リーマン1年 変わらぬ「無責任」の土壌

朝日新聞 2009年09月14日

リーマン破綻1年 運命を共にする時代

世界中をマネーが急回転し、その推進力である米ウォール街や英シティーの金融トレーダーが巨額の富をかっさらっていく。それでも世界経済はそうやって回していくしかない。そんな風に漠然と考えていた人も少なからずいたのではないか。

去年の9月15日。「グリード(強欲)」の象徴としてののしられることになる米大手投資銀行リーマン・ブラザーズの破綻(はたん)が、世界経済を大恐慌以来の危機に突き落とすまでは。

リーマンは「拝金主義」の墓碑銘になるのだろうと思われた。経済には規律が必要だ。市場が機能するには信頼が必要だ。回復するには倫理と節度を取り戻すしかない。そんな誓いが何度も語られた。

それから1年。米国では主な銀行に公的資金が注入され、世界最大の自動車メーカー、ゼネラル・モーターズ(GM)が破綻した。世界のモノやサービスを吸い上げてきた米国の過剰消費は、いやおうなく修正された。欧州でも有力銀行が国有化された。

日本は輸出依存の景気回復というアキレス腱(けん)を直撃され、戦後最悪の経済収縮を引き起こした。派遣切りなど解雇の波が正社員にも広がり、失業率は過去最悪の5.7%に達してもなお悪化が止まらない。

それでも「大恐慌の二の舞い」を防ぐことができているのは、各国政府が足並みをそろえて巨額の財政出動や超低金利政策を打っているからだ。

一極集中的な米国主導のグローバリゼーションは挫折したが、その米国が提唱した主要20カ国・地域(G20)による協調が効果を発揮した。これは、中国やインドなどが比重を増しつつ、グローバル化が多極化という第二段階の幕を開けたことを示している。

中国が米国債の最大の保有者となり、米中の危機対策での協調ぶりが「G2」と評されるまでになった。

「我々は同じ舟に乗っている」という意識が、いまや各国で共有されている。世界の人々は一蓮托生(いちれんたくしょう)。ますます深まる相互依存のうちに暮らしていることを、危機が自覚させた。

G20では「グリード」が再びバブルや危機を引き起こさないよう、経営者の報酬制限も議論されてきた。高額ボーナスに目がくらんで金融商品を無謀に売りさばく事態を繰り返してはならない。しかし、もうけたいという人間の「欲」をうまく使って経済を成長させようという考え方も米国などには根強い。金融の規制は一筋縄ではいかない難しさを抱えている。

「グローバリゼーションには光と影がある。影の部分をいかに制御し、光をいかに伸ばすかが重要だ」

あさって首相に選出される鳩山民主党代表は、今月初めに東京で開かれた世界経済フォーラムのジャパン・ミーティングでそう述べた。

企業などの活動が国境を越えて広がることでグローバル化する市場経済。その重要さは誰も否定などできない。だからといって、すべて市場の競争まかせにはできないという鳩山氏の主張も当然のことである。

とりわけ危機の時代は、政府の役割を説いた英経済学者ケインズをひもとくまでもない。介入を嫌う米金融界すら、政府に救済を求めたのだ。

オバマ米大統領は「政府の大きさではなく、機能が問題」だとして「賢い政府」を唱える。麻生政権下でも「賢い支出」が議論された。

だが、「賢い支出」は簡単ではない。米国の医療保険改革や日本の大型補正予算は、すでに納税者の厳しい視線にさらされている。市場を補う政府の役割と、負担のありようをめぐる論争は始まったばかりだ。

賢い支出で特に注目したいのは、オバマ政権のいわゆる「グリーン・ニューディール」政策だ。再生可能エネルギーの開発を通じて新たな産業と雇用を生み出す戦略で、二酸化炭素(CO2)などの排出量取引制度の導入も盛り込んでいる。

排出量取引は金融取引の一種でもある。いわば「グリード」を飼いならして、地球温暖化対策と経済成長に役立てようという制度なのだ。米国で開発されたが、実施は欧州に先を越されたため、米金融界にも「早く追いつきたい」という声が上がっていた。

