消費税を問う 「第三の道」真贋見極めよ

毎日新聞 2010年06月27日

論調観測 消費税論戦 確かに随分変わった

自民党が惨敗し、参院で与野党が初めて逆転したのは1989年7月の参院選だった。この年春導入された消費税やリクルート事件など自民党には逆風が吹き荒れ、消費税廃止を訴えた旧社会党が躍進した。当時の自民党幹部は「この逆転状況は21世紀になってもなかなか解消できない」とぼやいたものだ。

「予言」通りというべきか。自民党は以後一度も参院で単独過半数を確保できず、連立時代を迎え、昨年、戦後初の本格的な政権交代に至る。その後の日本政治に大きな影響を及ぼした参院選だったとつくづく思う。

「日本も随分、変わったものだ」。今月23日の毎日社説はこんな書き出しとなっている。もちろん今回の参院選の最大焦点が消費税率の引き上げとなったことを指す。しかも、民主党と自民党がそろって言い出した。選挙で増税を口にするのはほとんどタブーだった従来の政治風土を考えれば画期的な変化だ。

現実に政権を担ってみて財政再建の緊急性を認識した民主党。従来の「何でも反対」ではない「責任野党」だとアピールしたい自民党。双方が結果的に足並みをそろえたのは政権交代の効果でもあろう。この2大政党以外の多くの党が増税に反対する、かつてない構図である。

先週の本欄でも紹介した通り、東京新聞が「行政の無駄を徹底的に削ることが先決」と主張しているほかは、在京各紙は「必要とあれば正面から国民に負担増も求める」という今度の消費税論議を前向きに評価する社説を掲げている。

菅直人首相は「消費税率10%」とする自民党の提案に乗り、「超党派で議論を」と繰り返している。これに対し、「増税分をどう使うか」(朝日)、「税率10%の根拠や新たな財源を何に使うのかはなお不明確」(日経)などと注文している点でも各紙は一致する。税制や社会保障制度改革の全体像、つまり日本の将来像を各党がどう具体的に描くか。それが今度の選挙を決するということだろう。

有権者には悩ましい選挙に違いない。だが、この20年余で有権者の意識も大きく変わり、政治を見る目は一段と厳しくなっている。ブームと呼べる現象も見当たらない今回。毎日社説が指摘したように「有権者の眼力」が試される選挙でもある。

無論、争点は消費税だけでない。毎日新聞は選挙中、地方分権や地球環境など忘れ去られている課題も掘り下げて論じていくつもりだ。みなさんの選択の一助となればと願っている。【論説副委員長・与良正男】

産経新聞 2010年06月27日

消費税を問う 「第三の道」真贋見極めよ

■大きな政府と成長阻害は困る

消費税問題が参院選最大の焦点になっている。自民党に続き、民主党の菅直人首相がこれまでの税率引き上げ反対方針を転換したからだ。昨年の衆院選のマニフェスト(政権公約)を反故(ほご)にした説明責任を果たさねばならないが、方針転換自体は間違っていない。

日本の長期債務残高は国、地方合わせて860兆円を超し、国内総生産(GDP)の1・8倍と、先進国に例のない破綻(はたん)寸前の水準まで悪化した。これは国民が享受する行政サービスという「受益」と「負担」のギャップが積み重なった結果である。

しかも、高齢化社会の急進展で年金、医療、介護といった社会保障の必要財源は急増し、このままでは受益と負担の不均衡拡大で社会保障制度の維持が困難になる。国民の将来不安はここに根差しており、社会保障財源を確保しつつ財政健全化を図るしかない。

安心を提供する社会保障には安定的、かつ国民全体で負担できるような財源がふさわしい。それは税収が景気に左右されにくく、若年層から老人まで負担する消費税以外にあるまい。

その税率は5%と、北欧諸国の25%はもちろん、欧州連合(EU)主要国の20%前後より格段に低い。これが「中福祉・低負担」と指摘されるゆえんであり、税率引き上げの必要性に議論の余地はないだろう。

≪あるべき社会保障像を≫

問題は菅首相の消費税引き上げ論が生煮えで、その使途の方向性もおかしいことだ。

菅氏は税率について「10%が参考になる」とし、引き上げ時期については「2~3年後かその先」と述べている。しかし、この発言は「当面10%」という自民党への対抗上なされたもので、給付と負担のバランスなど社会保障制度のあるべき姿を考えて導いたわけではない。

もっと理解に苦しむのは、増税の理論的根拠となっている「第三の道」と称する「増税による成長」論だ。確かに1990年代の欧州では増税が成長政策になった。とくに、イタリアでは市場が増税などで財政健全化が進展すると判断、2ケタだった長期金利が半分に低下して成長を支えた。

ただ、これはあくまで増税が財政健全化に結びつく場合で、日本でも金利上昇の抑制や株価上昇に効果を発揮しよう。だが、「第三の道」はまったく違う。

消費税など増税による収入を医療や介護、環境の分野に投入する。それで雇用と消費を増加させ成長と税の自然増収を図るという。先進国に例のない実験だが、果たして説得力を持つのか。

そもそも、こうした需要サイドへの財政出動は波及効果が小さい。貯蓄に回れば効果が減殺されるからで、成長政策というより社会政策に近い。となると、税収増もあまり期待できないから、残るのは大きな政府と財政健全化の停滞ということになりかねない。

ただ、重荷であるはずの医療や介護は貴重な成長分野になり得る。需要は必然的に拡大するからで、問題はこれをどう産業化するかだ。そのカギは混合診療の解禁をはじめとした規制改革だろう。こうした具体的手順のない机上の「第三の道」の真贋(しんがん)を見極めることが重要である。

≪時期は景気回復が前提≫

貴重な消費税の増税収入はどう効率的に使い、どう財政健全化に役立てるかに尽きる。自民党は社会保障目的税化を打ち出しているが、民主党と同様に診療報酬を大幅に引き上げるという。歳出は抑制すべきは抑制しないと増税に歯止めがかからなくなる。

消費税引き上げのタイミングも極めて重要である。不況の中で引き上げれば経済活動に負荷がかかるからで、景気回復を前提にするのが妥当だろう。それには麻生太郎政権時代にまとめた税制「中期プログラム」が参考になる。

財政健全化工程に合わせて2011年度引き上げを目指したが、前提には「景気回復」を置いた。その認定条件は潜在成長率の達成を意味していた。税率もいきなり10%でいいのか、それとも「たちあがれ日本」がいうように8%程度から始めるべきなのか。

菅氏は確たる案を示していないが、「野党と協議して今年度内に抜本改革案をまとめる」としたうえで、引き上げる際は「国民に信を問う」と述べた。ならば、改革案がまとまり次第、解散総選挙を実施することを明言すべきだ。

消費税引き上げが本気なら、その覚悟を国民に示してほしい。

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