参院選 子育て支援 あしたのための論争を

毎日新聞 2010年06月25日

参院選 子育て支援 あしたのための論争を

「子ども手当を1万3000円から上積みする。上積み分は地域の実情に応じて現物サービスにも代えられるようにする」。これが民主党の今回の子育て支援の柱だ。財源難を考えれば満額支給(月額2万6000円)の断念はやむを得ないが、「社会全体で子どもを育てる」という理念はこの間どのくらい深められただろうか。私たちはこの理念を評価し期待もしてきたが、まったく不十分だと言わざるを得ない。制度の基本が変容したことへの説明もない。単なるばらまきにならないために、選挙戦で論議を尽くすべきだ。

もともと子ども手当の財源は高所得者に有利な配偶者控除や扶養控除を廃止し、これに従来の児童手当分を加えた約2・4兆円分が充てられるはずだった。ところが、無駄の排除や予算の組み替えでは捻出(ねんしゅつ)できず、国民の反発を恐れて配偶者控除も温存したため、まったく財源確保の見通しが立たなくなった。

若年世代を取り巻く状況は深刻だ。09年の完全失業率は平均5・1%だが、15~24歳は男性10・1%、女性8・4%、25~34歳でも男性6・5%、女性6・3%と高い。また、24歳以下の雇用者の半数は非正規労働者なのである。正規労働者でも若年層の賃金水準は低い。子どもを産まない理由に「経済的負担」を挙げる人が多いのは当然だ。出産や育児の適齢期の世代がこんな状況ではこの国の未来はどうなるのか。高齢層は膨張する一方だ。若年層の雇用を安定させ、出産や育児を社会全体で支援することは、どの世代にとっても重要であるはずだ。

そのほかの子育て支援は保育園の増設だけでなく、幼稚園と保育園の一体化、家庭内保育、夜間早朝保育などニーズに応じた多様な保育サービスの整備なども挙げられている。ただ、どの程度の「上積み分」をどのようにして現物サービスに転化できるのかも明確に示すべきだ。

子ども手当の全面見直しを主張する自民党は「切れ目のない子育て支援」を掲げる。すべての保育園・幼稚園の無料化、子どもの医療費無料化、不妊治療助成や出産一時金の拡充、父親の産休・育休のための環境整備などが内容だ。公明党は幼児教育無料化、児童虐待対策の強化などを打ち出している。

わが国の社会保障費の水準は先進諸国の中で低く、とりわけ子育て支援は国内総生産比1%程度で、フランスやスウェーデンの3分の1に過ぎない。各党がマニフェストで子育て支援策を競う今日の状況は歓迎したい。理念や財源を含めた実行可能性について大いに議論すべきだ。

読売新聞 2010年06月28日

子ども手当 半額支給維持も容易ではない

子育て支援は政策のバランスと、何より財源の裏付けが必要だ。

民主党は参院選公約で子ども手当について、来年度から月2万6000円を支給するという「満額実施」の看板を取り下げた。

半額でスタートした現行の月1万3000円に「財源を確保しつつ、上積みする」との表現にとどめている。上積み分も「保育所の拡充や給食の無料化など、現物サービスの充実策にも代えられるようにする」とした。

財源がなければ上積みはせず、現金支給至上主義も見直す、ということだろう。

国債発行額が税収を上回る非常事態の財政下で、年5・4兆円を要する子ども手当の満額支給は論外だ。路線変更は当然である。

社会保障関連予算は、高齢化の進行により、毎年約1兆円ずつ膨らむ。来年度からは基礎年金の国庫負担引き上げに2・5兆円が必要になる。子ども手当は上積みどころか、半額支給の維持も容易でないのが財政の現状だ。

政府は「子ども・子育てビジョン」で、保育所定員を年に5万人ペースで増やす、といった今後5年間の数値目標を掲げている。

今後は、ビジョンの実現に軸足を移すということだろう。しかしこれにも、1・6兆円の財源が必要だ。予算の組み替えや無駄の削減で捻出(ねんしゅつ)できる金額ではない。

消費税率を引き上げない限り、子育て支援を充実させることは難しい。民主党はその点をまず明確に認め、消費税の議論とセットで子ども手当の金額や支給方法、そして子育て施策全体の設計をやり直すべきだ。

この姿勢は、野党にも求められよう。自民党は昨年の総選挙に引き続き、「幼児の保育料と幼稚園費の無料化」を公約に掲げるが、少なくとも8000億円は必要な施策である。

自民党は「消費税率10%」を公約に明記し、必要財源を担保してはいる。だが、社会保障の思い切った充実策を実行するには、まず消費税率の引き上げ実現が大前提であることをもっと強く、国民に訴えるべきだろう。

英キャメロン政権は財政再建のために、付加価値税率を20%に引き上げ、子ども手当を3年間凍結する方針を打ち出した。

日本の財政状況は英国以上に厳しい。負担増なしに社会保障制度を維持することは不可能だ。

それを真正面から有権者に語る政党はどこか、有権者は参院選で見極める必要があろう。

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