日本でも鳩山氏が20年の温室効果ガス削減目標を90年比で25%と明言した。排出量取引の導入も進んでいくに違いない。経済界には反発も根強いが、持続可能な成長に向けて力を合わせることが大切ではないか。

信頼の大切さを学んだ人々は、意識のありようが経済や政治の根本を左右することも知った。米国にオバマ政権が誕生し、日本の政権交代が実現したのも、そのことと無縁ではない。

宇宙船地球号というエコシステム(生態系)を共有する感覚は、今後さらに広がるだろう。その上に、新しい世界経済の調和の姿を目指したい。

米国も欧州もアジアもイスラム世界も、文明に貢献する豊富な蓄積を持っている。それぞれの力と価値観が組みひものように絡み合いながら、グローバル経済のひずみを是正し、環境と両立する豊かな文明を築く――。

21世紀型資本主義は、そんな発展の道筋を見いだしていけないだろうか。

毎日新聞 2009年09月14日

リーマン1年 変わらぬ「無責任」の土壌

衝撃とその後襲った不安の大きさから、「金融の9・11」と呼ばれることがある。2008年9月15日。米証券大手、リーマン・ブラザーズが経営破綻(はたん)し、世界の金融・証券市場に激震が走った日だ。衝撃波はウォール街から我々が暮らす街にまで押し寄せ、世界経済は底なし沼にのまれていくかのようだった。

なぜ、こんなことに--。多くの人々が理解できないまま職や家を失った。ここへきて市場は安定を取り戻し、景気も最悪期を脱したように見えるが、危機はくすぶり続け、傷は地球のあちこちで癒えずにいる。

1年を振り返り、二度とこのような金融の暴走を招いてはならないと思わずにいられない。だが、現実はどうだろう。教訓は十分、生かされようとしているだろうか。

危機をもたらした金融暴走の背景には、業界に蔓延(まんえん)した過信と無責任さがあった。リスクの十分な吟味もなく、自分さえもうかれば、今さえよければ、と他人の資金に頼ったマネーゲームに興じた揚げ句、バブルがはじけて破綻の危機に直面した。

普通の企業が経営に行き詰まれば倒産となり、企業と一部の取引相手がツケを払う。リーマン破綻では、失敗のツケが世界経済全体に及んだ。規模が大きすぎたのである。

あわてた米欧の政府は、大手金融機関に公的資金を使って資本を注入したり、経営統合を促したりと、“第2のリーマン”回避に腐心した。結果、最悪の事態はひとまず防ぐことができたが、重大な禍根を残した。「無責任」が再びはびこる土壌を作ってしまったのだ。米国では小規模な金融機関が相次ぎ倒産に追い込まれる中、巨大金融機関は救われて残り、そればかりか、ますます大きくなろうとしているのである。

大きすぎてつぶせない金融機関は無責任な利益追求に走る恐れがある。大きなリスクをとって吉と出たら自ら大もうけし、凶と出たら政府が助けてくれるからだ。一方で投資家の資金は“安全な”巨大金融機関に集中していく。「大」がどんどん太っていくメカニズムだ。

主要国の政府は、金融機関の肥大化を許すべきではない。巨大銀行でも粛々と破綻処理できるような仕組みを主要20カ国・地域(G20)で議論しているが、実効性には疑問がある。やはり大きくなりすぎないよう規模に歯止めをかける方策を真剣に検討すべきだ。資産総額に対する必要自己資本の比率が資産規模に比例して増大する規制の導入は一案だろう。

経済あっての金融だ。逆ではない。「9・15」の記憶が新しいうちに、責任ある金融を目指した制度づくりを急ぐ必要がある。代償はあまりにも大きかったのだから。

読売新聞 2009年09月15日

リーマン1年 金融再生に教訓を生かせ

「100年に1度」とも言われた米国発の金融危機は、最悪期を脱しつつある。しかし、再生への道のりは、まだ半ばといえよう。

米大手証券のリーマン・ブラザーズが昨年9月15日に経営破綻(はたん)してから1年になる。リーマン・ショックは、未曽有の金融危機の引き金になり、世界を深刻な同時不況に陥れた。

