年金基本原則 与野党が歩み寄る契機に

朝日新聞 2010年06月30日

年金基本原則 与野党が歩み寄る契機に

国政選挙のたび民主党が看板政策に掲げてきた新たな年金制度について、菅政権が柔軟な基本原則をまとめた。これを与野党が話し合いを進めるきっかけにしてほしい。

全国民が一つの制度に加入し、最低限の年金額を保障することなど大まかな考え方を示しただけで、かつての「税方式による月額7万円の最低保障年金」といった具体的記述はない。

党のマニフェスト(政権公約)と比べるとあいまいになったが、むしろこれによって、与野党が過去の主張にとらわれずに歩み寄るための環境ができたともいえる。

年金制度には、さまざまな問題がある。自営業中心と考えられてきた国民年金は、厚生年金に入れない非正社員が4割近くを占め、保険料をきちんと払えない人も少なくない。無年金や低年金で老後の生活に困るという人が増える心配もある。

少子化で、将来受け取る年金額はどこまで下がるのか。生活保障の役割を担えるのか、といった問題もある。

解決策については、さまざまな考え方が成り立つ。民主党のような最低保障年金という案もあれば、自民、公明両党が提案しているように、所得に応じた保険料減免と税金による補助を組み合わせ、基礎年金が満額受給できるようにする方法もある。いずれにせよ、低所得層に絞った対策から講じていくのが現実的ではないか。

財政の制約も考えねばならない。民主党はかねて最低保障年金の財源に消費税を充てると主張していた。しかし、国の財政が危機にあることや、他の社会保障分野に必要な費用も考えれば、年金だけに巨額の税収を投入するのは難しい。

看板政策にこだわり過ぎて、地域医療の立て直しや介護の現場で働く人たちの処遇の改善、保育所の整備などを後回しにすることになっては、国民の安心にもつながらない。

この際、無年金、低年金対策や低所得高齢者対策など、与野党で一致できることから一つずつ改革を進めていってはどうだろう。

年金制度の一元化にしても、自営業者も含めて一つの制度にするのが良いかどうかは、意見が分かれる。まずはサラリーマンが加入する厚生年金と公務員が入っている共済年金の統合や、所得がつかめる非正社員には厚生年金に入ってもらうことから始めるほうが現実的ではあるまいか。

お互いの主張にこだわるあまり、対立が深まって改革が前へ進まなければ、困ってしまうのは国民だ。

新しい施策にどれだけお金を使えるのか。年金、医療、介護、子育て支援など、全体のバランスをどうとるのか。財源を念頭に置きながら各政党が現実的な対応を考えるべき時だ。

毎日新聞 2010年07月01日

年金改革7原則 現実問題から始めよう

年金の危機を追及し国民の関心を高めて政権交代の道を開いたのは野党時代の民主党だった。そのときに掲げた改革案は、年金制度を一元化し、消費税を財源とする最低保障年金を創設し、すべての人が7万円以上の年金を受けられるようにするというものだった。ところが、今回参院選のさなかに菅内閣が発表した年金改革7原則からは最低保障年金の「7万円」「財源は消費税で」という重要な要素がなくなった。

政権に就いて深刻な財源難に直面したことで現実路線も模索せざるを得なくなったのだろうが、それで自民党などに協議参加を呼びかけるとは虫が良すぎる。ただ、消費税など国民負担とリンクさせた社会保障の立て直しは待ったなしだ。ここは超党派で制度改革論議を始めることをあえて支持したい。

年金制度の基礎ができたころと現在では社会状況が大きく違う。30年前には夫が働き妻が専業主婦という世帯が共働き世帯の2倍近くあったが、現在は逆転して共働き世帯の方が多い。また、全労働者のうち4割を占めていた第1次産業が現在は5%、3割を占めていた自営業が1割程度にまでなった。国民年金の主な対象者が急減し、現在は企業で働きながら厚生年金に入れない非正規雇用労働者が国民年金加入者の4割を占めるまでになったのだ。

ライフスタイルや産業構造がどのように変わろうとも、それに対応できる年金制度の一元化は理想的だし、すべての人が7万円以上の年金をもらえれば無年金や低年金の問題は一気に解消する。しかし、それを実現するには膨大な予算と時間がかかる。医療や介護は破綻(はたん)が目前に迫っており、こちらも放置できない。今すぐ年金制度の理想を追求する余裕はあるだろうか。こうした現実のジレンマを最もよく知っているのは当時政権の座にあって批判にさらされた自民党や公明党である。感情論や思惑を超えて年金や社会保障論議のテーブルに着いてはどうか。

年金問題ですぐに着手しなければならないのは、国民年金の未納・未加入とその結果生じる無年金者であり、国民年金だけの場合には老齢基礎年金の平均月額が約4万8500円という給付水準の低さである。社会保障はそれぞれ複雑に関連しており、年金だけを取り出して論議するのは限界がある。生活保護や高齢者雇用などの改革とからめて解決策を探ることも必要だ。また、非正規雇用労働者も厚生年金に加入できれば将来発生する問題の備えにもなる。

