名古屋場所開催 まだ土俵際の危機続く

朝日新聞 2010年06月29日

角界賭博問題 開催優先では出直せない

開催か、中止か。野球賭博問題にからみ、注目されていた大相撲名古屋場所について、日本相撲協会は28日の臨時理事会で、来月11日から開くことを決めた。

外部有識者による特別調査委員会が「勧告」で、条件とした親方や力士らへの処分をほぼ受け入れた上での開催ではある。だが、まだ事件の全容が明らかではないままの場所開催には強い疑問を感じる。

「条件」とは、野球賭博にかかわっていた大嶽親方と時津風親方、大関琴光喜関への懲戒処分のほか、関係した力士の謹慎休場、武蔵川理事長ら親方の謹慎処分などだ。

賭博問題は単なる特定の個人の不祥事ではない。51ある相撲部屋のうち、現時点で14部屋の親方や力士らが賭博に関与していた事実は、角界の構造汚染を物語っている。維持員席が親方を介して暴力団関係者に渡っていた問題などを含め、角界そのものが反社会的勢力にむしばまれているのだ。

そもそも賭博問題は警察の調べがまだ終わっていない。特別調査委の調べもまだ続いている。全協会員約千人を対象にした調査を書面で行っている。仮に追加調査で重大な事例が判明した場合にはどうするのか。

そんな現状を考えれば、場所開催を中止してでも、事件の全容解明に努め、角界の抜本的な改革を考える方が先ではないか。

場所開催の中止は、暴力団に屈することになるという声があるが、倒錯した議論だ。角界の大掃除が中途半端なまま興行を続ける方が、暴力団には都合がいいだろう。

名古屋場所では、琴光喜ら十両以上の70人のうち、2割近い力士が土俵に上がらない。勧告に従い、最高責任者である理事長が謹慎して、理事長代行が場所運営を担うのも極めて異例だ。師匠が謹慎したまま場所に臨むことになる部屋も多数ある。

そんな異常事態の中、あえて名古屋場所を開く理由は何なのか。

入場料収入だけで10億円を超えるという興行的側面からの判断が優先的に考慮されたのだとしたら、当事者たちは、事態の深刻さをまだ理解していないというほかない。

協会執行部は「死に体」も同然だ。外部理事を除く理事10人中、武蔵川理事長ら4人が謹慎である。場所開催の可否を判断する前に、執行部は自ら総辞職し、まずは責任を取る。その上で監督官庁の文部科学省の指導を仰ぎながら、新しい顔ぶれで協会を立て直す方策を探るのが筋ではないか。

角界は土俵を最も神聖視してきたはずだ。名古屋場所で下位力士の引き上げなど「水増し」で取りつくろうような運営をするのだとすれば、それは土俵を自ら汚すことにもなる。

毎日新聞 2010年06月29日

名古屋場所開催 まだ土俵際の危機続く

野球賭博をめぐる激震が続く中、日本相撲協会は、名古屋場所を予定通り開催することを決めた。胸をなで下ろす相撲ファンはいるかもしれないが、事態は決して楽観できるものではない。相撲界が存亡の瀬戸際に立たされているというのに、協会の対応は依然として手ぬるく、「外圧」を受けないことには動かない感度の鈍さを露呈している。

協会は今月21日の理事会で、名古屋場所を開催するかどうかを7月4日の理事会で決めるとした。名古屋場所は同11日が初日で、4日はわずか1週間前。あまりに悠長な協会の対応は、結論を抜き差しならないところまで先送りし、なし崩し的に名古屋場所開催にこぎ着ける作戦ではないかと疑われても仕方がない。

これに対し、同じ日の理事会で設置が決まった学識経験者ら10人で作る特別調査委は結論を急いだ。わずか2回の会合で9項目の勧告をまとめ、その受け入れを条件に、名古屋場所開催を認めると協会に迫った。

勧告は野球賭博に関与した力士らの処分を求めただけではない。武蔵川理事長の「指導責任」も問い、理事長代行を置くことも求めた厳しい内容だ。

結果的に特別調査委は協会に「助け舟」を出したと思われる。早急に結論を出そうとした分、調査は十分といえず、今後、新たな疑惑が浮上したら、特別調査委自体が批判を招く恐れもある。それでも結論を急いだのは、協会執行部の悠長な対応では名古屋場所の中止が避けられなくなる事態を恐れたからだろう。