米国で住宅バブルが崩壊し、住宅ローンなどを組み込んだハイリスクな金融商品が暴落した。そうした市場の暴走に、金融当局の対応も遅れた結果だ。

1年がたち、金融不安はようやく和らぎ、世界の金融・経済情勢は持ち直してきた。

日米欧と中国などが、大型の景気対策や、異例の金融緩和策などの政策を総動員した。その国際協調が効果を発揮し、危機の連鎖を食い止めた意義は大きい。

急落した日米欧の株価は現在、リーマン・ショック前の1割減の水準まで回復し、中国など新興国の株価は上昇に転じている。

景気も回復基調だ。マイナス成長に陥った先進国のうち、日本は4~6月期にプラス成長に転じ、景気後退が続く米国と欧州も、年内の底入れが見込まれる。中国は約8%の成長率を維持する。

しかし、危機が完全に去ったわけではない。楽観は禁物だ。

震源地の米国では、失業率が約10%に上昇している。個人消費の低迷も続き、景気回復力は弱い。再び景気が悪化する「二番底」も懸念される。

米国経済のもたつきは、日本など世界に打撃となる。世界景気が本格的に回復するまで、景気刺激策を元に戻す「出口戦略」に踏み出すことは時期尚早だろう。

危機再発を防ぐための金融規制と監督の強化も急務だ。

オバマ米大統領は、新たな規制改革案を示した。だが、米国内にはこれに反発する動きがある。

主要20か国・地域(G20)も、金融機関の自己資本比率の見直しや経営陣の報酬制限などの規制の強化を目指すが、利害の対立で国際ルール作りは難航している。

取り組みの遅れを見透かすように、投機マネーの動きが復活してきたのが気がかりだ。原油、金などの価格が急上昇している。実体経済と遊離したマネーの再膨張を警戒しなければなるまい。

24日から米ピッツバーグで、G20金融サミットが開かれる。リーマン・ショックの教訓をどう生かすか。金融再生を加速する行動が首脳たちに問われよう。

産経新聞 2009年09月15日

リーマン破綻1年 協調して2番底の回避を

金融危機と世界同時不況の発端となったリーマン・ブラザーズの破綻(はたん)から1年たった。株の大暴落、金融機関の破綻、生産縮小、雇用調整が瞬く間に世界に広がり、一時は金融恐慌が懸念されたことを思い出したい。

幸い1929年の大恐慌の再来は防げたようだが、こうした危機を繰り返してはなるまい。気がかりなのはこの危機から教訓を正しく引き出しているかどうかだ。

今、世界経済が最悪期を脱し、落ち着きを取り戻したのは米国が公的資本を金融機関に注入し、各国が大規模な財政出動と金融緩和で景気を下支えしているからだ。自律的な景気回復にはまだほど遠いことを認識する必要がある。

日米欧とも失業率が悪化し、世界で約4兆ドルに達する不良資産問題の火種も残っている。各国とも経済対策の手を緩めれば、景気が腰折れする「2番底」の懸念がある。景気対策の継続に向けた政策協調が不可欠だ。

米国中心に世界中から集まったマネーの暴走を許してしまった反省から、危機の再発防止策も大きな課題だ。米紙に掲載された民主党の鳩山由紀夫代表の論文で、米国主導の経済グローバリズムを否定的に論評し波紋を広げたのは記憶に新しい。リーマン破綻の原因がサブプライムローン(低所得者向け住宅ローン)の証券化だったことを踏まえれば、そうした一面は確かにある。だが大事なのは市場を使いこなす知恵であり、危機の拡大を抑止する工夫だろう。

そのために主要20カ国・地域(G20)は金融システムの安定に向けた制度改革に乗り出している。具体的には金融機関の経営の健全性を測る自己資本規制や時価会計の見直しである。ヘッジファンドや格付け機関に対する監督強化、金融機関の高額報酬の制限なども課題に挙がっている。

各国の思惑が絡みあって議論はなかなかまとまらないが、自己資本規制強化は貸し渋りなどの混乱を引き起こしかねない。経済全体へ十分な配慮をした上で制度変更のあり方を議論すべきだ。

今月下旬には危機後3回目となるG20金融サミット(首脳会合)が米ピッツバーグで開かれる。景気の自律的な回復に向けた政策協調の継続と金融システム改革が主要テーマだ。ところが、民主党の政策には自律的な経済成長を促す景気対策が欠けている。G20ではそれが問われよう。

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