日印原子力協定 核軍縮へ戦略はあるのか

朝日新聞 2010年06月28日

日印原子力協定 核軍縮へ戦略はあるのか

核不拡散条約(NPT)を空洞化する振る舞いを見過ごさない。NPTと関連条約などを強化して、核軍縮・不拡散対策を前に進める。

そうした日本の非核外交が盤石であってこそ、NPTを無視した北朝鮮や、核開発疑惑のあるイランに対して「非核」を強く求めることができる。

にもかかわらず、と言うべきだろう。菅直人政権は国民に十分な説明もないまま、重要な政策転換をした。NPTに入らず核武装したインドに原発関連機器を輸出できるよう、原子力協定の締結交渉に入ることを決めた。きょうから第1回交渉が東京で始まる。

インドの発展は目覚ましい。主要20カ国・地域(G20)では、中国とともに新興国を代表する存在だ。

日本の経済成長、アジアの地域安全保障にとっても、日印関係が重みを増すのは間違いない。

インドとの原子力協力は日本の原子力産業には新たな商機だし、地球温暖化防止でも一定の効果を持つだろう。

だが、光の部分を並べても、陰の部分は消えない。協定の締結交渉を始めるなら、世界の核軍縮、不拡散にとってもプラスを生み出せるような外交戦略が求められる。それがなければ、「核のない世界」へ、リーダーシップを発揮するとの菅首相の所信表明演説は、うつろな美辞にすぎなくなる。

NPT未加盟国には、原子力平和利用で協力しない。これが国際社会の原則だ。ただ、原子力関連の輸出規制を議論する原子力供給国グループ(NSG)は2年前、当時のブッシュ米政権の強い後押しで、インドの「例外化」を決めた。これを受け、米国、フランス、ロシアがインドと協定を結んだ。

日本の交渉開始については、「協定がないままでは国際社会に遅れる」「そろそろ潮時だった」との見方が政府内にある。だが、このまま日本までがインドの核実験を事実上、帳消しにするようでは、「結局、NPTと関係なく核武装したものが勝ち」との受けとめが世界に広まりかねない。

2年前のNSG決定を日本も支持した。日本はその際、インドが核実験を再開した場合には「例外化」措置を失効・停止して、各国の原子力協力をやめるべきだとの立場を表明している。

この立場さえも今後の交渉で「なし崩し」にしてしまうようなら、日本の非核外交への信頼は失墜するだろう。

NSG決定の際、日本は、国際的な不拡散体制の強化に向けて責任ある行動をとるよう、インドに促した。

非核世界へ向かうには、核を持つすべての国が参加する軍縮・不拡散交渉の場が必要だ。その方向にインドを引き寄せることが日本外交の課題だが、どのように進めていくつもりなのか。

菅首相は、国民に対して明確に説明する責任がある。

読売新聞 2010年06月30日

日印原子力協定 核軍縮と不拡散も強く求めよ

日本とインドが、原子力協力協定の締結に向けて交渉を開始した。

インドは、核拡散防止条約(NPT)を不平等条約だとして加盟せず、独自に核開発を進めている核兵器保有国だ。12年前の核実験に際しては、対抗して核実験を強行した隣国パキスタンともども国際社会の制裁を受けた。

日本は、そのインドへの原子力協力をこれまで控えてきた。すべての国のNPT加盟を求め、新たな核兵器国の出現を許さず、核軍縮を進めて究極的に核兵器のない世界の実現を目指す。そういう日本の非核政策が根底にあった。

今回、方針を転換した以上、従来の政策との整合性が問われる。この点、政府の見解ははっきりしない。丁寧に説明すべきだ。

2年前、日本など原子力供給国グループ(NSG、現在46か国)は、インドへの輸出規制を「例外扱い」で解除することを全会一致で承認した。インドとの関係強化を目指す米国が主導した。

インドは、民生用の核施設を国際原子力機関(IAEA)の査察下に置き、抜き打ち査察を可能にする追加議定書にも署名した。

岡田外相は、「例外化」後のインドの行動を注視し、約束を着実に実行したことを確認して、今回の決断を下したと説明した。

経済成長が著しい大国インドは今後、エネルギー需要の急増が見込まれている。インドの原発を受注した米国やフランスの企業は、提携する日本の大手メーカーの協力が欠かせない。米仏両国からの強い要請も背景にあった。

地球温暖化対策、インドとの協力強化、日本の原子力産業の活性化などを考えると、原子力協力にはメリットがある。

反面、インドは核保有を不問に付され、査察対象とならない軍事用の核施設は存続できる。民生用原発の核燃料の確保にもメドがつき、乏しい国内のウラン資源を軍事用に回すことが可能だ。

ライバルのパキスタンが危機感を抱き、同様の「例外扱い」を求めるのも不思議はない。それを後押ししようとするのは中国だ。

インドへの例外扱いは、NPTを順守する加盟国に不満を抱かせており、ブラジルは、追加議定書に署名をしていない。

核不拡散に逆行する動きを止めるために、インドは核軍縮や不拡散で具体的な行動を取らねばならない。核実験全面禁止条約(CTBT)への署名・批准もその一つだ。日本は協定交渉の過程でインドに強く働きかけるべきだ。

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