗を流す力士たちにとっても中継は大きな励みだったろう。賭博問題とかかわりのない力士たちは、さぞ悔しい思いをしているに違いない。

中止の理由についてNHKの福地茂雄会長は、日本相撲協会の改革の取り組みに「具体的な道筋が見えていない」こと、1万2000件に上る視聴者からの意見の6割以上が「中継をやめるべきだ」と言っていることを挙げた。

一方で、中継を強く望む声があり、賭博と無縁の力士も多いことを考えれば、中継に踏み切る選択肢もあったはずだ。

それでも中止を決めたのは、相撲協会の改革の姿勢になお疑念が残り、視聴者の厳しい声を無視できない、公共放送としてのやむを得ない判断だったのだろう。

この事態を招いた責任は、言うまでもなく相撲協会にある。

相撲協会は、大関琴光喜と大嶽親方(元関脇貴闘力)を解雇処分にした。幕内だけでも、琴光喜以外に6人の力士が出場停止、武蔵川理事長ら多数の親方も謹慎という異常な事態の中で名古屋場所を迎えることになった。

相撲協会として一定のけじめをつけた格好だが、理事長代行の人選では、村山弘義・元東京高検検事長の就任に難色を示し、あくまで角界内部からの選出を求める声が一部の親方から上がった。

この期に及んでも、内向きの論理を捨てきれない体質には、あきれるばかりだ。

力士暴行死や大麻事件、土俵近くの特別席に座る暴力団関係者が中継に映った問題など、不祥事の度に相撲協会は再発防止を誓ってきたものの、自浄能力は発揮できなかった。

相撲協会は、組織の見直しを進める改革委員会の設置を決めた。暴力団との決別や危機管理のあり方などを検討するという。改革委は外部メンバーで構成し、強力なリーダーシップを発揮して抜本改革に取り組んでほしい。

大相撲再生の第一歩を踏み出すために、改革の推進は待ったなしだ。土俵でもファンが納得する熱戦を繰り広げるしかない。

産経新聞 2010年07月08日

角界強制捜査 場所返上を決断する時だ

大相撲の野球賭博問題は、NHKの生中継中止に続いて、警視庁が相撲部屋や名古屋場所関連の宿舎など数十カ所を一斉に家宅捜索したことで、深刻さを極める事態となっている。

11日からの名古屋場所を直前に控えて阿武松部屋や武蔵川理事長の部屋まで強制捜査の手が伸びた。相撲協会は、角界に警察の捜査の手が入ったことを重く受け止めなければならない。捜査がどこまで及ぶかもはっきりしていない。名古屋場所の開催についても返上を決断すべきだ。

昨年の名古屋場所では野球賭博のほかにも、テレビ画面によく映る「維持員席」と呼ばれる特等席に暴力団関係者がいたことが警察当局の調べで確認され、親方2人が処分されている。

しかし、この問題も名古屋場所だけではない。今年の初場所でも土俵下に暴力団員がいたことも判明しており、そうした黒い社会との関係が常態化していたことがうかがえるのだ。

相撲協会は、名古屋場所で優勝力士に贈られる天皇賜杯や内閣総理大臣杯などを辞退することを決めた。当然のことである。ここまで事態が悪化しては、そもそも名古屋場所を開く意味がどこにあるのかと国民の多くが受け止めているのではないか。

ところが相撲協会には、いまだに緊張感が欠如していると思えてならない。中井洽国家公安委員長は村山弘義協会理事長代行と面会した際に、「捜査に協力しない者がいる」と苦言を呈した。さらに「各部屋に捜査に協力するよう通達を出してほしい」との異例の要請をしている。

NHKは名古屋場所の生中継を取りやめたが、福地茂雄会長は6日の記者会見で、角界と反社会勢力の関与が中継中止の要因になったことを挙げ、さらに「相撲協会の改革の方向性については、具体的道筋が立っていない」と厳しい認識を示している。

野球賭博と暴力団の関与の実態が今回の強制捜査の主眼だろうが、角界は率先してその実態の解明に乗りだそうとしていない。旧態依然たる組織の改革が何より求められているのだ。

名古屋場所の開催より、一刻も早く暴力団との決別を図り、古い閉鎖体質から脱却することが先決である。国民の信頼を回復できるかどうかの勝負は、今が最後の機会と認識すべきだ。

産経新聞 2010年07月06日

大相撲改革 旧弊となぜ決別できない

日本相撲協会にはもはや、改革の自浄能力がないことがはっきりした。4日の臨時理事会の議論を見ての印象である。

野球賭博に深くかかわった大嶽親方(元関脇貴闘力)や大関琴光喜関を解雇処分にし、理事長代行に村山弘義・元東京高検検事長を充てた。

しかし、いぜん外部からの理事長代行起用に反発する親方もいるなど、危機意識の欠如は見苦しいほどである。

何とか、11日からの名古屋場所の開催にはこぎつけた。だが野球賭博問題は、これまでの力士暴行死や大麻事件などの不祥事に比べ、角界の命取りにもなりかねない深刻な事態だ。

川端達夫文部科学大臣も「協会の運営を立て直すため、改革委員会を早急に立ち上げ、リーダーシップを発揮してほしい」との強い要請を行った。

角界は力士出身の親方が理事長以下の執行部を占める身内社会である。古いしきたりや、互いをかばい合う甘さが無反省で続けられ、一般の社会常識が通用しない組織となっている。

こうした旧態依然たる体質を、根本から改める必要がある。土俵際まで追いつめられた状況でも、まだ協会幹部の危機意識は薄いといわざるを得ない。外部の有識者による議論に委ねる以外に、協会が生き残る道はない。

改革委員会の中では、暴力団など反社会的な勢力との決別のほか、巨額のカネが動く「年寄名跡」のあり方や、部屋制度の将来なども当然、議論になるだろう。協会関係者には、自ら進んで身を切る覚悟が必要だ。

村山氏の理事長代行は、武蔵川理事長の謹慎が解ける名古屋場所千秋楽まで、という暫定措置である。場所後は、村山氏がそのまま理事長に就くか、あるいは新たな理事長を外部から招き新体制で再生を図るしかない。

野球賭博への暴力団関与の実態は、未解明のままである。大相撲は、以前から地方巡業で地元暴力団関係者に協力を求める面があった。また、暴力団とつながるタニマチを通じて組員と関係ができる力士もいた。体質の改善と暴力団排除が喫緊の課題である。

警視庁の捜査の進展に期待するとともに、外部有識者による改革委員会の手での抜本的な改革を強く求めたい。これが、時代に合った健全な大相撲として再生する最後の機会である。

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