その「温情」を協会は理解できているのだろうか。「勧告を受け入れる」としながらも、関係者の処分は7月4日に先送りし、理事長代行の人選もそれまで持ち越した。この期に及んで、いまだ協会の体面を守ろうとしているように映る。

毎日新聞が27、28日に実施した世論調査では名古屋場所を「中止すべきだ」という意見が61%に達し、「開催すべきだ」の33%を大きく上回った。国民が求めているのは相撲界の抜本的な体質改善であり、本場所だけ開催できれば危機は去ったと考えるのは大間違いだ。

ここ数年、相撲界は相次ぐ不祥事に揺れ続けている。そのたびに協会幹部の対応に問題を残した。相撲界のことは大相撲出身者だけで決めればいい、という考えはもはや通用しない。相撲界の「内輪の論理」だけでことを解決しようとするなら「国技」と名乗るのはやめてもらいたい。公益法人としての税金の軽減も返上すべきだ。

大相撲が真に国民的娯楽として生まれ変わることができるか。名古屋場所以上に全国の相撲ファンが注目しているのはその点だ。

読売新聞 2010年06月29日

名古屋場所開催 勧告踏まえて抜本的改革を

幕内だけでも7人の力士を休場させ、理事長までもが謹慎という異常事態の中、日本相撲協会は7月11日からの名古屋場所の開催を決めた。

野球賭博問題で相撲協会の信用は失墜した。場所開催を疑問視する声も少なくない。そうした中で場所を開くからには、協会は、ファンが納得する浄化策を早急に示さねばならない。

相撲協会の理事会は、外部の10人で構成する特別調査委員会から「名古屋場所開催の条件」として提示された勧告を受け入れることを決定した。

勧告は、常習的に多額の金を賭けていた大嶽親方(元関脇貴闘力)と、恐喝事件に巻き込まれた大関琴光喜について、「解雇以上」とするよう求めた。

さらに、野球賭博にかかわった力士と、所属する部屋の親方の謹慎も求め、これを受けて協会は、琴光喜ら14人の力士の休場を決定した。謹慎する親方には、武蔵川理事長も含まれている。

大嶽親方、琴光喜については、7月4日の理事会で改めて処分を決めるが、勧告通り、厳罰は避けられないだろう。大鵬部屋を継承した大嶽親方、日本人力士最高位の琴光喜の不祥事を残念に思うファンも多いはずだ。

協会は当初、賭博への関与を自己申告した者には、厳重注意でとどめようとした。しかし、一般社会では、とても通用しない甘い対応だ。勧告内容は、そうした協会の認識に対するレッドカードだったといえる。

不祥事の度に、相撲協会の危機管理の甘さが指摘されてきた。大相撲出身者が協会の運営を取り仕切る閉鎖体質が、自浄能力の欠如につながっているのだろう。

親方までも関与していた野球賭博問題を通し、今のままでは角界の規律の維持は困難であることが明白になったといえる。

時津風部屋の暴行死事件の教訓から、相撲協会の12人の理事のうち、2人が外部のメンバーとなっている。この外部理事の数を大幅に増やすなど、執行体制の抜本改革が必要だ。

理事長代行には、外部理事の村山弘義・元東京高検検事長が就く見通しだ。

名古屋場所が開催されても、土俵に声援を送る気になれないというファンもいるだろう。懸賞金の提供中止を決めた企業もある。

名古屋場所を大相撲再生のきっかけとするためには、協会の再建や力士教育の具体策作りを急がなければならない。

産経新聞 2010年06月29日

角界の野球賭博 再度言う「ウミ出し切れ」

大相撲の野球賭博問題で日本相撲協会の臨時理事会は、親方や力士らの具体的処分は先送りしたものの、特別調査委員会が名古屋場所(来月11日から)開催の条件として示した勧告を全面的に受け入れた。

協会としては、何としても名古屋場所を開きたい一心で、調査委の条件をのんだのだろう。だが、ここは積年の組織のウミを出し切ることが優先されなければならない。名古屋場所の開催は見送るべきであろう。