安心できる年金制度の論議は大いにやるべきだが、失われた信頼を回復するためには差し迫った問題を着実に解決していくことも重要だ。

読売新聞 2010年07月01日

年金改革7原則 一元化の道筋と財源が課題だ

基本であり原則であるとしても、あまりに具体論を欠いている。

政府の「新年金制度に関する検討会」が、創設を目指す新たな制度について打ち出した、7項目の「基本原則」のことだ。

制度設計面では「全国民の年金の一元化」「最低限の年金額の保障」「負担と給付の明確化」「持続可能な制度」を掲げた。さらに「年金記録の確実な管理」「保険料の確実な徴収」「国民的議論での制度設計」を(うた)っている。

会社員は厚生年金、公務員は共済年金、自営業者などは国民年金と、職業で違う仕組みを分かりやすくし、制度の信頼を回復するには、もっともな7原則である。

だが踏み込み不足だ。何より、新年金の主たる財源は税金か保険料か、という基本的論点にさえ、方向性を示していない。

民主党の参院選公約には、月7万円の最低保障年金の創設が掲げられている。そして、昨年の衆院選の政権公約(マニフェスト)には「消費税を財源とする」と明記されていた。

にもかかわらず、基本原則は最低保障の金額など新制度の具体像を明示せず、必要財源も「安定的に確保する」という当たり前の表現にとどめた。

政府は「与野党協議を呼びかけるため、入り口で賛否が割れそうな論点は避けた」と説明する。

しかし、参院選のさなかに消費税率の引き上げ幅などに直結する中身を示すのは得策でない、との計算も働いたのではないか。

確かに、年金改革は政争の具とせず、与野党が協力しなければならないものだ。

ただし、内容に乏しい基本原則を示して改革に取り組んでいるとの姿勢をアピールしつつ、「後は超党派協議の場で」と野党に呼びかけるだけでは年金制度の論議は深まるまい。

長妻厚生労働相は、民主党が掲げてきた「消費税を財源とする月7万円の最低保障年金の創設」という改革案は引き続き主張し続ける、と強調している。

だが、政権について10か月近くたつというのに、民主党からはマニフェストより詳しい制度設計は示されないままだ。

選挙戦ではまず、与党ができるだけ具体的な年金改革案を示し、どれだけの消費税が必要になるかなど、実現するためのハードルについても有権者に誠実に説かなくてはならない。

そこから始まる論戦こそ、与野党協議の下地となるだろう。

産経新聞 2010年07月01日

年金改革 たたき台になる民主案を

菅直人政権が年金制度改革の方向性を7つの基本原則としてまとめ超党派協議を呼びかけた。

民主党が政権公約で掲げる、年金を一元化し、消費税を財源とする月額7万円の「最低保障年金」と保険料からなる「所得比例年金」を組み合わせた改革案に沿った内容だ。現行制度が抱える課題を一応、網羅している。

年金は国民との長期契約だ。政権交代のたびに制度が変わるのでは混乱する。少子高齢化が進み、団塊世代も本格的に受給年齢を迎えようとしている。改革は待ったなしだ。与野党は早急に協議機関を立ち上げる必要がある。

制度設計では、財源論を避けて通れない。最低限の年金額をいくらにするかで、投入税額も大きく変わるからだ。

言うまでもなく、国の財政は危機的状況にある。安定財源の確保策としては消費税の増税が現実的だが、年金だけに使うわけにはいかない。その意味でも医療や介護、少子化対策を含む社会保障全体でどれだけの財源が必要となるのか、総合的な検討を進めることが欠かせない。

この問題では社会保障国民会議など、自公政権下でも議論は積み重ねられてきた。また一からやり直すのでは時間の無駄だ。これ以上、年金を政争の具にすることは許されない。与野党が建設的な意見を出し合い、できるだけ早く国民が安心できる制度に改めることが重要だ。

与野党協議を成功させるには課題も多い。菅政権は基本原則について「政府としてまとめたので、野党が参加しやすいよう大まかな方針を示すにとどめた」と説明している。財源に消費税を充てるかどうかもゼロベースだという。

その一方で、民主党マニフェストに基づいた改革案を取り下げたわけではない、とも言っている。何とも理解しづらい理屈だ。与野党協議の議論によっては、民主党案を柔軟に見直す考えがあるのか。菅首相は、まずこの点を明確にすべきである。

さらに政権党の民主党は議論のたたき台として、改革案の精緻(せいち)な設計図を示す義務がある。民主党は国政選挙のたびに年金改革を争点に掲げてきたが、いまだに細部を明らかにしていない。最低保障年金の対象となる年収水準や、将来の負担や給付水準もはっきりしない。なぜ現行方式の全面見直しが必要かの説明も必要だ。

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