いずれにせよ、自浄作用もないまま、角界の野球賭博汚染をここまで拡大させた協会の責任は厳しく問われて当然だ。組織そのものを解体したうえで見直すぐらいの覚悟を示す必要がある。

調査委の勧告は、大嶽親方(元関脇貴闘力)ら3人を、解雇を含む懲戒処分とし、15人の力士を謹慎休場、さらに武蔵川理事長ら親方12人の謹慎も求めた。

調査にあたった各委員は、記者会見で「非常に厳しい勧告だ」と述べたが、この程度の処分は、一般社会ではごく当然のことだ。

背後に暴力団が介在していることを認識しながら、多額の現金をかけていた大嶽親方や大関琴光喜関は言語道断だし、野球賭博という犯罪に手を染めた他の力士の責任も重い。さらに、力士を育成、指導する立場の親方が、部屋の弟子が賭博に関与していたことを把握していなかったというが、にわかに信じがたい。

理事長の武蔵川部屋所属の元大関雅山関が野球賭博にかかわっていた事実は、そうでないことを示していよう。

大相撲は、元横綱朝青龍の暴力行為疑惑など不祥事続きだが、その都度あいまいな決着で批判を浴びてきた。なぜ不祥事が続くのかの反省に欠け、抜本的な改革ができなかった。今回の野球賭博問題の対応も後手に回り、結局は外部の有識者に調査を任せざるを得なかった。

相撲協会は古い体質をそのまま引きずり、理事ら幹部を力士出身の親方で占めてきた。彼らの間ではポストをめぐり、一門を巻き込んでの争いごとも繰り返されてきた。その結果、若い力士の生活を含めた指導や、協会の体質改善がなおざりにされてきた。

協会はいま、存亡の危機にある。場所中止は死活問題だろうが、根本的な出直しの改革姿勢を示すことの方が先決だろう。

読売新聞 2010年06月26日

角界の賭博汚染 徹底解明が本場所開く条件だ

大相撲を揺るがす野球賭博問題が、刑事事件に発展した。

大関琴光喜から野球賭博に関する口止め料を脅し取ったとして、警視庁が元幕下力士を恐喝容疑で逮捕した。

この元力士に350万円を支払ったとされる琴光喜は、恐喝の被害者の立場だ。だが、自身も野球賭博という犯罪に手を染めていたことを認めている。

警視庁は、元力士への取り調べを通して、琴光喜ら力士の関与についても捜査を進めるとみられる。全容解明を望みたい。

琴光喜に端を発した角界の野球賭博汚染は底なしの様相である。雅山、豊ノ島、琴奨菊、豪栄道、普天王――。人気力士の関与が次々と明らかになっている。

日本人力士は、肝心の土俵では外国人力士の陰で精彩を欠いている。ところが、土俵外の不祥事で注目されるという事態を嘆くファンは多いだろう。

現役力士だけではない。大嶽親方(元関脇貴闘力)、時津風親方(元幕内時津海)も野球賭博にかかわっていたことが判明した。

弟子を教育し、日本相撲協会の運営を担うべき親方までが関与していたとは、あきれるばかりである。賭博汚染の根は、それだけ深いということだ。

相撲協会は、弁護士など外部の10人で構成する特別調査委員会を設置した。現在、野球賭博への関与を申告した31人の力士らへの聴取を進めている。

ただ、31人は、あくまでも自己申告してきた人数に過ぎない。それ以外にもかかわった力士や親方はいないのかどうか、徹底した調査を実施してほしい。

名古屋場所の初日が7月11日に迫る中、不祥事続きの相撲界を見るファンの目は厳しい。

琴光喜が賭博への関与を認めたことが報じられた14日以降、相撲中継を行っているNHKには約3400件の電話やメールなどが寄せられている。そのうち、「中継すべきではない」との意見が6割以上を占めているという。

NHKは、「中継をやめることも選択肢の一つ」としている。

名古屋場所を開催するかどうかについて、相撲協会は近く開く臨時理事会で判断する方針だ。

開催するには、協会としてファンが納得するけじめをつけることが前提となろう。賭博汚染の全容を公表し、関与した力士や親方に厳正な処分を下す必要がある。

相撲協会は、存亡の危機にあることを忘れてはならない。

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